転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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第二章 修羅が目指すは
十六 旦那のいぬまに


 ――少し、昔の夢を見た。

 理由は、ダグスさんから問いかけられた言葉に起因すると思う。

 

 

『どうして姐さんは、人を殺さないんですかい?』

 

 

 という、単純なものだ。

 私は確かに人を殺さない。

 別に物騒なファンタジー世界であれば、正当防衛は普通だし。

 悪党ならば制圧する際に殺してもお咎めが発生することはないのだけど。

 

 それでもなんとなく、私は人を殺すことを避けていた。

 別に殺すことにためらいがあるわけではないと思う。

 前世の私が、ワケもなく人を殺しても行けないと言うけれど。

 流石にそれは私もわきまえている。

 もとより、この世界で許容される殺しはあくまで「理由のある殺し」なのだから。

 

 では、どうして私は人を殺さないのか。

 

 原因は確か、私が初めて剣に憧れたときに起因していたと思う。

 でも、私の記憶が確かなら私が初めて剣に憧れたのは、父が岩を切った時だ。

 しかしそれでは、人を殺すことへの忌避感に繋がらない。

 そもそも私は、父の剣に”既視感”を覚えたのだ。

 昔、私が物心つくよりも前、前世の記憶を認識するよりも前。

 

 その剣を、私は確かにみたことがあった。

 

 はず、なのだけれど。

 残念ながらそれは既に忘我の彼方。

 ああ、私は――一体どんな剣を見たのだろうか。

 そこで私は、何を感じたのか。

 

 今も、その時のことを知りたいと、私は思っている。

 

 

 +

 

 

 さて、商業都市「カルマン」を後にする日がやってきた。

 色々あったけど、なんやかや大満足の日々だったと思う。

 特に娼館護衛の日々は、剣の里とは違う環境での集団生活なのでなかなか新鮮だ。

 大変ありがたいことに、犯罪者拠点襲撃事件で有名になった後も娼館で問題を起こす人間はそこそこいて。

 中には私に喧嘩を売ってくる輩もいた。

 そういう輩は私のことが耳に入ってこないか、入ってきても信じないタイプの人間なので強さはお察しだったけど。

 それでも喧嘩を売ってくれる以上、私にとってはいい上客だ。

 ソアナさんは「上客と書いてカモ」と言っていたけど。

 ……そんなことはないから、うん。

 

「それで、ソアナさん」

「なんだい」

「私を護衛に雇って、港湾都市まで一緒に行く……ということでいいんですよね?」

「ああ、よろしく頼むよ」

 

 そしてソアナさんは、私に同行して港湾都市「ヨース」まで行くこととなる。

 なんでも、娼館で教わったドーナツにちょうどいい食材が、「ヨース」に入荷してくるらしい。

 それを自分の目で確かめに行きつつ、「ヨース」で揚げ物やドーナツを売るんだとか。

 今回の娼館での厨房係で、結構なお給金をもらったのも遠征の決め手らしい。

 多分あのやり手婆のことだから、そこら辺まで考えてお給金渡してるんだろうなぁ。

 

「道中のご飯や野宿の際の寝床の設営は私がやる。だから護衛代は友人価格で割引ってことで」

「そこまでやっていただけるなら、友人価格でなくとも割引しますよ。ただ……」

「ただ?」

「この事を知り合いに話したら、自分たちも護衛してくれないか、って」

 

 知り合い? とソアナさんが首を傾げる。

 誰あろう、先日助けた商人一家だ。

 あの後、商業都市「カルマン」を中心に、周辺の街を行き来して商品を仕入れ。

 それを「カルマン」で販売するスタイルで商いをしているらしい。

 今回は港湾都市「ヨース」に仕入れに行くそうだ。

 

「えーと、窮地を助ける形で知り合って? この街に来るまで護衛をした人たち、と」

「そうですよ?」

「その道中、一家の子どもに剣を教えた?」

「教えましたね?」

 

 なかなか将来有望な子だったので、色々と細かく教えてしまった。

 まだ魔力強化ができる年ではないけれど、その位の年になったら父上に許されてる範囲で魔力強化のやり方とか教えたいなあ、と思っている。

 

「…………」

「ところでどうしてソアナさんは、そんなネコみたいな目で私を見るんですか?」

「べっつにぃ……ほら、来たみたいだぞ」

 

 とか言っていると、見覚えのある馬車から子どもがこちらに手を降っている。

 隣りにいるのは――奥さんのほうか。

 旦那さんは街に残って商売をするということだろう。

 普段なら旦那さんが街を出るらしいんだけど、今日は私が護衛だからって奥さんに任せたのかな。

 なら、気合を入れて護衛しないと。

 

「…………」

 

 そしてソアナさんは更にネコっぽい目で私を見てきた。

 

 

 +

 

 

 道中は穏やかなものだ。

 一日に一度か二度、襲ってくる魔物を撃退する。

 それ以外は、馬車に乗って休んだり馬車に帯同して足腰を鍛えたり。

 休憩中は子どもの相手をして遊んだ。

 あれからすっかり、子どもは「家族を守れる剣士になって、家族を守りながら商人をする」と息巻いている。

 そこで冒険者になる、と言い出さない辺りは家族愛が強いのかもしれない。

 

「でも、ある程度の年齢になったら一度は冒険者になったほうがいいかもしれませんね」

「なんでー?」

「今のご両親の仕事は、特段忙しいものではないのでしょう?」

「たまに手伝ったりするよ?」

「それでもです」

 

 それはつまり、幼い子供が一緒にいても問題ないくらいの仕事量で、一家を養えているということだ。

 なら、大きくなったとき子どもが、冒険者として外でお金を稼ぐ手段をとっても問題ないということ。

 

「利点は、冒険者としてご両親の依頼を受ける形で護衛ができることです」

「ちゅーかいりょー取られちゃって、むしろそんじゃない?」

「その年で、もうそこまで理解していますか。でも考えてみてください。冒険者ギルドに依頼を仲介してもらうと、道中に出た魔物の討伐を報告すると、常設依頼の報酬がもらえるでしょう」

 

 基本的に、魔物は瘴気から生まれて倒すと消滅する。

 倒された時に身体の一部を落とし、これをギルドに持っていくと討伐証明兼素材という形で買い取ってもらえるのだ。

 討伐依頼の報酬のほうが、市場で魔物の落とした素材を売るより高く売れる。

 国の補助が入ってるからな。

 

「加えて、今回みたいに別の護衛依頼を並行して受けられます。護衛依頼を並行して受けれるくらいの冒険者になっていれば、受けられる依頼も実入りがいいんですよ」

「なるほどぉ」

 

 なんというか、この子は末恐ろしいな。

 私の話を、噛み砕かずにそのまま理解している。

 剣の筋もかなりいいし、これは将来とんでもない冒険者兼商人になるかもしれないな。

 

 個人的にはこのまま剣の振り方を覚えて、八歳になったら魔力強化を習得。

 以降は魔力強化を勉強しつつ、十二歳――冒険者になれる年齢になるまで商人としての勉強を両親の元でするといいのではないだろうか。

 きっと、冒険者になった時点でかなりの有望株になっているぞ。

 

「おーいカグラ、そろそろ休憩にしよう。うまいもん作るから、楽しみにしててくれ」

「はーい。そういうことですから、お話は一旦ここまでにしましょうか」

「わかった! ボク、ソアナお姉さんの手伝いしてくるね!」

 

 御者台で奥さんと話をしていたソアナさんが、声をかけてくる。

 向こうは向こうで、商人談義に花を咲かせていたようだ。

 かなり専門的な話をしていたので、私があそこに入るとついていけない気がする。

 ……この子はついていけるんじゃないか?

 

「――カグラさん」

「あ、お疲れ様です」

 

 そして、商人の奥さんが私に声をかけてきた。

 ソアナさんの料理を手伝うのかと思っていたが、馬車を動かしていたのは奥さんのほうだ。

 休んでいてください、とソアナさんが言ったんだろう。

 

「いつもいつも、あの子の事を本当にありがとうございます」

「いえいえ。将来有望すぎて、こっちとしても話していて楽しいですよ」

 

 そうして、休憩中だった私の隣に、奥さんが腰掛ける。

 ……なんか、距離近くない?

 

「それと……先日教えていただいた美容効果の肌強化。本当にすごいですね、アレは」

「試していただけましたか。……言われてみると、なんだかお肌の調子が以前よりもずっといいですね」

「うふふ、ありがとうございます。カグラさん」

 

 奥さんには、既に肌強化のやり方を教えてある。

 というか、剣の里の外で肌強化を教えようと思ったのは、奥さんに相談されたからだ。

 何かいい方法はないだろうか、と。

 なんで私みたいな、美容無頓着に聞くんだろうと思ったけど、何故かいい方法を知っている美容無頓着がそこにいた。

 ので、話したところ大好評。

 娼館でも教えようということになった。

 あと、距離がすごく近い!

 

「本当に、カグラさんに救われてからというもの、私達すっごく幸せなんです」

「それは……よかったですね」

「はい。……こうして、あの子の面倒も見ていただいて――」

 

 確か、元いた街では悪い商人の嫌がらせを受けていたんだとか。

 なんならその場にも居合わせたかったなぁ。

 悪い商人、成敗したかったなぁ。

 合法的に。

 そして、距離がめちゃくちゃ近い……!

 

 

「――カグラさん、わたしのことをママと、呼んでくださいませんか?」

 

 

 !?

 思わず、すごい顔で奥さんの方を見てしまう。

 あ、なんかこう、顔を赤らめている!

 

「思うんですよ、カグラさんにママと呼ばれたらどんなに嬉しいかと! 確かにカグラさんは幼いながらも立派な方です。でもそんなカグラさんにも、人に甘えたい時はあるのではないかと思いまして。でしたら私がそれを務められたらと――――」

「わ、わぁ! 落ち着いて、落ち着いてください!」

 

 うわあああああ母性が! 母性がすごい!

 助けて! 助けてソアナさん!

 「やっぱりこうなったか」みたいな目でこっちみてないで助けてソアナさーーーーん!




二章開始のタイトルとは思えないようなタイトルから、真面目な話が始まって。
結局タイトルどおりに落ち着きます。

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応援ありがとうございます。
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