転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
剣の里は、その在り方に反して剣の道に生きる怪物を養成する場所ではない。
設立した当初はそうであったかもしれないが、今の剣の里はかなり営利を優先する場所だ。
そもそも、なぜ山奥に里を置くのかといえば、理由は二つ。
一つは里で教える技術の漏洩を防ぐため。
そしてもう一つは
そもそも、現在の剣の里は里の中で育てた剣士を外へ派遣し、冒険者として活動させたり国に仕えさせることで、名前を売ったり金を稼ぐことで成り立っている。
決して名前から想起されるような――言い換えれば、外部の人間がイメージしているような、剣の頂きを目指す求道者の集まりではないのだ。
だが、そのイメージ自体は剣の里も大いに活用している。
剣の里の剣士であれば、実力は保証されていると外部の人間に思われているのだ。
言ってしまえば、剣の里とはブランドであり、そのブランドを守り育てることが現在の剣の里である。
剣の里の人間が、彼らの暮らす大陸に似つかわしくない異国の島国の名前を子どもにつけるのも、それが理由だ。
だが、時折そんな剣の里から、剣の道を究めんとする怪物が生まれることがあった。
剣の里は、一般的にそれらを「剣鬼」と呼ぶ。
剣の鬼と書いて、剣鬼。
その名の通り、彼らはただ剣にだけ生きる鬼であった。
共通していることは、人間性の欠如だ。
剣の腕さえ磨ければ、人の生き死にすら頓着しない。
下手すると、強さを求めて人斬りに落ちる外道すらいるような。
そんな、非人間的な存在。
それが剣鬼だ。
かつて、剣の里を開いた開祖もまた、剣鬼だったという。
当時はそういった求道者こそ剣の里の理想であったが、今は違うのだ。
そんな外に出せないような怪物は求めていない。
故に剣鬼は、剣の里において忌むべき存在だった。
ここに、新たに剣鬼と思われる少女が生まれた。
名をカグラ。
現在の剣の里を取りまとめる重役の娘として生まれた少女は、幼い頃から絶世の美貌を誇っていた。
これで剣の腕が確かなら、さぞや外の世界で名を売ってくれるだろうと周囲は期待を寄せていたのだ。
だが、そんなカグラはどこか人とズレていた。
周囲の子どもたちとは話が合わないし、そもそも何故か自分の性別に頓着していない。
そのせいで周囲の子どもの性癖がメチャクチャにされてしまうのだが、本人は素知らぬ顔だ。
そんなカグラの様子が一変したのは、彼女が八つになった頃。
魔力を通して剣を振るうことを教えた途端、どこかふわふわしていたカグラの目が変わった。
まるで剣に魅入られるかのように、激しい鍛錬を繰り返し始めたのだ。
その様は、まさに剣の里が畏れる剣鬼そのものだった。
何より恐ろしいのは、カグラの鍛錬に対する集中力だ。
普通、魔力を使った鍛錬はそう長く続けられるものではない。
なにせ魔力を使えば、それだけ精神は疲弊する。
よほど
それを、毎日何時間も休憩を挟みながらとはいえ続行するカグラの集中力は尋常ではないと言えるだろう。
そしてそれほどの集中力は、カグラが剣鬼でなければ説明がつかないのである。
何より、カグラが剣鬼であればそれまでの人とは違う態度にも説明が付く。
浮世離れした、他者とは違う感性の持ち主なら。
多少同年代の性癖を男女問わず破壊し尽くしたって、そういうものだと受け入れられようものだ。
しかしだからこそ、剣の里の人間は迷った。
剣鬼として彼女を処するのは簡単だ。
これまで、剣鬼に堕ちた人間を例外なく剣の里は“処刑”してきた。
多くの剣鬼が、剣に傾倒するあまり周囲を害したからだ。
なのでカグラも、本来ならば何かしらの理由で彼女を処刑する必要がある。
とはいえ、カグラは魔力を使った鍛錬を始めるまでは多少浮世離れしてはいるものの、大人しく生活していた。
何よりあの容姿だ、もし万が一カグラが御せる程度の破綻者なら、捨てるのはあまりにも惜しい。
鍛錬に傾倒する以前のカグラを信じて、様子を見るべきではないかという人間も多かった。
単純に、人を害していない人間を一方的に処刑するほど剣の里も無情ではなかった、というのもあるが。
結果として、その判断は正解だったと言えるだろう。
確かに彼女は恐ろしいまでに常軌を逸した鍛錬を繰り返していた。
しかし、剣に魅入られ人を斬るようなことをするわけではなかったのだ。
むしろ、同年代の人間が鍛錬で困っているところがあれば積極的に助言をした。
教える内容は、里で教えられている一般的な内容ばかりだが、言っているのは同世代の性癖を破壊し尽くしたカグラだ。
大人が言って聞かせるよりも、ずっと彼らはカグラの言う事をよく聞いた。
なによりそこには、確かに人としての理性的な面を垣間見せるカグラの姿があったのだ。
とはいえ、困ったこともあった。
カグラが時折、不意に里を抜け出すことがあるのだ。
そこには法則性が全く存在せず、時には昼の鍛錬の最中だったり。
時には夜も更けた真夜中であったりする。
何をしているのかといえば、魔物の討伐。
本来、剣の里はカグラの年で魔物と戦うことを許可していない。
魔物に出会ったら即座に逃げて、大人に報告するよう言い聞かせているのだ。
だが、どういうわけかカグラは魔物の討伐に固執していた。
ともすれば、それがカグラの剣鬼としての習性なのかと思われた。
カグラが人を害さないのは、単純に人を斬るつもりがないからなのではないか、と。
とはいえそれならば、まだ人としての道を逸脱していない。
魔物を斬ることに執着する剣の鬼ならば、それを生業とする冒険者になればいいのだから。
少なくとも、人を斬ることに快楽を覚えるような異常者でないなら、まだ救いはある。
よかった、これならばカグラも何とか人の道を生きていけるだろう、と。
里の人間が胸をなでおろしたころ、それは起こった。
魔物が里を襲撃してきたのだ。
といっても、数は少ない。
数体の魔物が、里に紛れ込んだだけ。
山奥に里を構える以上、稀ではあるがどうしても起きうる出来事だ。
不幸だったのは、魔物が迷い込んだのがちょうど子どもたちが鍛錬を行なっている場所だったということか。
大人たちは、目を離していた。
無論、逃げればすぐそこに里はあるし大人もいるのだから、死人が出るほどの危機ではない。
それでも、何人かは怪我人が出る。
そんな状況だった。
そして、事態を解決したのがカグラだった。
現れた魔物と、それに怯える子どもたちの前に割って入り、堂々と魔物と戦った。
最終的には完勝といっていい内容で、魔物を打ち倒すことにも成功したのである。
結果を見れば、それは上々と言えるものだっただろう。
とはいえ、戦闘の最中。
魔物と斬り合う時のカグラは、見たこともないような笑みを浮かべていたという。
狂気的でありながら、どこか妖艶。
最初は恐怖を覚えるが、後から思い返せば美しさが勝つ。
そんな笑みを、浮かべていたという。
決して、ただ行動がおかしいだけではない。
戦闘の時は確かに鬼の如き様相なのだ。
なお、当然ながらそれを見た同年代の性癖は破壊された。
しかし、ここで一つ疑問が残る。
どうしてカグラは、子どもたちを守ったのか?
もし仮に、カグラが魔物との戦いにだけ執着する剣鬼なら、普通は子どもを守らない。
だが、カグラはそれが当然といった様子で、戦闘中魔物を倒すよりも子どもを守ることを優先した。
これに困るのは、里の人間だ。
カグラの考えていることが、彼らはわからなくなってしまっていた。
本人に直接聞いても、「当然のことをしたまでのことです」としか答えない。
思い返してみれば、疑問はいくつもある。
あれほど鍛錬に執着する人間が、どうして他者の鍛錬まで面倒を見るのだ?
そんな事をするよりも、自分の鍛錬に集中するのが普通ではないか?
時折魔物を討伐しに行く理由も、一つはその魔物を討伐したいからだと言っていた。
しかしもう一つ、里に魔物が近づいてくるのはまずいからという理由も本人は口にしている。
それはつまり、カグラは彼女なりに里のことを考えている証左ではないだろうか。
単純にそのタイミングや、行動力がおかしいだけで。
故に、別にカグラは剣のことしか考えていない剣鬼ではないのだ。
他人とはものの見方が違う、自由すぎる生き方の少女でしかないのだ。
さながらそれは、天衣無縫。
無論、剣に狂ってはいる。
しかし人の道を外すほどではない。
剣鬼というほどの怪物ではなく、さりとて人と呼ぶには強さへの執着は異様の一言。
故に、あえてカグラを表現する言葉を探すなら剣鬼ではなく――
修羅、という言葉の方が正しいのではないだろうか。
すなわち、天衣無縫の修羅。
それこそが、カグラという少女の本質ではないかと、里の人間は考えるようになっていた。
大人たちがなんとなくカグラを理解する気になっている中、破壊し尽くされる同年代の性癖の明日はどっちだ!