転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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三 百鬼の群れ

 その後、やってきた大人たちによって、修行は中断と相成った。

 動揺する子どもたちは、現在親の指示に従って自宅の大事な家財を里の中央へ運び出している。

 物々しい雰囲気の中、里の重役である父をはじめとした数人の大人が、集まって話し合いを続けていた。

 私はといえば――何故か、その話し合いの輪の中に入れられている。

 子どもがいていい場所ではないと思うのだが。

 

「――百鬼夜行だ」

 

 そんな私の考えはよそに、話は続く。

 百鬼夜行、以前書物で読んだことがある。

 無数の魔物が、人を喰うために集落を襲う現象だ。

 この世界の魔物は、瘴気と呼ばれる物の中から生まれる。

 ないしは、自然界の動物が瘴気に汚染され変化したものだそうだ。

 瘴気はそれ単体だと、人を襲う傾向にあり。

 その影響を受けた魔物もまた、人を襲う。

 その瘴気が一定以上集まって、人里を襲うのが百鬼夜行。

 国によっては「スタンピード」なんて呼び方もされるらしいが。

 剣の里がある国では、剣の里の影響で百鬼夜行と呼ばれているとかなんとか。

 

「現在、里を中心に無数の魔物がこちらに迫ってきていることが確認されている」

「馬鹿な……先日までは百鬼夜行の予兆など、欠片もなかったというのに」

 

 大人たちが口々に言い合っている。

 後者に関しては、私も同じ感想だ。

 なにせ、先日私は金剛狼を狩るために、山を一つ越えて魔物を探しに行ったのだから。

 その時には、百鬼夜行の予兆は全く見受けられなかった。

 

「――カグラ、先日金剛狼を討伐した際に、おかしな兆候は見られなかったか?」

 

 ふと、父上が私に問いかけてくる。

 なるほど、私をここに呼んだのはそのためか。

 だが、残念ながら――

 

「いえ、何も」

「……そうか。いや、いい」

 

 あまりにも唐突すぎて、私も困惑しているところだ。

 

「となると、此度の百鬼夜行は宿痾の主がいるということか……」

「ううむ……」

 

 宿痾の主? それはなんだったかな、私の知識は正直曖昧だ。

 八歳になるまでは、結構色々な書物を読んでいたのだけど。

 剣の鍛錬に傾倒してからは、ほとんど読んでいない。

 

「何にせよ、要となるのは今宵の第一波だ。これさえ凌げれば、活路はある」

「それだが、既に里の周囲に罠を張り巡らせ始めている。それである程度の魔物は排除できるはずだ」

「とすると、罠で魔物を減らしてから里の建物で魔物の進行方向を制限しつつ防衛するほかないか」

 

 剣の里は山奥にあり、常に魔物の脅威にさらされている。

 それ故、こういった時の防衛策はいくつかあるのだ。

 一つは罠、事前に半端な状態で罠を張り巡らせ、有事の際にそれを完成させる。

 これがなかなか強力かつ悪辣な罠であり、先程のゴブリンなどの魔物はそもそも村に入れないだろう。

 もう一つが里の作り。

 里は人の住む家屋が里の端に配置されている。

 この家屋の並びは外敵の進行方向を制限するように作られており、また壁は非常に頑丈だ。

 滅多なことでは壊れず、たとえ壊れても瓦礫になることで魔物の侵入はある程度妨害できる。

 ……と、以前父上から教わったことがあった。

 

「里の中央に戦えぬものを集め、それを我々で守り切る。配置についてはこれから追って伝えるが……何か質問のあるものはいるか」

「……では、父上」

 

 そこで、私が手を挙げる。

 皆が驚いた顔をしているが、ここで私が質問をするのは当然ではないだろうか。

 

「私はどうすればよいのでしょう。守れ、というのであれば私も防衛に参加しますが」

「…………」

「この場に私を呼んだ理由が、百鬼夜行の兆候を確かめるだけとは思えません。私を防衛に参加させるつもりだったのではないですか?」

 

 その言葉に、返答はなかった。

 なんだろう、こう。

 子どもの私が、ここまではっきりとしたことを言うとは思わなかった、みたいな視線は。

 いや子どもだけどさ、中身は一応元社会人なんだよ。

 二十代半ばの社会人は、世間的には子どもの範疇な気がするけどさ。

 ほっこりした視線を向けられても困るぞ!?

 頭を撫でられても困る! 子どもの成長を喜ぶ親か!? 親だったよ!

 

 

 +

 

 

 なんだかんだ、実際に私を防衛に参加させるつもりではあったらしい。

 ただし、配置は里の中央。

 戦えないものと子ども、あと価値のある家財が集められた場所。

 いうなれば最終防衛ラインだ。

 なんというか、配置としては納得の配置である。

 この場所を守る必要は絶対にあるし、私は子どもだから最前線に配置するわけにもいかない。

 防衛の横を抜けられてしまった時の保険としては、私という手札は最適解だろう。

 

 というわけで、あれよあれよという間に時間は過ぎて。

 夜、月と星が私達を見下ろす暗闇の世界。

 ただ、この日はあちこちに篝火が焚かれ、視界は常に確保されている。

 私は魔力で夜目を利かせることができるのだが、多くの人間はそうではない。

 家財も家屋も、燃えにくい材質なので万が一の危険性も少ないだろうということで。

 視界の確保が優先された。

 私の後方には、怯えながらも励まし合う戦えないものと子どもたち。

 私は自分の剣を鞘に入れたまま地面に突き立て、周囲の気配を探っていた。

 

 なぜそうしているかといえば、警戒のためもあるが――暇なのだ。

 すでに、遠くからは魔物の怒号が響いている。

 戦闘は始まっているのだ。

 父上達は上手くやっているようで、ここまで魔物がやってくることはない。

 なので私はやることがなく、暇を持て余していた。

 そこで、警戒を兼ねて周囲の気配を探ることにしたわけなのだが。

 

「……カグラ姉さま、何をしているのですか?」

 

 一つ年下の女の子――昼に助言をした子だ――が私に問いかけてくる。

 まぁ、それはそうだろう。

 

「……気配を探っているのです」

「気配を……? あの、ではどうして頭に手をかざしているのでしょう。それに――」

 

 それに、

 

 

「どうして、髪の毛が一本立っているのでしょう」

 

 

 そう、立っているのだ。

 こう、ピーン、と。

 さながらそれは妖怪アンテナの如く。

 私はその逆立った毛に手を当てて、気配を察知している。

 の、だけれども。

 

「……わかりません」

「ええ……」

 

 そう、わからないのだ。

 なんかやろうと思ったらできるようになっていて、どうしてこうなるのかまではさっぱりである。

 人前で使ったのもこれが初めてだから、知識があるものもいないだろう。

 とはいえ、気配探知の精度は良好で。

 里の外にいる無数の魔物まで、きっちり探知できていた。

 

 それにしても、罠はすごいな。

 やってくる魔物の半数をシャットアウトしている。

 大抵は、半ば数合わせの雑魚魔物だろうが、それでも数の暴力というのは恐ろしい。

 一定水準以下の魔物を足切りできるというのは、やはり防衛においてはありがたい代物だ。

 

 だけど――

 

「……まずいですね」

 

 一点、まずい場所がある。

 父上のいる所だ。

 父上は一人で防衛をこなしていた。

 他の場所は二人一組で、片方がやられてももう片方がフォローできるような体制になっているのだが。

 父上だけは、完全なソロだった。

 それだけ父上が、現在剣の里にいる剣士の中では強いということなのだが。

 これなら、私を父上の所に配置するのも、なしではなかったな。

 

 というか――

 

「……父上の所だけ、魔物が多く押し寄せている?」

 

 なんだか、他の場所に比べて父上が相手している魔物が多い。

 というか他の場所は、二人一組とはいえかなり余裕を持って防衛ができている。

 なのに父上だけ、集中的に狙われているのだ。

 考えられることとしては――

 

「――魔物側が、こちらの防衛の隙を理解して突こうとしている?」

 

 であれば、まずいかもしれない。

 父上がやられてしまうと、指揮官がいなくなってしまう。

 加えて一箇所でも抜けられると、そこから一気に魔物がここへ殺到する。

 私なら対処できるかもしれないが、被害は出てしまうだろう。

 とすると――ふむ。

 他の防衛戦が突破される気配はなし、最悪私が全力で駆けつければ間に合うだろう。

 それは、つまり。

 

「あの、カグラ姉さま?」

 

 誰かに声をかけられた気がする。

 けれど、その時私は――

 眼の前の、自分が行くしかない大義名分にしか、目が行っていなかった。

 

 

「……行くしかないですか」

 

 

 努めて冷静に口にしたつもりのその言葉は、

 

「ひっ」

 

 私に呼びかけていた誰かを怯えさせてしまっていたのだが。

 そのことに気付かず、私は剣を手に取ると――喜び勇んで父の下へと駆け出していた。




魔物と戦う時はやべー顔してるみたいな話です。
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