転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
「――そういえば、カグラって魔術は使わないの?」
それは、温泉街を後にして数日が経過した頃の野宿中の一幕。
もうまもなく、ダンジョン街に到着すると言ったところだ。
これから訪れるダンジョンという新たな環境にワクワクしながら、ガスマスクで火を吹いていた私にリンカねえさまが問いかけてきた。
「魔術ですか?」
「そう、魔術」
火がついたのを確認してからガスマスクを外し、リンカねえさまに問い返す。
この世界には魔術が普通に存在していて、それをつかって戦う魔術師も多い。
そして私はと言えば――
「使えますよ?」
「うわっ!」
ぼっ、と指先に火を灯して見せた。
いわゆる、無詠唱魔術というやつだ。
「え、使えるの? 今まで使ってるところ見たことなかったわよ?」
「そりゃ、ねえさまが必要ないくらい、色々魔道具持ち出してきますから」
加えて言うと、戦闘で使うほど能力を磨いているわけではない。
せいぜい、生活を便利にする火種の魔術や水を生み出す魔術などなど。
この世界においては”便利魔術”と呼称される初級の魔術を一通り。
「もともと、剣の里でも魔術は教えていますからね、最低限のことは学びました。……むしろ、便利魔術を覚えず旅にでているのはリンカねえさまくらいなものなのでは?」
「うぐ。……べ、別にいいのよ。私には便利な武具や魔道具がいっぱいあるんだから」
私の記憶が正しければ、リンカねえさまは魔術の類を一切使えなかったはずだが。
やはり、今も改善されていないようだ。
「というか、よく魔術なんて複雑なもの理解できたわね。私なんてさっぱり解らなかったんだけど」
「魔力の制御を覚えるうえでは、便利魔術はちょうどいい教材ですよ? それがなくても魔力を制御できてしまう七刀がおかしいだけかと」
それは単純に、リンカねえさまが極端に魔術師としての適性が低いだけなのだが。
まぁ、七刀というのは天才の集まりだ。
魔術の才能がなくても、それを補える何かがあれば問題ないというだけの話。
ただ、中には魔術の才能”しか”ない七刀も世の中にいたりいなかったりするけど。
「まぁでも、私は結構魔術の練習をした方ですよ? 普通魔術って、詠唱が必要なものですから」
「そういえば、カグラは何も口に出さずに魔術を使ってたわね」
「無詠唱魔術というやつです」
通常、魔術は詠唱を伴う。
というよりも、詠唱を行うことで円滑に魔術を行使することができるのだ。
簡単に言えば魔術とは魔力で絵を描くようなもので、詠唱はその絵描き歌である。
当然、無詠唱で絵描き歌を用いずに絵を描くと、難易度は跳ね上がる。
「無詠唱魔術は、本来なら詠唱が補ってくれる魔術の形を一から魔力だけで生み出さなくてはいけない分、難易度は高いですが――鍛錬にはもってこいです」
「でしょうねぇ」
「まあ、流石にもう発動がこなれてしまって、ワンテンポで発動できるから鍛錬には使えないんですけどね」
何度も同じ絵を描いていれば、自然と描き方は覚えるものだ。
特に、初級の便利魔術はほとんど子どものお絵かきみたいなものなので。
絵描き歌の通りに描けば、だいたい皆同じ絵が描けるからな。
「もっと高度な魔術を無詠唱で使ってみる気にはならなかったの? それはそれで魔力制御の鍛錬になるし、戦術の幅も広がると思うけど」
「いやぁ、私の魔力操作ってすさまじくピーキーなんですよ」
「魔力の重ねがけなんて、貴方くらいしかやってないでしょうしね」
「それを何度も何度も反復して身体に覚え込ませて、癖にしてるので。その癖から逸脱するような魔力制御を覚えると、本来の魔力制御ができなくなるんですよね」
ああー、とリンカねえさまも納得する。
私はとにもかくにも努力以外に才能がないので、何かを覚えるには反復で覚えるしかない。
圧倒的な人読みの技術も、相手の行動を何度も何度も観察し、パターン化した末に身に着けたものだ。
ここに魔術なんて新しい変数を加えたら、制御が途端に利かなくなるだろう。
「んー、そういうことならそうねぇ……そうだ。カグラに使ってみてほしい魔道具があるのよ」
「ねえさまって、結構自分の魔道具を他人に貸しますよね」
「武具や魔道具は使ってこそよ、使われてるところをみるのが興奮するし――なにより、他人に使われてるとなんだかイケナイ気分になる!」
寝取られ趣味!?
いけませんよ、それはイケナイ趣味ですリンカねえさま!
「と、とにかく。使ってほしい魔道具ってなんですか?」
「夕飯ができたし、食べながら説明しましょうか」
今日の夕飯は、温泉街で食料を買い込んだので結構豪華だ。
それに舌鼓を打ちながら、詳細をリンカねえさまから聞く。
「まずね、見た目は普通の杖なのよ」
「普通の杖ですねぇ」
言いながら、リンカねえさまは近くに置いた杖を弄んで見せる。
魔術師が使う、一般的な杖とそこまで変わらない。
強いて言うなら木製ではなく金属製ってところか。
金属製は高いから、あんまり使われないのだ。
「これを使うと、魔術の威力が極端に上昇するのよ」
「え? すごい便利じゃないですか」
「消費魔力も極端に上昇するけどね」
「ああー……普通の魔術を使うと一発でガス欠する感じですか」
魔力とは魂から生み出されるものだ。
そんなものをガス欠するまで使ったら、普通にぶっ倒れる。
あくまで魂から溢れ出したものが魔力なので、使い果たしても寿命を縮めたりはしないけど。
肉体と精神は疲労するし、倒れたらそもそも戦闘が継続できない。
「でも、消費の少ない便利魔術ならどうかしら」
「なるほど、それを無詠唱で使える私なら、新しい手札を手に入れられるかも知れない、と」
「消費量を増やすのも、杖が勝手にやってくれるから変な癖もつかないでしょうしね」
それは確かに面白そうだ。
疾討が拗ねるという欠点を除けば、試してみる価値はありそう。
「というわけで……ごちそうさま。やってみましょうか」
「ごちそうさまです。はい!」
剣の里の食事終わりの挨拶をして、私達は早速杖の試運転に入る。
「ああそうだ、他にも特徴があるんだけど」
「どんな特徴ですか?」
「――
え?
と、聞き返す間もなく。
私が魔力を通したことで、私の衣服に変化があった。
衣服の周囲に、無数のパーツが出現し。
ガションガションと、装着されていく。
中には、装着してから蒸気を吹き出すものまであって、それはまさに――
「ま、魔法少女……!?」
魔法少女の衣装だ。
いや、正確には純粋な魔法少女という感じではない。
装着するパーツは概ね軽装鎧みたいな感じだし。
あくまで衣服の上から装着することを想定している。
でも、間違いない。
これは魔法少女の変身だ!
異世界で私は魔法少女になったんだ!
「……なんかテンション高いけど、何? 魔法少女?」
「あ、いえ。お気になさらず……」
若干ワクワクしながらはしゃいでいると。
リンカねえさまの不思議そうな視線が突き刺さる。
ちょっと恥ずかしい。
「とにかく、外装まで取り付けられるなんてすごいですねぇ」
「まぁ、これにも欠点はあって……結構魔力持ってかれるんだけどね」
「言われてみると。このまま普通に戦闘を行う分には問題ないですけど、更に魔力を消費するとなると厳しそうですねぇ」
私の通常戦闘……というか、重ねがけによる強化は魔力の消費が非常に少ない。
別にそこまで魔力総量が少ないわけではない私なので、普段の戦闘だと死ぬほど余る。
それが、魔法少女になっただけで結構持っていかれるのだ。
となると――
「光を放ちますよ」
「了解、どうぞ」
「それ!」
私が、試しに害のない魔術を放つ。
夜なので、目がやられないよう注意してから光をぺかーっとさせると――
なんかそれはもうすごい光を生み出して、魔力が尽きた。
「うわ、まぶしっ……」
「う、おお……」
「あ、カグラ……大丈夫?」
「これ、便利魔術ですら戦闘には使えませんよ……」
いいながら、ふらふらと倒れ込む私。
慌ててそれをリンカねえさまが支えると同時に、私に装着された外装が光に溶けて消えた。
ああ、これは変身解除してしまった魔法少女が犠牲になるシーン……
実際には自爆だけど……
「でも、アレですね……」
「何?」
「鍛錬には使えますね、これ……」
「あんたほんと、それしか考えてないのね……」
いやだって、魔力ってある一定の量になると消費するのが大変になるのだ。
消費しないと成長しないのに、消費するのが難しくなるというジレンマを、これで解消できる。
「ふふ、へへへ……今日は良い夢が見れそうです」
「カグラ? カグラ……? なんで魔力切れ起こしてそんな幸せそうに崩れ落ちるのよ、カグラ――!」
なんてことを考えながら、私はゆっくりと意識を失うのだった。
ギリギリ世界観を崩さないくらいの魔法少女デザインと思っていただけると……
でも上から鎧がガチャンガチャン装着されたらそれはメカ娘のような……デカパイスーツカグラ……パイスーじゃないのでメカ娘ではないですね……