転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
開幕、三つ首の宿痾は周囲に瘴気を飛ばしてきた。
街全体を瘴気で覆い、百鬼夜行を起こそうと言うのだろう。
無論、そんなことこちらも予測していることだ。
私は再び四重強化を自身に施すと、勢いよく刀を振るい――
「だあああああ!」
瘴気を魔力で吹き飛ばす!
反発作用によって、街に広がることなく瘴気と魔力は霧散した。
同時に、宿痾も軽く吹き飛ばされる。
それをチャンスと見て、私は一気に踏み込む。
直線的な動きならば、四重強化可能と判断し――突撃!
瘴気を吹き飛ばすのにも四重強化を使っているから、負担は大きいが構わない!
しかし――
「受け流しますか!」
それを宿痾は身体の一部を切り離し、それに私をぶつけることで受け流す。
ぶつかった部分は即座に疾討で切り裂かれるが、その頃には宿痾はもう直撃コースにはいない。
代わりに、腕を伸ばして反撃まで試みてくる。
激しく疾討と宿痾がぶつかりあう。
純粋な出力ならば、三つ首宿痾の方が圧倒的に上だ。
だが、戦術において宿痾は基本素人である。
生まれたばかりなのだから当然で、要するに読みやすい。
それを利用して、四重強化を織り交ぜれば拮抗は不可能ではない。
不可能ではないのだが――
「神経を使う作業ですね……」
四重は未だ未完成、一度でも失敗すればそのまま体内から自壊しかねない。
ピーキーすぎる試作機に乗っている気分だ。
何より、疲労が溜まる。
肉体的にも、精神的にも、なれていない状態で無理な動きをするから身体が悲鳴を上げやすい。
それを身体強化による自己再生で無理やり奮い立たせ、動くのだ。
三つ首宿痾は苛立ちまじりに私を執拗に攻撃してくる。
恐らく、先程私が魂を吐き出させたのが、ブラフだったと気づいたのだろう。
アレを常時行えるなら、こんなふうに三つ首宿痾と拮抗することはない。
やがて、きりがないと判断したのか、三つ首宿痾は距離を取った。
追いかけようとするが――すぐに止める。
宿痾の身体に変化があったからだ。
「――翼!? 飛ぶつもりですか!」
宿痾の特徴は、そのドロドロとした軟体の身体を自由に変化させることのようだ。
体の一部を切り離してそこからトゲを生やしたり。
盾を作ったり、腕を伸ばしたり。
ついには飛行までしてしまう。
「狙いは……言うまでもなく街の破壊ですよね」
こちらとの戦闘に、向こうは意義を見出していない。
私に、先程こいつらを圧倒した時のような力がないと解ったからだ。
何より飛行すれば、翼のない人間は追いつけないと判断したのだろう。
その間に、街をメチャクチャにするつもりだ。
「させるわけ……」
ならば、と私も足に魔力を込める。
勢いよく、飛び上がるのだ。
「ないでしょうが!」
結果。
認識が遅れたのだろう、宿痾はギリギリでガードすることしかできなかった。
とはいえこちらも、ここから四重で斬りかかることはできない。
叩きつけた疾討が宿痾の身体を勢いよく吹き飛ばすにとどまる。
追撃を行おうと落下する私に、宿痾は反撃で自身の身体を弾丸にして飛ばして来た。
「好都合ですね」
私はその弾丸の一つを――蹴って加速する。
残りは斬り、弾き、宿痾に肉薄するのだ。
弾幕故に、一部が身体を切り裂き鮮血が舞う。
しかし構わず接近。
慌てて宿痾は腕を伸ばして反撃しつつ、再び空に飛び上がろうとする。
私はそれに疾討を叩きつけ、再び宙に浮き上がった。
「空が飛べない? 足場がない? あるではないですか、ちょうどいいところに」
頬を弾丸が裂いたことで溢れた鮮血を舌なめずりしつつ、抑えられない笑みとともに、私は宿痾を見る。
「貴方という、ちょうどいい足場が!」
――空中戦が始まる。
「アハ――――ッ!」
こちらを振り払おうと、縦横無尽に宿痾は空を駆ける。
それを私は、宿痾の攻撃を足場に追いかけていく。
遠距離攻撃は、格好の的だ。
腕を伸ばす近距離攻撃すら、刀を叩きつけ、弾きながら足場にできる。
私達は戦場を港から市街地まで移しながら、激しくぶつかりあった。
「いいですね! いい!」
宿痾はこちらを何とか振り切ろうとしている。
もはや私という存在が目障りすぎて、一刻も早くこの場を離れたいのだろう。
剣豪鬼はその特性故に剣に狂っていたが、こいつはどこまでも俗な奴だ。
とはいえ、相手が誰であろうと私は構わない。
戦いという行為それ自体が、私を最強へと仕上げてくれるのだから。
ぶつかりあいが続くと、戦闘に変化が出る。
焦れた宿痾が、自身の身体から無数の弾丸を射出する。
アレは――気配からして、地上に上がるときにやったトゲを射出する弾丸だ。
狙いは私……ではない。
「地上を爆撃するつもりですか!」
ここは市街地、地上を攻撃すればどこかしらで人間に当たる。
なるほど、少しでも被害を出す方向に舵を切ったか。
「――上等!」
ならば、とこちらも家の天井に着地する。
迫ってくる無数の弾丸を――
「四重!」
魔力で、薙ぎ払う。
結局はこいつらも、宿痾から生まれた瘴気の一種。
こちらも魔力を飛ばして吹き飛ばせばいい。
私の魔力を受けた弾丸は、トゲトゲになりながら何処かへと消えていく。
これなら、被害が出ることもないだろう。
身体の悲鳴は、もはや全身を覆っているものの。
まだ、動かせる。
そう思考しつつ、ここでふと。
「――使えるのではないですか?」
あることを思い出す。
苦々しげに上空からこちらを見下ろしてくる宿痾。
それに私は――
「らあ!」
宿痾は、距離を取れたことで街から離脱しようとしていたようだ。
それが私の刃で妨害される。
動きを止めて、驚いた様子で三つ首がこちらに向いた。
「――使えそうですね」
魔力の刃。
理屈としては単純で、先程から宿痾の攻撃や瘴気を吹き飛ばすように使っているそれを、刃の形で指向性を保たせて飛ばすのだ。
対人戦では意味がない、魔力で物理に干渉することは不可能だから。
だが、魔物との戦いなら?
結果は見ての通りだ。
が、それはそれとして――
「……燃費が悪い!」
あまりにも燃費が悪い。
魔力をそのまま加工せず飛ばすのだから当然だ。
魔術ならば、一の魔力で十の結果をもたらすことができる。
でもこれは、十の魔力で十……どころか魔物以外には零の結果しかもたらさない。
戦士は基本、全ての魔力を身体強化に回す。
私みたいに身体強化の魔力を圧縮しまくって、燃費がめちゃくちゃよくないと使えないだろうな。
魔法剣士になった方が、圧倒的に効率がいいだろう。
「しかし、私なら使えます……!」
そのまま、地上から宿痾を射撃していく。
遠距離攻撃もこれで撃ち落とし、向こうの攻撃は完全にシャットアウトだ。
更に、飛び上がって近接戦にも持ち込もうとする。
先ほどと同じ空中戦に、こちらは遠距離攻撃を持ち込んだのだ。
一気に戦況が傾く。
宿痾は身動きが取れなくなり、こちらの攻撃を対応するしかない。
「いいですね、こうして強くなるという実感が得られるのは!」
四重強化、魔力の斬撃。
この戦闘だけで、私は二つも強くなった。
これからも、もっともっと強くなっていく。
楽しい、楽しくて仕方がない。
「何を苦々しい顔をしているのですか、ことここに至って、私達は決着をつけるしかありません! 互いに楽しもうではないですか!」
対する宿痾は、どこまでも苦々しげにこちらを睨んでくる。
この宿痾にとって、戦闘は手段でしかないのだろう。
人類を害し、喰らう。
そんな宿痾の業とも言うべき宿命のための。
「――もったいないですよ、それは」
やがて、魔力の刃が宿痾を捉える。
足をかすめただけだが、威力は絶大だ。
切り落とすには行かなくても、空中では踏ん張りが利かない。
一気に身体のバランスが崩れ、隙を生む。
私は四重の強化で、宿痾に肉薄する。
「これで――!」
回避は不可能。
四重強化の一撃は、”逸らす”ことしかできないのはすでに承知している。
切れる、確実に。
確信を持って振るった刃は――
突如として出現した、”何か”によって弾かれた。
ただ弾かれたのではない。
反発するように押し返されたのだ。
四重強化の膂力ですら、抜けない装甲があるというのか。
私は地上に着地して、宿痾を見上げる。
すると宿痾は――こちらに向かって降下してきた。
地上で戦うつもりなのか?
意図は――すぐに理解できた。
やつの手に、瘴気が集まっている。
それは、いうなれば――剣の形をしていた。
「……瘴気の剣」
瘴気は、魔力と反発し合う特性を持つ。
身体強化は常に魔力を体内と武器に付与する。
つまり瘴気で形作られたあの剣は、問答無用でこちらの攻撃を弾くのだ。
「学習しましたか!」
魔力の刃を参考に、自身も瘴気の剣を作り上げる。
学習による成長。
強くなろうとしているのだ、この宿痾は。
ああ、それは――
「素晴らしい!」
そうだ、それでこそ生命だ。
娯楽に飢えて、あるいは眼の前の強敵を排除するために。
強さを求める。
なんと――なんと修羅の道なのだろう。
生きる、ということは。
もはやこちらも限界は近い。
向こうの遠距離攻撃はこちらの致命傷を引き出すことはできていないが、かすり傷は多い。
血はすでに多く失われている。
四重強化も、そう長くは続けられない。
だからこそ――
「ならばこちらも、全力でお相手しなければいけませんね」
宿痾は、油断なく瘴気の剣を構える。
私もまた、疾討を構え――笑む。
――さあ、最終局面だ。
もうちょっとダメージ描写増やしたいけどこのくらいで。
次回決着です。