転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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やっぱりなにもないわけなかったよ……(遅効性)

 ――ファナという少女は美しく、気立ての良さもあって誰からも好かれるような少女だった。

 幼い頃は何不自由なく、幸せに育ち。

 きっと将来は希望に満ちているのだろうと、そう思っていた。

 

 あの百鬼夜行で、故郷と母を失うまでは。

 

 アレ以来、ファナは過去から抜け出せないでいる。

 ファナは強い子だ。

 表面上は、取り繕えている。

 故郷を失った後は、幸いにも宿屋を営んでいる親戚が引き取ってくれて。

 そこで住み込みで働く形で、今まで生きてきた。

 優秀で見目麗しいファナは、今では宿屋の看板娘だ。

 すくなくとも、周囲はそう思っていた。

 

 だけれどファナは、今も夜になると当時のことを思い出す。

 多くの人の死、力尽きる母の姿。

 自分が生き残ってしまったことによる、罪悪感。

 果たして本当に自分は生きていいのかと、そんなことを毎夜思った。

 

 

 瘴気によって死に絶えた地の、死喰い鼠とも称されるあの魔物が討伐されたと聞いたのは、故郷が滅んで8年後のことだった。

 

 

 ――え、アレを討伐?

 ……討伐!?

 え、討伐!?

 聞いたファナの最初の反応は、三度見だった。

 本当に信じられないことだったのだ。

 討伐報告を受けたギルドの受付も、似たような反応をしたらしい。

 

 バイバイラットの討伐は、人類にとって一種の悲願だ。

 大陸の長い歴史の中で、実際に討伐記録があるのは片手で数えられるほど。

 そもそもあまり出現しないというのもあるが。

 よく知られているところでいうと、かの剣の里開祖シンラが討伐したことで有名だ。

 現行の大陸最強剣士集団、七刀においてもバイバイラットを討伐できる人材は限られるらしい。

 少なくとも、今この国に滞在している七刀、リンカはバイバイラットを討伐できなかった。

 

 そんなバイバイラットを、討伐した人物が「ヨース」の街に滞在している。

 しかも、ここ最近宿に滞在して、ファナと仲良くしてくれているリオンという子が彼女と知り合いだそうだ。

 会いたい、会ってみたい。

 それに彼女なら、故郷への墓参りを護衛してくれるのではないだろうか。

 そんな望みを抱いて、ファナはその少女――カグラと出会った。

 

 カグラは、ファナから見ても美しい少女だった。

 

 白髪赤目の、どこか引き込まれる容姿。

 自分と同年代でありながら、やたらとでかい胸。

 それはもう、道行く人を全員振り向かせるような、美しい少女だった。

 そしてカグラは、ファナの依頼を積極的に受けてくれた。

 はっきり言ってファナの依頼料――宿屋の見習いとしてもらった給料――では足りるか微妙なところだったが。

 ファナの境遇を聞いて、積極的に引き受けてくれた。

 

 ――原因は、カグラもまた瘴気で母を失っていたからだそうだ。

 しかもカグラも幼い頃、今の自分と同じように死を畏れていたのだという。

 近しい境遇は、親近感を呼ぶ。

 

「私のそれは、ファナちゃんと比べたら全然深刻な悩みじゃないですけどね」

 

 なんてカグラは言うけれど。

 カグラのようなすごい子が、自分と同じ悩みを抱えていたと知れば。

 親近感も湧こうというものだ。

 

 ――直後、魔物を前にしたカグラの笑みでそれも吹っ飛ぶけれど。

 

 こわ、なにあれこわ。

 ……こわ!

 思わず内心で三度怖がってしまった。

 とんでもない笑みだった。

 リオンはアレを見て、カグラのようになりたいと言ったのか。

 すごいなリオン、パない。

 などという謎の言語すら脳裏に浮かんで、けれどもカグラの実力は本物だった。

 倒せば瘴気を吹き出すという魔物を、瘴気を吹き出させることなく倒したのだ。

 何でも瘴気を吹き出すには、魔物が意識してやらないといけないそうで。

 意識させる前に殺せば瘴気は噴出しないそうなのだが。

 それだけの技術があれば、バイバイラットも問題にならないか。

 と、素人考えでファナは納得した。

 

 結局、ファナはカグラが自分とは違う、とんでもない存在なのだと認識した。

 すごい人で、自分みたいな普通の人間とは違うのだと。

 それでも、ファナの悩みの解決方法については妥当なものだ。

 少しずつ前に進んで成長し、トラウマを過去のものにするしかない。

 ファナ自身も感じていたことを、端的に指摘してくれた。

 少なくともカグラも、そうやって母の死を乗り越えたということは、間違いではなさそうだ。

 そうして、ファナはカグラと一晩過ごし、依頼は終了した。

 恙無く、そこまで大きな事件もなく。

 

 

 ――そう、その一件そのものは。

 

 

 それが起きたのは、カグラと出会ってから少し経ったくらいのことだった。

 その後カグラがなんやかんやとなんやかんやのうちに、街を去った後。

 ファナは少しずつ前向きに生きられるようになっていた。

 夜に怖い夢を見ても、夢の中でカグラがすごい笑みを浮かべながら怖い夢そのものを切り裂いてくれるようになったからだ。

 それはそれとしてカグラの笑みが怖かったけど、同時に頼もしかった。

 

 ある時、宿屋に併設された食堂で、それは起きた。

 

 宿で演奏を行う予定だった、吟遊詩人が倒れてしまったのだ。

 吟遊詩人は、この世界ではありふれた存在だ。

 各地の噂や冒険譚を詩として吟じ、伝える。

 娯楽の少ないこの世界において、誰もが楽しむことのできる数少ないエンターテイナー。

 それが吟遊詩人だ。

 

 そんな詩人が、倒れた。

 本来なら、それは仕方のないことだ。

 しかし今日その日に限って、国の要人が宿に泊まっていた。

 詩人の詩を楽しみにしており、倒れるわけには行かなかったのである。

 その要人は優しい人物で、きっと許してくれるだろうけれど。

 人によっては、怒って宿に不利益を与えてくる場合もある。

 何より、貴族に粗相をしたとなれば、宿の評判に傷がつく。

 それだけは、避けなくてはならなかった。

 

 しかし代わりの吟遊詩人は見つからず。

 どうしたものかと、宿の主人が途方に暮れていた時。

 ファナはおずおずと手を上げた。

 

「わ、私が演奏してみましょうか?」

 

 ――と。

 ファナは、楽器の演奏を趣味でしていた。

 母が、楽器演奏が趣味だったからだ。

 冒険者をしていた頃は、副業で吟遊詩人もしていたという。

 無論宿の主人もその事は知っていたし、何よりファナは見た目と声がすこぶるいい。

 行けるのではないか。

 宿屋は、ファナに賭けることにした。

 

 そして本番、ファナは迷っていた。

 

 一体何を吟じればいいのか。

 宿の仕事を手伝いながら、吟遊詩人の詩は何度も聞いてきた。

 歌い方は解る、けれども内容を暗記しているわけではない。

 詩を忘れてしまうよりは、ならばいっそオリジナルにするしかないのでは?

 そう考えた時、一人の少女が脳裏をよぎる。

 

 カグラだ。

 剣の里の修羅。

 彼女ならば、詩人の詩に歌われるのは何も疑問がない。

 

 ――これだ、これしかない。

 

 そう判断したファナは突貫でカグラの詩を考え、披露した。

 

 

 結果、感銘を受けた貴族がこの詩を大陸中に広めないか、といい出した。

 

 

 えっ。

 えっ!?

 ……えっ!?

 三度聞き返してしまった。

 おそらく、ファナの人生で一番の失態だった。

 

 そこからはもう、トントン拍子というのも恐ろしいくらいの進行速度で物事が進んでいく。

 現場に居合わせた「ヨース」の街の住人から噂が広がり、連日ファナはカグラの詩を求められた。

 とある事情でカグラの知名度が、「ヨース」の街で知らない人間がいないほどだったのも大きかっただろう。

 それがあったからこそ、ファナもカグラの詩を題材に選んだわけだし。

 

 ただ、ここまで話題になるとは思っても見なかったのだ。

 題材はカグラさんにしようと思います、最近話題だしお世話になったんだしいいんじゃない?

 みたいに宿の主人ときゃっきゃしていた程度だったのだ。

 

 それが、気がつけば国中で大流行が発生し、他国にも波及していった。

 ファナはやがて「ヨース」の街の大広場。

 「ヨース」の街の執政者の邸宅。

 果ては国の王城でカグラの詩を披露する事態に発展。

 

 本人に許可を得るべきだ、という必死のファナの提案は受け入れられたものの。

 肝心のカグラが大陸中をとある事情で飛び回っており。

 連絡がついたのは一年後――すでにカグラの詩が一大ムーブメントとなった後だった。

 

 気がつけば、町中でカグラの詩のフレーズを口ずさむ人が現れるようになり。

 それが日常へと変わっていく。

 文化を一つ塗り替えたともいわれるこの大流行を知ったソアナが「やっぱりなんかあったじゃん」と思う日は、そう遠くないことだろう。

 

 なお、この一件にとある剣の里の里長が関わっているという噂があるが、真偽は定かではない。




なんでも、ファナちゃんはカグラ狂信者ほどカグラに傾倒しておらず、歌詞がほどほどにわかりやすかったこと。
メロデイがメチャクチャバズる感じ(ふわふわとした表現)だったことが原因らしいです。

カグラの詩を聞いてみたい方は、よろしければ評価、感想、お気に入り等いただけますと幸いです。
特に高く評価していただけると、私も大変うれしいです
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