転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
あれから私は、ダンジョンの攻略を続けた。
ダンジョンには転移陣と呼ばれる特殊な入口を通じて侵入する。
この転移陣、一度階層を突破すれば、突破した階層までなら自由に転移が可能なのだ。
なので、日数をかけて少しずつ突破していく。
リンカねえさまも、「ラリス」のダンジョンには上の方の階層までしか潜ったことがないらしく。
私のダンジョン攻略を手伝ってくれた。
といっても、正直言って上層はさほど特筆することがなかった。
魔物の強さもそこまでではなく、攻略を優先しているから宝箱も見つけていない。
宝箱には魔導袋のような、普通ではありえない特殊な魔術的効果の付与された物品などが入っている。
なぜそんな物が見つかるのかは謎だ。
宝箱には、ダンジョンの中で死亡した冒険者の遺品だという説もあるが。
ダンジョンの宝箱からしか見つからない魔道具も多い。
ダンジョンが宿痾の巣なら、どうして人間に都合の良い宝箱なんてものがあるのか。
撒き餌、とも言われるが結論は出ていなかった。
というわけで、ずんずんとダンジョンを攻略していると。
私とリンカねえさまが休日にしようと決めた日に、シドウ様が訪ねてきた。
「おう、今日は休みみたいだな、カグラ」
「おはようございますシドウ様。急にどうしたのですか?」
普段は、私とあまり顔を合わせることのないシドウ様。
レイナさんとは夕飯をよく一緒にするのだが。
シドウ様とは、最初にダンジョンへ入った日以来だな。
「いやぁ、暇なら少しお前さんを遊びに連れ出そうかと思ってな」
「ほほう、遊びですか。言っておきますが私の娯楽は常に鍛錬と鍛錬と鍛錬だけですよ」
「それ……よく飽きねぇな」
「楽しすぎて毎日やってます。シドウ様もどうですか?」
「俺にはもう伸びしろがねぇんだよ」
残念、断られてしまった。
今日は特に用事がなければ1日中修練場で鍛錬をしつつ、誰か喧嘩売ってこないかなぁとチラチラする一日にする予定だったのだけど。
「ま、そういうことならお前さんにちょうどいい遊びだろうよ」
「どんな遊びなんですか?」
誘われたからには、どういう遊びなのかは気になる。
そこで帰ってきたシドウ様の答えは――
「ま、大人の遊びってところだな」
なんだかえっちな雰囲気だった。
+
冒険者が嗜む大人の遊びと言えば、酒と女が鉄板だ。
だけど前者は年齢的に飲まないし、後者はそもそも私が女である。
今の”カグラ”になってからというもの、性欲という言葉にはとんと疎くなっていて。
正直、あまり興味はそそられない。
ただシドウ様が連れ出した大人の遊びは、それらではなく――
「ま、一言で言えばギャンブルってやつだな」
――カジノだった。
なんとこの「ラリス」、大きなカジノが存在しているのだ。
そりゃまぁ、荒くれ者の街なんだからカジノの一つくらいありますよね。
一応、存在自体はリンカねえさまから聞いていた。
何やら意味深に語っていたのだが――
「ここの支配人が俺なんだよ」
「そうなのですか?」
「ま、名義を貸してるだけだがな」
なんでも、シドウ様がこのカジノを取り仕切っているらしい。
本人の言う通り、経営は完全にお任せで名前だけ……みたいな感じらしいが。
とはいえ、なぜそんな体制になっているかは理解できる。
「賑やかですねぇ。それでいて、辺りで喧嘩が起こってません」
「俺の名前を出されて喧嘩できる奴がいたら、そいつはとんでもねぇ大物だよ」
「シドウ様、今ここで私と喧嘩しませんか?」
「てめぇみてぇな、な」
いやだって、それはフリというやつでは?
ともかく。
カジノに入ると、そこには多くの人がいた。
装飾はとにかく豪華の極み、外の荒れ地に建てられた素朴な建造物とは見た目も中身も一線を画する。
いやまぁ、娼館街に行けばこういう建物は増えるみたいだけど。
とにかく、いかにもファンタジー世界のカジノという感じで、ちょっとだけ興奮した。
しかし、だ。
「……正直、ギャンブルといってもあまり気乗りはしません」
「真面目だな」
「いえそうではなく……やっぱり鍛錬をしてるほうが楽しいんですよ」
「はは、そういうと思ったぜ」
カジノがどういう場所か、というのは興味があった。
前世でも訪れたことのないような場所だ、ちょっとした非日常が味わえるだろうという期待はあったのだ。
実際、その期待にカジノは十分応えてくれる場所だった。
ただ、ぶっちゃけ私がギャンブルをする必要はないと思う。
カジノをぐるぐる回って、ギャンブルをしている人を眺めながら雰囲気を楽しめれば十分ってところ。
しかし、それならシドウ様が熱心に私を誘ったりはしないだろう。
「ま、本命はギャンブルじゃねぇけどな。お前さん好みのおもしれぇ見せ物があんだよ。が、その前に……だ」
「本命は楽しみにしておきますが、その前に?」
「いっぺん、なんでもいいから賭けてみようぜ」
ふむ。
気乗りがしないと言った側から、これだ。
まぁでも、意図はわかる。
ギャンブルという舞台で、私の”才”を測りたいのだろう。
賭けとは、言ってしまえば一種の闘争だ。
勝てばお金が手に入り、負ければ失う。
その中で見えてくる強さもある、というのはなんとなくわかる。
「といっても、ですねぇ。まずスロットはだめですよね?」
「目押し出来ちまうからなぁ、俺も出禁くらってら」
「対人要素があっても、私露骨に強いですよ?」
「ポーカーとかな」
はっきり言って、私がギャンブルをやっても一部のゲームは荒稼ぎして終わりだろう。
身体スペックが高すぎるのだ。
人読みが発生する対人ゲームも、間違いなく理不尽が降臨する。
とすると――
「純粋な運を競うゲーム……ハイ&ローとかどうだ?」
「……まぁ、その辺りですかね?」
求められるのは、幸運と直感。
確かにそれなら、私でも普通にゲームが成立するだろう。
本命前の余興としてなら、確かに面白そうだ。
というわけで、早速挑戦してみたのだが――
「次は10だ、どっちに賭ける?」
「……ハイで」
「おいおいまたかよ。……んで、12。なぁおい支配人! この巨乳娘はどうなってんだ!」
「ははははははははは!」
ぶっちゃけて言おう、大勝した。
ちょっと意味わからないくらい勝ててる。
前世では、そんな幸運なかったのだけど。
なんか、直感の赴くままに賭けると、絶対に勝利してしまうのだ。
ディーラーは泣きそうになってるし、シドウ様は爆笑してる。
「やっぱりなぁ、こうなるんじゃないかと思ってたぜ!」
「シドウ様、結果が見えてたのに私にギャンブルを唆したんですか?」
「勘弁してくだせぇ支配人! 怒られるのは俺なんですぜ!?」
そしてとうとうディーラーは泣き出してしまった。
仕方がないので頭を撫でて慰めておく。
おいこら、胸を見ていいとは言ってないぞ。
しかもそれで泣き止むな、現金すぎるだろこいつ。
それはさておき。
「お前さんはなぁ、天運に恵まれてんだよ。人ってのは、一度とんでもねぇ幸運に見舞われると、その幸運が
「ははぁ」
そういうことなら、まぁ納得はできる。
なにせ私は転生者、一度死んだのに前世の記憶を引き継いであらたな人生を送ることが出来ている。
これを幸運と呼ばずなんという。
と、そこまで考えて。
――直感的に、違うな? と思ってしまった。
いやだって、確かに転生したのは幸運だけど。
その前提として、前世の私は若くして亡くなっている。
前世で好きだった娯楽をすべて失い、娯楽に飢えていた幼少期は幸運と言えるのか?
差し引きはプラマイゼロのはずだ、その場合。
で、アレば私が天運に恵まれた原因は――
「……なるほど、胸がめちゃくちゃ大きくなったからですか」
それしか考えられないようなぁ、としみじみ思うのだった。
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