転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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五十三 カグラちゃん大興奮

 私が不意打ちをかました時、それを認識できた人間の半数が「やりやがった」と思ったようだ。

 だが、残りの半数はそういうこともある、と考えていたらしく。

 リンカねえさまが口をあんぐり開けて、シドウ様が爆笑している様子は対照的だった。

 とはいえ、不意打ちをかました私自身は――正直に言うと、これが通るとは思っていない。

 なにせ、

 

「――やはり、自動防御機能がありましたか、その剣」

「へへ、まぁそんなとこでさぁ」

 

 ――ダグスさんが、その不意打ちを難なく受け止めているのだから。

 私はあの時、不意をうつために一旦ダグスさんの後方に回った。

 そこから仕掛けたのだ。

 完全にこっちの攻撃の軌道が見えていたならともかく、不意打ちだと一瞬反応が送れる。

 その一瞬の遅れは、速度に身体強化を振っていないダグスさんなら反応できない。

 ……はずだった。

 

「自走の魔剣、だそうで。こいつと俺の膂力で姐さんの攻撃を寄せ付けない算段でさぁ」

「ねぇシドウ!? アレ貴方の剣よね!? 貴方の剣よね!? 何アレすごい羨ましいんだけど買うわよ!?」

「売らねぇよ!」

 

 説明の横で、リンカねえさまが発情していた。

 周囲の視線が突き刺さっても、気にする様子はない。

 普段の私はああ見えているのか、と。

 少しだけ自重しようと私は思った。

 

「それにしても……素晴らしいですねぇ、私を倒すための戦術ということでしたが、たしかにこれなら私はなかなか対応ができません。どうしましょうどうしましょう、なんだかワクワクがとまりませんよぉぉおお!」

「姐さん、顔! 顔!」

 

 はっ。

 私の自重は三秒しか持ちませんでした。

 でもやっぱり我慢なりません!

 

「でもこの戦術は、私が遠距離攻撃手段を持たないことを前提にしています」

「そうですぜ。けど、それは実際事実じゃねぇっすか」

「さて、それはどうでしょう――ね!」

 

 私は次なる一手を放つ。

 それは()()()()()()という方法だ。

 凄まじい勢いで疾討が回転し、ダグスさんはそれを慌てて剣で弾き――

 

「今!」

 

 私は即座に肉薄する。

 

「格闘戦ですかい!?」

「いいえ! もうすでに疾討は私の手に帰っています!」

「なっ――!」

 

 そう、その通り。

 弾かれどこかへ飛んでいったはずの疾討が、私の手の中にある。

 疾討の”呪い”を利用した戦術、以前ヨースで宿痾の主を倒した時にも、利用した。

 私に遠距離攻撃手段がない? それなら、今から作ればいいじゃないか!

 

 ――取った。

 

 私には確信があった。

 間違いなく、この一撃はダグスさんの剣では防げない。

 しかし。

 

「まだまだぁ!」

「なんですとぉ!」

 

 ダグスさんが腕をふるった。

 その腕が横から疾討を叩き、矛先が反れる。

 決着はつかない――!

 ならば、と更に連撃を加えようと刃を振るう。

 かなり無茶な状況で腕を振るっているのだ、ダグスさんは体勢を崩しているはず。

 連撃は受け切れまい――と想った瞬間。

 

 

 ダグスさんは崩した態勢を、片手で立て直しながら手の力で後方に跳躍した。

 

 

「逃げられましたか」

「ヒヤヒヤしやしたぜ」

 

 ――ダグスさんが距離を取ったことで、仕切り直しとなる。

 今の攻防、一瞬理解できず感覚だけでやり取りしていたが。

 ダグスさんの腕を振るう速さは、私の移動速度以上だった。

 

「移動速度を犠牲にしているとはいえ、私の剣速に対応するには腕の身体強化はしないといけませんよね」

 

 ダグスさんは移動速度を犠牲に膂力を得ている。

 しかし、腕だけは別だ。

 私の剣に対応するために、腕だけは早く動かせるよう身体強化をしている。

 当然と言えば当然だが、ダグスさんはそこを上手く誤魔化していたな。

 本当なら、防御ではなく攻撃的にこの切札を使うつもりだったのだろうけど。

 

「肝を冷やしやしたぜ、まさかあんな手を打ってくるとは」

「お互い様でしょう。なんにしても……ここからは、また戦い方が変わりますね」

「ええ」

 

 そうして、私は疾討を投擲するために構え――

 ダグスさんは地面を腕で掴む。

 何をするか、単純だ。

 

 ダグスさんが、両腕で地面から自身を射出し、突っ込んできた!

 

 私の投擲した疾討は弾かれる。

 ダグスさんは地面を手で蹴って、獣のように突っ込んできた。

 足の移動速度を犠牲にしたなら、強化したままの腕で突っ込んでくればいいという、あまりにも脳筋すぎる戦法だ。

 それを、手元に戻した疾討で対応する。

 

「速い!」

「まだまだ行きやすぜ!」

 

 ダグスさんの連撃が続く。

 腕で地面を飛び回るという曲芸そのものな動きをやってのけながら、剣の威力は私以上。

 非常に限定的とはいえ、私の速度と膂力を、ダグスさんは完全に上回っていた。

 更には自動防御もあるから、こちらからは牙城を崩しにくく。

 今のダグスさんは、間違いなく()()()()()()()()()()()()()()()私より強い……!

 この状況を打開するとなれば、方法は四重強化しかない。

 しかし今の私は、まだまだ四重強化を直線的な攻撃にしか使えない。

 そうなると、自動防御で弾かれてしまう。

 これでも以前の宿痾の主戦と比べれば、直線的であれば安定して使えるまでに精度を上げているのだが。

 というか、宿痾戦の最中、そこまで精度を上げたのだが。

 それ以上となると、未だに掴めていないのが現状だ。

 

「なるほど確かに、これなら私に”勝つための準備”ができたと仰るのも納得です」

「ええ、自分でも自信を持っていえやすぜ。今なら、姐さんに勝てる!」

 

 あまりにも歪な戦い方だ。

 これがリンカねえさまなら、無数の武具で簡単に対応してしまうだろう。

 シドウ様ならそもそも相手にならず、まさに私しか倒すことを念頭に置いていない戦術。

 このままでは、消耗戦になる。

 私がダグスさんに追い詰められるか、私が人読みを完成させてダグスさんの攻撃を読み切るか。

 どちらが速いかの勝負だ。

 そして間違いなく、このままいけばダグスさんが勝つ。

 腕を使う前と後で戦い方が違いすぎて、人読みが一度無駄になったのが痛かった。

 

 であれば、私が勝つ方法は何もないのか?

 否。

 答えは否だ。

 

「――ですが!」

 

 私は、ダグスさんに負けたくない。

 でも、それはなぜ?

 私が他者に勝ちたいと思う理由は、他者より強くなりたいからだ。

 私が戦いを楽しみたいと思う理由は、自分が強くなれるからだろう。

 初志貫徹、始まりを忘れてはならない。

 私の本分は、あくまでも”強くなる”こと!

 

「これまで、何度も見てきました! その技術!」

 

 私は、ダグスさんへと肉薄する。

 先程まで、腕を使い始めてからは防戦一方だったが、無理やり切り込んだのだ。

 今のダグスさんには、私が隙だらけに見えるだろう。

 しかしそれはダグスさんも同じこと。

 腕を移動にも使うということは、それだけ態勢を崩しながら動くということ。

 そうなれば、隙は多く。

 けれど、それに対処する方法が自動防御。

 すなわち。

 

 この一撃だけは。

 自動防御で受けないと行けない!

 

「だあ!」

「っ!」

 

 私とダグスさんの剣が打ち合う。

 この時点で、自動防御の効果は切れている。

 あくまで受けるまでが自動防御だからだ。

 故に、ここから。

 

「らああああああああっ!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 均衡は、容易に覆る!

 

 

 甲高い音がして、ダグスさんの魔剣は宙を待った。

 

 

 それが地面に激突すると、沈黙が広がる。

 私もダグスさんも、動かない。

 動く必要がなかったからだ。

 

「……私の多重強化は非常に繊細な代物です。ですから、身体強化の比重を寄せることは今までできていませんでした」

 

 しかし、これまで何度か眼の前で身体強化の比重寄せを見てきた。

 誰もが私と正面から打ち合える強敵で、今回。

 ダグスさんがついに特定条件下ではあるものの、私を上回る身体強化の比重寄せを見せてくれたのだ。

 これにより、ようやく私は”掴めた”。

 多重強化中でも、比重を寄せるための感覚を。

 

「確かに、先程までの私になら、ダグスさんは勝てたと思います」

「……けど、姐さんの本質は”強くなること”」

「ええ、ですから――今の私は、ダグスさんが勝とうとした私よりつよい。だから――」

 

 私は、笑みを浮かべて宣言した。

 

 

「私の勝ちです、ダグスさん」

 

 

 その言葉に、ダグスさんは諦めた様子で頷いて。

 修練場は、歓声に包まれた。




最後は真面目に決着しました。最後だけ。
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