転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
大変ご迷惑をおかけしました……
気がつけば、私が大暴れしたことによって現在ギルド内にいる冒険者の八割が気絶してしまっていた。
ギルド職員からは、次からはやる前にひと声かけてくださいと怒られ……え、それだけ?
こういう乱痴気騒ぎはよくあることだから、意図的にやるなら声さえかけてくれれば問題ないらしい。
こわぁ。
ともあれ、無事に目的通り喧嘩が発生しないくらい人を減らせたので、シドウ様の元へと向かう。
「いやはや、ご迷惑をおかけしました」
「いいんすよ、姐さん。むしろ冒険者たちをなぎ倒す姿は圧巻でしたぜ。あんなすげぇ光景生で見れたんだ、なんてこたぁねぇ」
「それにしても、ダグスさんも成長しましたねぇ。三重強化をしていた私の剣と打ち合えるのですから」
ほんの少しだけとはいえ、ダグスさんと打ち合えたのは僥倖だった。
あの時、半ばトランス状態にあった私に、ダグスさんは正面から打ち込んできた。
こちらが反撃しても、問題なく一発ならばそれを受け止められただろう。
それ以降は実際にやってみないとわからないが、何れ機会はあるはずだ。
楽しみすぎる。
「アレでも、まだ全盛期には及ばねえでさ。やっと勘を取り戻せてきたところで、伸びるのはこれからってところですぜ」
「ほほう、それは楽しみですねぇ」
何にしても、ダグスさんもまだまだ伸び盛り。
いや、肉体的には衰えはいってもおかしくない年齢ではあるのだけど。
この世界だと身体強化のお陰で、年をとっても動こうと思えば動けるからな。
なにせ魔力は消費すればするほど成長し、衰えることはないものだから。
人によっては、年老いてなお強くなる人間もいる。
「……それにしても、シドウ様って本当に”才能”がお好きなんですね」
「と、いいやすと?」
「彼の起こした騒動ですよ」
各所で妨害のために喧嘩を誘発させたり。
ダンジョンからコドクヘビをギルドに持ち込んだり。
「コドクヘビに関しては言うまでもなく。あの蠱毒の中で生き残れるのは、才能があるヘビだけです」
「幸運で生き残ろうにも、本能がそれを許しやせんからね。でも、喧嘩の方もそうなんですかい?」
ええ、と頷く。
多分、喧嘩に関しては特別な意味がある、とはあまり思われていないだろう。
そもそも喧嘩自体が、「ラリス」の街だと日常の1ページでしかないのだから。
シドウ様の介入で喧嘩が発生しているとは、喧嘩している本人だって気づかないのだ。
でも、妨害によって発生した喧嘩だと理解したうえで、状況を整理してみるとなんとなく理解はできる。
「あの二人、お互いに初めて握る武器を使っていましたよね?」
「確か、槍を握っている男の本来の得物が剣で、剣の男はその逆でしたか」
「ですです。アレ、本来の得物よりもあの時握ってる得物のほうが、その人にとって適性があったんですよ」
金がなかったり、武器がそれしか無かったりといった理由で。
持っている適性と、握っている武器が異なるということは時たまある。
冒険者の全てが剣の里みたいな場所で、教導を受けられるわけではないのだから。
結果として、あの喧嘩はその適性を正すような形になるのだ。
「といっても、実際には元々使っている武器の感覚が残っているでしょうから、そう上手くは行かないでしょうが……」
「何かのきっかけにはなる、ということですかい」
「ええ」
だからこそ、思う。
シドウ様は才能が好きなのだ。
才能のある人間が好きなのではない。
むしろ、ダグスさんの言う通り、過去のダグスさんのように才能を腐らせる人間は嫌いなはずだ。
才能”だけ”を愛する。
それがシドウ様なのではないかというのが、私の見解だ。
「まぁ、もうすぐシドウ様に会えるのです。わざわざこうやって分析するまでもなく、直接本人に聞いてみるとしましょう」
静まり返ったギルドの中を歩いて。
ようやく私達はシドウ様のいる部屋へとたどり着く。
そこは、ギルドの受付から遠く離れた場所にある部屋だった。
ギルドに備え付けられた宿舎の一画。
ここでシドウ様が生活している、と考えるのが普通だ。
「ここですね」
「……」
――扉の奥に、蠢くような魔力の気配。
濃密だ。
遠くからでも、ここにシドウ様がいるということを否応なく理解できてしまうくらいの。
いや、それは私だけの感覚なんだろうけど。
どちらにせよ、シドウ様がここにいることは間違いない。
少しだけ息を呑んでから、私は軽く扉をノックした。
「失礼します、シドウ様のお部屋でよろしいでしょうか」
そうして、呼びかける。
若干声音に緊張が混じった。
なんとも気恥ずかしい、面接を前にした就活生か遠足を前にした子どものようだった。
どちらにせよ、私は未熟を晒しているということになる。
ああ、精進が足りないな。
――返事を待つこと、しばし。
「――――開いてるぜ」
扉の向こうから、声がする。
どこか、響くような低い声だった。
シドウ様は、壮年の男性と聞いている。
そのイメージ通りの声。
私は、ゆっくりと扉を開けた。
広い室内に、一人の剣士が待っていた。
椅子に座り、こちらを観察するように。
背丈は2メートルを有に超えるかというほどで、肉体はがっしりとした筋肉に覆われている。
髪は長く、さながら獅子をおもわせた。
服装は剣の里の旅装に手を加えたであろうもの。
だが、何よりも特徴的なのは――瞳。
今にも私を獲物として喰らいつくしてしまいそうな、狩人の瞳だった。
「シドウ様で、よろしいでしょうか」
「……おう、そのとおりだ。それで、お前さんは? 同郷みてぇだが、知らん顔だな」
こちらを見定めるような瞳。
すでに、さんざん私を遠くから観察してきただろうに。
まだ、才能を引きずり出したくて仕方がない、というような。
「カグラ、と申します。父は里長をしております」
「ほう、あいつの……ねぇ。ってことは
「ええ」
当然ながら、年が近い私の両親をよく知っているようだ。
というか、今でも父とは多少なりとも手紙等でやり取りをしているだろうし。
何より母上は、生前の間はシドウ様を差し置いて七刀最強と謳われていた剣士。
思うところがないのは、むしろ不自然まである。
「――それで? お前さんの狙いはなんだ。俺に会いてぇってやつは、そのほとんどが俺に自分の才能を見せに来る。そして、どいつもこいつも”指導”を求めるわけだ」
「才能を愛する貴方ならば、自分が持つ才能をより引き出すことができるでしょうからね」
ダンジョン街「ラリス」を訪れる冒険者の中には、シドウ様との出会いを求めてやってくる冒険者もいる。
というか、私がそうだ。
ダンジョンでの探索も、もちろん目的の一つだが。
こうしてダンジョンよりもシドウ様を選ぶ辺り、やはり本命はシドウ様なのだろう。
「だが、俺ぁそこまで暇じゃねぇ。俺にとって才能を見る
だからこそ、ああして色々と私を近づけないための手を打ったのだろう。
そうして試練を乗り越えたものだけが、シドウ様との謁見を許される。
なんというか、この街の王みたいな存在だな、シドウ様は。
故に、問いかけてくる。
”俺に何のようだ”、と。
であれば、私の答えは最初から決まっている。
「私の狙い。それはすなわち――」
そして、私は。
「貴方を倒すことです!!」
挨拶は大事です