転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
浪漫に浪漫を重ねがけ。
ドリルの回転に魂燃やし、私とリンカねえさまは敵組織のアジトへとやってきていた。
何故かやたら硬い壁を、私とリンカねえさまの二人がかりで破壊して侵入する。
中に人の気配はない、しかしこうして大音量で壁をぶち破った以上、遅かれ早かれ敵はこちらに気づくだろう。
「ここからはどうする?」
「無論、正面突破です」
「それもそうね」
ここにいるのは剣の里のトップクラスの剣士二人。
慎重に行動する必要がどこにあろう。
なにより派手に動いたほうが向こうも敵を差し向けてくれる。
とか思っていると、ぞろぞろと気配が近付いて来た。
「これは……さっきの刺客と同じ奴ですね」
「げ、あいつらか……」
魔力の気配が独特なので、すぐに分かる。
なんというか、いじられているのだ。
ここに来る前に、私を襲撃した刺客を調べたのだがあることが解った。
それは刺客の正体が
「カルマン」の街で私が一掃したあいつらと同じように、組織に雇われた連中らしい。
刺客としての練度が低いのも納得だ。
「というかまって、ってことはその刺客をこの地下で自爆させるつもり?」
「つまりこのやたら硬い壁は、拠点が崩落しないためのものですか」
地下の拠点は閉所だ。
そんな場所で自爆されたら、とても鬱陶しい。
死にはしないけど、少なからずダメージは負うだろう。
「まあでも、ちょうどよかったですね」
「ちょうどいい?」
「元々、ここの人たちは殺さずに制圧するつもりでしたので。殺しちゃいけない理由があるのは、ちょうどいいんです」
リンカねえさまは、私が人を殺せないことを心配しているらしい。
それに対する答えを示すための拠点襲撃だ。
だからそのために、一人も死なせず拠点を制圧する。
まずは、これを達成しないと行けない。
「……来たわよ。それで、方法はあるの? 向こうは私達が自爆の射程に入った時点で自爆させてくるかもしれないわ」
「解っています」
刺客たちが通路の向こう側に現れる。
結構な数が、ゾンビみたいに生気のない状態でこちらへ走ってくる。
走るゾンビは駆逐しないと……(走るゾンビ過激派)。
「さっき調査した時に解りましたが、あの刺客の体内にあるのは爆弾だけで、起爆装置はありません」
「遠隔で魔力を飛ばして、その魔力を意識のある刺客が受け取ることで自爆するんだったわね」
刺客ゾンビが自爆する条件は二つ。
ゾンビ側に意識があること、ゾンビに自爆命令を送ること。
「一番わかりやすい方法は、命令を送る側が操作する前に刺客の意識を刈り取ることです」
「まあ、それくらいなら私でもできるしね」
「でもこの方法は命令を送る側が、気まぐれを起こしたら自爆されてしまうので採用しません」
「それじゃあなおのこと、どうやって制圧するのよ」
これに関しては事前に対策する余裕があったので、色々考えてある。
大事なのは、この自爆命令に用いられるのが魔力であるということだ。
「以前、バイバイラットを生息域の瘴気ごとふっ飛ばして、退治したことあるのですが」
「知ってるわよ。あんな方法でバイバイラットを討伐できるのはカグラくらいね。そもそもバイバイラットを討伐できるのが今の七刀で何人いるか……それで?」
「魔力と瘴気はぶつけると反発しあうのですが――」
私は刀を、以前瘴気を吹き飛ばした時の様に構える。
そうして体内の魔力を一気に放出し――放った。
「魔力飛ばしてどういう……うわ、すごい濃密な魔力!」
この世界で、魔力を飛ばすという行為はあまり意味のある行為ではない。
魔物を瘴気との反発で吹っ飛ばすくらいはできるが、人間相手に魔力を飛ばしても何の影響もないのだ。
だから、これをしても刺客ゾンビの自爆は止められない――と、思うかも知れないが。
「こうすれば向こうが近付いてきても――」
「……爆発しない?」
「はい。空気中の魔力は混ざる性質があるので。
「…………まぁ、カグラならやろうと思えばできるんだろうけど」
それにしても、実際にやったらドン引きよ。
と、リンカねえさまは目で語っていた。
失敬な。
「というわけで、刺客爆弾は全て無力化できました。刺客はこのまま気絶させて行きましょう」
「解ったわ。なんだか詐欺の現場を見てるような気がするけど」
「なんてこと言うんですかぁ!」
とはいえ、ここからは楽しい楽しいおやつタイムだ。
いくらでも食べられる
……私、さっきこいつらのことをゾンビ呼ばわりしたな?
ぺっぺっ。
なんてことを考えていた時だった。
それは、突如として私達の前に現れる。
「カグラ!」
「解っています!」
リンカねえさまの警告と同時に刃を振るい、迫ってきた”そいつ”を弾き飛ばす。
蜘蛛だ。
腐り落ちた肉体の蜘蛛――先日、「カルマン」の街で戦ったあいつだ。
「腐蝕グモね」
「ねえさまもご存知でしたか。名前は安直ですね」
「別の拠点で、資料を見つけたのよ。名前が安直なのは作ったやつに言ってちょうだい」
こいつの厄介なところは、手足を斬ると人の悲鳴を聞かせてくるところだ。
中に人間の意識とか魂が埋め込まれているわけではないので、完全な嫌がらせである。
叩いて動けなくなるまで衰弱させるという手もあるが、今はそんな時間はない。
なにせ――
「あいつら、洗脳した刺客を襲ってます!」
私達が今いるのは、拠点の開けたエリアだ。
中には三匹の腐蝕クモがいて、そいつらが刺客を襲っていた。
幸い刺客は眼の前の突発的な危機から、逃走することはできるのか。
何とかまだ死人は出ていないけれど。
時間の問題としか言いようがないだろう。
「厄介ね……ところでカグラ。腐蝕クモの悲鳴を聞かなくて済む方法ってなんだか分かる?」
「え? ええっと……」
突然の質問だが、あまり考えている時間はない。
あるとすれば――
「……向こうが自分が斬られたと認識する前に殺す?」
「正解。毒岩蜥蜴なんかも、この方法で瘴気の拡散を防げるわね」
やっぱり。
以前戦った毒岩蜥蜴が、瘴気をまき散らせなかったのと同じ理屈か。
そしてそういう気づかせずに倒す倒し方は、リンカねえさまの得意とするところである。
正確に言うと――
「あっちの一匹はお願い。残りの二匹はこっちで何とかする」
「むう、私が二匹倒したいです」
「私より先に、二匹倒せるならいいわ……よ!」
リンカねえさまは、目にも留まらぬ速さで短剣を一つクモに投げて突き立てる。
アレは確か、旅立つ前から持っていたコレクションの一つで、非常に強い毒を刺した相手に注ぎ込む魔導剣だ。
腐蝕クモには毒耐性がないのだろう、すなわち、即死。
結果、倒れる腐蝕クモに他の腐蝕クモが視線を向けた。
そこを――
「はあ……っ!」
目にも留まらぬ速さで後方に回ったリンカねえさまが、鎌のような武器でクモの頸らしき部分を切り飛ばした。
一瞬にして、二匹を切り捨てて見せる。
リンカねえさまは――とにかく器用なのだ。
無数の武器を使いこなし、手数に優れる。
どんな相手にも有効な攻撃手段を持っており、どんな状況にも対応してみせる。
まさに器用万能といったところか。
「カグラ、そっちは!」
「無論、終わっています!」
そして、私もリンカねえさまが視線誘導を行った隙に、もう一体の腐蝕クモを倒していた。
ついでに周囲の刺客たちも気絶させていく。
これで一安心といったところだろう。
なんて、油断したのがいけなかったのか。
さらなる腐蝕クモが、突如として出現した。
「なっ――」
思わず絶句する。
仮にも、私が多重強化をしないと倒せない敵だ。
多重強化さえしてしまえば、大した相手ではないものの。
脅威には違いない。
それがあんな簡単にポンポン湧いてしまったら――
「どこで刺客が被害に遭うかわかったもんじゃないですよ!」
「やっぱり、誰も死なせずってのは無茶だったんじゃないかしら」
「そ、それはそうかもしれませんが……できることはしますよ!」
腐蝕クモは人造の魔物だ。
創造主とリンクしており、その意志に従うようになっている。
逆に、創造主が意識を失うと消滅するため、この場合創造主を気絶させれば腐蝕クモの出現は停止するはず。
「それにしても、一体どうしてこんなにポンポン腐蝕クモが……」
幾らなんでも、腐蝕クモがこんなに現れるのはおかしい。
加えて言えば刺客を襲うのもなんだか変だ。
普通なら、刺客は攻撃対象から外すはず。
一体どうして、それがズレてしまったのか――
「……ねえ」
「なんでしょう、ねえさま」
出現した腐蝕クモを、気取られることなく暗殺したリンカねえさまが、鋭い視線をこちらに向ける。
何があったのか、不思議そうに問いかえす私に――
「腐蝕クモが暴走した原因、カグラの魔力で腐蝕クモへの指示が歪んだからじゃない?」
ぽつりと、そう告げた。
しばし考える。
…………確かにそれなら、今の状況に全部理由がつけられる。
私はさらに沈黙し……
「……よし、創造主を探しに行きましょう!」
「カグラ? ごまかさないで頂戴、カグラ!?」
創造主を探しに、駆け出した!
なおカグラの敵がカグラである可能性があります。