転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
「――姐さん、俺と戦ってくれやせんか?」
ダグスさんのそんな頼みごとを聞いて、私はついにこのときが来たかと思った。
以前から、ダグスさんが何やら準備をしていることは解っていたのだ。
剣の里の剣士を探した時の様子からして、それが私と戦うためのものであることは明白。
というよりも、正確に言えば。
「ようやく、姐さんに”勝つ”ための準備ができやした」
私に勝つために、ダグスさんは研鑽を重ねていたのだ。
果たして、どれほどの鍛錬を積んだのだろう。
どのような対策を施してきたのだろう。
一体どこまでダグスさんは強くなっているのだろう。
ダグスさんが準備をしていると悟ってからは、意図的にダグスさんから情報を読み取らないようにしていた。
そのうえで、ずっとずっとずっっっっっっと想像に想像を重ねてきたのだ。
どんな手段で、私に勝とうとしてくるか。
それを何通りも何通りも、来る日も来る日も考え続け、時折興奮で鼻血が出た。
ついには先日、考えすぎて一睡もできないほどに私は興奮してしまっていたのである。
さぁ、いまこそダグスさんの申し出に、剣の里の剣士として毅然に返す時だ。
かっこよく、いい感じに、返事をしてみせようじゃないか。
そう思って口を開いて――
「うけへたちまひょぉ……むにゃり」
そのまま地面に倒れ込んだ。
興奮の糸が切れ、睡魔が一気に私を襲ったためである。
「ね、姐さーーーーん!」
倒れた私に駆け寄ってくるダグスさんが、私の見た最後の記憶だった。
+
生きてます。
寝ただけで死んだわけじゃないので、数時間ほど眠れば私はすっかり元気になっていた。
時刻もちょうどお昼を過ぎた辺りで、簡単に昼食を済ませてからダグスさんと修練場に向かう。
私達が修練場に入ってくると、周囲の気配がしん……と静まり返った。
興奮しまくっている私をみたから――ではない。
そんなもの日常茶飯事なので、もはや誰も気にしない。
彼らが静まり返ったのは、ダグスさんの闘志に呑まれたからだ。
「ようやく、ようやくこのときが来やしたぜ。姐さん」
「光栄ですね、そこまで私のことを思っていただけるとは」
そうして私達は、互いに向かい合って己の得物を構える。
私は言うまでもなく疾討だが――
「以前使っていた剣とは、別のものですね」
「へへ、とっておきってやつでさぁ」
以前――私がシドウ様を探すために暴れまわり、目的を忘れていたところに止めに掛かった時の剣。
アレは市販の剣って感じだったけど、今度はいかにも魔道具って感じのデカくて分厚い剣である。
ダグスさんは恰幅が良いので、とても似合う。
――辺りを見れば、シドウ様とリンカねえさまの姿も見える。
シドウ様が直接顔を出すのは珍しく、多くの冒険者が驚いている様子だった。
レイナさんの姿は見えないが、気配はある。
おそらくシドウ様と一緒にいると視線を集めるから、それを避けるために変身してどこかにいるんだろうな。
ともあれ。
「では、――参ります!」
「どこからでも、来てくだせぇ!」
かくして、私とダグスさんの仕合が始まる。
開幕、遠慮なく正面から切りかかった私の剣をダグスさんが弾く。
重く鈍い、響くような衝撃が腕に奔った。
「……~~っ!!」
思わず叫びそうになるのをこらえ、更に剣を振るう。
しかしそれもまた、正面から弾かれてしまう。
なんとか今度は衝撃を逃がしたものの、手が熱い。
それの意味するところは――
「……私以上の膂力ですか!」
「そういうことでさぁ!」
純粋なパワーで、ダグスさんが私を上回っている。
これまでに、速度で私を圧倒しようとしてきた人は何人かいたけれど。
パワーで上回ろうとしたのは、ダグスさんが初めてだな。
ともあれ、なんとかその牙城を崩そうと刃を振るう。
そこからは打ち合いだ。
互いに剣を振るい、刀を振るい、刃をぶつけ合ってしのぎを削る。
技術の上では、当然ながらダグスさんの方が上だ。
私は普段、その差をパワーと人読みで補うのだが、今回はそうも行かない。
どれだけ攻め込んでも、力でこじ開けられないのでは打開は難しかった。
とはいえ、一つ解ったことがある。
「――その膂力、速度を完全に捨てていますね!?」
「流石に、これくらいは簡単に看破してきやすか!」
ダグスさんは速度が死んでいる。
それはすなわち、
一方的に振るわれる私の刃を、受け止めるしかない。
私が軽く距離をとっても、追いかける素振りすら見せなかった。
「では、こういうのはどうでしょう!」
そこで私は攻め方を変える。
高速で周囲を飛び回りながら、ダグスさんに斬りかかるのだ。
こうすることで、正面からだけでなく四方八方からダグスさんを攻撃できる。
攻撃の頻度は少し下がるが、それでも先程よりはダグスさんの隙を狙いやすかった。
とはいえ、ダグスさんのまもりを崩すには至らない。
何度も何度も打ち合う中、ふとリンカねえさまとシドウ様の話し声が聞こえてきた。
「――あの剣、アンタが仕込んだわね?」
「はは、流石に解るか。おうともよ、あのダグスってやつから頼まれてな。
私達が打ち合う最中で、二人が解説を始めていたのだ。
「前にアンタ、あいつはカグラと同じで自分が教える必要はないって言ってなかった?」
「そりゃ、
ようするに、私やダグスさんは自分で鍛錬の仕方を考えられるタイプである。
放っておけば勝手に強くなるし、方法を教える必要はない。
だけど、ダグスさんの「私に勝つ」という目的は、非常に短期的な目的だった。
「今の自分の実力で格上を倒す場合、必要なのは作戦だ。あの男は感覚派の天才だからな、理論立てて作戦を考えるのは苦手なんだよ」
「そこでアンタがアドバイスした、と」
「それでカグラが負けるなら、それはそれでおもしれぇしな」
シドウ様……いい性格してらっしゃいますね……
「んで、今のアレは何?」
「何って、見ての通りだよ。現状カグラは人間に対する遠距離攻撃を持ってねぇ。それなら、速度で翻弄するより迎え撃つほうが合理的だ。カグラは近接攻撃しか仕掛けてこねぇんだから」
おかげさまで、さっきから攻め込んでるのに全然ダグスさんを崩せない。
後ろから攻撃しても、何ら問題なく対応されてしまう。
まるで後ろに目がついているみたいだ。
……ん?
「それにしても……羨ましいですね」
「羨ましい、ですかい?」
ええ、と頷く。
今のダグスさんの充実っぷりは、なんというか見ていて羨ましいのだ。
「人は強くなる度に、新しい一面をのぞかせます。ダグスさんの場合は特にそれが顕著で、出会う度に強く生まれ変わっているようで……それが羨ましいのですよ」
「それはなんというか……少し小っ恥ずかしいっすね」
「ちょっとくらい、褒めたっていいじゃないですか」
言いながら、私は一度距離を取る。
改めてダグスさんと向かい合うと、初めて出会った時とは本当に見違えて見える。
あの時は私も娼婦の衣装を着ていたので、物理的に見違えているけれど。
いや、まぁ、そんなことはいいのだ。
「何より――」
「何より?」
そして私は――
「ずるいです!!」
「ずるい!?」
「シドウ様とリンカねえさまに強さを解説されてて、ずるいです!」
「そこですかい!?」
そこなのだ!
いやだって、あんなの少年漫画の解説キャラじゃないか!
誰だってバトルするなら一回はやってもらいたいやつじゃないか!
「私、あんなかっこよく解説されたことないんですよ! ずるいですずるいですずるいですー!」
「いや、ええー……」
私が駄々をコネたことで、ダグスさんが焦る。
周囲からの視線が痛いのだろう。
一応私はまだ十二の小娘なのだ。
完全に子どもに困らされる大人にしか見えない。
それ故に狼狽したダグスさんに向かって――
「隙あり!」
「ああ!?」
私は容赦なく疾討を叩きつけた。
こいつ……! とリンカねえさまは思いシドウ様は爆笑しました。