転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

37 / 118
二十八 修羅、夜闇を駆ける

 五つの宿痾は、全く同時にこちらへ迫る。

 速度は私の三重強化とほぼ同等。

 以前対峙した宿痾の主が二年前の私でも戦えたことを思えば、腹の中の魂がよっぽど彼らの力になっていると見える。

 だが、四重強化を十全に扱えれば、その程度の速度は確実に赤子だ。

 

 無論、それは今はまだ叶わぬ未熟の身。

 ここは賭けに出る必要がある。

 一つのミスなく四重強化を行って、こいつらをまとめて圧倒する。

 なんと無謀な賭けだろう。

 リンカねえさまが止めるわけだ。

 

 しかし、どちらにせよこの賭けは通さなくてはならない。

 私達二人では、被害を出さずに宿痾の主を五体まとめて討伐するとなると、四重強化は必須なのだから。

 一応、ただ討伐するだけなら最初の一撃で不意を打って一匹を即死させればいい。

 そうすれば残り四体を、私と姉さまが二体ずつ受け持てばいいだけだ。

 ただ、それにしたってリスクはある。

 だからこそ、リスクを承知でこの作戦を選択したのだ。

 

 ――それに、何より。

 これは一石二鳥の行動だ。

 私は戦いを楽しめる上に、戦いの中で強く成れる。

 極限状態での鍛錬ほど、私を強くする手段はない。

 

 ああ、なんて私は――幸せ者なんだ。

 

 迫る宿痾に、こちらも行動を起こす。

 五体のうち一体に、四重強化で突っ込む。

 これ自体は、単純な動き。

 狙ったのは最初に目覚め、何度か攻撃を叩き込んだ宿痾だ。

 直感が告げている、こいつは司令塔。

 だから最初に目覚めたのだ。

 故にこいつへ、特に恐怖を植え付けるべきだ――と。

 

 直感に従う。

 

 壁に再び宿痾の主を叩きつけ。

 残る四体が迫るのを見る。

 笑みを浮かべ、舌なめずりをして。

 恐ろしい修羅として振る舞う。

 

「――――あはっ」

 

 ここからは四重強化の連続使用になる。

 体内を暴れる魔力を必死に鎮め、狙い通りに身体を動かす。

 一度として、失敗は許されない。

 

 迫りくる四体のうち、一体を手で掴む。

 それをそのまま地面に叩きつけ、地面を破砕させる。

 破片によって残る三体の動きを止めた後、止まることなく一体に疾討を見舞う。

 派手に吹き飛んでいく三体目。

 

「――あと、()()

 

 自分が狩られる側であることを意識付けるために、あえて”匹”と呼称した。

 内心はドキドキだ。

 ただでさえ、複雑な身体操作をしているというのに。

 強者としての余裕まで必要だなんて。

 ああ、あまりにも――滾ってしまう。

 興奮でどうにかなりそうだ。

 

「ふふ――」

 

 そのまま、踏み込む。

 私の手には、地面に叩きつけた後そのまま引きずり回している二匹目が収まっていて。

 それで、残る二匹のうち一匹を()()()()()()()()叩く。

 ここまでやって、持っていた宿痾を手放し。

 残る一体を――見た。

 

 目と思しき部分に、視線を合わせた。

 

「これで、最後ぉ!!」

 

 もう、私を止める障害物はない。

 そう言わんばかりの勢いで、直進。

 逃げようとしていた最後の一匹を、足蹴にした。

 

「さぁ!」

 

 宿痾の主たちが沈黙する。

 私は勢いよく飛び上がると――最初に叩きのめした司令塔の頭に着地した。

 その際に、言うまでもなく四重強化の踏みつけをお見舞いしつつ。

 

「さぁ! 吐き出しなさい!」

 

 何度も、何度も、何度も。

 踏みつけ、踏みつけ、踏みつける。

 

「私は、いつまで、続けても、いいのですよッ!」

 

 強がって、強がって、強がってみせる。

 正直に言えば、もう限界だ。

 これ以上、制御を続けられる気がしない。

 頭がどうにかなってしまいそうなほど集中して、混乱を興奮でなんとか押さえつける。

 脳内が快楽物質で冷静でいられなくなっているうちに、決着をつけなくてはいけない。

 

 だから祈りを込めて、興奮を込めて、私は宿痾に最後の一発を――叩き込んだ。

 

「――――」

 

 笑みを浮かべたまま、答えを待つ。

 直後――

 

 

 膨大な魔力が、宿痾の主たちから放出された。

 

 

 いや、これは魔力ではない。

 魂だ。

 溢れ出した魂は、それぞれの肉体へと一目散に駆けていく。

 これで、囚われていた孤児たちは安心だろう。

 

 同時に、宿痾の主たちが溶けていく。

 倒れたのではない、融合していくのだ。

 疾討を突き立ててみるが、手応えがない。

 おそらく、今の宿痾は瘴気そのものなのだろう。

 今のところ、私は瘴気を切れない。

 魔力で吹っ飛ばすことくらいはできそうだが、それが今流れ出している魔力の本流に混ざっても困る。

 融合を止める手段はないんだな。

 まぁ、だからこそこいつらも融合に踏み切ったわけだし。

 私としても融合した宿痾とも戦えるわけだし。

 

「――っと、終わりましたよリンカねえさま」

「あ、はい。そうねカグラさん」

「さん!?」

「……はっ」

 

 なんかリンカねえさまから引かれていた。

 ええ、私頑張ったのにひどくない?

 

「ごめんごめん。いや、本当にすごかったわよ。ちょっとビビっちゃった」

「むう、後でなにか美味しいもの奢ってくださいね」

「これだけ色々してくれたんだもの。美味しいものだけじゃ済まさないわよ」

 

 いいながら、リンカねえさまも自身の武具を取り出して構える。

 

「二体はこっちで引き受ける。……多少危険な戦いになるけど、勝ってみせるわ」

「すいません、お願いします。本当は五体まとめて相手したいのですが……」

「無茶言わないの! ただでさえ四重強化の連続使用で疲弊してるんでしょ」

 

 予想通り、宿痾は二体と三体で融合するようだ。

 このうち二体を、ねえさまが引き受ける。

 宿痾二体を同時に相手するのを「ギリギリ」というリンカねえさまだ。

 二体融合の宿痾は、宿痾二体同時よりも厄介である。

 それでも、勝ってみせると言った。

 なら、任せるしかない。

 本当は五体相手同時にしたいんだけどなぁ……したいんだけどなぁ!

 

「宿痾が動くわよ」

「はい、こちらもいきます!」

 

 二体の宿痾が融合し、顔が二つの歪な人型になる。

 大きさは二倍以上。

 厄介そうだ。

 その後ろで、三つ首の宿痾が誕生しようとしている。

 そして生まれ落ちた宿痾が――

 

 

 ――天井を突き破って地上へと向かい始めた。

 

 

「あっ」

「まずっ」

 

 やばい。

 あいつ、戦場を地上に移すつもりだ。

 人間を殺しつつ、この狭い地下ではなく地上で思う存分戦える。

 考えとしては妥当だろう。

 だけどこっちとしては――

 

「どうしましょう、このままじゃ――」

「今度は街を防衛しながらですかぁ!」

「……全然行けそうね、任せたわよ」

「はいっ!」

 

 更に厳しい戦いになるんですか!? やったー!

 というわけで、私は二つ首宿痾の横をとおりぬけて、地上を目指す三つ首を追う。

 途中、二つ首が妨害しようとするが――

 

「あんたの相手は、私よ!」

 

 リンカねえさまが、モーニングスターで牽制を入れた。

 その隙をついて飛び上がり、

 

「ご武運を!」

「そっちもね!」

 

 姉さまと別れる。

 宿痾の主が地面を掘り進んだ後を追いかける。

 途中で四重強化を織り交ぜて追いつくと、下から斬りかかる。

 足で受け止められるが、問題ない。

 これは向こうが地上に出る場所を誘導するためだ。

 魔力を探知し、人のいない場所へ誘導する。

 

「うわぁ!」

 

 しばらく追い立てていると、宿痾の体のただれた部分がぼとっと落ちてくる。

 それが私の眼の前で――ウニか何かのように針を四方八方へ伸ばしたのだ。

 慌てて疾討で迫る針を切り落とす。

 この動きで、若干距離を取られてしまった。

 ならば、と切り落とした針を手に、残りの針を足場に。

 勢いよく飛び上がりながら針を投擲する。

 簡単に避けられてしまうが、若干の足止めには成功した。

 

 そうこうしているうちに地上は近づき――

 

 私達は、港湾都市の港部分に上がった。

 周囲には無数の船が停船しており、空はまだまだ薄暗い。

 

 ここからは夜闇を駆ける戦闘になる。

 戦場は移り、第二ラウンドだ。

 さぁ、楽しんでいくとしよう!




というわえで修羅、夜の街に舞う。
みたいな感じです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。