転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
この世に、初体験は数あれど。
中に入れるタイプの初体験は数少ない。
何いってんだこいつ。
先日の変態騒動からこっち、何やら語彙がピンクになっている気がする。
まぁ、そんなことはどうでもいいのだ。
私が初めてを散らすときがやってきたのだから。
だから語彙!
こほん。
ようするに、ダンジョンへ初めて潜る日がやってきたのだ。
いや、まだ「ラリス」に来て今日で二日目なんだけどね。
二日目にして、私はすでに「変態修羅」の名をほしいがままにしていた。
コドクヘビ騒動とその後の喧嘩大安売りから始まって、レイナさんとの剣戟。
私の知名度を確固たるものにするには十分だったらしい。
そんな私だが、今この瞬間に関しては何者でもないただの私だ。
ダンジョンに潜る一人の冒険者でしかないのである。
「なんだか、感慨深いですね」
「そぅ? すぐに慣れるわよ、これから日常みたいにここへ来るんだから」
「たとえ日常になったとしても、この興奮はずっと色褪せないと思いますよ、私の場合」
リンカねえさまと二人でダンジョンに降り立ち、私は思わず感嘆の息をこぼす。
そこには、なんというか。
いかにもダンジョン、という光景が広がっていた。
レンガ造りの迷宮に、先の見えない暗闇。
「おお、おおお……おおおおお…………」
「ダンジョンでそんなに興奮する人、初めて見たわ。大抵の場合、思ってたより普通の空間だからがっかりする人のほうが多いんだけど」
「だ、だって、だってダンジョンなんですよ! これはダンジョンなんですよ!」
確かに、光景自体はそこまで特別な感じはしない。
だけど私には、まさに前世で想像していた通りのダンジョンダンジョンした光景が新鮮なのだ。
そこに加えて、ここには魔物がわんさかいて、誰に咎められることなく狩り放題。
そんな贅沢、覚えちゃって本当にいいんだろうか。
今後、ダンジョンの無い生活で、禁断症状に苦しんだりしないだろうか。
「どうしましょうねえさま、私、ダンジョン中毒になっちゃうかもしれません」
「まず何がどうなってそうなったのか、一から話してもらえる?」
そう言いながら、リンカねえさまは頭を抑える。
どうやらまだ二日酔いで苦しんでいるようだ。
本当にお酒に弱いんだなぁ。
「まぁ、そうですね。リンカねえさま、もう一度ダンジョンについて教えてもらってもいいですか?」
「復習ってことね。私としてもただダンジョンを歩くよりは頭が痛くないし、いいわよ」
というわけで、私達はダンジョンを探索しながらダンジョンについて振り返ることとした。
「まず、ダンジョンっていうのは――宿痾の巣よ」
ダンジョンと一言にいっても、その由来は世界によって異なるだろう。
この世界は、宿痾の主が巣を作ることでダンジョンは発生する。
宿痾の”主”というくらいなのだから、巣の一つくらいは作るのだ。
瘴気によって空間が捩じ曲がり、空間からは魔物が這い出そうとしている。
それを人類が強引に蓋をすることでダンジョンは完成する。
「人類と宿痾は互いに敵対しているけど、ダンジョンの維持という側面においてはある種の共生関係とも言えるわね」
「ダンジョンからは無数の魔物が出現し、それを倒すことで収入を得られますしね」
「でも、宿痾の最終目標がダンジョンから人間を排除し、百鬼夜行をダンジョンの外にまで及ぼすことに変わりはない」
逆に、人類にとってもダンジョンの制覇は冒険者における最高の栄誉と言われている。
過去に幾つものダンジョンが、英雄と呼ばれる冒険者や七刀によって制覇され。
伝説は、各地に残されていた。
なおダンジョンは発生することで経済活動を産むので、国の指導者としては維持したいところではあるのだが。
もし仮に、少しでも制御に失敗して魔物が漏れ出し百鬼夜行が起きたら、その時点で国の権威は地に落ちる。
なので、ダンジョンが制覇されたらその時はその時くらいの考え方が現在の主流だそうな。
「カグラは、このラリスのダンジョンを制覇したいって思ってるの?」
「そうですねぇ、もし制覇できるならそれは光栄ですが」
「ですが?」
「……いえ、お気になさらず」
当然ながらこのダンジョンにも宿痾の主はいる。
しかし、なんとなくそれが引っかかるのだ。
このダンジョンは大陸有数の大規模なダンジョン。
加えてシドウ様までこのダンジョンにいて。
ダンジョンが制覇されてないというのは、何かおかしくないだろうか。
ただ、リンカねえさまの様子を見た感じ、リンカねえさまはまったくそれを疑問に思っていない。
つまりそれは、何かしら私の知らない公然の秘密がこのダンジョンには存在している気がしたのだ。
そういう公然の秘密を、うっかり踏み抜いてしまいそうで怖かった。
「それにしても――」
「どうしたの?」
「……あんまりモンスター、出ませんね」
「そりゃだって……ここは第一階層だもの」
第一階層。
つまり、ダンジョンの中で最も浅く危険度が低く。
そして冒険者が多い。
さっきから、何度か新人っぽい冒険者とすれ違っていたが。
どうやら普段からこんな感じのようだ。
「魔物は見つかり次第退治されるし、なかなか出くわす機会すらないのよね」
「むぅ、それなら私達はさっさと次の階層に行ったほうが――」
どうやら、この階層に長居は無用らしい。
それが解ったところで、足の進みを早くしようとしたら。
ふと、ある気配を感じ取った。
「……何か感じたの?」
「遠くから、悲鳴のような音が」
加えて、何かが暴れるような音がする。
これはなんだかまずいんじゃないか、と思い視線をリンカねえさまに向ける。
「そうねぇ、とりあえず行ってみましょうか」
「ですね」
直感的には、そこまで危ないものではない気もするのだが。
だからといって無視していいはずもなく。
私達は急いで音のした方向へ駆け出すのだった。
+
そして、私達が見たものは――
「ぐあははははは! ほぉら逃げろ逃げろ! 逃げねぇと踏み潰されちまうぞ!!」
新人冒険者を追い回している、シドウ様の姿だった。
「ええ……」
「何やってるのよ、あの大人!」
あまりにもあまりな光景に、私はドン引きしてリンカねえさまは怒った。
そして、私達が接近していることはすでに気づいていたのだろう。
ニカっと笑みを浮かべてシドウ様はこちらに視線を向けてきた。
「なんだなんだ! 次に俺の餌食になりたいのはてめぇらか!?」
「餌食になってもいいのですか!?」
「逆に餌食にしてやる、って顔で言ってんじゃねぇよ!」
いいながらも、逃げ惑う新人冒険者をシドウ様は追いかけている。
時にはふっ飛ばし、時には踏み潰し。
意外なのは、彼らがそこまで大きな怪我を負ってないことだ。
シドウ様が手加減しているのだろう。
「で、何してるわけ?」
「これは教育的指導ってやつだぁ! こいつらはなぁ、第一階層のぬるま湯に浸かってる冒険者の風上にもおけねぇ連中だ!」
なんでも、第一階層は命の危険が少ないものだから、冒険者としてのキャリアをここで満足してしまう人がいるそうだ。
魔物を狩りながら宝箱を探し、もし見つかれば一ヶ月は遊んで暮らせる。
そうでなくとも魔物を狩っていれば最低限生きていくには困らないのだから、第二階層以降に潜る理由はない。
みたいな。
無論、それを本気で仕事にしている冒険者もいるけれど。
大抵はやる気がないからそうしているだけだという。
勿体ないなぁ。
「そこで、俺が定期的に暴れまわって、こいつらのケツを叩いてるってわけよ。こんな目に遭うくらいなら、第二階層でまともな冒険者家業をしたほうがマシだって思うようになぁ!」
「理屈はわかるけど……なんて勝手なのよ、全く」
「おいおい、一応は正式にギルドから依頼が出てる正当な行動だぜ、これは」
「依頼を出させた、でしょ!」
――――ふむ。
ようするに、つまり。
「でしたら、シドウ様」
「お、なんだ?」
私は、そこである提案をしようと口を開く。
シドウ様は、私が口を開くと解っていたのだろう。
ニヤリと笑みを浮かべて、視線をこちらに向ける。
そこに私は――
「それ、私も混ぜてもらっても?」
「……カグラ?」
「おう、いいぜ」
「ちょっと!?」
かくして、新人追い回しに私も加わることになった。
ひゃっほう! 暴れるぞお!
第一階層のFOE、シドウ様とカグラちゃん
肝心なところ誤字ってますね…(あとがき