転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
「ハハハ! 確かにそこまで条件を限定すれば勝てるかもなぁ!」
「でしょうでしょう! この街で腕比べを見てから、ずっとシドウ様とはこれで戦いたいと思っていたのですよ!」
今の私が、まだまだ未熟であることは事実。
これからもっともっと強く慣れるということでもあるが、それでは今のシドウ様に届かない。
「だが、それでも俺には勝てねぇぞ。四重だろう、今の限界は」
「むう」
確かに、今の私の最大出力である四重強化は、シドウ様よりちょっと下。
直接戦闘ならば、戦術でいくらでもひっくり返せる部分ではある。
だが、単純な力比べとなると、どうしてもそのちょっとが足りない。
「それでも、戦いたいです! 戦いたいです戦いたいですー!」
「強敵と戦えば、それだけ経験になるってのはわかるけどよぉ」
「……そういえばそういう理由もありましたね」
「こいつ……」
強くなることが私の目的なら、それを忘れちゃダメだろって?
眼の前にご褒美があったら、飛びつきたくなるものだ。
「そもそもてめぇ、どうしてそこまで俺に勝ちてぇと思うんだよ。てめぇの本質は強くなることだろ?」
「それはですね……そうですね、一つ例え話をしましょうか」
「姐さん、それ絶対直接理由を語ったほうが伝わりやすいっす」
ダグスさんの発言をスルーして、私は続ける。
正直、自分も言ってから思ったけど。
「もし目の前に、食べきれないほどの料理があったらどう思いますか?」
「適当にそこらの冒険者にでもくれてやるな」
「……こほん! 倒しきれないほどの魔物がいたらどうしますか?」
「俺に倒せねぇ魔物はいねぇ」
「こほんこほん!」
話の腰をおらないでください!
「食べられないほどの! 料理があったら! 私はそれを食べ尽くしたくなるのですよ! 結果、お腹がいたくなってしまっても。どれだけ苦しくても、完食したいのです!」
「子どもは食べれば食べるほど大きくなるからなぁ」
「私が大きくなるのは胸ばかりなのですけどね……って、そんなことはどうでもいいのですよ」
何か、旅に出てもう数ヶ月経ってるのに、一向に背が伸びないのだ。
まだ十二かそこらの育ち盛りなのに、胸以外はもう成長が打ち止めなのか?
いや、身体が成長すると身体強化の使い方を調整しないといけないので、これ以上背が伸びないならそれでもいいのだけど。
「でも、私がそれを完食したいのは、決してそれが美味しいからではないのです。眼の前に料理があって、完食しろと言わんばかりに鎮座しているのが悪いのです」
「いや、食事は楽しむためのものだろうがよぉ。栄養を摂って明日への糧とする。でなけりゃ強くなれねぇぞ」
「……シドウ様って、実はすごく立派な人だったりします?」
「そいつはねぇな」
ばっさりと切り捨てられた。
いや、さっきから随分と立派なことをおっしゃられているので、てっきり一見破天荒だけど内面は真っ当で誠実な方なのかと思ったのだが。
「そもそも、俺だったら眼の前に食べられない料理なんてねぇ。だからそもそも、
「……そ、それは」
「……まだるっこしいな、例え話なんざやめだやめ」
「ご、ごめんなさい」
絶対的な自信で以って、シドウ様は断言した。
それは本人の強さの現れでもあり、同時に――
「この世に俺が食べきれない料理――つまり、倒せない敵なんざあっちゃならねぇ。俺ぁすべてを平らげ、そして飲み干すだけの才がある。そして当然、強さもだ」
「まぁ、シドウ様ならそれはそうなのでしょうが……」
「俺だけじゃねぇよ。この世全ての人間は、眼の前に越えられない壁が現れることなんてねぇ。だが、多くの人間は越えられないと決めつけて目をそらすんだ」
そ、そこまで断言してしまうのか。
私でも、流石にそれは断言しかねるのだけど。
「そもそも、越えられないなら方法を考えろ。そいつが最も得意とする越え方は何だ? カグラ、お前さんの場合は――すでに答えが出てるだろう」
「……越えられる壁を、
だろぉな、とシドウ様は頷く。
「お前さんの本質は、食べきれないほどの料理を前に挑む挑戦者じゃねぇ。この世全ての料理を
――それは、確かに。
かつて、母上の剣に憧れて私は最強を目指した。
それはあまりにも修羅の道で、困難な壁なのだろう。
でも、私はそれを越えられると思ってる。
でなければ、壁を前にして
「……ようするに、だ」
そんな私を、シドウ様が端的に纏める。
「お前さん、俺に勝てると思ってるんだろ。――いいぜ、その自信、正面から粉々にしてやる」
そして、笑みを浮かべた。
獰猛すぎるほどに、獰猛な笑みを。
私をくらい尽くして、平らげて、飲み干してしまうほどの笑みを。
獅子のような、強者の笑みを。
ああ、なんというか。
シドウ様のことを、よく理解できた気がした。
才能を愛する剣士、シドウ様。
この世の人間には例外なく才能が眠っていると確信していて。
その中で、最も才能を引き出せているのが自分だと本気で信じているのだろう。
故に自分は最強なのだ、と。
そして同時に、他人の才能を本人よりも信じている。
私自身、私の本質をちょっとだけ見誤っていた。
挑み続ける挑戦者なのだと、誤解していた。
でも考えてみれば、そうだ。
私は何れ最強になるのだと、そう心に決めて修羅の道を選んでいる。
いや、まぁだとしても。
最強になるまでの過程は、私にとって挑戦であることに違いはないけど。
何にせよ、シドウ様はそれを見抜いたうえで。
自分の強さを確信している。
「――いいですね、そうこなくては」
ああ、本当に。
素晴らしい方だ。
思う、この人は間違いなく最強だ。
今の私ではどうあっても勝てない。
だからこそ、倒しがいがある。
そんな相手を、この場で打ち倒すことができたなら。
どんなに楽しいことだろう――!
「参りましょう。――いざ」
「失礼、この机使いやすぜ」
「気が利くな、お前さん」
「ありがとうございます、ダグスさん」
そして私達が、いざ決戦という段階になったらダグスさんが机を運んで用意してくれた。
いい人……
「才能に溺れて、天狗になってるわけぇのの鼻っ柱を折るのが、俺ぁ好きなんだ。てめぇみてぇな小娘、いかにも叩きがいがありそうじゃねぇか」
「本性表したりですね、それが本音でしょうシドウ様」
「はははははは! ついうっかり心の声が漏れちまったなぁ!」
対するシドウ様は最低なことをいい出した。
多分、これは本音でもあり私への挑発でもある。
そりゃあコドクヘビを面白がって修練場に解き放つ人が、ただの偉大な最強であるわけがない。
というか、あってほしくない。
なので、私としてはこの方が好感触だ。
「私だって、自分より格上の相手を倒すのが好きです。倒せたら、とっても楽しいと思いますから」
「はは、お互い気が合いそうだなぁ。昔は俺もそうだったよ――今は、俺より強い人間はこの世にいねえがな」
かくして、お互いに相手の腕を掴み。
私達は腕比べを始める。
勝ちたい、勝ちたいと強く願う。
ただ、強さのみをシドウ様にぶつける――!
「――行くぞ」
「はい――っ!」
私は、
この状況でだせるとっておき。
シドウ様すら見えていない、私の本質を――
ぶつけようとした結果、土台にしていた机が粉微塵に吹き飛んだ。
お互いの力の余波だけで、ばらばらに。
破片すら残さず、吹っ飛んでしまったのだ。
「…………」
「…………」
「…………」
この場にいる、全員が理解した。
この世に、私とシドウ様が本気で身体強化をした腕比べを、受け止められる台はない。
現状、私とシドウ様が腕比べで決着をつけることは、不可能である、と。
タイトルでネタバレしていくスタイルです。
シドウ様の最強キャラ感を出せているか悩みながら書いています。