転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
リンカねえさまは、昔から私のことを気にかけてくれていた。
ねえさまが里にいた頃の私は、まだ娯楽に飢えて虚無っていた頃だ。
剣の稽古に対してもそこまで身が入っておらず、はっきり言って里の中では浮いていた。
そんな私に声をかけてくれたリンカねえさまは、どれだけ時間が経っても尊敬する先人である。
数年ぶりに再会した私は、以前の私とは別人のように変化していたと思う。
それでも、リンカねえさまは昔と変わらず接してくれたし。
私の暴走にも付き合ってくれた。
リンカねえさまは、優しい人なのだ。
多分それは、どれだけ武具に偏愛を抱いていても、変わらない事実だと思う。
そんなリンカねえさまが、私に勝つため色々と準備をしていると私は知っていた。
離れ離れになっている間に、私がリンカねえさまより強くなって。
そのことに嫉妬ではなく、ただ勝利することを念頭に置いて準備をする。
その真面目さは、きっとリンカねえさまの優しさから来ているのだと。
そう思うのだ。
だから――
「カグラぁああ! よくも私の武具を壊してくれたわね! カグラァアアアア!」
「私じゃなくて通りすがりの武器型魔物のせいじゃないですかぁ!」
めちゃくちゃ理不尽な理由でキレ散らかしていても。
その根底には優しさがあるのだと、思いたい。
……今のリンカねえさまを突き動かす原動力は、五割がキレ芸、四割が武器型魔物エリアへの興奮、そして残り一割が私に勝利したいというモチベーションだと思う。
一割でもそのモチベーションが残っているのなら、きっとリンカねえさまは優しいのだ。
今まさに、両手に極細レイピアを握って、振るった勢いで自分からそれを叩き壊していても。
「一本だけには飽き足らず! 二本! 三本! アアアアアアアアアッ!」
「理不尽すぎますーっ!」
リンカねえさまは、武具を叩き壊せば叩き壊すほど動きのキレが上がる。
これにはある程度の上限があるが、おそらくその上限に到達するまで極細レイピアを叩き割り続けることだろう。
あのレイピア、意図的に壊すための武器として私対策以外でも使えそうだな。
それはそれとして、自分から武具を叩き壊してキレる情緒は理解できません!
「とはいえ、戦術としては見事なものです。やはりシドウ様からの入れ知恵ですか?」
「あはははは! さぁてどうかしらね! でも私がカグラに勝つなら今の状況以外ありえないのは解るでしょ?」
思い返せばこの状況。
おそらくリンカねえさまの仕込みだ。
いや、武器型魔物エリアの出現は仕込みではないだろうけど。
武器型魔物エリアに発情した後の行動は、前々から想定していたはずだ。
主に武器型魔物への興奮で、自分の身体強化の精度が向上すること。
そしてそれを見た私が興奮して、勝負を仕掛けてくること。
この流れは、読めていたはず。
その後、極細レイピアを破壊することも。
そうした外的要因を用いて自身を強化し、私を上回るように立ち回った。
ここまでは、リンカねえさまの作戦勝ちだ。
「ですが――!」
それで諦められないくらいには、私は負けず嫌いなのだから。
一度、ねえさまから距離を取る。
当然ながらマスケット銃他の遠距離攻撃が飛んでくるが、それらを弾いて時間を確保した。
確保できる時間は、一秒にも満たない。
だが、それで問題ないのだ。
一秒もあれば、四重強化へのスイッチは作れる。
「私だって、負けていられません!」
この状況。
リンカねえさまの身体スペックは全てにおいて私以上だ。
つまり、私に勝てる要素はどこにもない。
技術も身体能力も負けていては、そもそも勝負の土台にすら立てないだろう。
故に、身体強化で私はリンカねえさまを上回る。
この状況で私がリンカねえさまに勝つための手段は、四重強化だけだ。
「いっちょ前に――啖呵切ってるんじゃないわよ!」
「――遅いッ!」
「ッッ!!」
私が四重強化を起動した直後、リンカねえさまが無数の武具で私に斬りかかる。
しかしそれよりも早く、私はリンカねえさまを見下ろすように天井に
そのまま、更に天井から
「攻撃が、直線的すぎるわよッ!」
「直線的でも! 防げない威力で切りかかっているのです!」
「こ、んのっ!」
私の刃を、リンカねえさまが無数の武具で絡め取るようにしながら受け流す。
無数の極細レイピアがパキパキされ、私はリンカねえさまから少しそれた場所に着地。
そのまま間髪入れずに、再び四重強化でねえさまに飛びかかった。
それもまた防がれ、弾かれるものの。
私はさらに四重強化で追撃。
「閉所ならではの戦い方……ねっ!」
リンカねえさまの言う通り。
私のやっていることは単純で、四重強化で直線的な突撃を繰り返しているだけだ。
これが広い場所だと、四重強化で突撃すると止まることが困難になる。
しかしここは閉所で辺りに壁や天井があるから、そこに
今の私は、銃弾が跳弾するかのごとく辺りを飛び回っていた。
「でも、これが一番有効な戦術ですよ!」
「そう、ね……この!」
四重強化であれば、リンカねえさまの身体強化を上回れる。
身体強化で上回ってしまえば、後はゴリ押しするだけだ。
そうすれば、いずれ消耗したリンカねえさまが限界を迎える。
現在の私は直線的な突撃だけなら四重強化を失敗するリスクはなく。
魔力消費は圧倒的に私のほうが低いのだから。
まぁもちろん。
「――有効だからといって! これで勝てるなんて思ってないでしょうね!」
リンカねえさまが、何の手も打ってこないなんて、ありえないのだけど。
――言葉の直後。
リンカねえさまの腕が、増えた。
というか、リンカねえさまの両肩に腕のようなものが浮いているのだ。
リンカねえさまの得意とするところは、手数。
一度に三つ以上の武器を扱っているのではないかと錯覚するほどに、連続で武器を操ることができる。
それに対して、手が物理的に増えれば。
手数が倍に増えると行っても過言ではない。
「どこで、そんなもの……っ!」
「ダンジョンの宝箱よ!」
ダンジョン。
私とリンカねえさまは常に一緒に行動していたから、そんな機会は――いや。
「私が下層に入って大暴れしてた時……!」
「正……解ッ!」
その瞬間、倍に増えた手数が私に襲いかかる。
剣、銃弾、槍、斧、弓矢、ナイフ、ありとあらゆる武具、武具、武具――!
まさに、武具大典!
いくらなんでも、これでは私の四重強化も届かない。
ただでさえ、先程まででも突撃を往なすくらいはできていたのだから。
このままでは絡め取られ、身動きを封じられる。
そうなれば、チェックメイト――私の負けだ。
「これで……!」
リンカねえさまが勝利を確信し――
「……
私もまた、勝ちを確信した。
直後、リンカねえさまが驚愕に目を見開く前で。
私は――リンカねえさまが放った武器すべてを
四重強化による暴力的なまでの身体強化を施したうえで、精密に身体を動かして。
それはすなわち、
「カグラ貴方……! そんな精密な身体制御、まだ習得していないはず……!」
私はまだ、四重強化を完全にモノにしているわけではないはずなのに。
――否、習得している。
「習得したんですよ、
完全ではない状態で。
ここまで、私が直線的な四重強化しか使ってこなかったのは。
まだそれしか使えないと思わせるため。
リンカねえさまが切札を切ってきたタイミングで、その切札に対処するため。
「……無茶よ、私が切札を切るタイミングを測るなんて」
「そのための人読みですよ。これが私の一番の武器ですから」
「ああ、なるほど」
そして私とリンカねえさまは、静止した。
リンカねえさまは手からすべての武器をはたき落とされ。
私はリンカねえさまの首に刃を突きつけて。
――「ヨース」の街の鏡写しのように。
「……私の負けね」
今度こそ、私がリンカねえさまに正面から勝利した。
+
「……カグラの”ねえさま”として、負けるわけには行かないと思ったのよね」
「そこで、姉としての矜持で勝とうとするなんて、ほんとにねえさまは真面目ですね」
「そう言われると、なんだか気恥ずかしいわ」
疾討を突きつけたままの私に、苦笑しながらリンカねえさまが語る。
やっぱり、リンカねえさまは優しい人だ。
「でも同時に、誇らしくもあるのよ。――本当に、強くなったわねカグラ」
ああ、本当に――
「……あの、いい感じのことを言いながら疾討に抱きつこうとするのやめてもらっていいですか?」
武具に発情しなければ、リンカねえさまは本当に優しい人である。
それはそれとして、疾討に抱きつくのは危険なのでやめてください!
「ええ、いいでしょう!? こんなにも愛し合った仲じゃない! ちょっとだけ! サキッチョだけだから!」
「やめてくださいってぇ! 疾討が逃げちゃうじゃないですかぁ!」
「ああ、行かないでぇええ!」
かくして、なんだか締まらない感じで、私とリンカねえさまの対決は幕を閉じるのだった。