転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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四 修羅が一人

 私が初めて魔物を斬った時、感じたのは嫌悪ではなく高揚だった。

 前世では、動物すら殺したことのないような平凡な人生を送っていながら。

 どうしてか、私は魔物を斬ったその感触に魅入られてしまったのだ。

 

 しかし同時に、不思議に思うことがある。

 どうして私はここまで剣に魅入られてしまったのだろう。

 理由は明らかだ、この世界には娯楽が少なすぎる。

 強くなることしか、私にはやることがなかったのだ。

 

 でもそれは継続の理由であって、魅入られた理由じゃない。

 魔物をためらうことなく斬れるようになった理由でもない。

 私が剣を手に取ったキッカケは、もっと別のところにあったはずだ。

 それは、そう。

 最初のキッカケは、父が岩を斬ってみせたときだったと思う。

 あの時確かに、私はこの世界の前世では考えられないような身体能力に憧れた。

 どうしようもない胸の高鳴りを覚えて、あんな風になりたいと思ったのだ。

 

 しかし、自分で岩を斬っても、思ったようには斬れなかった。

 父は言う、それは魔力を使い始めた頃なら当然のことなのだ、と。

 七刀のような理外の天才達とは違うのだ、と。

 だけど私は諦めたくなかった。

 

 ならば、その時の諦めたくない気持ちが剣に魅入られた理由なのか、といえば。

 それは少し違う気がする。

 結局私が鍛錬を楽しく感じるようになったのは、その後の強くなっていくという実感が原因で。

 剣が自分の思うがままに振るわれることが、楽しくてしかたがなかったからだ。

 

 では、そもそもその剣を自分の思うがままに振るいたいという感情は、どこで覚えたのだ?

 覚えていない理由は、きっと幼さだ。

 幼い頃の私は、まだ前世の記憶も今の自分の自我も曖昧で。

 当時のことを、あまり覚えていない。

 であれば、ああ――

 

 私は果たして、幼い頃に。

 一体何を、見たのだろうか――

 

 

 +

 

 

 父上に、背丈の数倍はある巨大なイノシシが襲いかかっていた。

 私はそれに向かって飛びかかり、急所になりうる脳天に剣を突き刺す。

 獲ったという感覚、イノシシはそれから少し暴れまわり、やがて倒れた。

 

「カグラ!?」

 

 困惑する父をよそに、私は父上の周囲の魔物を一気に斬り捨てていく。

 上位種のゴブリン、若い金剛狼、他にも様々な魔物。

 父上と肩を並べて話をする余裕を作るには、周囲の魔物が多すぎた。

 それに、困惑していた父上も、今はそんな事をしている場合ではないと気を取り直す。

 そうして二人で魔物を斬り捨てていると、ようやく波が落ち着いた。

 だが、困ったことが一つ。

 

「カグラ、なぜここに来た!?」

「中央から魔物の気配を探っていたのですが、父上の周囲だけ魔物が多いように見受けられまして」

「気配を……? いや、その話は本当か。……やけに魔物の数が多いと思っていたが、そのせいか」

 

 はい、と頷く。

 なお、困ったことは父に詰問されることではない。

 無茶をしている自覚はあるので、叱咤の一つは覚悟の上だ。

 

「それと、父上」

「なんだ?」

「……先程から、無理に使っていたせいで、剣がダメになってしまいました」

「…………ああ」

 

 私が、ボロボロになった剣を父に見せる。

 私の使っている剣は、里で作られた量産品だ。

 数を相手に大立ち回りをしていると、そのうち使えなくなってしまう。

 父上も、アレだけ暴れればそうなるなといった顔をして納得してくれた。

 こんなことなら、中央の広場から予備の刀を持ってくるべきだった。

 

「……そうだな。私の剣を使え」

「いいのですか?」

「ただの量産品よりはずっと頑丈だ。それに、先程の戦闘を見ていて解った。……ここはカグラ一人で十分だろう。私が刀を取りに行く」

 

 少しだけためらうようにして、父上は言った。

 その言葉には、()()()()()()()()()という意志が見て取れる。

 実際、先程の大立ち回りで私が倒した魔物の数は、父上よりも多かった。

 老いて衰えたとはいえ、かつては七刀候補にまで昇り詰めた父上を既に超えているとは。

 

「その後は、中央から全体の状況を窺い、魔物を押し返せそうなところから順に押し返していく。カグラもここが終わったら、手近なところから攻めてくれ」

「わかりました」

 

 父上に襲いかかっていた魔物の大群を捌き切ったことで、状況は里側有利に傾くだろう。

 このまま行けば、遠からず魔物を対処しきれるはずだ。

 

「ただ、一つだけ」

「はい」

「カグラはまだ幼い、魔力の総量に関してはどうしても我々に劣る。くれぐれも、無茶はしないようにな」

「解っています、父上」

 

 魔力の総量は、基本的に年を経る事に増えていく。

 使えば使うほど増えていくのだから、当然のことだ。

 故に、まだ使い始めて二年の私は、どうしても魔力総量が足りない。

 先ほど剣をダメにしたのも、あの数を相手するために、囲まれないよう身体強化を優先した結果。

 剣に通す魔力が少なくなってしまったことが原因にある。

 一応、対策がなくはないのだが――ちらりと剣を抜いて考える。

 この剣では、()()()()()()()な。

 じゃあ、やっぱり魔力総量には気をつけないといけない。

 

「なにかあれば、そこに魔導火矢がある。それを打ち上げて知らせるのだ」

「はい」

 

 ……弓矢を扱ったことはないのだけど、まぁ。

 大丈夫だろう、多分。

 

 そうして父は、この場を去っていった。

 残るは、既に数を多く減らした魔物の群れ。

 先程の会話の間も、蹴り飛ばしたりだめになった剣で無理やり斬ったりして、数を減らしていた。

 残る数は、あまり多くない。

 これなら、そう時間もかからないだろう。

 

「――――ふふ」

 

 ふと、口元から笑みがこぼれる。

 既に激しい戦闘で周囲の家屋がボロボロになり、被害は零とはいかなくなっている。

 そんな不謹慎な状況でありながらも、笑みは止まらない。

 ああ私は――この世界に生まれ落ちた時から、修羅と成り果てていたのかも知れないな。

 

 

 +

 

 

 斬る。

 迫りくる魔物を、駆け抜けざまに首を斬り落とす。

 

 斬る。

 両方向から迫ってくる魔物を、片方を斬り飛ばしてもう片方にぶつける。

 

 斬る。

 周囲に魔物がいなくなったことを確認し、次の場所へと向かう。

 

 そんなことを、ただ無心に繰り返す。

 父上から預けられた刃は、無銘の量産品よりも圧倒的に手に馴染んだ。

 思う通りの弧を描いて、相手の喉元に食らいつくそれが面白くてたまらない。

 迫りくる魔物を斬り捨てる度に、飛び散る血しぶきが美しく思えてならない。

 斬っても斬っても尽きぬ魔物の波に、興奮が抑えきれない。

 

 ああこれだ。

 これが私の求めていたものだ。

 強くなることで、何かを斬る力を手に入れた。

 殺す力を手に入れた。

 それを存分に振るうことが、私がここにいる意義なのだ。

 

 前世の己が警鐘を鳴らす。

 それは、修羅を越えて悪鬼へと堕ちる道だ、と。

 解っていると私は返す。

 私にだって、譲れないものくらいある。

 

 眼の前に、新たな魔物の群れ。

 だがそれ以上に、目に入ったのはそれと戦う里の大人だった。

 一人の大人が、もう一人を庇っている。

 戦いの中で怪我をしたのだろう、庇われているもう一人はもう戦えそうにない。

 どころか、このまま放置していたら命に関わる。

 

 ――それは、ダメだ。

 

 私は魔力で施した身体強化を更に強め、一息に魔物へ飛びかかり――斬り裂く。

 着地し、剣から血を払う。

 そして――

 

「――カグ、ラ?」

 

 こちらを驚愕の瞳で見つめる、大人たちを見た。

 

「大丈夫ですか?」

 

 生きている、よかった。

 人が死ぬのは、とてもよくない。

 前世の己が言っている。

 ――もう、あんなふうに誰かが死ぬのはゴメンだ、と。

 前世の自分が、将来を夢見ながら不慮の事故でこの世を去ったように。

 母上が、幼い頃にこの世を去ったように。

 

 人は死ぬ、簡単に死ぬ。

 だからダメだと、己は言う。

 私もそうだと、強く同意する。

 

「……あり、がとう」

 

 怪我をしていた方の大人が、そう告げて意識を失った。

 もう一人が意識を失った彼の名前を叫びながら、けれども安堵した様子で息を漏らす。

 

「ここは、私が引き受けます。中央で父上が指揮を執っていますので。後のことは父上に」

「……わかった」

 

 大人たちが去っていく。

 ――これでいい。

 これで、ただ殺し合いに集中できる。

 ああ、やはり。

 私はどうしようもなく修羅なのだろうか、と。

 迫りくる魔物に刃を向けて、どこか他人事のように考えていた。




剣の練習たのしーガールではありますが、魔物修羅ガールでもあります。
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