転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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十八 ヨースの冒険者ギルド

 私達は、半月ほどの旅を終えて港湾都市「ヨース」にやってきた。

 あの後、捕まえた刺客は目的地も近かったので「ヨース」の衛兵に突き出して。

 何やら指名手配犯だったらしく、結構な報酬をもらった。

 なかなかの臨時収入である。

 

 それにしても、衛兵に突き出した時の刺客は随分としおれていた。

 多分このまま処刑されてしまうのだろうけど、万が一生き延びたら元気に生きてほしい。

 その時は私とまた手合わせしてもらえると大変うれしい。

 嫌そうな顔をされるのが目に見えてるけど。

 

 さて、そんなこんなで「ヨース」の街についた私達。

 商人一家とは一度別れ、ソアナさんとも別行動と相成った。

 なお、刺客に襲撃された商人一家の方々は、帰りの護衛をどうするかは用事を済ませてから考えるらしい。

 私に頼むのが一番いいんだろうけど、こっちもリンカねえさまを探すために「ヨース」に来ているからなぁ。

 まぁタイミング次第ということで。

 

 というわけで、旅の同行者と別れた私は「ヨース」の冒険者ギルドにやってきていた。

 目的は二つ。

 一つはリンカねえさまの捜索。

 といっても、リンカねえさまは隠密行動中。

 直接聞いて回るのはまずい。

 それをどうにかするために、冒険者ギルドへやってきたのだが――

 

「おい、本当に来たぞカルマンの”修羅”」

「噂には聞いてたが、とんでもなく胸で……顔がいいな」

 

 ざわざわと、私が入ってきた瞬間に冒険者ギルドがどよめく。

 え、そんなに噂になってるの!?

 後、胸がでかいっていいかけたの、聞こえたからな。

 

「あの、カルマンの街にいた犯罪者を皆殺しにしたっていう……」

 

 いや、殺してないから、むしろ誰も殺してなくて衛兵から遠い目で見られたから。

 と言うかアレだ、話に耳を傾けると、噂に尾鰭が尽きまくっている。

 娼館で働いて、やってきた男を全員絞り殺したとか。

 喧嘩を売ってきた冒険者を全員皆殺しにしたとか。

 どんだけ私に人を皆殺しにさせたいんだ。

 というか、最後の喧嘩を売ってきた冒険者なんてどこにもいないんだけど?

 私、ダグスさんとしか喧嘩できてないんだけど?

 もっと喧嘩したいんだけど?

 それはそれとして、用事があるので受付のお姉さんに声をかける。

 

「あの、すいません。伝言を頼みたいのですが」

「はい、どんなご要件でしょう」

 

 冒険者ギルドには、様々な人物がやってくる。

 冒険者以外にも、依頼主だって。

 だから、こうやって伝言を頼むことがあるのだ。

 内容は「私、カグラはネムリイカという宿にいるので、用事がある方はネムリイカまで来てほしい」というもの。

 これなら、リンカねえさまの名前を出さずともリンカねえさまが私に接触できる。

 

 さっきの噂話の中に、「カルマン」の街の犯罪者を殲滅したという話題があった。

 私がリンカねえさまの追っている組織の支部拠点を破壊したのは、リンカねえさまも知っているはず。

 なら、後は私の居場所をオープンにしてリンカねえさまを待てばいいというわけ。

 我ながら冴えてる方法だ。

 とても冴えている、自画自賛である。

 

「おいおい聞いたかよ、アレはもしかして挑戦者を待ってるんじゃねぇか?」

「喧嘩して、挑戦者が勝ったら夜の相手とかしてくれるのか?」

 

 うーむ、下世話な噂がどんどん聞こえてくる。

 娼館で働いたことで、なにやらえっちな噂が冒険者の間で広まっているようだ。

 まぁ、どうでもいいので放っておこう。

 あ、挑戦者は何時でも待ってます。

 

「おいおいやめとけ、そんな事しようモノなら寝床でアレを食いちぎられるぞ」

「あ? なにそれこっわ」

「この前、襲いかかってきた奴の鋭いブツを噛みちぎったらしい」

 

 そこに何やら割って入る冒険者。

 え? それこのあいだの刺客の話?

 もう噂になってるの?

 いや隠してはいないけど、噂になるの早すぎだろう。

 後噛みちぎったのは、刃であってブツではありません。

 

「なんといいますか……賑やかなギルドですね、ここは」

「あはは……」

 

 受付のお姉さんを苦笑させてしまったが、これは本音だ。

 「カルマン」の街では、なんだか常に私は避けられている感じだった。

 名前が知れ渡る前から――剣の里の人間としか知られていなかった頃からそうだったのだ。

 多分、剣の里の人間というのは「カルマン」の街では遠巻きにされる宿命なんだろうな。

 対して「ヨース」の街は、とにかくこっちを興味深そうに眺めては、あることないこと言ってくる。

 ここらへんは、街で活動する冒険者の違いと言うか。

 気風の違いを感じた。

 

「それで、なのですが。もう一つよろしいでしょうか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「討伐任務を受けたいのですが」

 

 ざわ――周囲のどよめきが一層大きくなる。

 また何やら、あることないこと語っているんだろう。

 そんなことはどうでもいいので置いておいて、本題に入る。

 これが私の、冒険者ギルドにやってきた二つ目の目的だ。

 討伐依頼、第三等級の冒険者になると受けられるようになる依頼。

 言うまでもなく、私の大好物である。

 

「まず常設依頼の依頼書を出してもらってもよろしいでしょうか」

「かしこまりました、どの常設依頼の依頼書をお出ししますか?」

 

 常設依頼は、常に冒険者ギルドが討伐依頼を出している依頼だ。

 ゴブリンとか、ああいう出現頻度の高い魔物はわざわざ討伐依頼を出すよりも、常設で依頼をだして討伐部位を買い取ったほうが話が早い。

 どんな依頼があるかは街によって特色があるのだが――

 

「――()()で」

「……へ?」

 

 依頼書を全部に出してもらうのが一番手っ取り早い。

 

「あの……依頼書をご用意するのには、若干の手数料が必要になるのですが」

「かまいません、全部お願いします」

「は、はぁ……」

 

 依頼書は魔導具で作るのだけど、その維持費にお金がかかる。

 なのでギルドがクエストボードに張り出した依頼以外の依頼書を出す場合は、手数料がかかるのだ。

 普通なら受付に聞いて必要な依頼書だけを出すのだけど、私は全部の依頼書を出してもらって宿に持って帰ることにしていた。

 だって、それを宿で吟味するのが楽しいのだ。

 娯楽の少ないこの世界に置いて、楽しみは自分から探していかないといけない。

 それに――

 

「問題ないですよ、最終的には全て一度は討伐してみるつもりですから」

「ええ……」

「それと、常設以外の依頼なのですが」

 

 さて、常設依頼についてはさておき。

 本命は常設以外の依頼だ。

 正直、私が「カルマン」の街を早々に後にした理由の一つとして、討伐依頼の質が悪いという理由がある。

 いや本当に、「カルマン」の街周辺は魔物が結構すくないのだ。

 私が商人一家を助けた時に倒した魔物の群れが、一番の脅威として長い間ギルドのクエストボードに鎮座していたくらいには。

 だが、「ヨース」の街は違う。

 ここに来る前、ソアナさんから聞いた。

 この街には、なかなか厄介な依頼が一つ放置されている、と。

 

()()()()()()()の討伐依頼を受けさせてください」

「ええ……」

 

 私がそう切り出すと、受付のお姉さんは露骨にドン引きしたような顔をした。

 いや、元からドン引きしてたけど。

 より一層ドン引きした。

 無理もない。

 

「その……バイバイラットって、ここから一日歩いた先にある森を”占拠”しているあのバイバイラットですよね?」

「ええ、そのバイバイラットです」

「……殲滅依頼しかありませんよ?」

「それがいいのです!」

「ひっ」

 

 私は前のめりになって答える。

 バイバイラットとはネズミ型の魔物で、近くにこのバイバイラットが二匹いると、即座に”繁殖”を行って倍の数に増える魔物だ。

 繁殖といっても、交尾じゃないぞ。

 分裂、といったほうが正しい。

 二匹が四匹に、四匹が八匹に。

 バイバイゲーム、もしくはねずみ算式に増えていくとんでもない魔物だ。

 幸いなことに、一度に増殖できる上限が決まっており、瘴気の濃度が一定以上の場所でないと生きられない生態なのだが。

 もし仮にどこでも生きられる生態だったなら世界は既に滅んでいただろう、と言われるほど厄介な魔物。

 特性上間引きの必要性はないので、依頼は殲滅依頼のみ。

 

「つまり、どれだけ斬ってもいいということじゃないですか。つまり斬るしかないということですよ!」

「……??」

 

 あ、理解してもらえなかった。

 何にせよ私はそういう理由で、このバイバイラットの殲滅依頼を請け負いたいのである。

 バイバイラット自身はそこまで強くないのも相まって、受けるだけなら第三等級でも受けられるからな。

 

「とにかく、依頼を受けます。いいですよね? いいですよね!?」

「は、はいいい! 依頼を受理いたしますううう!」

 

 というわけで、私は無数の常設依頼と、バイバイラットの討伐依頼を受けてホクホク顔でギルドを後にする――のだが。

 

 

 ……なんか、さっきからギルドが静かだな? と想って振り返ると、冒険者達が「カルマン」の冒険者と同じ目で私を見ていた。

 

 

 いや、その……バイバイラットの依頼に食い気味だったのがそんなによくなかっただろうか。

 何にせよ「ヨース」の街でも、私の立ち位置は”修羅”で確定してしまったようだった。




茶化してたらちょっと茶化せなくなった冒険者さん達です。
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