転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
バイバイラットを討伐して以来、ギルドの冒険者が完全に私を避けるようになった。
そんなに怖くないよー、喧嘩売ってきてもいいよー、と内心思いつつも自分から喧嘩を売るわけにはいかないので黙っている。
それはそれとして、冒険者家業は順調だ。
各地の魔物を倒して恒常依頼で稼ぐ日々。
「カルマン」の街では娼館の護衛依頼は赤字だったが、「ヨース」の街では違う。
加えて、喧嘩を買わなくても戦えるというのは非常にありがたい話だった。
とはいえ、未だにリンカ姉さまとは連絡が取れていない。
もう「ヨース」にやってきて一週間以上が経過しているから、向こうも私の存在は把握していると思うのだけど。
なんてことを考えながら、ある目的のために街を歩いていた時のことだった。
け、決して喧嘩凸待ちではない。
「カグラお姉さん、こんにちはー」
「おや、リオンではないですか。こんにちは」
リオン――商人一家の子どもから声をかけられた。
何やら私に見栄を張りたいのか呼び捨てでいい、と本人が言っているのでリオン呼びだ。
今日はマ……奥さんとは一緒じゃないようだが、代わりに同年代の友人らしき子が隣にいる。
私と同い年くらいの女の子で、見目麗しい少女だ。
私が言うことじゃないが、将来はとんでもない美人さんになる気配がぷんぷんする。
リオンは八歳だそうなので、四歳差くらいになるだろうか。
結構な差だ。
「リオン、この人が例の?」
「そうだよファナ。ボクたちを魔物のむれから守ってくれたの」
この子はファナというらしい。
リオンが泊まっている宿で働いている少女だそうな。
なんだか様子からして、ファナちゃんが私に用事があるみたいなんだけど。
一体なんだろう。
あと、ファナちゃんの声がやたらいい、聞いてて心地よく感じられるいい声音だ。
「あ、あの……カグラさん」
「なんでしょう、ファナちゃん」
「え、えっと……カグラさんがあのバイバイラットを討伐したんですか?」
「ええ、そうですよ」
どうやら、バイバイラットに関する件で私に話があるらしい。
聞けばこのファナちゃん、あの森の近くにあった村の出身だそうで。
それはつまり百鬼夜行によって村を追われて、以来帰ることができずにいた人、ということになる。
であれば目的は――
「あ、あの……私を故郷の村があった場所まで連れて行ってくれませんか!?」
やっぱり。
依頼を受けることは問題ない。
依頼料も、きっちり用意してあるそうだ。
個人的には依頼料はいらないんだけど、受け取らないとそれはそれで問題になるので受け取っておくとして。
私が一番に依頼を受けようと思った理由は、ファナちゃんのある一言に理由があった。
「――村の人達を守るために戦って、瘴気の毒で亡くなった母の墓参りがしたいんです」
それは、なんというか。
私の母上と同じだ。
母上も、百鬼夜行から剣の里を守るために戦い、宿痾を倒した時の瘴気で身体を悪くした。
だから私は、ファナちゃんのことを放っておけなくって。
依頼を受けることを自分からも強く希望したのだ。
+
「っと、つきましたよファナちゃん」
「あ、ありがとうございました……すごいですね、カグラさん。私を抱えて一日で森まで来ちゃうなんて……」
依頼を受けた次の日、私とファナちゃんは早朝から出発し、日が暮れる直前くらいに森へ到着した。
この後、村の方に移動して墓参りを済ませてから一泊。
明日には「ヨース」の街に帰還する手筈となっている。
事前に説明はしていたのだけど、私に背負われてここまでやってきたファナちゃんは少し疲れた様子で息をついていた。
肉体的には疲れてないんだろうけど、精神的にね。
「でもなんというか……ちょっとくせになる感覚でした……へへ、へへ……明日もお願いしますね……」
「そ、そうですか」
こ、こわい。
いや気持ちは解るけどね、私だって身体を自由に動かす感覚が楽しくて鍛錬してるわけだし。
さて、気を取り直してファナちゃんが正気に戻るのを待ってから、ファナちゃんの案内で村に向かう。
道中、バイバイラットのいなくなった森は驚くほど静かで、何もなかった。
そりゃそうだ、つい先日までこの森には瘴気が漂っていて、人どころか動物すら近づけなかったのだから。
結果として、私とファナちゃんも自然と口数は少なくなっていった。
ただただ静寂だけが広がる森だ。
瘴気が去った今、この地には人間も魔物も存在していない。
全てが終わりを告げて、時間が止まった世界だけが広がっている。
それは、あるものに似ていた。
――死だ。
全てが死に絶えたその場所を歩き、私達はようやく森を抜けた先にある小さな村にたどり着いた。
建物は荒れ果て、雑草は伸び放題。
それでも、確かにここはかつて人が生きていた場所だと、理解できる。
ファナちゃんの方を見た。
どこか、溢れ出しそうな感情を我慢しているような能面に、かける言葉はない。
ただ彼女の横を歩いて、護衛に徹する。
「……ここが、私の家でした」
ボロボロの家屋の前に立ち、ぽつりと零す。
そんなファナちゃんと共に暫くの間、家屋の中を掃除する。
もはや人の生活できる空間でなかった場所を、なんとかそれらしい形に修復した。
「あはは……もう夜になっちゃいましたね、カグラさん」
「一日かけて、ここまで来ましたからね」
そして、そんな家の中から空を見上げると、崩れた天井から夜空が見える。
持ってきた火種を生み出す魔道具と、ここに来る最中集めた木を使って家の暖炉に火を付けた。
静寂に満ちた世界に、言葉は少ないが。
それでもぽつりぽつりと、ファナちゃんはお母さんのことを教えてくれた。
「母は……結婚する前は冒険者だったんです。それで、百鬼夜行が起きた時も必死に村人を守りながら戦って……最後は瘴気の毒で力尽きたんです」
「最後まで、魔物から人々を守ったのですね。ご立派だと思います」
私の母上は、百鬼夜行の根源である宿痾の主を退治することはできた。
だが、退治した際に宿痾の主が大量の瘴気を撒き散らし、それを浴びてしまったらしい。
ただ、その状態でも十年くらい生きて、私を産むまでは生きていたというのだから。
私の母上は、とんでもない人物だったのだけど。
ファナちゃんの話を聞きながら、そんな母上のことを思い出す。
「私は……正直、当時は四歳だったのでその時のことはあまり覚えてないのですけど」
「思い出す必要もないと思いますよ、きっと、つらい記憶でしょうから」
「そうですね。だから普段は気にしないことにしてるんですけど……時折、夢に見るんです」
暖炉の火を眺めながら、ファナちゃんは両手で顔を覆って吐息を零した。
「逃げる最中、母だけでなく、多くの村人が犠牲になりました。私はたまたま運良く生き残れただけで……あの時、死んでいたかも知れないんです」
「…………」
「カグラさん、私――死ぬのが怖いんです」
そんなファナちゃんの姿に――私はかつての自分を見た。
まだ、幼かった頃。
その頃の私は、前世の記憶を正しく認識していなかったのだ。
結果として、夢の中で前世の自分が死ぬ記憶を繰り返し見せられた。
そこに加えて、瘴気の毒で弱った母の姿が重なる。
死を恐れるのは、当然の成り行きだ。
ああ、確か――そんな時、母は私にあることを教えてくれたのだ。
もう、ほとんど記憶もおぼろげだけれども。
それが私という人間の一生に、大きな影響を与えたのは間違いない。
だから――私は怖がるファナちゃんに、一言声をかけようとした。
自分も同じだと、死ぬのは怖い――と。
そんな時である。
外から、何かが地面を擦る音が聞こえてきた。
「……ファナちゃん」
「は、はい。聞こえました……魔物でしょうか」
「恐らくは。……瘴気の中に潜んでいたのかもしれません」
私は、崩れた家屋の壁から、そっと視線を外部に向ける。
魔力で目を強化して、夜の闇をかき分けていく。
やがて気配を察知して、視線を向けると――
そこには、岩があった。
岩の魔物だ。
体中に、瘴気を固めて作った岩石をまとわりつかせたトカゲ型の魔物。
名前は知っている。
毒岩蜥蜴。
まぁ、見たまんまって感じだな。
「ど、どうしますかカグラさん」
「――無論、退治しますよ。あの程度なら、なんてことはありません」
あの魔物と対峙したことはないけれど、その強さは概ね把握している。
今の私なら、なんてことはない魔物だ。
倒すと身体に張り付いた瘴気の岩石が炸裂し、周囲に瘴気をばらまくという特性があるものの。
それだって、魔力で弾ける範疇。
何も問題はない。
ただ一つ疑問があるとすれば。
私はこの知識を、一体どこで知ったのか。
覚えていないということだ。
ああでもしかし――瘴気の岩。
「――なんと切りがいのある獲物でしょう」
岩を斬ることは、私の原点だ。
それを思えば、あの魔物はあまりにも――上質の餌。
切りたい、切りたい、切りたい。
そんなことを思い描いて笑みを浮かべた結果――
「ひっ」
ファナちゃんをビビらせてしまった。
あ、ああー違うんです! これはちょっと魔物を倒すのが楽しみ過ぎて浮かんでしまった笑みで。
決して物騒なものではなく……そ、そんなに距離を取らないでくださいー!
リオンくんちゃんを呼び捨てにしているのは、カグラの呼び方で性別を確定させないためです。
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応援ありがとうございます!
これからも頑張りたいと思いますので、引き続きよろしくお願いします!