転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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三十九 コドクのカグラ

 さて、シドウ様を見つけることを目的に定めたものの。

 どうやって見つけるかについては、色々考える必要がある。

 加えて、私とダグスさんは現在修練場にやってきていた。

 何やら、こっちで騒ぎが起きていると聞いたからである。

 

「いいですかダグスさん。これは、情報を集めるためであって、乱痴気騒ぎが起きてたら混ざりたいとか、そういう欲望によるものではありません」

「へい。ちなみに本音はどんな感じでやすか?」

「混ざりたいですッッッッッッッッッッッ!!」

 

 力強く欲望をあけっぴろげにしつつ修練場にやってくると。

 そこは随分と喧騒に溢れていた。

 

「そこだー! 行けー!」

「殺せー! いいぞ、そこだー!」

 

 殺せとは物騒な。

 一体何が起こっているのかと思えば、人だかりができている。

 早速近付いて覗き込もうと思ったのだが――

 

「は、入り込めません……!」

「馬鹿野郎、胸がでかすぎてジャマなんだよ!」

 

 よっぽど興奮しているのか、私の胸の大きさを周囲が気にしていない。

 そうなると、背の低い私は中を覗き込むことができず。

 更に胸が大きすぎて人の波をかき分けることができないのだ。

 逆に胸に視線が集まれば、自然とモーセみたいに人波を掻き分けられるだろうに。

 

「姐さん、俺の肩の上に立つってのはどうですかい?」

「いいのですか?」

「流石に姐さん一人乗せたくらいで、どうにかなるほど軟じゃねえですぜ」

 

 ダグスさんのご厚意に甘えて、肩の上に飛び乗る。

 

「合体!」

「なんですかい?」

「いえ、何でも」

 

 思わずそれっぽいことをいいたくなってしまって、それが漏れただけだ。

 とにかくこれで、人だかりの中央で何が起きているか確認できる。

 なお、流石にクソでかい男の上にクソでかい胸の小娘が乗っていると、この状況でも周囲の注目を集めることがわかった。

 周囲の視線は以後無視することとしよう。

 

「――ヘビが殺し合ってますね」

「んー、ありゃコドクヘビっすかね」

「コドク」

 

 クソでかいダグスさんは、問題なく事件の現場が見えているようだ。

 私達が見たのは、コドクヘビという魔物が同士討ちをしている光景だった。

 初めて見る魔物である。

 

「今手元にある魔物図鑑に、詳細が乗ってやしてね。これですぜ」

「おお、勤勉ですねぇ。拝読させていただきます」

 

 詳細が載った図鑑をダグスさんが渡してくれたので、読む。

 

 コドクヘビ。

 魔物として誕生する際、卵の状態で誕生するという特殊な生態のヘビ。

 誕生した無数のヘビは最も間近にいる存在を襲う性質を持つ。

 これには同じ卵から産まれたヘビも含まれる。

 つまり、多くの場合はヘビ同士で共食いを行うのだ。

 共食いを行うと、食われたヘビの能力は食ったヘビに加算される。

 これは宿痾の発生経緯の一つである魔物同士の融合作用が関係していると思われる。

 ある程度成長すると体色が変化し、見分けやすくなる。

 また、体内に毒を有しており、牙で噛みつかれるのは危険。

 なお、ドロップするのはヘビ肉であり、共食いによって強くなったコドクヘビの肉は大変美味。

 

「ははぁ、要するに自前で蠱毒を発生させるヘビってことですか」

「蠱毒?」

「剣の里に伝わる言葉です。複数の毒を持った生物を器の中に入れ競わせ、生き残った生物の毒で毒薬を作ったりすることを指します」

 

 いや、実際に剣の里に伝わってるかはしらないけど。

 少なくとも、開祖シンラの出身地に伝わる言葉のはずだ。

 

「なるほど。俺ぁどうしてあんだけわらわら湧いてくるヘビを孤独蛇っていうのか疑問だったんですが」

「誤解して伝わっていた、と」

 

 もしくは、性質上最終的に生き残る蛇は一匹だけ。

 それを指して孤独と表現したいのかも。

 

「それで、そのコドクヘビが一体どうしてこんなところに?」

「そいつはなあ、シドウさんが卵をダンジョンから見つけてきて修練所に放置したんだよ」

 

 目立っているからか、近くの見物人が答えてくれた。

 なるほど、原因はシドウ様だったのか。

 それで孵った卵から溢れ出たコドクヘビ達が共食いを始めて、周囲の人間が見物を始めた、と。

 

「そりゃまた、はた迷惑な人ですねぇ」

「ぶっちゃけ、シドウの旦那がこういう変なことをするのは、今に始まったことじゃねぇですぜ」

「……性格に問題があるって、こういうことですかあ」

 

 七刀は性格に問題がある。

 有名な話だ。

 シドウ様の場合は、兎にも角にも破天荒というか。

 我が道を行く感じなのだろうなぁ。

 

「しかし……アレですね」

「ええと、なんですかい?」

「――――めっっっっちゃ混ざりたいですね!!」

 

 先ほども言った本音が、めちゃくちゃ漏れた。

 いやホント、混ざりたくて混ざりたくて仕方がない。

 今こそあの蠱毒に飛び込んで、最強は自分だと高らかに宣言したい。

 

「ですけど姐さん。そんなことしたら周囲から大ブーイングですぜ」

「それは……わかっています。彼らが見たいのは、誰が一番強いのか、ではなくどのヘビが生き残るか、ですからね」

 

 いいながら、私は視線を周囲の人だかりに向ける。

 

「殺せ赤蛇ー!」

「頼む! 生きてくれ緑蛇! お前が死んだら、俺の生活費がー!」

 

 彼らは、一様にどのヘビが生き残るか、という問題に執着していた。

 中には賭けをしているものもいるようで、その発言はなんとも人間臭い(迂遠な表現)。

 ともあれ、そんな中私がいきなり潜り込んだら、大ひんしゅくを買うのは間違いないのである。

 

「それで、どうするんですかい姐さん。このままこの状況をほっといて先にすすみやすか?」

「んーそうですね……ここは私の混ざりたい欲求を加味して……混ざっても問題ないように混ざります」

「そう言うと思ってやしたぜ」

 

 私は覚悟を決めると、荷物の中からあるものを取り出す。

 リンカねえさまから借りていた一品だ。

 

「ちょっと重くなりますよ。それと、申し訳ありませんが肩の上でジャンプしますね」

「どっちも問題ないですぜ。ちょうどいい鍛錬になりやす」

 

 というわけで、私はリンカねえさまから借りていた”杖”を使い――装甲を身にまとう。

 魔法少女カグラに変身したのだ。

 そして――

 

 

「そこまでです!」

 

 

 そんな第一声とともに、人々の輪の中に飛び込む。

 

「おい、何だアイツ!」

「胸がクソでかいぞ!」

「いきなり乱入してきて、なんのつもりだ!」

 

 周囲から、私を警戒する声が飛び交う。

 

「私の名はカグラ! 剣の里よりこの地へ、最強に至るためやってきたものです!」

「最強だあ!? 馬鹿言うんじゃねぇ、それでコドクヘビを狩り尽くすつもりか!?」

「こっちは金を賭けてんだぞ! ふざけたこと言ってんじゃねえ」

 

 そして、私の名乗りに非難轟々だ。

 そりゃそうだろう、さっきまでの楽しみに突然水をさされたのだ。

 予期せぬどんでん返しとは、基本的に視聴者から歓迎されないものである。

 だからこそ、私はここから評価を一転させつつ、コドクヘビたちを私の手で屠りたい。

 さぁ、そのためのベラ回しだ。

 

「皆様! ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、コドクヘビの肉は大変美味とされています! ですが、一般的に魔物を倒した際にドロップする肉はごくわずか。とてもではないですが、ここにいる全員に振る舞うにはたりません!」

 

 何を言っているのだ?

 と、困惑が観客たちに広がっていく。

 まあ、突然変なことを言い出している自覚はあるが。

 本題は、ここからだ。

 そう――

 

 

「故に私は今から、皆様にコドクヘビの肉を振る舞ってみせようと思います!」

 

 

 コドクヘビの蠱毒ショーを、コドクベビの料理ショーに変えるのだ。

 

「そんなことできるのかよ! 無茶言ってんじゃねえぞデカパイのガキ!」

「そうだそうだ! 態度がでけぇぞ! でかいのは胸だけにしておけ!」

 

 なんか野次にセクハラが混じってきたな?

 

「私は考えました。ドロップ肉は、あまりにも量が少なすぎる。しかし、その肉が倒された魔物の肉であることは断言できます」

 

 いわゆる鑑定の魔術とか、方法は色々あるが。

 ようするに、大事な点は魔物を倒したときに落とす肉は、その魔物の肉であることに違いはないということ。

 

「ですから――」

 

 で、あるなら――

 

 

()()()()()()()()()()のです」

 

 

 私は、指を鳴らす。

 すると、私の周囲で今も共食いを行っていたコドクヘビが、炎に包まれた。

 リンカねえさまから借りた杖による、便利魔法の増幅効果だ。

 あの後、鍛錬を兼ねて色々調整し、このように使い方をマスターしたのである。

 結果としてコドクヘビは――いい感じの匂いをさせながら身体を焼け焦がしていた。

 

「――では、いただきます」

「お、おい待てよ。コドクヘビには毒があるんだぞ。そんなことしたら、命に関わる――」

「いや、毒は身体強化で弾ける。無論、精度が甘いと健康を害するが……あの胸を見ればわかる。あの小娘は……やれる」

 

 さっきから胸に言及し過ぎだろう、と思いつつ。

 身体を焼け焦がしてもなお、眼の前の同族を”食おう”とするコドクヘビの――首根っこを掴み。

 

 私は、文字通り食らいついた。

 途端、濃厚な肉の味が舌に広がる。

 ――美味い。

 そう感じながら、焼け焦げて動かなくなったコドクヘビが死なないようにだけ調整し。

 

「さぁ、肉ならばいくらでもありますよ! 私に続くというものはいないのですか!」

 

 ()()

 途端、どこか熱に浮かされたように、男たちは唾を飲み。

 

「うおおおお! コドクヘビの肉は俺のものだああああ!」

 

 叫びとともに、私の周囲に群がってきた。

 最終的に肉を喰らいつくし、とどめを刺すのは周囲の冒険者だが。

 私自身の手でこの状況を作り出したと考えると、ある意味コドクヘビの”蠱毒”にとどめを刺したようなものだ。

 私は満足げにうなずくと、手にしていたコドクヘビに再び喰らいつくのだった。




なお三割がお腹を壊しましたが死人は出ませんでした。

評価、感想、お気に入りをいただけるとカグラが焼いたお肉を食べた気分になると評判です。
多分お腹壊しますが、皆様の評価とうとうお待ちしております!
よろしくお願いします!
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