転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
「少し話をしようや、カグラ」
私達がダンジョンを攻略(?)した次の日。
シドウ様がそう言って部屋にやってきた。
概ね予想通りの展開なので、私はそれを了承して部屋を出る。
「さて、どこから話したもんか」
「色々と気になっていることはありますが、こちらとしては聞きの態勢ですよ」
「んならそうだな……少しダンジョンでも潜るか」
今はすでに日も暮れているが、街に人は多い。
というか街から人がいなくなることがほとんど無いのだ。
あまり人に聞かせたくない話なのだろう。
そういうことなら、ダンジョンが一番二人きりになるのに適しているのだろうが……
「先日ねえさまから、ダンジョンの中だと”主”に聞かれているからまずい、みたいなことを言われたのですが」
「ああ? 聞かれるのは確かにそうだが、だからといってなんかあるわけねぇだろ。……面倒になったのか、変な勘違いしてるのか、どっちだと思う?」
「んー、リンカねえさまは真面目ですがたまに適当なので……前者ですかね」
なんて話をしながら、二人でダンジョンへ。
当然、向かうのは下層のダンジョンだ。
人がいない上に魔物が強い。
そうすると自然に、魔物を倒しながら話すことになる。
「シドウ様の得物は、クソデカ大剣なのですね」
「なんで自分の胸を見ながら発言してるんだてめぇ。それとクソデカ大剣じゃねぇ」
なんとなく親近感を感じる、凄まじくデカイ大剣をシドウ様は得物としていた。
まず柄の部分から一メートルくらいあって、剣の大きさはこれ何メートルくらいあるんだろう。
シドウ様の身長の数倍だから……とんでもないな。
「それ、狭いところで振るっても大丈夫なんですか?」
「振るっても大丈夫なように扱うのが、達人ってもんだろうがよ」
「後、どこから出してらっしゃるので?」
「これだけを格納できる専用の魔導袋だ。リンカのわけわかんねぇ収納技術みてぇな変なことはしてねぇ」
それにしても、シドウ様はなんというか。
どこを切り取っても見た目のイメージ通りの人だ。
性格も、強さも、傍若無人っぷりも。
そして得物すら、イメージ通り。
当然、大剣を振るうその姿も、また。
「そらよ!」
一振りで、シドウ様はデッカメ――クソデカ亀を両断した。
私が一回転がしてから腹を切ったのに、シドウ様は甲羅ごと一撃である。
純粋な出力差だなぁ。
というか……うずうず。
「次は私! 私がやりたいです!」
「はっ、やれるもんならやってみろ、って話だな!」
なんて。
私とシドウ様はそれから、雑談しながら魔物を倒し――
倒し――倒した。
そして、気がついたら朝になっていた。
あっれぇ?
+
次の日、今度こそシドウ様とお話をしようとして。
私達は再びダンジョンに潜った。
「今日は魔物を倒した数を数えながら話そうぜ」
「私のほうが多く倒します!」
とか言って魔物を倒しているうちに、次の日になっていた。
あっれぇ?
そのまた次の日も、そのまた次の次の日も。
何故か気がついたら朝になっている。
楽しく魔物を倒しているだけのはずなのに、いつの間にか朝になってしまっているのだ。
私もシドウ様も、不思議でしょうがないと首をかしげる。
ちょっと魔物を倒してただけなのに。
一体全体、どうして朝になってしまうのだろう。
「――というわけでリンカねえさま、どうして朝になってしまっているのか、理由わかります?」
「……もうアンタ達ダンジョンで話そうとするのやめなさいよ」
「そんな!?」
殺生な!
いいじゃないですか、魔物倒すの楽しいんですから!
と、さんざん駄々をコネて暴れまわって。
途中からやってきたシドウ様と二人で駄々をコネた。
胸がクソでかい十二歳の少女と、一児の父が床で暴れまわりながら駄々をコネた。
――最終的に、レイナさんの「パパ、ちょっとキモい……」という発言でシドウ様が死亡。
私達は諦めてダンジョンの外で話をすることになった。
「――ま、ここなら早々人も来ないだろうよ」
瀕死の状態から、なんとか生還したシドウ様とともに町外れの墓地へとやってきていた。
そこは以前、レイナさんと一緒にやってきたことのある場所だ。
「……シドウ様の奥様のお墓の前、ですか」
「なんだ、来たことあるのか。……まぁ、ダンジョン以外ならここが一番話をするのに向いてるからな」
いいながら、シドウ様は持ってきたお酒を墓前に供える。
それから二人で死者に祈りを捧げ、シドウ様がしれっとお酒をそのまま飲もうとしたので止めた。
「流石にそれを呑んだら、次はシドウ様が呑兵衛になって話ができなくなる展開くらい読めますよ!」
「チッ、しょうがねぇな」
というわけで、お酒はそのままにして二人で話をする。
場所が場所だからだろう、シドウ様が最初に切り出したのは奥様のことだった。
シドウ様と奥様が冒険者パーティを組んでいたことは、以前にも聞いたことがある。
なんでも、シドウ様が「カルマン」の街を訪れたころに出会ったそうで。
以来、ずっと二人であちこちを旅してきたのだという。
そうして、やがてシドウ様は七刀となり、大陸最強の剣士となった。
奥様とも結ばれて、レイナ様が産まれて。
「そうして俺とあいつは、このラリスにやってきた」
当時の「ラリス」はダンジョンが発見されたばかりだったそうだ。
世界中から、発見されたばかりのダンジョンを調査するために冒険者が集まり。
中にはシドウ様以外の七刀も訪れていたという。
「ま、俺の人生だと、アレが一番楽しい時間だったかもしれねぇな」
周囲には奥様と、バカをやれる仲間がいて。
ダンジョンからは強力な魔物がわんさか湧いてきていたらしい。
具体的に言うと、今の下層の魔物が上層に湧いてきていたとか。
なにそれ私も潜ってみたい。
「だが、それも長くは続かなかった」
「……何があったんですか?」
「ダンジョンの魔物が
曰く、現在ダンジョンの最下層に湧いている「ポン君」は下層の通常魔物の一体だったらしい。
すなわち、全ての魔物が宿痾の主級。
そんなの、流石に私でも難易度高すぎだと感じるだろう。
まぁ、それだけワクワクもするだろうけど。
「結局最下層にたどり着くまでに、仲間は全員死んじまった。俺とあいつだけが残されたんだ」
「それは……」
犠牲になった者の中には、七刀も含まれていたという。
現在の七刀は六人、その半数が二十代だ。
これには、「ラリス」のダンジョン等で七刀が犠牲になり、世代交代が発生したという事情もあるらしい。
「それで、お二人はダンジョンのボス……最下層の”主”に挑んだのですよね?」
「まぁ、そうだな。結果が気になるか?」
「……概ね、想像はできますが」
現状、ダンジョンは消えていない。
しかしダンジョンの難易度はシドウ様が挑んでいた頃より圧倒的に低いのだ。
とすれば、ダンジョンの主は――
「……これはあいつの墓だがな、あいつの躯はここにはねぇ」
「…………」
「今も、地の底にいる」
こんな話を聞いたことがある。
宿痾の主が出現した場合、対処法は二つ。
一つは討伐すること。
これは言うまでもない、非常に単純明快な方法だ。
そしてもう一つ。
これは次善策である。
出現した宿痾の主を討伐できなかった場合、せめて周囲に被害を出さないようにすること。
すなわち――封印。
それは、封印魔術という魔術によって行うことができ――
「……封印魔術は、術者の命を代価とする、と聞いたことがあります」
「…………」
シドウ様は、答えなかった。
代わりに、一つ。
「話は変わるがよ」
そう前置きをして、問いかけてくる。
「てめぇにとって、”最強”ってなぁ、なんだ?」
それは、なんとも。
漠然とした問いかけであった。
ここから真面目な話に入っていきます。