転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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三十七 「ラリス」の冒険者ギルド

「ねえさま、私決めました! これからは腕比べで食べていきます!」

「はいはい、変なこと言ってないでギルドに行くわよ」

「変なことではありません、本気です!」

 

 だって、だってだってだって。

 あまりに素敵すぎるではないか。

 腕試しでお金を稼げるなんて。

 強さを求める私としては、まさに天職としかいいようがない。

 

「だって……たくさんの挑戦者が私を囲んでくださるんですよ!? 腕を取って”私と一手いかがですか? レディ”っていってくださるんですよ!?」

「それで誘われる内容が腕比べじゃなければ、ごくごく普通の恋する乙女よね」

「私は強さに恋をしています!」

 

 ああ、心ときめく出会いがほしい。

 心躍る腕試しがしたい。

 この世のありとあらゆる強者が私に群がってほしい……!

 

「もう、いいから。ギルド行くわよ」

「あー! せめて! せめて他の腕比べにも一回だけ! あー!」

 

 さっきの男性はもう私と腕比べはしてくれないかもしれないけど。

 他の人なら、私と腕比べをしてくれるはず!

 だからせめて、せめて後一回――!

 と泣き叫びながら、私はリンカねえさまに冒険者ギルドへと連行された。

 

「――と、いうわけで。ここがラリスの冒険者ギルドよ」

「お、おお……」

 

 気を取り直して。

 腕比べならば、何れ暇なときにやればいい。

 今は当初の目的地であるギルドを目指すべき、というリンカねえさまのド正論を受け入れて。

 私達はギルドにやってきていた。

 そんな私の、「ラリス」冒険者ギルドを見て最初の感想は――

 

「大きいですね……」

 

 建物が、とんでもなく大きいということだった。

 「カルマン」の街も、「ヨース」の街も、そこそこ大きな施設ではある。

 ただ、それでも規模としてはせいぜい町役場くらいのものだ。

 「ラリス」のそれは、でかいショッピングモールくらいはあるのではないかという大きさ。

 いや、端が見えないのでもっと大きいかも知れない。

 

「ラリスでは、冒険者が街の中心よ。だから冒険者ギルドにはいろんな施設があるの」

 

 ギルドとしての通常の施設――依頼を受け付けたり、素材を買い取ったりする部分――はもちろんのこと。

 食堂や修練場、宿泊施設まで併設されているのだから驚きだ。

 特に宿泊施設は他のギルドではなかなか存在しないであろう施設である。

 他の街だと、冒険者が宿に泊まることで街全体の経済を活性化させたいって事情があるからな。

 

「でかい公衆浴場もあるのよ。ギルドを拠点にしておけば間違いはないでしょうね」

「公衆浴場ですかぁ、また視線が集まりそうですねぇ」

「視線を集めるのが悪いのよ。そのでかい胸が、でかい胸が」

「ねえさま? 落ち着いてください? それこそ公衆の面前ですよ」

 

 てしてし。

 自分の胸が小さいことにコンプレックスはないのに、私の胸がでかいことに対しては正気を失いがちなリンカねえさまだ。

 

「こほん。ただまぁ、ギルドの施設が大きい一番の理由は――ギルドがダンジョンの入口を兼ねているからなのだけど」

「ダンジョンの大穴を覆うように壁が建てられていて、中に入るためにはギルドから入る必要があるんですよね」

 

 なにしろ、とんでもなく深い大穴だ。

 うっかり足をすべらせたら、即死は免れない。

 加えて言うと、そもそもこの大穴はダンジョンではあるのだが、直接足を踏み入れるとただの穴でしかない。

 実際に”ダンジョン”と呼ばれる場所に入るためには特殊な入口が必要で、その入口を管理するためにもギルドの施設が存在しているわけだ。

 こういう基礎情報は、すでにリンカねえさまから旅の道中に聞いている。

 確認の意味合いも兼ねて、ねえさまは口に出していたようだが。

 問題ないと判断したのか、ギルドの入口に足を踏み入れる。

 

「さ、行きましょうかカグラ」

「はい、ねえさ……ま……」

 

 施設の中は、特殊な結界で温度が保たれている。

 外の少しカラッとした暑さとは裏腹に、過ごしやすい涼しさの室内で――

 

 

 私は、ギルド内部の濃密な”気配”に中てられた。

 

 

 それは、強さの気配だ。

 人読みの鍛錬で培われた、相手の実力を見抜く直感。

 そしてそれを支える強さへの渇望が、けたたましく私にギルドにいる”つわ者”の気配を知らせている。

 それは、そう。

 あまりにも――

 

 ()()()()()()

 

「で、ここがギルドの中心となるホールね。食堂兼受付、やたらめったら広い以外は、他のギルドと変わらないわ」

「なるほど」

 

 すごい、すごい、すごい。

 一つ一つの気配は、私やリンカねえさまほどのものではない。

 だけれども、数があまりにも多すぎる。

 それに加えて、質も悪くない。

 辺りを見渡せば、そこらにダグスさんや先ほど出会った護衛の人みたいな強者がちらほら見受けられる。

 さっき腕比べをした男の人だって、決して弱くはないのだ。

 平均も、高い。

 

「んで、今日のところは宿を取ってゆっくりする予定なんだけど。ダンジョンの入口くらいは見ておきましょうか」

「そうですね」

 

 リンカねえさまの言葉を聞きながら、同時に心が浮ついてしまってしょうがない。

 抑えようと思っても、興奮が抑えきれないのだ。

 普段のぐふぐふ言ってる妖しい笑みすらでてこない。

 今の私は、ギルドの様子とねえさまの言葉しか頭に入ってきていないのである。

 

「――ここがダンジョンの入口。多くの冒険者はここからダンジョンに潜って、日々を生きていくためのお金や、一生遊んで暮らすための一攫千金のために頑張ってるのよ」

「おお……」

 

 そんな私は、リンカねえさまに誘われてダンジョンの入口へとやってきた。

 そこは大きな魔法陣だ。

 入口、というよりは転移陣みたいな言い方のほうが適当に思えた。

 しかし私にはわかる。

 この先には、強敵がいる。

 未だ、私が相対したことのないような敵が。

 心躍るような激闘が、待っている!

 

「これから私達はこのダンジョンに潜るわけなんだけど、そこで一つ問題があるわ」

「と、いいますと」

「私達の目的はダンジョン探索の他にもう一つ、シドウと顔を合わせることよ」

 

 ――そして。

 感じる。

 このギルドにはもう一つ、濃密で、芳醇で、蠢動するような力の奔流が。

 ()()

 いや、 ()()

 ここには、私でも勝つことが難しいような、とんでもない気配を持った誰かが、いる。

 

「――いますね、シドウ様」

「カグラの気配察知なら、それを感じられるってことか。でもカグラが感じられるなら、きっと向こうも感じるはず。私達の目的における最大の問題は――シドウと顔を合わせるのが難しいことよ」

 

 ああ、それは――

 

「シドウはとにかく性格に問題があるの、よっぽどがないと教えを請おうっていう奴と関わったりしない。同じ七刀である私ですら、会うのが億劫だと思ったら、会おうとしないわ」

「それは――()()()()()ですね……」

「……そう言うと思ったわ」

 

 そうだ、素晴らしい。

 これほどの強者を、私はこれから自分の足で探しに行くのだ。

 なんと心踊る冒険か。

 果たしてシドウ様は、一体どんな人なのだろう。

 性格に問題があると何度も何度も何度も聞かされてきたけれど。

 ああ――会ってみたい、人となりを、剣の腕を近くで知りたい。

 

「ようするに、シドウと会おうと思ったらダンジョン探索よりも優先しなきゃいけないってこと」

「そ、それは――」

「ダンジョン探索を優先して、シドウの捜索を片手間にするか。シドウの捜索を終えてからダンジョン探索に挑むか、どっちかを優先しないと行けないわ」

 

 ああ、なんて残酷な――

 ダンジョンもシドウ様も、私は求めてやまないというのに。

 どちらか一つずつしか堪能できないだなんて。

 それに加えて、このギルドには数多の強者がいる。

 腕比べ、腕試し、なんでもいいから喧嘩がしたい……したい……

 

「ああ、ねえさま」

「どうしたの? カグラ」

「私――幸せすぎて……夢でも……みているみたい、です……」

 

 やがて、興奮が最高潮に達し。

 ふらり、と身体が揺れる。

 慌ててリンカねえさまが受け止めてくれたけれど。

 私の身体に触れた姉さまは心底驚いた様子で、目を見開いた。

 

「え、熱い……熱が出てる? まさか興奮しすぎて知恵熱が出たの!? そんな子どもみたいな……ああいえ子どもだったわね」

「うふふ……ねえさま……うふふ」

 

 ああ、体が熱い。

 胸の奥がうずいて、興奮が収まらない。

 なんだかえっちだ……ああいや私は何を考えて……

 

「……カグラ?」

「……リンカねえさま、私……もう……だめかもしれません……」

「ちょっとカグラ!? こんなところで力尽きないで!? カグラ!? カグラ――――!?」

 

 その日、私カグラは――尊死した。

 あまりにも幸福が溢れすぎての、不名誉な死だった。




さらさらさら……
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