転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
沈黙が広がる、シドウ様の部屋。
三人が三人、なんだか気まずそうに視線を逸らしている。
いや、だって。
まさか土台が吹き飛ぶとは。
冷静になれば、私達が全力を出した余波に耐えれるモノなんて早々ないと分かるんだけど。
なんというか、行ける気がしてしまったのだ。
「……見なかったことにするか」
「……見なかったことにしましょう」
「……見なかったことにしやすぜ」
やがて、三人の意見が一致した。
だって、うん。
壊してしまったことはやってしまったことだけど。
別に誰かに見られているわけではないのだし。
心の奥底にしまっておけば、この話はおしまい――
「……あなた達、何してるの?」
見られていた――!
というか、聞き覚えのある声が呆れた様子で声をかけてきている――!
「リ、リンカねえさま!?」
振り返ればそこには、リンカねえさまが呆れた様子でこちらを見ていた。
戸は開け放たれ、腕組みをしながらジト目で私達を見ている。
「い、一体いつの間に……?」
「あんた達が、腕比べで盛り上がってる時からよ。扉をノックしても気づかないなんて、アンタとシドウらしくないわね」
「……リンカ、久しぶりじゃねぇか。変わりねぇようだな」
「何事も無かったように、話を始めないでちょうだい!」
シドウ様が誤魔化そうとして、失敗した。
いやまぁうん、全部見られてたわけですからね。
しかも、端から見れば私とシドウ様の腕比べで、机が持たないことなんて解りきったことだったろうし。
「まったく、部屋に戻って姿が見えないと思って、一旦ギルドの外まで探しに出かけたら……そのタイミングで事件を起こしたみたいね」
おかげで、合流までここまでかかったわ、とリンカねえさま。
ええとつまり、ねえさまはあの後人に会うために出かけて、見つけたから部屋に戻って。
今度は私がいなくて探しに出かけたら、その間に私がギルドでやらかしてて。
んで、やらかした私がシドウ様のもとへ向かい、追いかけたらバカやってる現場に出くわした、と。
「……ご迷惑おかけしました」
「いいんだけどね、あなた達がなにかやらかすのは、解りきってたことだし」
「リンカねえさま……」
「多分、そこ感動するところじゃないですぜ、姐さん」
いや、どっちかというと感動した雰囲気で流せないかなぁ、と。
え、だめですか、そうですか。
「で、まぁ……別にアンタらが机を壊すのはどうでもいいのよ、それくらいならここのギルドだと日常茶飯事だろうし」
「まぁ……そうだな」
「あまりにアホな空気だしてるから、ツッコミたかっただけで」
リンカねえさまも、常識はあるけどノリがいいタイプの人だった。
さて、この話はそこらへんにしておこう。
ねえさまも話題を変えるつもりだし、何より――
「ところで、ねえさま。ねえさまの後ろにいらっしゃる方は――」
「ああ、この子? この子が貴方に会わせたかった子」
後ろには、もう一人誰かがいた。
どこかおどおどとした様子の、黒髪の少女だ。
少し癖のある髪と、剣の里の服装を洋風に改造したような、そんな感じの衣服。
丈の長めのスカートが特徴的だ。
「あ、えと……あう」
「剣の里のカグラと申します。同郷の方でしょうか?」
「あ、私、は……」
努めて笑顔で名乗る。
怖がらせないように、と思ったのだが。
多分、初対面の相手にはどうあっても怖がってしまうタイプだろうな。
と、思っていると――
「そんなに怯えなくてもいいぜ、そいつは別に悪いやつではねぇよ。ま、とびきり変なやつではあるけどな」
――なんて。
気楽な様子で、シドウ様が声をかけた。
え? シドウ様が声をかけたら余計縮こまってしまわない?
いや、もしかして――
「あう、えっと」
よく見ると、シドウ様とこの子――
「大丈夫、だよ。
パパ。
……パパ。
……………………
パパ!?
「えっ!? シドウ様って娘さんがいたんですか!?」
それはもう、わかりやすく驚きの声をあげる私に。
リンカねえさまと、シドウ様がいたずらっぽく笑みを浮かべるのだった。
+
レイナさん。
年は十五で、私とリンカねえさまのちょうど間くらい。
よく見ると、シドウ様の黒獅子のような髪とレイナさんの髪色はよくにている。
顔立ちも、それとなく似ていた。
「はっはっはっはっは! そう怖がるこたねぇよ! カグラはそもそもお前さんより三つ年下だぞ!」
「と、年下!? あうう、みえないよぉ」
しかし、性格は圧倒的に正反対だった。
豪放磊落を地で行くシドウさんと、引っ込み思案を絵に描いたようなレイナさん。
失礼ながら、なかなか親子には見えない組み合わせだ。
あと、レイナさんどこをみて年下に見えないって言ってるの?
「それで……俺ぁここで失礼しやすぜ、姐さん、シドウの旦那。……その子、多分俺に一番びびってやすでしょう」
「ぴうっ!」
と、そこでダグスさんが別れの挨拶をしてきた。
怯えるレイナさんに、居心地が悪そうだ。
「わかりました、それではまた」
「おう。前に”視た”時は会う価値もねぇ奴だと思ってたが、見違えたじゃねぇか。……つっても、カグラと同じでお前さんも俺がやるこた特にないがな」
以前、「ラリス」の街にダグスさんが訪れた時。
シドウ様はそれを”視て”いたようだ。
結果、評価はご覧の通り、よかったなぁダグスさん。
「そいつは光栄でさぁ。ではまた」
そうして、ダグスさんは去っていった。
なんだか、少し背中がいつもより大きく見えたな。
「彼が、カルマンの街で知り合った人?」
「はい。これからも、顔を合わせることはあると思います」
なんて話をリンカねえさまとしつつ、結果的にこの場には剣の里関係者だけが残された。
といっても、私とレイナさんは初対面なんだけど。
「レイナさんは、ラリスの出身なのですか?」
「あう、えと、あううう……そ、そうです……っ!」
レイナさんは「ラリス」生まれの「ラリス」育ち。
剣の里出身であるシドウ様の娘ではあるものの、剣の里の人間か、と言われると少し違う。
なぜそう言われるかと言えば――
「見た感じですが、レイナさんって……魔術師ですよね?」
「えと、そう、です。……普段は、魔道具とか、研究して、作って、……売ってます」
売ってます、はかなり小声だった。
そこも誇っていいところだと思うんだけどなぁ。
そして、魔道具の研究と作成がメインということは――
「……そして、冒険者ではない」
「は、はい。……私、どんくさくって……戦闘とか、向いてないから」
言い方的に、コンプレックスの類はなさそうだ。
というか、なさそうだから突っ込んだ話をしたのだけど。
冒険者ではない、あくまで研究者としての魔術師。
「それだけじゃねぇぜ。レイナは世界一すげぇ魔術師なんだよ」
「ぱ、パパ……それは流石に言い過ぎだよぅ!」
と、そこで混ざってくるシドウ様。
あ、これもしかしてうちの父上と同じ――
「言い過ぎもなにもあるか! この世で最も才能に愛された俺の娘だ! すげぇんだぜ、簡易的な魔導袋の再現までできるんだから!」
「ほほう、あの魔導袋の」
「ち、小さい小物入れみたいなもの……ですっ!」
魔導袋は、ダンジョン内の宝箱から産出されるものだ。
今の人類では、まだ簡単なものしか再現できていない。
そしてそれを再現できるということは、レイナさんが魔術師の最先端を行く天才だということはわかるのだが。
それはそれとしてシドウ様は褒めすぎである。
親ばかってやつだぁ。
「シドウ様とレイナさんって、性格的にはあんまり似てないと思うのですが。レイナさんが遠慮なく突っ込めているところは、やっぱり親子って感じはしますね」
「あうあうあうあう」
「ははははは! ま、身内にはそこそこ図々しいタイプだぜ、こいつは!」
「ずうずうしくないもん!」
そして、もう一つ。
「それと――レイナの本領は研究だけじゃない、でしょ?」
「あうっ!」
「ははは! そうだったなぁ! アレをみないことにはレイナの全てを見たとは言えないぜ!」
「パパ! 言い方!」
なにやら、リンカねえさまとシドウ様が自慢げににおわせてくる。
レイナさんは恥ずかしそうだが、二人の視線を受けてやる気になったようだ。
はたして、何が始まるのだろう。
「じゃ、じゃあえっと……カグラ、ちゃん。
レイナさんがそう言うと。
その姿が――一瞬ブレた。
直後。
「……こんな感じ、ですかね。……おお、デカイ」
私の前に、
レイナさんが、変身したのだ。