転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
私の探知は結局私が満足するまで暴れるだけなので、あまり探索の効率を上げるわけではなかった。
でも、最低限ダンジョンの構造を知ることはできるのにはそこそこ意味がある。
これまで、階層の探索には一日から二日かけていた。
一日目で見つからなかったら、来た道をもどって階層の入口に戻らないと行けない。
これが結構手間だったのだ。
しかし、私が探知するようになってからは、出口自体は見つけられるようになったのである。
大暴れして満足したら、出口からギルドに戻るのだ。
要するに、確実に一日で階層を攻略できるようになった。
これは結構大きい。
というわけで、ダンジョン攻略もいい感じに進み。
ついに私達は――念願の下層へとやってきていた。
「下層! 下層ですよリンカねえさま!」
「そうね、ようやくたどり着いたわね」
ダンジョンには上層、中層、下層とあって。
下層が一番敵が強く、危険だ。
特に「ラリス」のダンジョンは下層からやたら敵が強くなると評判である。
具体的に言うと、中層までは多重強化いらなかったのに。
下層からは必須になってくる感じ。
しかも数が多い。
ここからは、腐蝕クモみたいな怪物がぞろぞろと湧いてくるわけだ。
「リンカねえさま! 私、ここに住みます!」
「住むなら一人で住んでちょうだいね」
「はい!!!!!!!!!!」
新居だあああああああ!
そうして駆け出そうとした私を、リンカねえさまが引き止める。
「冗談、冗談だから」
「解ってますけど言質ということにしていいですか?」
「こいつ……」
流石にそれが冗談なのは解っているけれど。
それはそれとして、私はここに住みたかった……
こほん。
気を取り直して、周囲を確認する。
「それにしても、随分とダンジョンの雰囲気が変わりましたね。なんだか、厳かな宮殿みたいですよ」
「宿痾の主の特性に影響されてるって、聞いたことあるわね」
なるほど、と頷く。
現在私達がいる下層は、概ね私が言った通りの場所だ。
ダンジョンというよりは、どこかの国の王城といったほうが正確な気もしてくるくらい。
すごくしっかりした作りである。
ただまぁ、歩いてみると迷宮らしく入り組んでいた。
「ここが実際に王城だったら、それはもう人々は苦労するんでしょうね」
「ん? いやこれくらいならヤーファンの王城よりはマシでしょ。通路だけだし」
「ど、どんだけやばいんですかヤーファンの王城」
なんでも、長年の改築によって、天然の迷宮と化しているらしい。
確かに通路以外にも多種多様な施設がわんさかあるとそれだけ複雑化しやすいのかもしれないけども。
いやでもとんでもないな……
「まぁまぁ、今はこの下層を楽しみましょうっひょおおおお!」
「ああもう! はしゃがないの! 勝手に一人で飛び出しちゃだめよ!」
ひゃあ! もう我慢できない!
突撃ぃいいいいい!
+
リンカねえさまを置き去りにした私は、現れたゴブリン型の魔物と相対していた。
ゴブリンは雑魚の代名詞だが、下層まで来ると話が違ってくる。
なんと言っても厄介なのは、数だ。
なにせこいつら、明らかに連携している。
前衛と後衛の概念があるし、弓とか使いこなしているぞ。
とはいえ、こいつらには致命的な弱点があった。
それは――
「やあ!」
私が魔力を刃にして放つ。
後衛の放った弓、突っ込んでくる前衛、そして後方の指揮官と思われるゴブリン。
それらが、私の魔力刃で
魔物に対しては、かなり有効な攻撃手段であるのは確かな魔力刃。
だが、流石に他の下層に出現する魔物相手にここまでの効果はない。
ゴブリンの数は厄介で、連携まで行ってくる……が。
単体の能力は下層の中では底辺のため、まとめて薙ぎ払える出力には弱いのがゴブリンであった。
「次!」
次はもっと大型の魔物がいいな、と思っていると。
大型の亀みたいな魔物が現れた。
名前はなんと言ったか……思い出した、「デッカメ」だ。
うお……デッカメ……
(カグラとデッカメ、世紀のデッカ対決よ……!)
ええい、だまりなさい脳内のリンカねえさま!
リンカねえさまは置いてきたので、今この場にはいませんよ!
雑念を振り払いつつ、刃を振るう。
するとデッカメは私の刃を受け止めた。
「かった!」
あまりに硬い。
三重強化をしているのに、この硬さ。
しかも私の一撃を受けても構わずデッカメは足を振り上げてくる。
慌てて距離を取ると――
足が地面に叩きつけられると同時、地面がたわんだ。
「ぐわわーん!」
ぐわんぐわんと、すごい勢いで地面が揺れている。
現実的な地震ではなく、地面が波のようになっているのだ。
デッカメの固有能力といったところだろう。
とにかく、足場が揺れて安定しない。
そこに――
「はっや!」
デッカメは、一瞬で肉薄してきた。
あまりにも速い、どういうことか。
おそらくだが、地面が揺れている間は高速で移動できるのだ。
揺れている地面を蹴ると、すごい加速で突っ込めるとかそんな。
勢いも半端ない、これを受け止めるのは至難の業だろう。
通常なら。
「でも、今の私なら……!」
私は、即座に身体強化を腕だけに集中させる。
そして突っ込んできたデッカメの体を刃で受け止めると――
「だっらあ!」
そのまま、後方に受け流した。
宙を舞うデッカメ。
最終的に腹を見せて倒れてしまう。
今だ、と私はデッカメの腹に斬りかかり――デッカメを撃破する。
ふう、と一息。
下層の敵は、何かしらの個性みたいなものを有している事が多い。
ゴブリンであれば、数と連携。
デッカメであれば、地面揺らしと揺れている最中の高速移動。
非常に多彩で個性的。
戦っていて、これほど心躍る敵はそういない。
ああ、天国!
あまりにも天国!
思うがままに刃を振るいながら、私はダンジョンを駆けていた。
+
そして、しばらく経って。
私の姿はダンジョンの階層出口にあった。
というか、リンカねえさまに捕獲されてここまで連れてこられていた。
「ほら、帰るわよ! もう今日の探索も終わったんだから」
「いーやーでーすーーーー! 私はここの子になるんですーーーーっ!」
じたばた、じたばた。
四重強化で暴れているというのに、リンカねえさまの手から逃れることができない。
これには理由があって、ダンジョンに潜る前に約束をしたのだ。
「アレだけ、下層に行く前に約束したじゃない。出口を見つけたら夕飯前に帰還するって」
「夕飯ならダンジョンに山程ありますよ! コドクヘビとかどうですか!」
「ゲテモノの極みじゃない。とにかく、この契約護符がある以上、どうやったって逃げられないわよ!」
「うーあー!」
で、その約束をとある魔道具に誓っているのだ。
契約護符という魔道具で、契約者が契約を破ると効果を発揮する。
どんな効果を発揮するかも、契約を行う時に決定できるので非常に便利。
まぁ、今回は私がその契約護符のせいでリンカねえさまに捕まっているのだけど。
「後一匹だけ、後一匹だけ倒させて下さい!」
「それは無理よ」
「なんでですかー!」
とにかく、私はまだまだ満足していない。
なんとかして魔物を倒したいのだけど、リンカねえさまが許可してくれなかった。
ただ、理由はとても単純で。
「だって、この階層にもう魔物がいないから」
それを聞いた私は、思わず視線をそらして沈黙する。
なんとか絞り出した言葉は――
「ま、まさかぁ、そんなこと早々あるわけ……」
「探知で確認すればいいじゃない」
「……っす」
言われるがまま、私は魔力を飛ばして階層の魔物がいないか把握しようとして――
「……いませんね」
「でしょう。ここにくるまで、まっっっっっっったく見かけなかったわよ、魔物」
「…………っす」
ダンジョンの魔物が湧くのは日付が変わるタイミング。
ダンジョン内の魔物は倒されたら日付が変わるまで湧いてこない。
そして私が魔物を全滅させた、というわけだ。
「というわけで、今日は帰るわよ」
「はぁい」
かくして私はリンカねえさまに首根っこを掴まれたまま、転移陣で帰還するのだった。
なお、このときの様子からリンカねえさまの二つ名が「ママ」になったのはここだけの秘密である。
…………っす、みたいなお話