転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
三十二 旅は道連れ、狩りに一切の情けは無用
それから、私とリンカねえさまは「ヨース」の街を旅立つ事となった。
別に私一人でダンジョン街「ラリス」を目指してもいいのだが、姉さまも同行してくれることになったのだ。
正確に言うと、
「アンタ一人にすると何するか解んないし、シドウと会ったら更にどうなるか解らなくて心配だからついてく」
とのこと。
そんなシドウ様を私みたいな問題児みたいに……
自分が問題児だという自覚はあるのかって?
それはまぁ……ありますけど……だからといって修羅の道を歩むことの妨げにはならないといいますか……
秩序と道徳は最低限守ってますし……とやかく言われる筋合いもないかなって……
まぁ、そんな歯切れの悪い言い訳からの開き直りはいいのだ。
ダンジョン街「ラリス」は現在私達がいる剣の里や「カルマン」、「ヨース」を有する国――「ヤーファン」の隣国に存在している。
現在、大陸にある国家は概ね仲良くしているので、行き来は自由だ。
魔物被害が大きくて、戦争なんてしてる余裕がないともいう。
ただ、行き来するには国境となっている山岳地帯を抜ける必要がある。
古くから旅人が行き交っているので、道は整備されているのだが。
結構な難所であることに違いはない。
「あ、休憩所。今日はこのあたりにしましょうか」
「ですねえ」
そんな道行く人々の助けとなるため、山道には休憩所と呼ばれるスペースが定期的に設けられている。
雨風をしのげる小屋と、焚き火用の薪が置いてあるだけの簡素な場所だが、それでもただ野宿するよりはずっといい場所だ。
「夕飯の準備するから、火を起こしてもらえる?」
「解りました。今日の夕飯はどうします?」
「どうって言っても……このあたりで手に入るものなんて、魔物のドロップ肉くらいでしょ。それとスープ、いつもと同じよ」
基本的に、料理はリンカねえさまの担当だ。
私もそうなのだが、剣の里の人間は基本的に肉を焼いて食べる以外の調理法を知らない。
え? そこは私も前世の知識で料理しろって? 前世男に肉を焼いて食べる以外の調理法があるわけないだろ!
で、その中でリンカねえさまは、例外的に料理が得意な人種だ。
曰く、
「料理には、包丁と言われる武具が使われているの。その最高の使い方を引き出さないのは、武具の使い手として失礼でしょう?」
とのこと。
そんなねえさまの目はキマっていた。
相変わらずリンカねえさまは、基本的に常識人なんだけど定期的にやばいところが見え隠れするな。
「魔導袋は肉の鮮度劣化を防ぐけど、あんまり置いておいても気分的によくないわね。この間狩ったブルーホーンブルのドロップ肉を使っちゃいましょうか」
「美味しくていいですよねぇ、これ」
魔物が倒したときにドロップ素材として落とす肉を、ドロップ肉という。
何故かいい感じの肉塊になるので、処理が楽なため旅の道中の食料として重宝される。
一度に多くの肉を取れないので、街だと家畜の肉を使うことがほとんどだが。
その分高級肉として取引されるから、冒険者にとってはいい狩りの獲物だ。
特に山岳地帯は魔物が多い。
旅人が行き交う山道は、簡易的な結界で魔物が寄り付かないようになっているけれど。
少し道をそれれば、結構な数の魔物がいる。
「というわけで、はいこれ」
「ありがとうございます。これ楽しいんですよねえ、鍛錬にもなりますし」
リンカねえさまが、火付けの道具を渡してくれた。
それはなんというか……見た目はガスマスクだ。
これを装着して、呼吸に魔力を混ぜると――火を吹く。
なんかヒャッハーな魔道具だなぁ、と思いつつ呼吸にちょうどいい魔力を乗せる鍛錬用アイテムとして私は活用していた。
「というわけで、できたわよ」
「いただきます!」
そうして、焼けた肉に魔導袋――この世界のアイテムボックスっぽい魔道具――から取り出したソースをかけて。
固形にお湯をかけて溶かすタイプのレトルトなスープを並べれば夕飯の完成だ。
ソースは魔導袋に入れないと日持ちしないし、レトルトスープに至っては数年前にある七刀が錬金術によって開発し、父上の手腕で爆発的に広まっている最新のアイテムだ。
割と、旅の夕飯としては最高級に豪勢である。
ブルーホーンブルのワイルドな食感の牛肉も相まって、とても美味しかった。
――そして、夜。
リンカねえさまが寝たのを確認してから、気配を気取られないように起き上がる。
この一瞬が、一番緊張するのだ。
なにせこれから相手する魔物よりも、リンカねえさまの方がずっと強くて気配にも敏感なのだから。
「ぬきあし、さしあし」
声に出さない声で、そんなことをいいつつ休憩所を抜け出すと。
「――狩りだあああああああ!」
元気よく私は、山岳地帯の魔物を狩り尽くすべく飛び出す。
――そう、私は旅の道中に夜な夜な休憩所を抜け出しては狩りにでかけていた。
だって、山岳地帯には、魔物がいっぱい、いるんですもの!
こればかりはしょうがない。
心の奥から溢れ出るパッションに任せていたら、いつの間にか夜遊び三昧の日々になっていた。
ごめんなさいリンカねえさま、カグラ悪い子になってしまいました……
でも別に問題ないですよね、誰の迷惑にもなっていないわけですし。
とか思っていたら。
「――聞いたかい、ここ最近山におかしな魔物があらわれるんだって」
道中、通りすがった別の旅人と話をしている時、そんな話題が出た。
最初のうち、私はそれに食いついた。
「おかしな魔物ですか!? 気になりますね、どんな魔物なんですか!?」
「うおっ!? 随分前のめりだな!?」
視線が私の一部に向くのを感じながら、ワクワクしつつおかしな魔物について問いかける。
しかし――
「なんでも、夜になると奇妙な笑い声みたいな鳴き声が聞こえてくるんだと」
「……ん?」
奇妙な笑い声?
「鳴き声がするのは、夜のある時間帯だけ。その時間帯に狩りをするんじゃねぇかって言われてるんだが……」
「……具体的に言うと、どのくらいですか?」
「日没すぐだったかねぇ、旅人ならもう寝付いてる時間だな。で、その変な声を聞いて起きちまう……と」
――――なるほど。
「あー、ソウデスカ」
「急にトーンダウンするな……ま、アンタ達は剣の里の人間だろうから問題ないだろうけど。気をつけるんだぞ、夜は出歩かないようにな」
「アッハイ、アリガトウゴザイマス」
そうして、情報を提供してくれた優しい旅人さんとのお話は終わった。
そして――
「――――で、私が寝た後にカグラは何をしていたのかしら?」
リンカねえさまにバレました……
剣の里名物、怒られる時のポーズこと正座で応対する。
「いえその……ちょっと魔物を狩って山岳地帯の平和に貢献しようかと……」
「結果、新たな魔物が生まれて秩序が乱れてるんだけど」
「それに関してはその……想定していない運用によって発生したミスといいますか……」
確かに暴れている最中、笑みがこぼれてはいたけれど。
まさかそこまで山中で響き渡るとは思っていなかったのだ。
「というかねえさま……何時頃からお気づきになっていました?」
「魔導袋に倒した覚えのない魔物の素材が詰め込まれてた時からだけど?」
「ですよねぇ」
それもこれも、魔導袋が高いのがいけないのだ。
宿痾教徒の拠点を壊滅させたことで、報酬はガッポガッポなわけだけど。
それでも買うとなると全財産を使い果たすくらい高かった。
だったらリンカねえさまもいるわけだし、ダンジョン街まで行って稼いでから買うべきだ、となるのは自然な流れ。
需要の大きいダンジョン街のほうが、多少相場も下がるだろうし。
「でもまぁ、実際魔物を狩れば山岳地帯が穏やかになることは事実だし、見逃してたんだけど……」
「奇声はまずいですよね、はい……」
「そういうこと」
かといって、暴れてるときに漏れ出る笑みは如何ともしがたく……
生理現象みたいなものですので……
「というわけで、はいこれ」
「ね、ねえさま……これは!?」
それは、一言でいうとガスマスクだった。
普段火付けに使っているものと同じデザイン。
ただし色が違う。
「火を付けるタイプのマスクだと、山が燃えて火事になっちゃうかもしれないし、冷気を吐き出すマスクね」
「ね、ねえさま……」
目を輝かせて、リンカねえさまを見る。
仕方ないなぁ、という笑みを浮かべて私の頭を撫でた後――
「私もやるわ、ちょうどいい気晴らしになりそうだし」
自分の分のガスマスクを取り出して、にやりと笑った。
比較的常識人だから忘れがちだが、リンカねえさまも剣の里の人間である。
かくして、奇声を上げる魔物一体は、冷気をはきながら暴れまわる魔物二体に変わり。
最終的に剣の里の人間の仕業だといつの間にかバレて、これだから剣の里は……みたいな扱いになるのだった。
迷宮街だからラビリンスを縮めてラリス! という安易な結果が今です。
よくある名前なのでこのまま行きたいと思います、よろしくお願いいたします。
というわけでラリス編開始です。