転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
数年ぶりに再会したカグラは、見違えるほど強くなっていた。
剣の才能がないにもかかわらず、身体強化の練度だけで剣の天才である七刀と渡り合えるほどに。
カグラは努力の天才だ。
努力を重ね、磨き上げることで今のカグラは形作られている。
――だからこそ、リンカはカグラを「歪んでいる」と考えていた。
かつてまだリンカが里にいた頃、カグラはどこか空虚な生活を送っていた。
何事にも情熱を見いだせず、流されるように生きていたのだ。
こうして再び、カグラがリンカの前に現れたことで。
リンカはその意味がようやく理解できた。
カグラはどうしようもなく剣鬼なのだ。
強さを求め、強さのためなら容易に人を殺せてしまう怪物。
七刀のように、ギリギリ人間の側に立てる奇人とは違う本物の人外。
それを――
「人の命は、人が決めるものではない」
カグラはそんな、母の教えで抑えつけていた。
聞けば、幼い頃からカグラは母に何度も何度もそう言いつけられてきたという。
結果として今のカグラは、強さを求める鬼のような生き方をしながら。
人を殺してはならないという矛盾に縛り付けられている。
少なくとも、リンカにはそう見えた。
果たしてそうやって歪められた今のカグラは、カグラにとって良い人生と言えるのだろうか。
とはいえ、歪まなければカグラはただの剣鬼として人を切っていた。
そうなれば里はカグラを処刑するだろう。
歪まなければ生きられないのに、歪まずに育てば人として生きられない。
剣鬼とは、あまりにいびつな生き物だとリンカは思う。
「――だから、リンカさんはカグラにあんなことを言った?」
ふと、そう問いかけられた。
カグラの提案で宿痾教徒を殲滅しに向かう道中。
リンカはソアナという女性に声をかけられた。
年はリンカの一つか二つほど上、里を出たカグラと交友関係を結んだ友人だという。
「ええそうよ。ああして人を殺さない選択する以上、いつかどこかでぶち当たる問題だもの」
何より――とリンカは続ける。
「カグラは剣鬼だから、もし仮に人を切ってしまったら――後戻りできなくなってしまうかもしれない」
カグラは言った、「正当防衛なら人を切ることはやむを得ない」と。
しかしそれは、普通の人間の考えだ。
カグラは剣鬼だから、もし仮に一度でも人を切ってしまったら、止まれなくなってしまうかもしれない。
そうなれば、待っているのは不幸な結末だ。
何より今のカグラは、既にリンカでも止められるかわからないほど、強大な力を身に着けている。
危険、と一言で済ますにはあまりにも危なすぎるのが、今のカグラだった。
「それなんだけど、一つだけ聞いてもいいかな」
「なにかしら」
カグラは「答えを見せる」と言った。
果たしてそれが、一体何なのか。
残念ながらリンカには見当がつかない。
ソアナならば、何か知っているだろうか。
そう思いながら耳を傾けて――
「実はさ――」
ソアナは、思いがけないことをリンカに語った。
+
なにやらお二人がひそひそ話をしている。
聞こうと思えば聞けるけど、明らかにこのタイミングでの話は私の話だし。
向こうが何も言ってこないなら聞くべきではないだろう。
なお、その後何も言ってこなかったので、詳細は不明。
少し怖い。
「それで、これからどうするの?」
「リンカねえさまは、犯罪組織の拠点を探り当ててありますか?」
「残念ながら。この街の衛兵と協力して探したけど、地上のどの施設にも奴らはいなかったわ」
現在、私達はある場所へと移動している。
その道中、色々とリンカねえさまと情報交換をする。
「ああ、さっき制圧した連中から聞こうとしても無駄よ。アイツら、自分が拘束されてると自覚したら自爆するようにセットされてるの」
「何それこわっ」
「さっき制圧した連中は、自爆されても問題ない場所に移しておきましょう……自爆されないのが一番ですが」
まぁ、それも含めてちょうどいい場所があるのだ。
私とリンカねえさまで、制圧して縛り上げた刺客達を抱えて移動する。
深夜じゃなければとんでもなく目立つ絵面だった。
なお、ソアナさんにはついてきてもらっている。
これから移動する場所が、一番安全な場所でもあるからだ。
「んで、
「まずは中に入りましょう」
リンカねえさまの倉庫だ。
前に、ソアナさんからリンカねえさまが「ヨース」の街の倉庫に武具を預けていると聞いたことがあった。
今利用しているかは不明だが、これから利用する分にはとても都合がいいのである。
念の為、監視がいないか確認してから中に入る。
「さて、ねえさまも敵の拠点について。
「まあ、そうね。地上になければ地下。でも、この街は広大過ぎて調べ尽くすことなんて不可能よ」
それに関しては問題ない。
「――既に特定済みですから、そこは大丈夫です」
「……は?」
「いやいや、いくらカグラでもそれは流石に――」
二人して、全く信じていない顔をしているな。
だが、私が地下の拠点を特定したのは事実だ。
私は魔力を探知するために使用すると、何故かレーダーの役割を果たすアホ毛を指さして告げる。
「地下の魔力を探知して、密度の濃い場所を探り当てました」
「地下の魔力を探知……? そんなことまでできるの? 魔力の操作精度に関しては私達とは段違いね」
方法としては、「カルマン」の街でもやったのと同じ方法だ。
どうやら、リンカねえさまは地下の魔力を探知することができないらしい。
純粋な身体強化の練度もそうだけど、やはり私と七刀では伸ばしてきたスキルツリーが違いすぎる。
七刀の身体強化も練度は高いけど、重ねがけはしていない。
純粋な魔力量の暴力だ。
「というか、流石に無茶じゃないか? 地下にあると当たりをつけてても探し当てるのは」
「ヨースの街にやってきてから、ずっとやってたんですよ? 休日は街の中を1日中うろついてました」
「それはそれで、どんな集中力してるのさ」
ソアナさんからもツッコミが飛んでくる。
まあ正直、自分でも結構運は良かったなと思っている。
まだ回りきれてないところはあるし。
でも、あと一週間もあれば街全体を回ることはできていただろうから、時間の問題ではあった。
「……それで? 位置は特定できても侵入方法がわからないわ。私の倉庫にやってきたってことは、私の武具を使うのでしょうけど」
現在、私達が会話をしている倉庫には、所狭しと武具が置かれている。
実家のリンカねえさまの部屋の惨状を思い出すと、とんでもない光景が待ち受けている可能性も考慮していたが。
思った以上に整理整頓されていた。
「いい、カグラ? 大人になるとね――人をお金で雇って整理してもらうって方法が取れるようになるのよ」
「いや、それは自慢げに言うことじゃないと思うぞ……」
なるほど。
まぁ、そんなリンカねえさまの事情はさておいて。
この中なら、”アレ”がきっとあるはずだ。
「リンカねえさま。ねえさまのコレクションの中に、こう……渦巻き状に回転する魔道具はありませんか?」
「ん? あるけど……アレ、何に使うものなの?」
やっぱりあった。
この世界の魔道具には、この世界の人間が理解できない形状のものがたまに存在する。
というか、魔術で全く同じことができるので技術が発達していないことがある。
そしてなぜか、この世界の技術レベルに関わらず世界のあちこちから技術レベルの高そうな魔道具が見つかったりするのだ。
なんだか、私が転生したことにも理由がありそうな話である。
そして今回私が指定したアイテムは一言でいうと――
「これは――ドリルです」
そう、ドリルだ。
ぐいんぐいんぎゅいーんががががが!
みたいなシロモノだ。
その使い方を、リンカねえさまとソアナさんに伝える。
「つまり何かい? こいつで地面を掘って、そのアジトに辿り着こうってわけ?」
「そのとおりですソアナさん。ここなら警備用の魔術があるから、向こうに何をしているか察知されませんし、まさか向こうも地面を掘り進めて侵入してくるとは思わないでしょうから安全です」
なんだか胡散臭いものを見るような目でこっちを見てくるソアナさん。
そりゃあ、なぜ私がコレの扱い方を知ってるんだとか、疑問はいくらでもあるだろうけれど。
大事なのはそれで敵の拠点に侵入できるということだ。
何より――
「――カグラ」
「なんでしょう、ねえさま」
リンカねえさまの瞳が、全てを物語っている――
「素晴らしいわ!」
がしい。
リンカねえさまが私の手を掴む。
その瞳は、胡乱なまでに輝いていた。
「私の武具に、そんな使い方があったなんて! カグラ、貴方最高よ!」
「ふふ、いいですかねえさま」
「何かしら」
そして私は、決定的な一言を告げる。
「ドリルは――浪漫です」
ずぎゃぁーん。
リンカねえさまに電流が奔った。
一瞬、目を見開いて。
それから目をぐるぐるさせながら、怪しい笑みで呟く。
「ドリルは浪漫!」
「ドリルは浪漫です!」
そうして私達は、呆れたソアナさんが声をかけてくるまで。
ぐふぐふ笑いながら、ドリルの浪漫を感じるのだった。
真面目な空気、話の三分の一くらいしか持ちませんでしたね……