転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
ダンジョン街「ラリス」のダンジョン第一階層。
そこは、怠惰な冒険者のたまり場だ。
明日のことなんてどうでもよく、今がよければそれでいい。
冒険者なんて根無し草の一人モノなわけだから。
それが許される立場であるのだ。
とはいえ、そういう冒険者が周囲から疎まれるのは世の常で。
特に、この「ラリス」にはかの七刀最強のシドウがいた。
才能を愛し、才能を磨くモノを愛するシドウにとって、そういった怠惰な冒険者は絶対に相容れない存在だ。
なので、定期的にシドウは第一階層で暴れ散らかしていた。
結果として、その横暴は成功していると言えた。
暴れるシドウにやられて、やむなく第二階層へ進んだ冒険者は、思ったよりも自分がそこで戦えることに気がつく。
理由は怠惰ながらも魔物を狩って暮らしている冒険者は魔物との戦いをためらわないためだ。
そして、第二階層の魔物が第一階層と比べても、そこまで強さに違いがないこと。
彼らは怠惰なだけで、決して力がないわけではないのだ。
長く冒険者をやっていれば、最低限魔物と戦う度胸くらいは身につくのだから。
加えて、何よりも大きな理由は第二階層の魔物のドロップ素材と、宝箱の中身が第一階層よりも高く売れることだろう。
結果として生活は楽になり、成功体験を得た冒険者は少しずつだが下の階層でも活動することとなる。
こうして、なんだかんだ大抵の冒険者はシドウの思惑どおり、第二階層へ進むわけなのだが――
中には、そうも行かない冒険者もいた。
極端に怠惰だったり、シドウの横暴に反発しているうちに引っ込みがつかない場合だ。
前者に関しては、シドウも諦めている。
というか、シドウがここまで暴れてもなお怠惰を良しとする冒険者は
そういう冒険者は、そもそも怠惰でいるために努力をしている。
第一階層でも問題なく生きていけるような、ルーティンが完成しているわけだ。
なのでシドウも、そういう怠惰の天才に対しては特に何も言うつもりはなかった。
問題は、シドウの横暴に反発して引っ込みがつかなくなったものだ。
シドウは目的こそ第一階層で怠惰を貪る者たちの救済を目的としている。
だが、その方法はご覧の有様で、横暴極まりない。
自然と、最初の内は反発も大きかった。
しかしいつの間にか、第二階層へ進んだ冒険者が多くなると、反発も収まっていく。
そんな中で、最初のうちに強く反発した結果、引っ込みがつかなくなり。
未だにシドウへ反発している冒険者もいるのだ。
シドウを悪魔だなんだと言って、シドウから逃げている。
そんな彼らの前に、新たな悪魔が現れた。
名をカグラ、先日修練場で大騒ぎを起こした剣の里の剣士だという。
また剣の里かぁ、と彼らは思った。
実際、剣の里の評判に違わずカグラはやばかった。
まず何よりすごい笑顔で自分たちを追いかけてくる。
シドウはまだ、暴れながらもその行動には若干の理性が見えた。
しかしカグラは違う。
完全にイっちゃってる変態の笑みで彼らを追いかけ、時にはしばく。
『変態修羅』の名は伊達ではなかった。
だが、カグラは胸がクソほどデカかった。
幼い体躯の割に、驚くほどデカイ胸を携えて近付いてくる。
笑みはどこか発情しているかのようで、どう考えても幼くは見えない。
正直、ちょっと新しい性癖に目覚めかけたものもいた。
容姿だって優れている。
もともと剣の里の人間には美形が多いと言われているが、カグラのそれは群を抜いていた。
「ラリス」のアイドル、シドウの娘レイナにも負けずとも劣らない。
レイナが「シドウの娘でさえなければなぁ」と言われるように、カグラもまた「剣の里の人間でなければなぁ」と思われるくらい顔が良かった。
そして剣の里の人間であるという事実は、そんな顔の良さを霞ませるには十分な情報だった。
が、それでもやっぱり見惚れてしまう者はいた。
そして胸を見ながらしばかれた。
結局、どれだけカグラの見た目と胸がよくたって、やばいやつには変わりない。
シドウを悪魔と見做している彼らにとって、カグラの所業はシドウの同類だ。
受け入れるわけには行かない。
しかし、ふと一頻り彼らをしばき倒したカグラは、彼らを一箇所に集めてこういった。
「――思うんですけど、行きたくないなら第一階層に居座ってもいいのでは?」
思っても見ない発言だった。
シドウはすくなくとも、彼らの怠惰をよく思っていない。
だからそれに同調したカグラも、怠惰を良しとはしないだろう、と。
そもそも、そんなことを聞くならどうして自分たちをしばいたのだ?
「しばきたかっただけですが」
あっはい。
この娘シドウよりやばいんじゃ、みたいな空気がしばかれた者たちの間で広がる中。
カグラは遠慮なく続ける。
「別に、本気で第一階層に居座ろうと思うなら、シドウ様は何も言わないと思うんですよ」
それは、実際その通りだ。
本気で第一階層に居座ると決めた怠惰の天才をシドウは咎めない。
だったら自分たちも、本気で第一階層に居座ったら?
きっと、シドウは何も言わないだろう。
でも、それが面倒だから彼らは第一階層に居座っているわけで――
「あなた達が何気なくやっている、居座る技術。これって結構価値があると思うんですよ」
――確かに。
いくら怠惰だからって、毎日を食うに困らないくらい働くには、それなりの技術がいる。
第二階層へと誘導された第一階層の冒険者が、案外難なく第二階層を探索できるのはこれが原因だ。
ゆえに、その技術には価値があって――
「
カグラは、その技術を金に変える方法を知っていた。
売ると言っても、どうやって。
疑問に思う彼らの前で、カグラは朗々と説明した。
「これだけノウハウが溜まっていれば、どこかしらに需要はあります。それを教える形で金を集める。悪い方法ではないんじゃないですか?」
だが、すぐに問題視する声が上がる。
曰く”そんなことしてたら俺達の取り分が減らないか”とのこと。
「それに関しては問題ありません。そもそも、ラリスのダンジョンって広すぎるんですよ」
加えてもう一つ。
もし仮に、ノウハウを買い取る冒険者がいたとしても、そういう冒険者はすぐに第二階層へ向かう。
それくらいやる気に満ちているということだ。
だから問題ないと、カグラは言う。
「まぁ、これはあくまで一つの方法に過ぎません。ようするに、楽をしたいなら楽をする方法はいくらでもあるということですよ。それを、考えてみるのも悪くはないと思いますよ?」
そうやって笑うカグラは、彼らにとっての光となるには十分だった。
正直、シドウが自分をムチに、カグラを飴にするために引き入れた気はするのだが。
それはそれとして、優しい言葉をデカパイの美少女からかけられて揺らがない男はいなかった。
流石に年齢がアレだから、実際に手を出そうという大人はいなかったものの。
デカパイに貴賤はないので、彼らは拝んだ。
正直に言うとカグラにしてみれば、一頻り遊んだ後に満足したので色々と話しをしたに過ぎない。
言っていることも、そこまで具体性があるものではなかった。
売り方はどうするのか、とか。
売った後はどうするのか、とか。
色々と考えることはあるのだが、とりあえずまぁ細かいところは「ラリス」の人間に任せればいいか、と投げた。
かくして、彼らはカグラのことを「天使」と呼称するようになった。
自分たちをすくい上げようとしてくれた少女に、感謝の意を伝えるために。
なお、後にこの時のカグラの行動が「喧嘩売ったら買ってくれる人増やしたい」と言う打算まみれな狙いによるものだったことが判明するが。
それはまだ少し先のお話。
カグラは基本目の前の欲望に忠実に生きています。