転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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三十六 ダンジョン街「ラリス」

 長旅の果てに、ようやく私達はダンジョン街「ラリス」へと到着する。

 遠くから眺める街の外観は、なんだか「ヤーファン」の都市とは趣が違っていた。

 もともと「ヤーファン」は緑豊かな国だが、山岳一つ挟んで広がる隣国は痩せた土地が多い。

 「ラリス」があるのも、荒野の中だ。

 なお、土地は痩せているものの鉱山などが多く、国自体は結構潤っているんだとか。

 逆に「ヤーファン」は農耕の国。

 まぁ、なんとも対照的と言えるだろう。

 それはそれとして。

 

「中央に、大きな穴のようなものが見えますね」

「アレがラリスの誇る大迷宮ね、あの深淵を目指して多くの冒険者が今日もラリスを訪れているわけ」

「我々も、その栄えある一人になったわけです!」

「別に、ダンジョン街を訪れただけで栄えあるかっていうと微妙だけど……なんだか、今のカグラは王都にはじめてやってきた村人みたいね」

 

 つまり、お上りさんというわけだ。

 自分でも、正直びっくりするくらい心が浮ついている。

 旅にでてからこっち、色々とワクワクする事件に出くわしてきたけれど。

 その中でも、今回は一番の興奮を感じているのだ。

 

「実際、冒険者の街というのはこれが初めてですから。今まで通り過ぎた街にも冒険者はいましたけど、街の主役ではありませんでしたし」

「まぁ、そういわれるとそうね。冒険者って荒くれ者だから、冒険者の街以外だと鼻つまみものなことだってあるもの」

 

 その中でも、剣の里の人間は特に距離を置かれがちな人種だ。

 代わりに実力は普通の冒険者よりも確かなので、仕事の場では重宝されるんだけど。

 私は容姿も相まって、とにかく注目を集めるし距離を置かれがちだ。

 そう考えると、遠慮なく私に声をかけてくるソアナさんは、なかなか大物だったなぁ。

 などと、「ヨース」の街で別れた友人を思い出す。

 ソアナさんはこの後、「ヤーファン」の王都に行ってみる腹積もりらしい。

 そこで、開発したドーナツを売り出すのだとか。

 また、王都で再会できたら嬉しいな。

 

「そう考えると――ラリスの街は、きっとカグラのお気に召すと思うわよ」

「楽しみです……喧嘩、喧嘩売って欲しいですね……うふふ」

「そっち方面の期待はしないでちょうだい!」

 

 なんて話をしながら、私達はダンジョン街「ラリス」に向かう。

 荒野の凸凹な大地に作られた、大穴と石の建造物の街。

 それが「ラリス」。

 遠くの高台から眺めると、なんだか蟻地獄みたいになっていて。

 ダンジョンの深淵を多くの冒険者が目指しているという、リンカねえさまの言葉がとてもしっくりくるのだった。

 

 

 +

 

 

 外から見れば大きかった穴も、街に入り込めば見えなくなる。

 街はこれまでの大都市――「カルマン」や「ヨース」に比べると、なんだか少しごちゃごちゃとしている。

 建っている建物の大きさに統一感がないのと、道が整備されていないからだろう。

 すぐにあっちへいったり、こっちへいったりするのだ。

 その中で――

 

「ダンジョン産のドロップ肉! やすいものから高いものまで揃ってるよ!」

「そこのお兄さん、魔導袋買ってかない? ダンジョン街の魔導袋は安いよぉ。そして私の魔導袋はほかより更に安い!」

 

 多くの商人が、道行く人に呼びかけをしている。

 彼らの存在は他の大都市とそう違うものではない。

 違うのは、彼らが呼びかけている者たちだ。

 

「お嬢さん達、見たところ剣の里の人かい?」

「そうですが、いかが致しましたか?」

 

 ふと、声をかけられて足を止める。

 優しそうな商人のおじさんだ。

 おそらく、他の街だったら私に直接呼びかけたりはしてこないタイプの人だろう。

 こっちから声をかけたら、にこやかに返事をしてくれるはずだが。

 なお、私が足を止めた理由はそれではない。

 扱っている商品だ。

 

「剣の里の人には、やっぱり剣を売るのがいいとおもってね」

「剣!」

 

 というか、リンカねえさまが目を輝かせて先に足を止めたからだ。

 

「いいわね! 剣! どんなものをあつかってるの?」

「そっちのお嬢さんは乗り気だねぇ」

「剣はいくらあってもいいもの!」

 

 リンカねえさまが足を止めたように。

 この街では多くの冒険者が、商人に呼び止められて商品を見ている。

 他の街では、おっかなくて直接冒険者に声を掛ける商人はいないだろうに。

 この世界では、彼らが街の中心なのだ。

 他にも――

 

「…………」

「…………どうも」

 

 声をかけてきた商人の隣で、無言で佇む冒険者が一人。

 彼は商人の護衛だ。

 この街の商人が、気軽に冒険者へ声をかけられるのは、こういう護衛が控えているから。

 見るからに強そうな、鎧姿の剣士。

 剣の里出身ではない”本物”の剣士を見たのはこれが初めてかもしれない。

 強さは、多分ダグスさんとどっこい。

 そんな彼は、私が挨拶をすると無言で会釈をしてくれた。

 いい人……

 

「よし、決めたわ。この店にある剣、一本ずつ買う!」

「おお、そんなにかい!? 豪勢だねぇ、よし少しまけちゃおう!」

「本当!? 貴方、いい商人ね!」

「そっちこそ。剣の里の人は、気前が良いねぇ」

 

 と、その横でリンカねえさまと商人さんが商談を終えたらしい。

 どう考えても量産品で、多分同じものを持っているだろうに。

 ねえさまは大人買いを決めていた。

 多分、私達がこの街へたどり着くために使った旅費より散財しているぞ。

 

「そっちの嬢ちゃんは、どうするね」

「あ……ごめんなさい。私の得物、呪われてるんです。他の武器を買ったら拗ねちゃってどこかに行っちゃうかもしれません」

「お、おお……? そりゃまた、変わった武器だな。はは、そういうことなら仕方ねぇ。代わりに飴でも買ってくかい」

「私は子どもじゃありませんよ」

 

 なんてやり取りをしつつ、店を離れる。

 購入したリンカねえさまの剣は、全て魔導袋に詰め込まれた。

 

「それにしても、護衛の剣士さんのお名前をお聞きしたかったですね」

「見た感じ、アレだけ”できる”剣士なら、街でも名前が通ってるでしょ」

「どうですかねぇ。……これだけの冒険者の数を見ていると、彼が無名の剣士でもおかしくないと感じてしまいます」

 

 辺りに行き交う人々は、その殆どが冒険者だ。

 中には私みたいなお上りさんから、他の街でよく見受けられたチンピラみたいな冒険者。

 他にも、先程の剣士さんみたいな実力者まで。

 

「それにしても、剣の里の人間とはすれ違いませんね」

「これだけ人が多ければねぇ。まぁ、そのうち向こうから会いに来るでしょ」

 

 そりゃまぁ、ねえさまは七刀なのだから。

 剣士として、剣の里の人間として、会いたいと思うのは自然な流れ。

 

「そういえば、商売と言えば」

「言えば?」

「この街特有の商売、まだ見かけてないわね」

 

 先ほど買い取った剣を、魔導袋から取り出して鞘に入れたまま眺めるねえさまが、ぽつりと。

 なんでもないように零す。

 この街特有の商売? はたして、そんな商売があるのだろうか。

 と、思っていると。

 

 

「――さぁ、次に俺と腕比べをしたい無謀な冒険者はいねえのか!」

 

 

 そんな声が、響き渡った。

 腕比べ。

 いわゆるこの世界の腕相撲。

 その挑戦者を待っている男がいる?

 

「ああ、アレね。冒険者が、強さ比べをしてるのよ。負けたほうが勝った方に賞金を払うルール。ま、ダンジョン街ならではの娯楽みたいな商売――」

 

 と、リンカねえさまが解説しているのを聞きながら――

 

「――やりましょう。次は私とお願いします」

 

 私は、秒で男の元へと駆け寄っていた。

 

「おお? なんだ、嬢ちゃんが次の相手か? 剣の里の人間だから腕っぷしには自信があるみてぇだが、子どもには流石にまけねぇぜ」

「ふふ、やってくださるんですよね? やりましょう、いざ! いざいざいざ!」

「お、おう」

 

 なんか相手の男が引いてるけれど、しったことではない。

 ダンジョン街には、こんなにも素敵な商売が行われている――

 

()()

「あ?」

「十回やりましょう! 勝っても、負けても、どっちでも十回!」

「ああ?」

「腕比べ! 腕比べ十回!」

「なんなんだよこいつ!」

 

 うぇへ、へへへへ……

 よだれを垂らしそうになるのを抑えながら、私は腕を腕比べのための台に乗せ――

 

 

 乗せるために一緒に乗っかった胸に気を取られた男の腕を台に叩きつけ、勝利した。

 

 

 なお、十回はやってくれなかった。

 残念。




ぶるん!(腕を叩きつけた時の効果音

そういえば何とはいいませんが、水霞様のイラストを再掲させていただきたいと思います。
いえ、何がとは言わないんですが、素晴らしいイラストですので他のイラストもご覧になってみてはいかがでしょうか。
ええ、すごいので、はい。
https://www.pixiv.net/artworks/128604910
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