転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
ファナちゃんの一件から更に数日が経過した。
ここに来て、私の蒔いた種がようやく芽を出し始めている。
「ヨース」の街にやってきた当初、冒険者ギルドに伝言を残した。
ネムリイカという宿に泊まっているから、用事があればそこを訪ねてほしいという伝言。
ようやくコレが活きる日が来たのだ。
長かった、本当に長かった。
毎日ベッドに入る時は、今日こそはこないだろうか、明日こそはどうだろうかとワクワクで眠れない日々。
こちらの世界の時間で八時間しか眠れないくらい、私はその日を待ちわびていたのだ。
それは普通に寝てるじゃないか、という鉄板ネタに聞こえるかも知れないが。
私の場合普段は寝ながら鍛錬して十時間は寝るので全然寝られてないと言えるだろう。
だって娯楽がないんだもの……
さて、この寝ながら行う鍛錬がなにかといえば、気配察知である。
寝ている最中も魔力を使って、周囲の気配を探るのだ。
その中に敵意、ないしはまったく知らない気配があれば起床できるようになっている。
待ちわびたその”気配”は、真夜中にやってきた。
「――来ましたね」
喜色満面、即座に飛び起きた私は、軽く旅装を羽織ると疾討と幾つかの荷物を手に外へ出る。
迫りくる気配に気取られぬよう、気配を殺して接近。
そして――
「――待ってましたよ」
宿を襲撃しようとしていた連中に、先制攻撃を仕掛ける。
――そう、私が待っていたのはリンカねえさまではない。
「ヨース」を拠点とする犯罪組織の刺客だ。
私の居場所をギルドで公にしたのは、リンカねえさまに呼びかけるため――でもあるが。
それ以外にも、こいつらをおびき寄せる目的もある。
というか、伝言を頼んだあとすぐにリンカねえさまが来なかった時点で、こちらの方が本命だ。
リンカねえさまは現在潜伏中、居場所を晒した私に直接会いに来ることは無いと思っていた。
逆に犯罪組織の刺客は、私が居場所を晒せば襲撃してくる可能性があると思っていたのだ。
まさか二週間近く放置されるとは思わなかったが、それでもこうして私の元へ来てくれた。
「さぁさぁ、あなた達がこの街を拠点にする犯罪組織の刺客で間違いありませんね?」
とりあえず、まずは相手の身元確認だ。
これを最初に確認せず戦うと、後で気まずい空気になる。
ほんと、確認は大事だからね。
大事だからね!
「ああいえ、答える必要はありません。理解できました」
そして、答えはなくとも向こうの反応から、犯罪組織の刺客かどうかくらいは判別できる。
向こうは私の反応に、なんだこいつみたいな反応をしている。
うん、そうだよね。
普通はこういう時、襲撃してきた相手の所属を間違えたりしないよね。
「であれば、切って制圧するのみです。腕か足の一つくらいは覚悟していただきましょう」
そうして私は疾討を抜き放ち、犯罪組織の刺客へと飛びかかって――
勝利した。
え、よわ。
弱くない?
ちょっと流石に期待外れなんだけど。
というか、以前壊滅させた「カルマン」の拠点のチンピラを少しマシにした程度の実力しかない。
これはアレか、前に襲撃してきた暗殺者が強すぎただけか。
ええ、じゃあ彼はホント何者だったの? 彼を雇える一介の商人って何なの……
「ま、まぁいいでしょう。さて……」
疑問が疑問を呼ぶ中、意識を刈り取って制圧した刺客を縛り上げていく。
この程度なら、足や腕を切り飛ばすほどではなかったので切っていない。
向こうが襲撃してくることは想定済みなので、捕縛用の縄は十分な量があるぞ。
数が多くて手間なので、万が一の時は切ればいいやと適当に縛りつつ考える。
「それにしても、やはりこの方たちは宿痾教徒なのでしょうかね」
ぽつりと零す。
それは、以前「カルマン」の街で拠点を制圧した時。
捕縛した魔術師のローブに描かれた紋章からの推測だ。
宿痾教徒。
簡単に言えば宿痾の主と瘴気を信仰する破滅思想の邪教徒だ。
基本的には弾圧される立場だが、密かに活動を続け大陸中に信徒がいるという。
刺客たちのローブは、魔術師のローブと若干デザインが似ている。
紋章はないけれど、宿痾教徒に関係してそうだなぁ、とか思うには十分だ。
なんてことを考えていると――
「う、うわあああああああ!」
不意に、声がした。
この声は……ソアナさん!?
私は襲撃を警戒していたので、私の周辺人物の安全にも気を配っていた。
なので、ソアナさんの安全にも配慮していたんだけど、一体どういうことだ?
少なくとも私の警戒網に、ソアナさんを襲う刺客は探知できなかった。
それはつまり――
私は即座に、声のする方へ飛び出した。
このとき、普段の私ならそれはもう興奮状態で駆け出していたことだろう。
ソアナさんに声を出す余裕があるということは、そこまで切羽詰まった状況ではないはずだ。
だが、今回は違った。
何故か――
「――ああ、本当にカグラだったのね。あんなに小さかったのにまぁ……随分と成長しちゃって」
――そこに立っていたのは、一人の少女だった。
年の頃は十七から十八くらい。
美しい金髪は腰のあたりまで伸びていて、一房小さく耳のあたりでまとめている。
衣服は和装――私とは少しデザインの違う旅装で、片手でソアナさんを壁ドンしている。
背丈は私より少し高いくらいで、多分百五十半ば。
スラリとしたスレンダー体型が美しい、美貌の少女。
名を――
「――リンカねえさま」
リンカ。
私と同じ剣の里出身で、七刀の一人。
ここ「ヨース」の街まで、私が探しに来た人物だ。
ようするに、私はソアナさんを襲った人物がリンカねえさまだと当たりをつけていたのである。
この世界に私の警戒をくぐり抜けられる人物が七刀の他にそういるとは思えないし。
もしそんな人物が犯罪組織に与していて私を狙うなら、直接狙ったほうが早い。
「この人、貴方の知り合い? 宿から抜け出た貴方を追いかけて、こそこそしていたから捕まえたんだけど」
「た、たすけて……カグラ助けて……」
「なんで私を追いかけてきたんですか……どう考えても怪しいのソアナさんの方ですよ」
涙目になりながら、こちらに助けを求めてくるソアナさん。
でも、そもそも捕まった理由が理由なので、擁護しにくい。
なんでも、たまたま私が嬉々とした様子で外に飛び出していくのを目撃し。
私がいれば大丈夫だろうと、安易な気持ちで野次馬に追いかけてきたのだとか。
危険だから、二度とやらないでくださいね、と言い含めておく。
それにしても――
「この人が七刀のリンカ……さん? 怖いよぉ、手に持っている武器が特に怖い」
「あら、武器に興味を持ってくれるの? カグラはいい友人に恵まれたわね。うふふ、じゃあせっかくだし解説してあげる」
その言葉に、ソアナさんは思わず顔を青ざめる。
私経由で、リンカねえさまが「偏狭的な武具愛者」と知っているが故だろう。
うん、想像通りの事が起きます。
でも私は止めないぞ、なぜなら私もリンカねえさまの持っている武器がきになるから。
リンカねえさまの持っている武器は、棒の先端に鎖が取り付けられていて。
その先に棘付き鉄球が結ばれているシロモノだ。
要するに――
「これね、モーニングスターっていうの。この鉄球を振り回して戦うのよ。うふふ、素敵でしょう」
モーニングスターだ。
前世にも創作の中では存在した鎖で結ばれているタイプ。
こういうのが存在するのは、ファンタジー異世界って感じがするな。
それはそれとして――
「――つまりこの武器の素晴らしいところは射程よ、このサイズの棘付き鉄球を中距離で振り回しつつ、棒の部分で近接戦も可能。どの距離からでも相手の頭を潰せるって素敵だと思わない? あ、もちろん鉄球と棒を接続することも可能よ。そうすれば今度は純近接戦武器としても運用できて――」
私がモーニングスターに感心している間にも、リンカねえさまの高速詠唱は続く。
あまりにも早すぎて、ソアナさんはそもそも途中から聞き取れなくなっていた。
宇宙猫みたいな顔でリンカねえさまの話を聞いている。
やがて、長話は続くこと数十分。
「――とまあ、そういうわけで私は今、モーニングスターを愛用してるの。もしよかったら他に持ってきてる武器についてもお話するけど、どう?」
「だ、大丈夫ッス」
つやつやしたリンカねえさまと、げっそりしたソアナさん。
なんか、壁ドンも相まって事後みたいだけど、残念ながらそんな色気のあることは一切なかった。
というかリンカねえさまって武具以外に欲情するんだろうか。
「ところでカグラ」
「なんでしょう」
「一つお聞きしたいのだけど……カグラが持っているその刀って……まさか……」
ちなみに、
「――疾討ですよ?」
「んぎゅうっ!」
武具には欲情します、ご覧の通り。
というわけでついに七刀の一人が登場です。
リンカねえさま、17才。
武具が恋人歴=年齢です。
評価していただきありがとうございます!
励みになります!