転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
剣の里には、時折どうしようもなく剣に愛された人間が生まれる。
そういった天才たちは、どこか人格が破綻していて、壊れている。
だが、人の道を外すほどではない。
そんな、ギリギリ人間の側に立って剣を振るうことができる者たちに剣の里は――
七刀――という称号を与えていた。
そんな七刀達は、基本里の外で自分たちの目的のために活動している。
時にはそのズレた性格のせいで周囲との不和が発生することがあるが、それでも剣の里の知名度を世界に知らしめる広告塔として、彼らは一役買っていた。
そんな彼らと同様に、時として人格が破綻しながらも
そういった存在は、強さを求めるあまりに七刀達がギリギリではずれなかった人の道を外れてしまう。
これが剣鬼だ。
そして意外に思うかも知れないが、カグラは剣の里の人間としては才能がない部類に入る。
人より多い魔力量も、あくまで凡人の範疇だ。
無論、カグラは努力の天才ではある。
だがそれは剣の才能とはまた違うもので、剣の里が輩出する天才とは別枠のものだ。
剣の里が輩出する天才は、そもそも生まれた時から完成している。
カグラは当初、岩を斬ることができなかった。
だが、彼らは剣を握ったその時から、岩を斬る方法を理解している。
だから、恐れていたのだ。
カグラの父である男は、カグラが剣鬼なのではないか、と。
天才ならば、それでいい。
しかし、剣鬼であるならカグラはいずれ望んで人を斬る。
今はまだ、大人しく人としての生活を送っていたとしても、だ。
妻を瘴気の汚染によって亡くして以来、男は娘のカグラを一人で育ててきた。
故にカグラの親である男にとって、妻のたった一人の忘れ形見である娘を斬ることは、筆舌に尽くしがたい躊躇いがあったのだ。
結果として、カグラは剣鬼ではなかった。
剣鬼と呼ぶにはあまりに人の道理を理解しすぎている。
多少浮世離れした所はあるけれど、あくまで普通の人の子なのだと。
そう、カグラの父は考えていた。
とはいえそうなると、やはりカグラは天才でもないのだろう。
天才とは、剣鬼ほど人の道理から外れていないものの、人とは決定的にズレている存在だ。
少なくとも、カグラにそのようなズレはない。
多少同年代の教育に悪い部分はあるが、人格が破綻しているというほどではなかった。
剣鬼ではなく、さりとて天才でもなく。
そんなカグラのことを、里の人間は「修羅」と呼ぶ。
強迫的なまでの鍛錬への執着から、そう呼ばれているらしい。
あるいは、魔物と戦う際の狂気的な笑み故に。
確かに、そんな里の人間の評価は正しいのだろう。
しかしどうにも、カグラの父は腑に落ちない所があった。
そもそもどうして、カグラはそれほどまでに剣に魅入られているのだ?
その答えを、カグラの父は百鬼夜行の中で知った。
初めてカグラと肩を並べて戦った時、否応なく理解してしまったのだ。
戦いの中で目にしたカグラの剣は――
あまりにも、
思わず、見惚れてしまうほどに。
剣の技術が優れているのではない。
カグラの戦い方は、魔物との戦いで身につけた独学の色が強かった。
総合的な戦闘能力で言えばカグラは既に父を凌駕しているが、単純な技量であればまだまだ父は負けていないのだ。
であれば、何がカグラを美しいと思わせるのか。
カグラの動きは、彼女が思い描いた動きをそのままなぞることに特化している。
思うがままに、自由気ままな剣筋を。
それは、理論や感性とはまた違う、目指したい剣を明確にしているがゆえの剣。
魔力を通せば、人は尋常ならざる身体能力を手に入れる。
それはこの世界の人間にとって常識であり、魔力を扱う前から身に染み付いている事実だ。
しかしカグラの動きは違う。
まるで、魔力の身体強化によって動き回ることが
ああ、なんだ、と。
カグラの父は理解してしまった。
確かにそれほどまでに自由自在に剣を操れれば、強くなるのが楽しいに決まっている、と。
彼もまた、天才に憧れた凡人側の人間であるがゆえに。
――そうしているうちに、百鬼夜行は一旦の落ち着きを見た。
根源となる宿痾の主を叩くまでは、定期的に発生するものの。
今日一日を乗り越えたことは、剣の里にとってあまりにも大きい。
里の家屋は半壊してしまい、けが人もいる。
だが、死人は出なかった。
守られた子どもたちと、戦う力のない者たちは素直にその事を喜んでいる。
しかし、大人たちの空気は重かった。
今日の生存はあまりに大きい、しかしそれは同時に。
生き残れる確率が、零から一になっただけの話なのだから――
「父上、これから私達はどうするのですか?」
そんな時、カグラが声をかけてきた。
カグラは、明らかに疲弊している。
重そうな瞼を何とか堪えつつ、それでもこの後のことを問いかけてきている。
そんなカグラを見て、父は諭すように言った。
「百鬼夜行は、まだ終わってはいない。この百鬼夜行は、自然発生したものではなく”宿痾の主”と呼ばれる強大な魔物が起点となっているのだ」
「それは……その魔物を討伐すれば、百鬼夜行が終わるということですか?」
「そうだ。……しかし、討伐は難しい。”宿痾の主”は通常の主ですら討伐するなら七刀級の使い手が必要になる」
もし仮に、里に現れたのが六大宿痾だったりしたなら、七刀が複数人必要になってくるだろう。
幸い、出現した魔物の強さからして、六大宿痾が出現したわけではなさそうだが。
何にせよ、現戦力で討伐できるものではない。
つまりこれから剣の里が取るべき行動は――
「――父上」
ふと、カグラの声に鋭さが宿る。
カグラは抜けている所はあるが、基本的に聡明だ。
父の言いたいことを、理解してしまったのだろう。
できることなら、この話は一度カグラが身体を休めてからしたかったのだが――
「それはつまり、里を放棄するということですか」
その問いかけに、疑問符はなかった。
既にカグラは確信を得ているのだ。
だからこそ、父も否定はしない。
「……そうだ」
「でしたら、一つ疑問があります。里を放棄することは、父上としては苦渋の決断だと思いますが……あまりにも今の父上は辛そうです」
「……そんなことは」
「百鬼夜行を一度退けたのなら、次の百鬼夜行までに逃げ切れば助かる……多くのものはそう思っています。だったら、そんな顔をする必要はないはずです」
その言葉を、父は一切否定できなかった。
する必要がないと、解りきっていたからだ。
そしてカグラは結論を、口にする。
「まだ、百鬼夜行は終わっていないのですね。宿痾の主を退治しない限り、私達が生き残る目はあまりにも少ない」
「……そうだ」
そうだ、まだ何も終わってはいない。
宿痾の主は、退治しきらない限り里の脅威であり続ける。
里を放棄しようとも
「でしたら――」
カグラは――
「でしたら、明日のうちに私が宿痾の主を討伐します」
力強く、そう言い切った。
一瞬、あっけにとられる。
なにせカグラは、本気で宿痾の主を倒せると判断していた。
確信している、と言ってもいい。
だが、言うまでもなく父がそれを承諾できるわけがなかった。
「ダメだ。危険すぎる。確かに今、この里でカグラに勝てる人間はいない。しかし、それでも宿痾の主は無茶だ」
もし仮に、カグラに宿痾の主を倒す方法があったとしよう。
だが、方法あったとしても、父がカグラの独断を許すことはない。
というよりも、許す理由がないのだ。
父として、娘の無茶は看過できない。
里の長として、最大戦力の独断専行は許容できない。
だが――
「でしたら、父上。私の話を最後まで聞いてから、判断していただけませんか?」
構わずカグラは、力強く言った。
その瞳に、父はカグラの母――自身の妻の瞳を思い出す。
それはあまりにも――鋭く、こちらを射抜くかのような瞳だ。
そして、先程みたカグラの剣を思い出した。
アレは父のものとも、母のものとも違うカグラの剣だ。
カグラが魅入られ、そして目指した剣だ。
それを思い出した時、父はなんだか自分がどうしようもなく情けなく思えてならなかった。
なにせ、父はカグラを剣鬼ではないかと恐れていたのだ。
しかし今のカグラはどうだ、正面から父と相対し里を守ると力強く宣言している。
思わず、信じてもいいのではないかと思ってしまうくらい。
こんなにも真っ直ぐな少女が。
あんなにも美しい剣を振るう剣士が――鬼であってなるものか。
「――聞かせてくれ、カグラ」
だから、父は促していた。
倒すということは、カグラには誰も知らない切り札があるということだ。
それは、カグラがこの二年の鍛錬で手に入れたものだ。
自分と妻の子が、この二年間。
一体何を目指して、鍛錬を積み上げてきたのか。
それを問うために、カグラの言葉を、父は待った。
カグラが人前で魔物と戦ったのは本編内のゴブリン戦と、回想内のものだけで、父は後から駆けつけたのでその様子は見ていません。
また、日間一位ありがとうございます!
多くの方に読んで頂き、大変うれしく思います。
概ねTSのせいで周囲に脳破壊的勘違いを巻き起こしつつ。
修羅な主人公(美少女)が切った張ったする話になります。
よろしくお願いします!