転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
――空が白んでいる。
夜明けが近い。
きっと、この戦いは夜が明けるとともにケリが付く。
陽の光を勝利の報酬とするのは、私か宿痾の主か。
それがもうすぐ、はっきりするだろう。
この重い体も、あと少しならまだ動く。
体の疼きも、胸の高鳴りも、まだ熱い。
「……行きます!」
先手を取るのは、私だ。
疾討を構え、振るう。
それを宿痾の主は剣で受け止め――両者が互いに弾かれる。
私は後退し――しかし宿痾の主は吹き飛ばない。
宿痾に握られているのはあくまで瘴気。
ただ魔力と反発するだけの空気にすぎない。
刀が触れる時点ですでに、宿痾は剣を手放していた。
反発する瘴気を避けて、更に一撃を加えられるのだ。
その手には、再び剣が握られている。
だが、攻撃手段に剣は使わない。
武器を握らない方の手を伸ばして、私を物理的に貫こうとしてきた。
それを何とか刀で弾くと、周囲には無数のただれて剥がれ落ちた触手の肉塊。
再びトゲが、辺りを覆う!
「リンカねえさまが見たら、発狂しそうな戦い方ですね!」
武器は完全に使い捨て、本命はあくまで自身の肉体。
なんとまあ、剣士としては贅沢な剣の使い方か。
何にせよこのままだと私は串刺しだ。
迫りくる刃のうち、致命的なものを横から叩いて
残りを躱し、かすめさせて、何とかやり過ごす。
しかしその間に、宿痾は更に動いていた。
――少し意外なのは、そのトゲが周囲を破壊しなかったことだ。
直感的に、私にだけ殺意を向けていると判断したため妨害しなかったが。
本当にただ私を殺すためだけに攻撃してくるとは。
理由は単純だ。
「どうやら余裕が、ないようです……ねっ!」
迫りくる攻撃を、何とか受け流していく。
向こうは完全に私だけを狙っているようだ。
剣を操ることで、格段に考えることが増えた。
そのため戦闘の経験の浅さから、私を集中的に狙いながら周囲を攻撃する余裕がないのである。
こちらとしても、純粋に戦いだけを楽しめるのは僥倖だ。
こんな逢瀬のような命のやり取りの最中に、ほかに視線を向けるなんて無粋がすぎる。
「まあ、それはこちらも同様です……が!」
宿痾の主は、戦い方を近接戦に絞ってきた。
こちらの魔力斬撃がただただジャマだからだろう。
至近距離ならば、私は斬撃を放つよりも刀をふるったほうが早い。
というか、斬撃を放つ余裕を作れないのだ。
練度の関係で、ノーモーションで弾丸を放つように撃つこともできない。
結果、手数と瘴気の剣による反発で、こちらが押し込められる形になる。
このまま続けるのは不利、ならば――
「こうしましょうか!」
私は刀を瘴気の剣にぶつけて――その反動で後方に飛ぶ。
距離を取ったら即座に魔力の斬撃。
相手を牽制しつつ、向こうが突っ込んでくるのを待つ。
距離で物理的に手数を増やすのだ。
向こうが引くなら、今度はこちらが踏み込む。
結果、私達は町中をとんでもない速度で駆けながら戦闘を繰り広げることになる。
剣戟の音が、街中に響く。
こんな時間が無限に続けばいいと思いながら、私は宿痾の主に刃を振るう。
残念ながら向こうはそう思っていないだろうけど。
私はといえば、頬が熱い、恋焦がれるように迫ってしまう。
一撃一撃に熱が入り、傷を受けるたびに体が震える。
私はただただ、この戦闘に酔いしれていた。
――いや。
ふと、疑問に思う。
少し違和感を覚えたのだ。
こちらがふるった刃が瘴気の剣で弾かれ、更には向こうが追撃してくる。
晒した隙を強引な回避で補いつつ、再び飛びかかる。
それを――宿痾の主はまた剣で受け止めた。
そんな攻防が、何度も続く。
私が距離を取れば向こうが詰めてきて、向こうが退けば私が追う。
あることに気づいた。
宿痾は、受ける前提で退いているのだ。
ただ逃げるだけでは、不利になると悟っているのだろうが。
恐らく宿痾は、それを意識していない。
「――んっ、ぁ……ふふ」
笑みを漏らせば、あまりに熱っぽい吐息が混じる。
ああ、はしたない。
斬撃を飛ばし、斬りかかり。
弾かれ、追撃され、しのぎきり。
再び打ち合う。
それが何度も、何度も続く。
街中を飛び回りながら、私は宿痾の動きが洗練されていくのを感じていた。
「鋭いですね、一つ一つが」
こちらの首をへし折ろうと腕が伸びる。
心臓を貫こうと弾丸が射出される。
瘴気の剣を、反発で私を弾くためではなく。
殺すという意思が私だけに注ぎ込まれている!
私だけを宿痾が見ている!
その事実に腹の奥がむずむずする!
「殺意が、より鋭くなっていっています!」
技術は、決してまだ伸びていない。
純粋な出力と、スペックによるゴリ押し。
だが、殺意は違う。
意志は違う。
段々と、私を殺すために進化をしているのだ。
すなわち――
「――楽しそうですね、宿痾の主!」
その瞬間。
一瞬だけ動きが止まる。
隙にすらならないような一瞬だ。
私の指摘で、ようやく自分の変化に気づいたのだろう。
ありえないことだ、と思うはずだ。
先程まで、アレほど私から逃げることを考えていたのに。
「笑っていますよ、――三つ首全て」
そんな私の指摘を受けて。
自分の今を自覚して。
宿痾は――
構うことなく、私に切りかかってくる!
ぞくぞくぞく! と体が震える。
同時に私は今までで最速の動きで体を動かした。
瘴気の剣と疾討が激突し、互いに弾かれる。
お互いに、笑みを浮かべたまま刃をぶつけ合う。
「そうでしょう、楽しいでしょう! 強くなることは!」
もはやお互いに、相手を倒すことしか考えていない。
この戦いの決着を迎えるために、眼の前の相手を倒して。
自分が強くなったと、高らかに謳うために!
「私は貴方を倒し、より強くなりたい! 貴方は私を倒し、その強さを証明したい! 思うことは同じです!」
――ここまで、長く戦ってきた。
度重なる四重強化で、いい加減私も限界が近い。
相手のスタイル、考え、そして強さは全て理解している。
後は如何に、その強さを崩すか――
「だからこそ、貴方を倒し。私はより前に進みます! それが、今の私を最も満たしてくれる生なのですから!」
私は、道筋を一つに絞ることとした。
複数の手札を用意するほど、私はリンカねえさまみたいに器用ではないし。
一番強い方法で、一番強く勝つのが正道だ。
よって、刃を構え踏み込み――振るう。
宿痾の主は、それに応えた。
ここで私が決着をつけに来ていることは、向こうだって解っているだろう。
そのうえで応えるのならば、宿痾もこれが最後だと理解している。
ならば、ぶつかりあいだ。
私の刀と、宿痾の剣が激突し――
「――――あああああっ!」
理屈は単純だ。
宿痾の生み出した瘴気が私の魔力と激突すれば、お互いが弾かれる。
私は弾かれる瞬間にさらなる力を刀に加え、強引に押し切った。
そう、私の取った手段は――
「力押し……ですっ!」
更に踏み込む。宿痾は一歩下がり、代わりに両手を伸ばして私を貫こうとしてくる。
それもまた――
「っぐ……!」
身体強化で、弾く。
肉体は貫かれなくとも、内部にダメージはある。
重くのしかかる痛み、それを溢れ出るほどの快楽で無視して、更に一歩!
――刀を上段に構える。
その瞬間、更に宿痾は動いた。
体中からトゲを突き出し、私を串刺しにしようとする。
「が、あああっ!」
致命傷だけは重点的な魔力強化で防ぎ、残りは受けたまま突き進む。
結果、突き刺さったトゲをへし折りながら、私は刃を振るい――
――致命を確信した一撃は、宿痾の身体が二つに裂けて不発に終わった。
融合ができるなら、分離ができると考えるのが道理。
そもそも、アレだけ自在に身体を変化させられるのだ。
真っ二つになれることくらい、想定しておいて然るべきだった。
今までやってこなかったのは、この土壇場で思いついたからなのだろうけど。
何にせよ、致命的な空振りだった。
「
私がその行動を、読んでいなければ。
「こうなりますか!」
私は即座に
向こうがこちらを貫くために、のばした腕を。
「二つに裂ければ、当然一つ一つの膂力は落ちますよねえ!」
結果、二つの宿痾を。
同時に地面へ叩きつけ、踏みつける。
更に分裂すれば逃げられるが、そうなれば私との出力差が決定的になる。
故に、ここはもう一度融合する以外に打てる手がない。
けど、それなら私だって疾討を手放している。
そう――思うだろう。
だが。
「疾討! 戻ってください!」
私の手には、疾討が収まっている。
呪いの刀である疾討の特性だ。
本来ならば、私から離れないための呪いだが。
今回は私と疾討の連携だ。
「これで……!」
回避はできない、融合は間に合わない。
せめてもの抵抗か、瘴気を刃の形にして飛ばしてくる。
宿痾の主は――諦めていない。
今もまだ、笑みを浮かべている!
それを私は――
「終いです!」
正面から押し返して、宿痾の主に刃を突き立てた。
しばらく、暴れ。
やがて、宿痾の主は動かなくなっていく。
「私の――――勝ちです」
そうして最後には、宿痾そのものが消滅し。
後には私だけが残った。
ロリ巨乳修羅剣士がボロボロ血まみれ笑顔で発情してるの最高だなみたいな話です。