転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
――その瞬間。
後ろにいたダグスさんが、本気で驚いているのが解った。
私が色々と突飛な行動を起こすことは解っていたのだろうが、まさかそんなことをするわけない、と思っていたのだろう。
普通ならそうだろう、私だって流石に普段ならここまで唐突に行動を起こすことはない。
だけど――
「――思い切りがいいじゃねぇか、本当にあの男の娘か?」
獰猛な笑みを浮かべて、
それを見れば、この選択が正解だったことがわかる。
「私の目指すところは、最強でして。であれば、七刀最強のシドウ様はまさに倒すべき相手。少し興奮して手が出てしまいました」
「くく……そういやてめぇはあの男の娘だが、あの女の娘でもあったな。そりゃ納得だ」
――刃が、動かない。
向こうは座ったまま、素手で剣を受け止めているというのに。
三重まで強化された私の刀が、防がれた。
ダグスさんだって、自身の得物を振るえば受け止めることはできるだろうが。
素手で、しかも微動だにせず、なんて。
とてもじゃないけど、不可能だ。
「ね、姐さん!? な、何してるんですかい!?」
そこで、ようやくダグスさんが冷静になる。
慌ててこちらに駆け寄ろうとして、シドウ様が視線を向けてその場に釘付けにした。
「こいつぁ俺の好みってやつを理解してんだよ。俺が好んでる人間は才能のある人間
「そいつぁ……」
「才能なんてのは、どんな人間にも少なからず眠ってる。最終的な違いはそれの大きさと、何よりそれに気づけるかってだけだ」
剣に力を込める、一向に動かない。
これが、七刀最強の力。
――素晴らしい。
「その点こいつに迷いはねぇ、自分の目的に一直線だ。自分の才能と、それによって動かせる世界を熟知してやがる。つまり――」
シドウ様の視線が、こちらを向いた。
力強い笑みで、私に――
「俺に教えを請いてぇってんだろ? で、何れは俺を越えてぇ、と――」
「あ、いえ。我慢できずに襲いかかってしまっただけです」
――空気が凍った。
いやだって、そういったじゃないか。
興奮して手が出てしまった、と。
それ以上の意味なんてないですよ?
相手は最強のシドウ様。
最強を求める修羅として、この瞬間を私はずっと恋い焦がれていたのだから。
というか、どれだけ私がシドウ様と戦いたくて仕方がなかったか!
「だって、シドウ様に会いに行くと決まって、もう一ヶ月以上経ってるんですよ!? ヨースの街からずっとずっとずっとずーーーーっとシドウ様に会うため旅をしてきたのに、妨害を受けて立ち行かず! ああ、どれだけ私を焦らすおつもりですか!」
「――」
まくしたてる私の言葉に、シドウ様は少しだけ驚いたように目を丸くしてから――
「ク――」
私の刀から手を離して――
「ハハハハハ! ただ戦いたかっただけか! そうか! ハハハハハハハハハ!」
手を叩いて笑い出した。
その姿は、まさに豪放磊落。
「すげぇなお前さん! 俺を前にして、ただ戦いたいだけと来た! もっとなにか別のものを求めたりはしねぇのか!? いやそうだったな、ここまでのお前さんを見ればそれがお前さんにとっての全てだと、解りきってたことじゃねぇか!」
「……なんだか、そう言われると照れますね」
「照れるこたねぇ! 気に入ったぜ、お前さんみたいな人間初めてみた。いや――もはや人間の精神性から少しズレてやがるな」
一つ、付け加えることがあるとすれば。
笑みを浮かべて愉快そうにしていながらも。
シドウ様の瞳は、こちらを正面から射抜いているということだ。
「――言うなれば、修羅ってやつか」
「……里では、よくそう呼ばれていました。ご存知でしたか?」
「いいや? お前さんを見れば、自然とそう思うだろう。里の剣士なら誰だってな」
ダグスさんに視線を向けていたときを除けば、シドウ様は常に私を観察している。
私の人読みとも違う観察眼。
それが――
「だからこそ、お前さんはダメだな」
「え?」
ダグスさんの、不思議そうな声が響く。
それまでと、言っていることが違うではないか、と。
「カグラっつったな。お前さんの人間性は気に入ったぜ。今後とも友人として仲良くやろうや。しかし――」
「しかし?」
「俺とお前さんがこの場でやり合っても、何一つ意味はねぇよ」
それはすなわち、言い方はアレだけど。
「そもそも、お前さんの才能が俺とは合わねぇ。お前さんの才能は努力の才能。つまり磨く才能ってことだ」
「まぁ、そうですね」
「俺がやりてぇのは、
それは、まぁ。
正直私も感じていたことだ。
シドウ様の指導は、いうなれば道に迷った人間に道案内をする行為。
私は道に迷っていない、どころか自分から修羅の道を邁進している。
要するに、シドウ様に言われるまでもなく私は進んで行けてしまうのだ。
何より――もう一つ、大事なことがある。
「何より――」
シドウ様も、それはよく解っているようだ。
「今のお前じゃ、俺には勝てねぇ」
――単純に、私がシドウ様に届いていない。
「今の、身体強化を多重で重ねがけしてやがったな? 三重まで重ねてるようだが、俺の身体強化の精度はお前さんの三重
「……それ
というか、ある。
四重強化なら、シドウ様と拮抗――はできないけど、若干向こうが上だけど勝機はある、くらいには持っていけるだろう。
「使えるなら、な」
「……お察しですか」
「まだ完全に身に着けてねぇ、ってのはな。少なくとも戦闘で使おうとしたら一瞬隙が生まれるだろう」
そしてシドウ様なら、その隙を見逃すわけがない。
「……まさか、あの一撃だけでお互いそこまで理解しちまったんですかい!?」
「それだけじゃありませんよ、ここに至るまでの一挙手一投足が私達の判断材料です」
「人読みの腕も悪くねぇみてぇだな。それなら、
何やら気になることを言っているが、今はシドウ様とのお話だ。
「これで、せめて少しでも剣術の才能があれば、違うんだろうが……」
「それは……まぁ」
「お前さん、本当にあいつらの娘か? よくあの剣の天才と秀才からこんな無才が生まれたな」
「本当になんでなんでしょうね?」
剣の天才である母上と、天才ではないけれど秀才の極みみたいな存在だった父上。
対する私は、剣に関しては本当に凡夫としかいいようがない。
おかげさまで、あの事件を解決した後もねえさまから七刀になることを許されていないくらいだ。
前世の感覚が抜けていない、というのもあるのだろうけど。
なんかこう、スキルツリーが間違っている気がしなくもない。
まぁ、困ってないからいいんだけど。
「ま、そういうわけだから勝手に強くなってくれや。もしもお前さんが俺との付き合いの中で強くなる分には構いやしねぇ。俺より強くなったと思ったらもう一度挑んでこい」
「――それなのですが」
そこで、私はある提案をする。
いや、だって。
「条件を限定すれば、シドウ様にも勝てると思います」
「――言うじゃねぇか」
負けたくないし。
強くなりたいし、最強でありたいし、強者と戦いたいし。
それを、勝てないから、で諦めてしまうのはあまりにも勿体ない。
というかお預けだ!
私は戦いたい、戦いたい戦いたい戦いたい!
というわけで、私がシドウ様に勝てるおそらく唯一の方法。
「――腕比べを、しませんか?」
それを、提案するのだった。
シドウ様とのお話フェイズ。