転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
地面に転がってびたーんびたーんするリンカねえさまを、ソアナさんと遠い目で眺めることしばし。
ちゃんとモーニングスターは安全な場所に置いてから欲情しはじめるリンカねえさまの真面目なところ、ちょっと怖いです。
やがてリンカねえさまは、起き上がると真面目な顔で口を開いた。
「――武具はね、人が築き上げた文明の証なのよ」
ダメですリンカねえさま、今更真面目になっても取り繕えてません。
ただまぁ、リンカねえさまが本気で「武具は文明の証」と考えている事は知っている。
「この世界には、瘴気と呼ばれる毒が蔓延している。その中で人々が生きていくためには、武具を手に取るほかなかった。武器を手にして、防具を身にまとい。少しずつ文明の火を世界に広げていったのよ」
「それはまあ……商人として同意するけどさ。武具の開発と流通がなけりゃ、人類は発展しなかっただろうけどさ」
「解ってくれる? 貴方いい人ね、お近づきの印にこの短剣をあげるわ」
「いや……」
ソアナさんは遠慮しようとしているけれど、私は知っている。
あの短剣は、異国に伝わる儀礼剣の一種で、調度品や贈り物としても使われる結構高価な剣だ。
日用品としても、切れ味の良さと頑丈さから使いやすい。
守銭……商人気質のソアナさんが知ったら、目をお金の形に変えそうだけど。
まぁ、黙っておこう。
なお、後日そのことを知ったソアナさんから、「私がもってるとお金に換えたくなっちゃうから、それとなくカグラの方から返してくれない?」と相談された。
ソアナさん、結構真面目な人であった。
閑話休題。
「武具って素晴らしいと思わない? 作り手の思いが形になって、多くの人の手に渡り、その人を助けるの。美しさ、切れ味、頑丈さ。全てが一つの芸術のようだわ」
「そうですね、リンカねえさま」
「中でも疾討は、世界に類を見ない傑作中の傑作のひとちゅよ! でゅへへへ!」
うわぁ目が怖い。
あと噛んだ。
リンカねえさまは恥ずかしそうに口元を押さえた。
でも、ちょっと怖い笑みは隠せてません、漏れてますよリンカねえさま!
……なぜソアナさんは人の方を見てくるのか。
同じ穴のムジナ? なんのことやら。
「それをカグラ、貴方が鞘から引き抜いたのね! 里の創設以来、開祖シンラ以外誰も抜くことのできなかったその刀を!」
「え、ええ……そ、そうですけど」
「素晴らしい! 見違えたわね! 昔のカグラはもっとなんというか……虚無ってたのに!」
ぎゅう、とリンカねえさまが私を抱きしめてくる。
本心から私を褒めてくれていて、なんだか気恥ずかしい。
……のだけど、なんか痴漢するみたいな手つきで疾討をさわさわするのはやめてほしい。
疾討も嫌がってるから。
「虚無ってた? カグラって昔から鍛錬に狂ってたわけじゃないんだ?」
「そう、そうなのよ。ソアナさんだったわね、多分びっくりすると思うけど、昔のカグラってこういう感じじゃなかったの」
「まぁ、そうですね……」
ポリポリと頬を掻く。
リンカねえさまの言う昔の私は、娯楽に餓えた人生を送っていた頃の私だろう。
母の教えを幼さゆえに忘れてしまった私は、周囲からどこか浮いていて。
どこかリンカねえさまの言うように、虚無っていたのだ。
「おかげで、話には聞いていたけれど、貴方が本当にカグラなのか確信が持てなかったの。だから会いに来られなくて、ごめんなさいね」
「ああ、それで……」
むしろ、リンカねえさまは慎重に動かなくては行けない身の上だ。
こちらこそ、もっとわかりやすくするべきだったと反省する。
「結果として、貴方に会えてよかったわカグラ。それじゃあ――」
「ええ、リンカねえさま」
「ん? 何を……」
そうして、お互いの状況を確認した私とリンカねえさまは――
「「やりましょうか」」
互いの得物を手に取り、それを相手に向けて振るう。
余波で、「これだから剣の里は」といいたげなソアナさんの髪がぶあっとなった。
+
――再会した剣の里の同郷は、挨拶代わりに剣を交える。
それはあまりに、自然の成り行きだ。
え、違う?
「――あは、本当に見違えた。あのカグラが、私に剣でついてくるなんて」
「感心している場合ですか? このまま押し切られても知りませんよ」
刃を振るう。
リンカねえさまのモーニングスターがそれを受け止める。
ねえさまが里にいた頃は、まだ私が鍛錬に魅入られていない頃。
当時の、何事にもあまり積極的ではなかった私を見ていたリンカねえさまが、驚くのも無理はない。
戦闘は私が攻め込む形で進む。
多重強化を施した疾討で、リンカねえさまのモーニングスターを叩く。
それを縦横無尽に操られたモーニングスターが、ことごとく受け止めていくのだ。
――七刀は剣の天才だ。
リンカねえさまの場合は武具の天才だが、総じて言えることは技術が高い。
私は繊細そうな人形系白髪美少女みたいな雰囲気を出しつつ、実際は多重強化と人読みによる身体強化ゴリ押しが基本戦術なのに対し。
七刀の武には、常に徹底した高い水準の技術がある。
そして無論、身体強化も非常に高い水準にある。
多重強化のような、燃費と出力に優れた技術などは使っていないのに。
私のそれに追いついてくる。
先日の野良暗殺者は、速度だけなら私に比肩しうるものだったが。
リンカねえさまは、あらゆる部分が私に比肩する。
流石に、多重強化の出力ゆえか、基本的なスペックはこちらが上だが。
それでも、技術を合わせればその差は容易にひっくり返る。
リンカねえさまは棘付き鉄球で、棒で、器用にこちらの刃を受け止めてくる。
ほとんど同時みたいな速度で放った二突きを、それぞれ鉄球と棒で受け止めた上。
あろうことか鎖で刃を絡め取ってこようとするのは、変態じみた挙動だ。
純粋な技量では、どうあっても私は勝てない。
故に、身体能力にまかせて踏み込みながら、絡め取られた刃を鎖を断ち切ることで抜け出そうとする。
「バカみたいな膂力ね……!」
リンカねえさまのモーニングスターとて、ねえさまの魔力で強化はされている。
それでも私は、その鎖を断ち切れるつもりだった。
しかし私の刃を、器用にリンカねえさまが受け流す。
驚くべきことに、絡め取った刃から鎖を外してみせたのだ。
こちらの刃の威力を殺すことなく。
これは結果として、私の手元を狂わせる形になる。
慌てて軌道を修正するも、その隙にリンカねえさまは距離を取っていた。
「これすら、対応してみせますか……!」
「こんなもんじゃないわよ」
ここまでねえさまは、純粋な技量だけで戦っている。
それだけではないのだ、ねえさまの強みは。
ねえさまは武具の扱いのスペシャリスト。
それはつまり――
「じゃ、増やしていきましょうか」
一度に複数の武具を操っても、弱くなるどころか武具の数だけ強くなるということだ。
その手には、モーニングスターの他に、短い槍が握られている。
それから口に……吹き矢?
「ふひひゃほははにひひゃひゃめ……よ!」
「ごめんなさい何言ってるか全く聞こえません!」
吹き矢を舐めちゃだめって言ってるのだろうか。
物理的に舐めてるのはリンカねえさまだと思うが、ともかく。
直後、私の喉元に高速の吹き矢が飛んできた。
首を振って回避するが、この速度は肌を強化しても弾けるものじゃない。
そしてその隙に、更にリンカねえさまが突っ込んでくる。
恐ろしいのは、その手数だ。
この場合、リンカねえさまの手数は武器の数だけ増える。
モーニングスターは、棒と鉄球と、そして鎖。
短槍は一見、ただの短槍に見えるが――
「伸びなさい!」
突如として、その柄が伸びた。
恐らく、リンカねえさまの声に反応して伸縮自在に伸び縮みする魔道具の短槍!
それだけではない。
私が伸びた短槍を距離を取って回避すると――
「射出!」
その穂先が射出される。
しかも、回避しようと身を捩ると、よじった方向に追尾して来た。
慌てて刃で弾くも、続けざまにモーニングスターが迫ってくる。
更に射出された穂先は槍にまた収まって、こちらも追撃の構えだ。
モーニングスターに伸縮して穂先が射出される槍。
更には、時折飛び道具を混ぜてくるのだから始末に負えない。
クナイのようなものや、純粋な短剣ならまだいい。
ブーメランなんてものも飛び出してきたぞ、当然帰ってくるから二段構えの攻撃だ。
それらを弾いて防ぎながら、私はなんとか反撃を繰り出そうとする。
しかし、そのどれもがリンカねえさまに躱されてしまう。
純粋な技量で、圧倒的に上回られている。
私の武器である観察に徹して何とか隙を見出そうにも、このまま受けに回っていては見切る前に詰むだけだ。
それ以外の方法は――
結果として私は一気に追い詰められていき。
最後、私が刀をふろうとした瞬間、手が止まり――
「――終わりね」
「……そうですね」
私の首元に、槍の穂先が突きつけられていた。
どうやら、ここまでのようだ。
「カグラ!」
戦闘に置いていかれていたソアナさんが、私達のもとに走ってくる。
そうして、私の置かれた現状を目にすると、驚いた様子で目を見開いた。
どうしたのだろう。
「まさか……カグラがまけた?」
ああ、確かに一見すれば、これは私の負けとしか言いようのない絵面だろう。
これまで私の強いところしか見てこなかったソアナさんにとっては、意外な結果かもしれないな。
しかし――
「いえ、
「えっ」
一応、この状況でも勝ったのは私なのだ。
見ての通り、どうみてもリンカねえさまが勝ったようにしか見えないし。
とても不本意な”勝ち”ではあるのだけど。
どういうことかと言えば、待て次回。