転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
あの後、私はリンカねえさまの取ってくれたギルドの部屋で目を覚ました。
なんだかこう、一瞬母上が夢の中に出てきて「貴方は何れ私をこーえーるーのーよー」みたいなことを言っていたけど、何だったんだあれ。
いやまぁ、夢なんてのはそういうものと言えばそういうものなんだけど、今まで見たこと無いような変な夢だった。
あの世でも見てたのか?
ともあれ、部屋にねえさまの姿はなく。
あったのは一枚の書き置き。
『ちょっと外で用事を済ませてきます。貴方に会わせたい人がいるの』
とのことだった。
会わせたい人、とは一体誰のことだろう。
多分、シドウ様のことではない。
そもそもリンカねえさまの口ぶりでは、シドウ様に会うのとダンジョンを探索するのは同じくらい大変という話だったからな。
「シドウ様と会うことの助けになる人、ですかねぇ」
なんとなく、そんな感じがした。
ダンジョン探索の助けなんて、私とリンカねえさまに今更必要かというと、そうでもないし。
「それにしても、ダンジョン探索とシドウ様探しですかぁ。どっちを優先するか……大変迷いますねぇ」
どちらも魅力がありすぎるのだ。
魔物はダンジョンの性質上、それはもういくら狩っても許されるくらい湧いてくる。
バイバイラットを相手した時のような興奮を再び味わいたい気持ちは、正直否定できない。
とはいえ――
「私が満足できる強さの魔物となると、一体どれくらい潜る必要があるのやら」
無論、弱い魔物だって私は大好物だ。
どれだけ弱くとも、向かい合い敵対すれば私はそれを糧に変える。
人読みの技術は、とにかく相手を観察する経験の豊富さが肝なのだ。
「とりあえず、外を出歩いて考えましょうか」
私は、鍵を持って外に出る。
鍵は人数分あるとのことなので、これで私が出ていってもリンカねえさまが困ることはないだろう。
というわけで、しばらくぶらぶらと一人で歩く。
外は多くの冒険者が行き交っていた。
ねえさまが部屋を借りたのは女性冒険者が多く集まるスペースのようだ。
行き交う女性冒険者から、胸に視線を向けられつつ。
更に人の多いところに出た。
そこで、私は思わぬ人物に声をかけられる。
「――カグラの姐さんじゃねえですかい?」
聞き覚えのある声だった。
以前、「カルマン」の街で出会った冒険者――
「――ダグスさん。お久しぶりですね」
「ええ、お久しぶりですぜ。やっぱり姐さんもここに来たんすね」
ダグスさんだ。
最初に会った時は、だらしない体型のちょっと小汚いおっさんみたいな感じだったが。
今は身なりをそこそこ整えて、体型もだいぶ引き締まってきている。
鍛錬の成果だろう。
「確か、ダンジョン街に行くと言っていましたが……」
「カルマンの街から一番近いダンジョン街っすからね、ここは。それに、規模も大陸随一だ」
まさに、言う事無しって感じなのだろう。
それから私とダグスさんは、お互いに近況を報告する。
「ヨース」の街で宿痾教徒を捕まえたと言ったら、姐さんならいつかやると思ってましたぜ、と言われた。
それは褒められているのか?
「ダグスさんは……修行の日々って感じですか」
「まぁ、そんなところですぜ。いやなんとも、鍛錬ってのは面白いもんで。びびるくらい自分が強くなってくのがわかるんでさぁ」
「独学ですよね? それでぐんぐん強くなるって……やっぱり才能は本物ですね」
ダグスさんはとにかく才能に恵まれた人だ。
七刀レベルとは言わないが、産まれた時から真摯に鍛錬を続けていれば七刀に比肩しうる能力を手に入れられていただろう。
少なくとも、以前戦った野良のすごい刺客とも互角に渡り合えるはずだ。
いや、だからあの刺客はマジでなんなんだろう。
こないだの暴れデカパイ将軍のときも、商人が連れてる護衛は雑魚ばかりだったし。
「才能、か。へへ、なんだか情けない話ですぜ」
「どういうことですか?」
「どれだけ才能を磨いても、今更シドウの旦那が俺と顔を合わせることはないんだろうなって話でさ」
――シドウ様の名前が出た。
意外、というほどではない。
このダンジョン街「ラリス」で強くなろうと思ったら、彼を目指さない理由はないからだ。
何より、確かシドウ様は――
「知ってるかもしれやせんが、シドウの旦那は
「――才能ある人間としか、会おうとしない。でしたか」
「ええ」
曰く、シドウ様は天才を愛している。
才能豊かな人間、将来性の豊かな人間。
そういった、未来ある人間を愛しているのだ。
「逆に、俺みてぇな自分の才能を溝に捨てた奴は、心底反吐が出るって感じでしょうねぇ」
「流石にそこまでは……どうなんでしょう?」
「少なくとも、昔一度このラリスに来た時は、てんで会えもしませんでしたけどね」
シドウ様は、会う人間を選り好みするという。
才能をドブに捨てるような人間とは、顔を合わせることすらしないともっぱらの噂だ。
私の場合は……どうなんだろう。
「ま、姐さんなら簡単に会ってくれるとおもいやすけどね」
「なんとも言えませんねぇ、私の才能ってちょっと特殊ですから」
少なくとも、剣の才能はまったくない。
あるのはあくまで努力の才能。
そしてそれによって身につけたスキルだ。
「強いて言うなら――」
「言うなら?」
「
「そいつぁ……」
何をって、魔力だ。
ダグスさんが、心底驚いた様子だけど。
私にしてみれば、お茶の子さいさいというかなんというか。
隠そうとしなければ、確実に見つけられる。
逆に私と同じくらいの手練れが隠せば、見つからない。
「ヨース」の街で、リンカねえさまを発見できなかったのも、ねえさまが本気で隠れようとしていたからだ。
それは、きっとシドウ様も理解しているだろう。
「とすれば――追いかけてみますか、せっかくですし」
「さっすが姐さんだ、思い切りがいい」
「ダグスさんも来ます?」
「いいんですかい? シドウの旦那が嫌がりそうなもんでやすが」
「私は嫌ではないので、ダグスさん次第でいいかと」
多数決、というやつです。
なんて適当なことをいいつつ、私は魔力の方に向かって歩き出した。
ダグスさんが、慌ててそれを追いかけてくる。
そんなに遠くはないから、すぐに付くだろう。
と、思っていたら。
「――んだと!? てめぇの剣に俺の槍が負けるわけねぇだろうが!」
「ああ!? それはこっちのセリフだ!」
何やら、道中で喧嘩が発生していた。
二人の冒険者が、互いに武器を構えて睨み合っている。
むむむ、と私は立ち止まって唸った。
「困りましたね、この道を通らないとシドウ様にたどり着けないのですが」
「回り道はできなさそうですぜ、姐さん」
大変困った。
どう考えてもここを通らないと先に進めない。
私はギルドの地理に詳しくないけど、人の行き交う魔力の流れとダグスさんの反応を見る限り。
先に進めないのは間違いないだろう。
「たしかによぉ、槍は使ったことねぇが、それはてめぇの剣だって同じだろうが。だったら俺が勝つに決まってらぁ!」
「はっ、それはこっちのセリフだ! この木剣でてめぇの鈍らへし折ってやる!」
男たちは、手にした訓練用の槍と剣を持って相手を威嚇していた。
なにやらお互いに、初めて手にする武器で相手を圧倒しようとしているらしい。
少し周囲から話を聞くと、なんでも本来なら互いに得物は正反対なのだとか。
槍を持っている男が剣士、剣を持っている男が槍兵だそうな。
それが、得物を交換して喧嘩している。
「変な状況ですね」
「いや、こいつぁ……シドウの旦那の”妨害”ですぜ」
呆れる私に、別の人から話を聞いていたダグスさんが解説してくれた。
何でも、シドウ様に会おうとする人間が現れると、その人間がシドウ様のもとへ向かう最中にこういう喧嘩が発生するらしいのだ。
どうやってかは知らないが、不思議なことに喧嘩の舞台は必ずこういう道の狭いところ。
喧嘩が発生してしまったら、遠回りしてもシドウ様の元へたどり着けないような場所に。
「喧嘩の内容は、いつもこんな感じなんですか?」
「へぇ、そうらしいですぜ。得物の交換だったり、得意分野の交換だったり」
ふむ、と考える。
得物の交換による喧嘩。
明らかに、何かしら意味のある行為だ。
メッセージ性というか、シドウ様の意図を感じる。
――――
「そういうことですか」
これまでの人読みから、シドウ様の人柄を私はなんとなく理解する。
そうなると途端に私は――
「いい、いいですね。シドウ様」
「……姐さん?」
「会いたくて遭いたくて
ふふ、ふふふ。
笑みが思わず漏れてしまう。
よし、決めた。
まずはダンジョンの探索ではなく、シドウ様を探す。
妨害だなんだと、知ったことか。
それを乗り越えて、私はシドウ様に会うのだ。
合いたくて、仕方がないのだ!
さぁまずは、眼の前の喧嘩を仲裁しよう。
シドウ様に、こちらのメッセージを伝えるためにも。
と、思っていたら。
――周囲が静まり返って、こっちを見ていた。
あ、すいません。
変な気配だして驚かせて。
あ、喧嘩、どうぞどうぞ続けてください。
え? なんかそんな空気じゃないから、後で鍛錬場で戦う?
あ、そっすか。
はい。
あーっす……みたいな空気で解散していきました。
https://www.pixiv.net/artworks/129558253
そしてまたまた水霞様のイラストとなっております。
見る度にでかくなってでっっっっか。
後これデカパイスーツとのことですが、パイスーというよりは退魔忍……