転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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二十四 溢れ出すぎるこのパワー

「確かに、試合としては私のほうがカグラを圧倒したわ。でもそれは、カグラが本気を出せなかったからよ」

「ええっとそれって……?」

 

 疑問符を浮かべたソアナさんに、辺りに散らばった自分の投擲武器を回収しながらリンカねえさまが続ける。

 

「あの時カグラは――能力が高すぎたのに、その加減ができていなかったの。私を倒そうにも下手したらとんでもないことになってしまうから」

「それって、つまり――」

 

 まあ、一言でいうと理屈は非常に単純だ。

 

 

「つまり、私が本気を出すとリンカねえさまを()()()()()()から、全力が出せなかったのです」

 

 

 そう、そうなのだ。

 あの極限状態での戦闘、私に加減している余裕なんてない。

 そんな技術がないからだ。

 対するリンカねえさまは、その類まれなる技術からアレだけの猛攻を仕掛けても寸止めができる。

 結果として、遠慮なく全力が出せたねえさまと、出せなかった私で表面上の圧倒的な差が生まれたわけだ。

 

「最後の一撃以外は、私が武具を犠牲にすれば防げるわ。こんなじゃれ合い程度の打ち合いでやりたくはないけど。でも、最後のはダメね」

「続けてたら、ほぼ確実にリンカさんが死んでた、と。はぁ……とんでもない話だね」

 

 最後。

 私が刃を振るわずに、その結果リンカねえさまの槍が私の喉元に突きつけられたアレ。

 あそこは私も取ったという確信があった。

 故に、ねえさまも手を止めたわけで。

 

「しかしそれなら、使う武器を変えればいいんじゃないかい? 相手を殺さないような武器なら――」

「それだと、今度は私がリンカねえさまに手も足もでなくなってしまいます。私の身体強化って、強力過ぎて武器を壊してしまうのですよ」

 

 多重強化に武器が耐えられない問題は、二年前から一切変わっていない。

 というか、その問題を解決しようとすると疾討が拗ねる。

 自分がいればいいだろう、と言わんばかりに。

 そしてそれは疾討の、どこにでも駆けつける特性を考えれば全く以ってその通りで。

 今のところ、解決する予定はなかった。

 

「そう、その疾討がなければ私とカグラの戦闘は成立しない。仮に武器を捨てても、カグラは武器を使わない多重強化の鍛錬をしていないから、やっぱり一方的なものになるでしょうね」

「ですね。疾討がある限り、他の戦闘方法を考えなくていいのは利点でもあるので」

「――そう、疾討」

 

 と、そこで。

 リンカねえさまの目が変わった。

 あ、これはいつものやつだ、と私もソアナさんもすぐに理解する。

 

「素晴らしい、素晴らしいわねうふふ。ああ刀身が美しい。刀のハモンというのは、どうしてこんなにも美しいのかしら。ねぇカグラ、こうして抜き放てたのだから、私も触ってみても――」

「……多分、無理だと思いますよ」

 

 そう言って、私がリンカねえさまに疾討を差し出そうとすると――すぅ……って感じで疾討が手元から消えてしまった。

 勝手に手元にやってくる能力は、勝手に手元から消える能力でもあるのだ。

 実演のために、怖い思いをさせてごめん疾討。

 でも、リンカねえさまとの切り合いは直接斬ることはできなくても、楽しかっただろうから許して。

 フラストレーションがたまる? それは私も同じだからさ。

 

「ぬぅううううううううう――――」

「あ、うずくまった」

「そっとしておきましょう」

 

 そしてリンカねえさまは崩れ落ち、一分ほど唸った。

 やがて、それが収まると。

 

「――それで、カグラは私を探していたのよね? それとこの強さ……察するに、七刀になりたかったの?」

「あ、何事もなく再開した」

「そっとしておきましょう」

 

 閑話休題。

 話を戻そう。

 

「まあ、そうですね。七刀候補として父上に推薦されて、七刀から認可を受けるよう言われました」

「里長も、娘のことになると甘いわねぇ。……まぁいいわ、結論から言うけど」

 

 リンカねえさまは、さっきのアレヤコレヤは何だったのかというくらい真面目な顔で――

 

 

「今の貴方を、七刀と認めることはできない」

 

 

 そう、言い放った。

 

「え、カグラの方が殺し合いだと七刀より強いのに!?」

「いえ、妥当な判断ですよソアナさん」

「そうね。……それに純然たる殺し合いなら、私だってもっと攻撃に殺意を込めるから結果は変わってくるわよ」

 

 十回やって、十回私が勝てるほど、リンカねえさまは弱くない。

 多分、私とリンカねえさまが十回本気で殺し合いをしたら、四回はリンカねえさまが勝つ。

 今回は最後に決定的な隙があったけど、次がそうとは限らない。

 ただまあ、私の強さは七刀とはあまり関係がないのだ。

 

「単純に、カグラが剣士としてあまりにも拙すぎる」

 

 それは、要するに技術の話だ。

 先程の戦闘からも明らかだが、私は剣士としてはまだまだ未熟も良いところ。

 それを強引に多重強化で補いつつ、人読みという武器でリンカねえさまのような天才とも渡り合っているのだ。

 

「七刀というのは、剣の里でもっとも剣に優れた剣士に与えられる才能よ。カグラの強さは剣の腕とは全く別のもの」

「強くはあるけど、七刀の基準を満たしてない……と」

「そういうことです」

 

 正直、私もこうなるだろうな、という気はしていた。

 元々身体強化なしの剣術では今も父上には全く歯が立たない程度なのだ。

 なんだったら、爆発的に伸びたヒオリちゃんにも負けるかも知れない。

 周囲から慕われている身として、そういう姿をさらすべきではないと父上から止められていたので。

 実際にやったことはないのだが。

 

「――それに、もう一つ問題がある」

 

 やがて、投擲武器の回収を終えたリンカねえさまが、私に向き合う。

 

「カグラ貴方、人を殺そうとしてないわね?」

「んー、そうですね」

 

 それは、ここ最近何度か指摘されてきた問題だ。

 私は基本的に人を殺そうとはしない。

 理由としては単純だ。

 

「人の命は、人が決めるものではありませんから」

「それは、一体誰の教え?」

「母上のものです」

 

 何度も何度も、母からはそのように教わってきた。

 それは私自身の前世の倫理観と、そう違うものではない。

 だからすんなりと私はそれを受け入れて、自分なりに飲み込んできたつもりだ。

 

「もし相手が私と同じくらい強くて、今回のように加減していたら死んでしまう状況であれば?」

「それは致し方ないことだと思います。別に、全ての殺生を控えろとは母上も仰っていませんでしたし、この世界はそれが許されるほど平和ではありませんから」

 

 相手が倒すべき敵ならば、殺さなくてはいけないなら私はそれを殺すだろう。

 今のところ、そういう状況に陥ってはいないけれど。

 

「じゃあ、もしその相手が――」

 

 ああ、でもこの考えには確かに問題がある。

 私だって、前世の記憶があるのだから単純に子どもというわけではない。

 リンカ姉さまの言いたいことは理解できる。

 ようするに、とても単純な話で――

 

 

「貴方にとって守りたい相手であったなら、どうする?」

 

 

 リンカねえさまが、やむを得ない事情で敵に回った場合どうするか、という話。

 

「私なら、斬るわ。そうしないと、多くの人が犠牲になってしまうなら、間違いなく」

 

 ――その考えは、きっとこの世界の人なら当然の考えだ。

 斬らなければ別の誰かが犠牲になってしまうなら。

 きっと、多くの人はそれを斬る。

 

 だけど私がどうかと言われたら――

 

「……そうですね、リンカねえさま」

「やっぱり、カグラは切れない?」

()()()。いいえ、違うのですリンカねえさま。私には、私なりの考えがあります」

 

 答えは、最初から決まっている。

 

「ですが、それを口で語るよりも、実際に振る舞いを見せたほうが早いと私は思います」

「……」

「故に――」

 

 私は視線を、少し遠くに向ける。

 ここから離れていて、直接視認することはできないけれど。

 そこには、私が制圧した刺客が今も気絶したまま放置されている。

 

 

「まずは、この港湾都市に巣食う宿痾教徒達を殲滅しましょう」

 

 

 にこやかな笑みで、そう告げた。

 

「……それ、単純に貴方が宿痾教徒を殲滅したいだけじゃないの?」

「ぎくぎくっ、そ、そんなわけありませんよ。というか、リンカねえさまが私に接触しようとしたのは、それを誘いに来たからなのですよね? でしたら一石二鳥かと思うのですが」

「語るに落ちてるぞ、カグラ」

「い、いいから行きましょう、ほらはやく、今すぐにっ」

 

 二人のジトっとした視線を受けながら、私はごまかすように行動を促すのだった。




カグラパワー、ゴリラれた力……
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