転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
なお、よくよく考えれば更に魔力を飛ばして、もう一度魔力を混ぜればいいのではないかと気づいて。
実際に試し、上手く行った。
とりあえずこれで、腐蝕クモが刺客ゾンビを狙うことはないはずである。
とはいえ今度は別の問題が発生していて――
「いやあ、入れ食いですねぇ!」
「楽しそうに言わないでもらえる!? これで腐蝕クモ
――腐蝕クモの大量発生だ。
いや、本当にびっくりするくらい多い。
常に私達の視界に、腐蝕クモが発生しているレベルだ。
これは推測だが、刺客爆弾を封じられた敵側が、代わりに腐蝕クモをばらまいているのだろう。
向こうもなりふりかまっていられないということだ。
それなら、決して今が悪い状況というわけではない。
何より――
「楽しい! やっぱり強い魔物と戦うほうが楽しいですね、ねえさま!」
「あー、そうね。カグラもそういうところは、剣の里の人間って感じね」
剣の里の人間としては、武具が絡まなければ常識人よりのリンカねえさまの言葉だ。
重く受け止めつつも、今は腐蝕クモを斬り飛ばしていくとしよう。
「しっかし広いわね、移動先はカグラに任せっぱなしだけど。何か目星でもついてるの?」
「はい。魔力が密集している場所を目指してるんです」
迫りくる腐蝕クモを、二人がかりの連携で止める。
まず私が全力でクモを蹴り飛ばして動きを止め、その直後にリンカねえさまの暗器が腐蝕クモを刈り取る。
この繰り返しで、道中では安定して腐蝕クモを狩れていた。
そんな中、私はアホ毛アンテナをゆんゆんさせながら道を示す。
「この拠点には、複数の人間――孤児の子どもが大量に集められた区画があるはずなんです」
「ああ、攫われたっていう。……殺されたり売られたって可能性はないの?」
「腐蝕クモの思念は、攫われた子どもたちのもののはずです。リアルタイムで腐蝕クモが作られてるなら――」
「その思念の根源は、今もどこかにないといけないってこと」
加えて言えばもう一つ。
「そして、そこには管理者――腐蝕クモの創造主がいる可能性が高いわけです」
なるほど、とリンカねえさまも頷く。
推測があっているかはわからないが、魔力が密集している場所がこの先にあるのは事実。
何より――
「腐蝕クモが増えました!」
「二匹同時か、片方ずつ行くわよ!」
「はい!」
二匹の腐蝕クモが、同時に出現した。
向こうが、こちらの接近を察知して焦っている可能性は十分にある。
私と姉さまはクモが察知できない速度で裏に回り、そのままクモを斬り飛ばそうとする。
すると、ギリギリで察知したクモが回避しつつ――
「……融合しました!」
「ええい、面倒な!」
自身の危機を察知したか、融合して倍の大きさのクモになった。
膂力も速度も、先程の倍を軽く超えている。
どうやらフュージョンすると倍よりさらにパワーアップするようだ。
なんて厄介で、倒し甲斐のある獲物か。
なお結局、私が足止めをしているうちに、姉さまが暗器で暗殺するこれまでと同じ方法で倒した。
しかし、こうやって色々ギミックを見せられると他にもないかと期待してしまうなぁ。
とはいえ、今は創造主だ。
さっさと目的地に移動しないと。
+
再び、広い空間に出た。
「これは……」
「おお……」
そこは、なんというか研究所然とした場所だった。
なにせ無数の培養ポッドみたいなものが並んでいるのだから。
容器に液体が満ちていて、その中に人間が入ってるアレだ。
それが、無数。
中には当然、攫われただろう子どもたちが複数いる。
「なんで感心した様子なの?」
「いえ、個人的な理由なのでお気になさらず」
まさかファンタジー世界で、SFチックな光景を目にするとは思わなかったのだ。
とはいえ、私もリンカねえさまも油断せずに先へ進む。
この部屋に、動く人の気配が一つあるからだ。
ここまで派手に突っ込んできたので、向こうには私達の存在はバレている。
特に隠密する必要はないので、そのまま進んだ。
「――動くな!」
男の声がする。
立っていたのは魔術師だ。
服装は、以前私が制圧した魔術師のものと一致している。
同じ幹部職の魔術師ってところかな。
「これ以上歩を進めれば、私は自爆するぞ! この子どもたちを助けに来たのだろう、果たしてここで私が自爆して無事で済むかな?」
「なんだか、とんでもなく斬新な命乞いをされていますね」
怯えた様子で、男は叫ぶ。
死にたくはないが、上の命令で自爆するように強制されているって感じだな。
むう、そうまでして死者を出したいのか、この組織は。
「魔力を満たすなどというおかしな方法で、自爆魔術を防いだことは驚嘆に値するが、私が私に自爆を命令することまでは防げまい」
「まあ、それができればそもそも、魔術そのものを防げてしまいますからね」
「……余裕そうだけど、何か手はあるの?」
「ははっ、止められるものなら止めてみろ。
リンカねえさまの言う事は尤もだ。
この状況をどうにかするには、悠長なことはしていられない。
できるだけ速やかに、この男を制圧する必要がある。
男の言い方は少し引っかかるものがあるが、今はそんなことを気にしている余裕はない。
「そうですねえ。時に、自爆魔術の命令を出してから実際に自爆するには、多少のタイムラグがあるのではないですか?」
「……それが何だというのだ」
「
「――!」
タイムラグに関しては、姉さまから聞いた話の推測だ。
前に姉さまが刺客を自爆させてしまった時、異変から爆発までに多少猶予があったらしい。
三秒というのは、眼の前の男の反応からの推測。
どうやら正解だったらしい。
「……アンタの人読みの精度も、大概おかしいわよね」
「強さのためには、他者の観察も重要な方法の一つです。そして私は、観察の末に幾つかのことを理解しています」
その言葉に、男が訝しげに眉をひそめる。
重要な情報を抜かれたかもしれない、と判断したのだろう。
だけど、違う。
「三秒もあれば、生まれてきたことを後悔する痛みを相手に与えるには十分です」
その言葉に、男もリンカねえさまも絶句した。
――ブラフだ。
確かにそういうことも可能だけど、やったことはない。
要するに、脅迫。
「選んでください。自分から死を選んだうえで、それを後悔するような苦痛に苛まれながら死ぬか。はたまた私達に投降するか」
「そ、そんなもの――」
「うふふ、くふ、あはは……私はどっちでもいいんですよ! だって貴方と戦えるなら前者の方がお得なんですから!」
そして私は、普段の高揚を意識しながら畳み掛ける。
笑みを浮かべ、前傾姿勢で、今にも斬りかかりそうになりながら。
「さぁ、さあ、さあ! どうなんですかどうなのですか!? 死ぬか生きるか! 好きに選んでいいんですよ!」
「う、ああ……!」
「――さあ!!」
「ああああああっ!」
男は、背を向けて逃げ出した。
無防備な隙。
そこを見逃す私ではない――!
「よっと!」
即座に飛びかかり、意識を刈り取る。
自爆の命令を出させる猶予は与えない。
一気に制圧を完了させ、一つ息を吐いた。
「こんなもんです」
「…………」
そんな私を、リンカねえさまが難しい顔で見ている。
「リンカねえさま?」
「……なんでもないわ。それより、この後どうするの?」
「資料かなにかを探しましょう」
これがTRPGなら、目星を成功させればいい感じに情報が出てくるはずだ。
探索判定でもいい。
+
やはりこの組織は、宿痾教徒の拠点だったようだ。
この国の宿痾教徒の総本山。
といっても、この国は剣の里が近くにあるからか他の国と比べても、そこまで魔物の脅威に過敏ではない。
八年前に百鬼夜行が発生したにもかかわらず、総本山にろくな教徒がいないのがその証。
あくまで、教徒の魔術師が身を隠して研究を行うための研究機関という趣が近いらしい。
で、問題の研究内容というのが――
「――
人造宿痾。
なんともまぁ、業の深い響きだ。
そもそも宿痾というのは、人類の敵。
それを崇める宿痾教徒は、あくまで破滅思想の異端者である。
だというのにこれは、一体誰がこんなことを思いついたのだろう。
この拠点の責任者は今気絶させた、この魔術師らしいが。
その上には別の誰かがいる。
しかし、ここがこの国の宿痾教徒の拠点である以上、その上の誰かはここにはいない。
「人間の考えることとは思えないわね」
「……ですね。しかも困ったことに、人間の魂を素材にしていると来ましたか」
現在私達がいる場所には、さらわれた孤児達がいる。
培養ポッドに入ったまま、今も眠っているのだが。
彼らは魂が抜き取られた状態にあるらしい。
「そして魂は、宿痾の増幅装置兼制御装置として今も生きたまま宿痾の体内に埋め込まれている、ですか」
「ふざけた話よ。宿痾を討伐するためには、中の子どもたちを犠牲にしないと行けない」
苛立ち紛れに、リンカねえさまがこぼす。
「……そんなことしたら、私のことをよく思わない連中がそれみたことかと、責め立てるに決まってる」
「どうしました?」
「いえ、なんでもないわ。貴方が気にすることじゃないもの」
ぽつりとこぼした小声の愚痴、内容は聞き取れてしまったがそれ以上はリンカねえさまも話す気はないようだ。
そんな時間も惜しいということはあるだろうが。
「それで、カグラ。宿痾の主がここにいるとわかった以上。犠牲を出してでも止めないとヨースの街はおしまいよ」
「……そうですね」
宿痾の主は、まもなく活動を開始するらしい。
猶予はない。
かといって、宿痾の主を倒そうとしたらここにいる子どもたちが犠牲になる。
手詰まりだ。
せめて時間さえあれば、そこで倒れている魔術師に自爆させることなく情報を聞き出す術を用意できるかもしれないのに。
なにか情報はないかと、資料を漁るものの決定的なものはない。
意図的に、ここには置かれていないのだろう。
そんなとき、ふとある記述に目を向ける。
「製造した
ええと。
「…………五体!?」
ちょっとまってそんなにいるの!?
何考えてそんなに作ったの!?
正気じゃなくない!?
「そんなに!? ちょっと待ちなさいよ、私でも単体だと相手できる宿痾の主は一体……無茶しても二体だけよ!?」
「私でも安定して二体相手できるかどうかってところです……」
「それを五体って……絶対何かあったときに、全部まとめて起動するようになってるでしょうし。というか、あの男の言動からしてすでに起動しててもおかしくないわ」
危機的な状況を認識しながら、なんとか私は状況をひっくり返す手を探る。
そんな中、ある記述を見て――手が止まる。
途端に、これまで見てきたものが私の中でつながっていく。
――――これだ。
一つ、思いついた。
この状況を、なんとかできるかもしれない手を。
サクサク大暴れしてまだ暴れます。