転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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五十六 リンカねえさまも人のこと言えませんよね

 ダンジョンには、一定周期でリセットが入る。

 まず魔物のリポップは、日付変更と同時に行われる。

 それ以外のものは週に一回のペースだ。

 このとき、変化するのは宝箱、罠の配置、そして――ダンジョンそのもの。

 迷路の構造とポップする魔物の種類が変化するのだ。

 何がいいたいかと言うと、私達が下層の最初の階層を踏破した後。

 ダンジョンのリセットがあった。

 

 ダンジョンのリセットが入る前日は休み、というのがダンジョン街で活動する冒険者の常識だ。

 なにせリセット前には宝箱は粗方回収されていて旨味がないし、もし仮に二日駆けて階層を攻略する場合、一日目の探索が全て無駄になるからな。

 というわけで、私達は一日の休みを挟んでダンジョンに潜ることとなる。

 本当はこの間にシドウ様のところへ遊びに行きたかったのだけど、シドウ様は忙しいらしくレイナさんに謝られてしまった。

 

 ともあれ。

 何がいいたいかと言うと。

 私達は情報もなくダンジョンの新しい階層に入ったのだ。

 無論、私達ならそれでも危険はないのだが。

 危険とは別の問題があった。

 具体的には――

 

 

「……見てカグラ! アレ、武器型魔物よ!!!!!」

 

 

 リンカねえさまがおかしくなってしまったのだ。

 武器型魔物という魔物がいる。

 武器の形をした魔物だ。

 こう、宙を浮かぶサーベルとか中身の入っていない辺りを彷徨っている鎧とかあんな感じ。

 言うまでもなく、ねえさまの大好物である。

 私にとっての鍛錬、リンカねえさまにとっての武具。

 かくして。

 

「あ、待ってくださいねえさま!」

「うふふふふふふ、あはははははは! でゅふふふふははははははははは!」

 

 でゅふふ笑いからフハハ笑いに派生しつつ。

 リンカねえさまが逃げ出した。

 私が魔物を見て発作を起こすときのごとく。

 えらい顔で飛び出していったのだ。

 何がまずいってこれ、契約護符を使っていない。

 武器型魔物だけがポップする階層の存在を聞いてはいたけれど。

 かなり出現率が低いらしく、油断していたのである。

 

「リンカねえさま! リンカねえさま――――!」

「カグラぁ! 私ここに住むわ!」

「先日の私と同じことを言っていますよ、ねえさま――――!」

 

 追いかけながら、なんとかリンカねえさまを捕まえようとする。

 しかし、一向にねえさまに追いつけない。

 おかしい、身体強化の練度は私のほうが上のはずなのに。

 速度が明らかに速いのだ、今のリンカねえさま。

 しかも、道中で魔物を倒しながら駆け抜けている。

 今のリンカねえさまは、明らかに普段以上の力が出ているのだ……!

 

「……ん? 普段以上の力が出ている?」

 

 そこで、私はふと気がついた。

 つまり今のリンカねえさまは、()()()()()

 この街に私より強い人間はシドウ様だけ。

 だけど、今この瞬間は、リンカねえさまも私を上回っているのではないか……?

 

「んひ」

 

 思わず、笑みが漏れた。

 私は、一瞬だけ立ち止まって意識を集中させる。

 そして――四重強化で駆けた。

 リンカねえさまを追い越して、その前に立つ。

 そのまま振り返りつつ着地、足を大きく広げて刀を抜き放つ構えを取った。

 

「ねぇさまぁあああ! 本気でヤりませんかねぇさまぁああ!」

「うふふふ、あはははは! 何!? 疾討で遊んでくれるのかしら!? いいわよ! 遊びましょお!!」

 

 かくして、発情して暴走したリンカねえさまと、いつもどおりの私。

 二人の剣士の頂上決戦が突然始まった。

 

 

 +

 

 

 私が、全力でリンカねえさまに向けて刀を振るう。

 それをリンカねえさまが、両腕に握られた曲刀で弾いた。

 普段は私が加減できないせいで、全力でぶつかれない私とリンカねえさま。

 しかし今は、私が全力を出しても対応されるくらい、リンカねえさまの出力が高い。

 ようやく、ようやくだ。

 七刀の一人、”武具大典”のリンカねえさまと全力で打ち合える!

 

 そして、全力のリンカねえさまを相手したことでよく解った。

 とにかくリンカねえさまの手数がすごい。

 尋常じゃないほどの数の武具が、絶え間なく飛んでくるのだ。

 

 曲刀を力任せに吹き飛ばしたと思ったら、その瞬間袖から仕込みナイフが飛び出してくる。

 それを躱した時には、すでに次の得物が手に握られていた。

 操る武器の種類も多種多様。

 以前使っていた、伸縮する槍やモーニングスターはもちろん。

 新たな武器である手裏剣だのハンマーだの、隣で戦っていても見たこと無いような武器を取り出して私を追い詰めてくる。

 極め付きの武器は二つ。

 

「発射ぁ!」

「銃は卑怯ですよ! 銃は!」

 

 銃だ。

 銃!?

 と思うかもしれないが、形状はレトロなマスケット銃である。

 ギリギリこの世界にも存在していておかしくない武器。

 某錬金術師な七刀の開発した試作品なんだけど。

 剣士が銃を開発してるんじゃないですよ!

 それが、距離をとっても連射される。

 ナイフやら手裏剣やらクナイやらも飛んでくるので、距離をとっても全然ひと息つけ無い。

 リンカねえさまの手数も相まって、全く攻め込める隙がない。

 何より厄介なのが――

 

「さぁさぁ! もっと正面から打ち合いましょう! 武器と武器が嬌声を奏でるの!」

「すけべリンカねえさま! その手に持っているものはなんですか! いやですよそんな()()()()()()()()()()!」

 

 リンカねえさまの扱う武器の一つだ。

 それは、ほっそいほそい、めちゃくちゃ細い糸のようなレイピアだった。

 触れればパキっと折れそうな代物である。

 

「別にいいのよぉ、今なら壊しても。怒らないから。お姉さん怒らないから!」

「絶対怒るやつじゃないですか!」

 

 リンカねえさまの特技である、ブチギレバーサーク。

 武器を破壊された怒りで、火事場の馬鹿力を引き出すアレである。

 ねえさまってば、あの死ぬほど細いレイピアでそれを意図的に繰り出そうとしているのだ。

 ほとんど当て逃げだよあんなもの!

 絶対法外な慰謝料を請求される!

 

「ねえさま、意図的に私が攻めにくくなるように動いてますね!?」

「あはは! 勝負を挑んできたのはそっちでしょ!?」

 

 私が攻撃面で加減できないのは、今も改善されていない。

 というか、リンカねえさま以外の相手には発生しない問題なので優先順位が低いのだ。

 そしてそれは、対リンカねえさまにおいては致命的な弱点でもある。

 だからこそリンカねえさまは、こちらが加減を誤ると武器を破壊しかねない極細レイピアで攻めてきていた。

 

「私はね、どうやってカグラに勝つかずっと考えていたのよ! これはその作戦の一つ!」

 

 リンカねえさまは、至って真面目に私の攻略法としてこの極細レイピアを用意している。

 他にも、今回出力が上がっているのは「ラリス」の街で鍛錬を積んだというのもあるだろう。

 以前、修練場でリンカねえさまを見かけていたことがあった。

 武器型魔物に狂っているとはいえ、その土台にあるのは至って真面目なリンカねえさまだ。

 

「ふふふ……あなたを攻略するためだけに、この細レイピアを特注したのよ! 調子に乗って作った百本のうちの、記念すべき一本目……あなたに味わわせてあげる!」

「やっぱりおかしいんじゃないですかこの人!」

 

 ちょっと内心で評価したらすぐこれだ!

 普段は真面目なのに、こういうところだけアレなんだから!

 ともあれ、この状況はかなりまずい。

 なんとかレイピアを破壊することなくリンカねえさまを倒さないと。

 仮に弾き飛ばしても、落とした衝撃で壊れてしまいそうだ。

 何より百本発注したそうだから、数本くらいならスペアがあるはず。

 無事に弾き飛ばして、無事に対処したとしても次がある。

 ああもう、どうしたものかなぁ。

 なんてことを思っていた、その時だった。

 

 

 激しい戦闘を繰り広げていた私達の間を、ナイフ型魔物が通り過ぎ、細レイピアを破壊していった。

 

 

「あっ」

「あっ」

 

 それは、戦いに集中するあまり、私はここがダンジョンだということを忘れていて。

 リンカねえさまは普通に察知ができていなかったがゆえの悲劇だった。

 一瞬の沈黙。

 去っていくナイフ型魔物。

 そして――

 

 

「よくもやってくれたわねぇ!」

「理不尽すぎます!」

 

 

 ここぞとばかりにキレるリンカねえさま。

 かくして、リンカねえさまはキレ芸による全力を発揮する。

 いやぁ本当に困ったものだ、どうしたものかな……

 と、そこまで考えて。

 

 まぁいいかぁ、全力のリンカねえさまと戦えるならそれはそれで楽しいですしね!

 と、開き直ることにして、私は気持ちを切り替えるのだった。




楽しそう。
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