転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
そこは先程よりも広いエリアで、大きなポッドが5つ並んでいた。
いかにもこれから、宿痾の主が目覚めて暴れ出しますよ、みたいな光景。
正直――若干ワクワクしている。
間違いなく、今までの人生で最も危険な戦いだ。
最も強い敵との勝負。
これほど、興奮する相手、この世にそうそういないだろう。
何より今回は――戦い以外にも挑戦すべきものがある。
それは私の人生において最も重要なことで、もっとも楽しい娯楽だ。
つまり――
「来るわよ、カグラ」
「わかっています。どうやら、目覚めるのは一匹だけみたいですね」
宿痾の主が、ポッドのガラスをぶち破って現れた。
ゲームのムービーシーンみたいだ、少しだけテンションが上がる。
現れたのは――腐れ堕ちた人。
肉体は泥のようにただれ、ギリギリ人型を保っているというだけのなにか。
腐蝕クモを発展させて、人の魂を取り込んだ。
まさに、そんな姿の怪物だった。
物思いにふけっている場合ではない。
今は眼の前の強敵だ。
七刀は、単独の宿痾の主くらいなら普通に討伐は可能。
それに対し、五体いるのに一体だけというのは些か慎重すぎるが。
殺したら中の人質が死ぬ状況では本気が出せない。
何より、追い詰められたら残りの四体も目覚めるはずだ。
何も問題はない、ということだろう。
故に――
「まずは、その余裕を崩します」
ここでは、私が一人で戦う。
リンカねえさまと協力すれば、こいつを押さえつけることはできる。
でも、そうなったら向こうが焦れて残りの四体が目を覚ますはず。
せっかく向こうが油断してくれているのだ、それを利用しない手はない。
私の狙いは――
「私の名はカグラ、流派は森羅。――これよりこの場を征する者」
とても、単純。
「理解しなさい」
――疾討を構える。
「この場の支配者――主は私です。貴方ではない」
これだ、私が求めていたもの。
戦いよりも好きなこと。
――
これから私がしなくてはならない目的のために。
その目的はすなわち――
支配すること。
これより直接戦闘で、目前の宿痾の主を征圧し――蹂躙し――支配する。
私という剣士の、圧倒的な――
+
宿痾の主は、複数の魔物を融合させることで誕生する。
そんな記述を、私は見つけた。
それと同時に思い出されるのは、腐蝕クモの融合だ。
あのクモが宿痾の主の素体であるなら。
宿痾の主を融合させることもできるのではないか?
これ自体はあまり役に立たない思考だ。
だが、理屈自体は間違っていないと思う。
バイバイラットなんかも、二体いると増殖していく特性を持っていて。
魔物自体が、融合や増殖などで増えたり強化したりすることで宿痾の主になる存在だという考えは、そう的はずれな推論ではないだろう。
大事なのは――宿痾の主に
二年前に戦った剣豪鬼もそうだった。
意思を持ち、理性があった。
宿痾には考える力があるのだ。
だとしたら――
そして、私は行動を起こす。
一瞬だけ意識を極限まで集中させ。
ぽつりと、こぼす。
「――――四重」
それまで行っていた三重強化とは、比べ物にならない速度で飛び出し。
私は宿痾の主に、疾討の峰を叩きつける。
峰打ちだ。
切らず、殺していない。
そして、宿痾の主は反応すらできずに壁へ叩きつけられた。
叩き割るのにリンカねえさまと二人がかりで挑む必要があった壁に、余波だけでヒビが入る。
それほどの勢いで、宿痾の主を叩いた。
「如何程ですか、
宿痾の主は、何をされたのか理解できない様子だ。
しかし、私が声をかけたところで状況を理解し――言葉なく絶叫する。
宿痾の、人ならざる金切り声のような悲鳴が、拠点中に響き渡った。
「
私の言葉を無視して、宿痾の主は暴れ始める。
三重強化では吹き飛ばされてしまうので、一旦飛び上がって距離を取る。
そして天井に足をかけると――再び、
「四重」
絶叫。
目に見えて、宿痾の顔色が変わっている。
それは――恐怖だ。
圧倒的強者に対する恐怖。
ここだ、ここしかない。
私は端的に、言い放つ。
「貴方が抱えている魂を、解放してください」
それは、脅迫による交渉だった。
やっていることは、先程の魔術師と同じだ。
言葉で屈服させ、行動を起こさせる。
今回はそこに暴力を加えて、宿痾の主を圧倒するのだ。
だが、普通に考えて宿痾がこちらの言い分を受け入れるわけがない。
中に取り込んだ魂は、人質であると同時に力の源なのだ。
これを解放したら、後はそのままこちらに殺されるだけ。
数で囲んでも、この速度にはついていけない。
しかしもし、こちらの言い分を通したうえで、こちらを圧倒できる手段があるなら?
そこで先程の融合だ。
融合すれば、魂という動力を失っても私の四重強化を上回る出力を出すことも可能なはず。
リンカねえさまがいるから、そっちへの対処も必須だが。
三体と二体で融合すれば、二人まとめて対処することもできるはずだ。
腐蝕クモの動きを見る限り、融合によって得られる強化は二倍ではない、更に増える。
三体でも、私一人をどうにかすることは可能だ。
逆に、体内の魂をそのままにしていると、融合はできないはず。
なにせ魂は魔力の根源、瘴気から生まれる主とは反発し合う。
今の状態なら、魔術師の改造によってそれを制御できるだろうが。
融合という仕様外のことをすれば、どうなるかわかったものではない。
そもそも体内の魂は魔術師が自身を制御するために埋め込んだ枷でもあるのだ。
今は、魔術師の支配が行われていない。
ならば、この際捨ててしまったほうがいいものでもある。
故にこう宿痾に考えさせる。
この窮地を脱出するには、融合しかない――と。
対する私の問題は、四重強化を確実に成功させられるわけではないこと。
こうして直線的に突っ込むだけなら、まだ問題はない。
だが、複雑な動きをしようと思うとダメだ。
そしてそれを向こうに悟られては行けない。
圧倒し続けなければならないのだ。
「――さぁ、どうしますか」
主を睨み、笑みを浮かべて問いかける。
私が強者であると思わせろ。
絶対に勝てない相手だと思わせろ。
融合しかないと思わせろ。
そのために――
――私は本物の、強者であれ!
直後。
ポッドをぶち破って残り四体の宿痾が、一斉に襲いかかってきた。
不意を打つつもりなのだろう。
だが、その動きは予測できている。
なにせこの状況で、奴らが取れる選択肢はそれしかないのだから。
そうなるように、私が動いてみせたのだから。
ああ、この瞬間だ。
私は、これがやりたかったのだ――
+
――ふと、あの過去の続きを思い出していた。
『斬りたいと思うものを、斬るといい』
母は私にそういった。
そして私に、強烈な憧れを植え付け。
続けて私にこう告げるのだ。
『でも、斬るものは選ばなくてはいけない』
どうして、と私は続ける。
『それが人の道から外れるものだから。人は、人を殺してはいけない』
なぜなら、と母は続ける。
『死ぬのは怖いことだから』
母は、死を恐れる私の感情を利用して、私に殺人への忌避感を植え付けたかったらしい。
確かに、なにかを斬ることに憧れを感じる人間は、どうみても危ない人間だろう。
私自身、周囲の反応が私をおかしい人と扱っていることは理解している。
けれども、よくわかっている。
人は死ぬとき、死を恐れる。
それを私は、多分この世界の誰よりも理解している。
夢の中で、自分が死ぬ夢を何度も見てきた私には。
――前世の記憶がある私には。
故に、答える。
『わかっています、母上。人を殺すことはいけないことです。だから私は人を殺しません。私の命に誓って、殺しません』
『ん……でも、貴方の命よりも優先されるものではない。命を守るために、人を殺すことは仕方のないこと』
私が、命に誓ってなんていったから。
母上は慌てて訂正してきた。
流石に、殺されてもいいから殺してはいけないなんて。
そこまで無茶は言っていない。
だけど。
『いいえ、私は殺しません』
私は力強く宣言する。
『どうして? 抵抗しなければ、貴方は死んでしまう。もしかして、殺さなければもう一度、そいつが貴方を殺しに来てくれるから?』
そして、その言葉に私は首を振った。
『それもありますが、
人を殺さなければ、もう一度その人と戦える。
確かにそれも理由の一つだ。
その人がより強くなっていれば、私も更に強くなれる。
でも、だからこそ。
私が人を殺さない一番の理由は――――
『私は、誰にも殺されないくらい、
確かにあの時、そういった。
その言葉に、母はとても驚いた様子で目を見開いていた。
想像を超える答えが、私の口から飛び出したから。
私が、母上の想像以上の答えをすでに持っていたから。
『それは、つまり――貴方は最強になりたいの?』
『……はい! 私は最強になりたいです!』
私にとって、強くなる理由は常に娯楽だ。
今も、昔も。
楽しそうだから、という以外に理由はない。
強さを求めた理由は憧れだけど。
強くなろうとする原動力は、娯楽に飢えているから、ただそれだけ。
ああ、きっとそれは――
『それはきっと――
母の言う通りだろう。
だから私は、確かに答えたんだ。
『だったら私は――修羅になります』
ああ、思い出した。
それが私の、忘れていた根源。
私が見た、憧れの理由。
私はあの時――未来の私に憧れたんだ。
最強になって、修羅となった自分に。
強くなりたいと、強く願ったんだ。
その夢のために。
こんなところで、足踏みなどしていられない。
宿痾の主が一斉に迫る。
この程度の壁、破れなければ最強の修羅になど――到底なれないのだから!
というわけで、カグラのオリジン回でした。
なお、魂はあくまで魔術師が宿痾の主を制御するためのものです、パワーアップアイテムにも使いますが制御が主なので今の状況だと捨てて融合したほうが得、といった感じです。
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