転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
地上に上がったカグラを見送り、改めてリンカは宿痾と相対する。
見事カグラはやってのけた。
殺さない、殺さなくていいくらい強くなる。
そんな修羅の道を走りきり、強さを証明した。
ならば自分も、ここでの役割はきっちりと果たさなければならない。
眼の前の二つ首の宿痾の主を討伐し、この事件にケリをつけるのだ。
――はっきり言って、自分はカグラよりも弱い。
七刀の中では一番若いこともあって、最弱というポジションに納得はしていた。
元々、七刀になるような天才は生まれた頃から完成されている。
剣を振るえば、その振るい方を理解し。
身体強化の精度だって、カグラのような曲芸をせずともそれに比肩しうる質を確保できる。
だが、逆に言えば伸びしろがない。
無論、ある程度の成長はする。
だけど、これ以上自分が大きく飛躍することはないだろうと、リンカは感じていた。
そんなときに再会した、同郷の後輩。
カグラ。
別れた時はいつも退屈そうで、どこか浮世離れした少女だった。
それが再会してみれば、剣に恋い焦がれたような剣の里の人間としてもおかしいレベルの戦闘狂になっていて。
そして胸が死ぬほどでかくなっていた。
そんなカグラが、これほどのことをやってのけたのだ。
カグラは剣の才能を持っていない。
代わりに努力の才能を持っていて、この数年で大きく飛躍してみせた。
剣士として、悔しいと思う気持ちはある。
同郷として、誇らしい気持ちもある。
だからこそ、思う。
負けていられない、と。
「――なんてそんなこと他の七刀に言ったら、そんな普通の感性をしているから行き詰まるんだ……とか、言われるでしょうけど」
複数の武器を同時に構える。
「それでも私は、七刀として認められた者の一人なのよ!」
左手にはモーニングスター、右手にはギザギザな刀身が特徴の剣――フランベルジュ。
「シンラ流、七刀が一振り! ”武具大典”リンカ――推して参る!」
かくして、七刀としての誇りにかけて。
負けられない戦いが始まる。
”武具大典”。
七刀には、それぞれ固有の二つ名。
”銘”と呼ばれるものが与えられる。
リンカのそれは、当然ながら彼女が武具を無数に操ることがさながら武具の祭典――ないしは大典のように見えることから名付けられたもの。
だが、その言葉の意味は見た目ほど単純ではなかった。
「はあ……!」
開幕、目にも留まらぬ速さでリンカは毒の短剣を投擲する。
それはリンカが最も信頼する武器の一つで、非常に強力な毒を相手に付与するものだ。
たとえ宿痾の主だろうと、少しでも傷を受ければ影響が出る。
そしてそれを、眼の前の二つ首は本能的に直感するだろう。
これに対して、取れる選択肢は複数ある。
避けるか、撃ち落とすか、はたまた全く別の手か。
何でも構わない、それに対する対処こそがリンカの真骨頂だ。
宿痾の主が選んだのは、回避しながら突撃してくることだった。
防御と反撃、とてもシンプルな攻撃。
故に――
「なら、これ!」
どこからとも無く、リンカは大きな盾を取り出した。
その表面には、無数のトゲ。
ただ突っ込めば、串刺しにされるだろう。
結果、宿痾は足を止め突撃の代わりに腕での攻撃を選択する。
ドロドロに溶けた腕は、盾を上から通り抜けてリンカを攻撃するのだ。
それが、同様に盾を飛び越えて飛んできたリンカの棘付き鉄球と激突する。
そこからは、リンカが無数の武具を取り出しては相手の攻撃を妨害。
更に向こうが対応しようとしたところを、別の武具で対応するという攻防が続く。
恐ろしいのは、リンカが取り出す武具に際限がないことだ。
リンカの武器はこのどこにしまっているのかわからない、大量の武具による対応力。
本当にどこへしまっているのかわからないのだ。
本人は絶対秘密だと黙して語らないため、七刀の間でも不思議がられている。
とはいえ、その状況も少しずつ動く。
原因は純粋な身体能力の差。
宿痾が速すぎるのだ。
どれだけ行動を妨害しようと、それによってテンポが遅れてもなおリンカより速い。
対応力が高いものの、代わりに身体能力に差があるとそれを理由に追い詰められやすいのが欠点だった。
腕を触手のように伸ばす、変幻自在な宿痾の攻撃によって、少しずつリンカは追い詰められていく。
投げた短剣を弾かれ、打ち合いでフランベルジュが吹き飛ばされ。
最後には回避できない一撃が飛んでくる。
「っく……!」
それを何とか、先程の棘付き盾で防ごうとするが。
宿痾は止まらない。
ついには盾を破壊し、リンカを壁まで吹き飛ばしたのだ。
「ああ……!」
――致命的な隙。
刹那の中で戦う両者において、この一瞬はあまりにも致命的すぎた。
勝利を確信し、腕を伸ばす宿痾。
回避はできない。
防御だって、今までの速度ではどうあっても間に合わない。
万事休す――その、はずだった。
突如としてリンカの空いている手がブレ、伸びた腕が弾かれる。
――その手には、新たな得物が握られていた。
カグラとの戦闘で使用していた短槍だ。
一体何時取り出したのか――いや、それはすでに何度も経験している。
問題は、腕をふるった速度だ。
宿痾は、油断せずもう片方の腕をリンカに伸ばす。
今度こそ、リンカを喰らうために。
「――よくも」
だが、それすらも弾かれる。
明らかに、速度が違う。
先程までのリンカとは、気配も雰囲気も、何もかもが違う。
これは何だ?
何が起きている?
宿痾が疑問に思うよりも早く――
「よくも私の武具を破壊してくれたわね――!」
リンカが目前に迫っている――!
そこからは怒涛の打ち合いだ。
リンカの攻撃を、宿痾が受け止めている。
攻守が入れ替わり、どころか宿痾は追い詰められつつある。
先程までとは速度が違うのもそうだが、技術の練度も明らかに違う。
集中力が増しているのだ。
そして戦いの中で、宿痾がなんとか反撃を試みる。
リンカのボディを狙った一撃は、しかしモーニングスターの持ち手部分に防がれる。
しかしここまで長く使っていたからだろう、持ち手部分はへし折れてしまった。
直後。
「盾だけに飽き足らず、モーニングスターまで……許せない!」
新たに取り出した武具を手に、鬼気迫る様子でリンカが襲いかかる!
先程よりも、更に迫力と威力がマシている――!
――これがリンカの最大の武器だ。
対応力が高いものの、器用貧乏に陥りやすいリンカ。
そのブースターとして、武具が破壊された際の怒りがある。
武具が破壊された時のリンカは、普段よりも数段高い精度の身体強化を駆使して襲いかかるのだ。
理不尽極まりない。
何が理不尽って、リンカは自分が武具を壊されると集中力が増すことを解って武具を扱っている。
先程のように、敢えて壊させることすらあるのだ。
酷いときには自分でへし折って自分でキレる。
無論欠点はあって、怒りに身を任せての戦闘だ。
カグラのように人読みが得意で、身体強化の精度が圧倒的に上な相手とは分が悪い。
武具を破壊しなくてはいけないという、リンカにとって重い代償を払っても大して勝率が上がらないから、先のカグラとの戦闘では使わなかったが。
だからこそ今回のように、ブチギレモードに入れば出力の差がある程度埋まる敵ならば、やる意味は大きい。
「よくも、よくも、よくも――――!」
彼女にとって、武具を破壊する相手とは不倶戴天の敵。
武具大典とはすなわち、武具に捧げる復讐の儀式。
理不尽極まりない理由で怒る、まさに七刀の一振りにふさわしい天災の如き所業!
故に七刀。
故に、”武具大典”のリンカ。
「よ、く、も、……やってくれたわねえ!!」
かくしてその後も、飛び道具として使用した武具が破壊される度に怒りのボルテージを上げていく。
やがてリンカは両手の武器を宿痾の両腕と激突させ、全損させる。
だがその破損の勢いは宿痾を大きくのけ反らせる。
隙が、できた。
致命的で、決定的な隙が。
「これで!」
そうしてリンカは、最後の武器を何処かから取り出す。
宿痾は耐えるつもりのようだった。
この距離、振りかぶる余地のない純粋な刺突なら耐えられると判断したのだ。
耐えて、反撃で殺す。
そのつもりで宿痾は構え。
しかし。
「そうはいかないのよ! だって私の手には!」
その時、宿痾の耳には届いただろう。
リンカの手にたどった武器が、
「
かくして、リンカの手に握られたドリルは、宿痾の防御力をぶち破り。
宿痾の胴体に――風穴を開けた。
カグラの胸は死ぬほどデカくなってどるし、自作自演でキレるし、浪漫で全てをぶち抜くねえさまです。