転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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六十 最強って?

「随分概念的な質問ですねぇ」

「別にそれだけを聞きてぇわけじゃねぇよ。てめぇが最強を目指してんなら、確固たる目標があるんだろうと思ってなぁ。深掘りしてやろうってわけだ」

「最強を目指している理由、ですか」

 

 それならばまぁ、簡単だ。

 どこかでシドウ様にも話したことがあっただろうか。

 母上によって植え付けられた、鮮烈な憧れ。

 それによって、目指すことを決めた最強という修羅の道。

 まぁようするに私の原点は――

 

「母上への憧れ、でしょうねぇ」

「……ならてめぇは、何をもって最強を最強と決める?」

「そうですね。私が最強だと認めた相手こそ、真に最強だと言えるのではないでしょうか。最強なんて、人によって考え方が違うわけですし」

 

 最強議論なんて、答えが出るわけのない不毛な議論なのは前世の頃からそうだったことだ。

 私にとっての最強は、この人こそが最強だと思う人だ。

 他の人は違う考えを抱くかもしれないが、それでも構わない。

 自分の信じる最強に対する憧れこそが、私のモチベーションなのだから。

 

「だからこそ、私は思うわけですよ。いずれその”最強”に私がなるのだと」

「ははっ! まぁ、お前さんならそう言うだろうな」

「そういうシドウ様だって、似たようなものでは? ――自分こそが最強だと、シドウ様は疑っていないでしょう」

 

 大陸最強。

 七刀最強。

 シドウ様には様々な”最強”という称号が与えられている。

 それはシドウ様がこれまで成し遂げてきた偉業に対する正当な評価であり。

 多くの人間は、シドウ様こそが最強だと疑っていない。

 そこに、シドウ様の絶対的な自信を加味すれば。

 シドウ様にとって、最強とは自分なのだという自負があって当然ではないか、と思うのだが。

 帰ってきた答えは、意外なものだった。

 

 

「俺が最強? 馬鹿言うんじゃねぇよ」

 

 

 そう、吐き捨てるように言ったのだ。

 

「そうなのですか? 以前、自分は誰にも負けないと豪語していたように思うのですが」

「そいつはおめぇ、今この瞬間の話だ。そもそも、お前さんだって解ってんだろ? お前さんにとっての最強(あこがれ)は、俺じゃねぇんだから」

「……まぁ、そうですが」

 

 そこは、まぁ。

 わざわざ口にしてはいなかったけど、自明の理ではある。

 正直に言えば、私はシドウ様を最強だとは思っていない。

 いや、今の時点でシドウ様が大陸最強であることは事実なのだし。

 私より強い存在で、私が越えなくてはいけない壁なのも間違いないのだけど。

 それはそれとして、私の思う最強はシドウ様ではない。

 そしてそれは、シドウ様も同様だったということだ。

 

「――てめぇの思う、”最強”は誰だ」

「――()()です」

 

 そうだ、母上こそが私にとっての最強。

 憧れの原点であり、いずれたどり着く到達点。

 おそらくそれは――

 

「――俺も同じだ。あの女こそが、()()()()()最強だと俺は知っている」

 

 シドウ様だって、変わらない。

 

「私の母上は……本物でしたからね」

 

 母上。

 かつて里における最強の剣士として名を馳せ、若くして亡くなった。

 当然のことながら母上が生きている時代は、母上こそが七刀最強にして大陸最強だったのだ。

 シドウ様も、すでに剣士として名を馳せていたにもかかわらず。

 

「まずもって、あの女は七刀に認められることなく、七刀になりやがった。誰もがあの女を七刀と疑わなかったからだ」

「シドウ様は、旅にでてから七刀と認められたのですよね」

「そぉだな。ちょうどてめぇと同じように、旅に出る直前七刀候補として認められた」

 

 まぁ、私の場合は未だ七刀に認められていないのだけど。

 シドウ様は、すぐに七刀と会った際に七刀となることを認められたらしい。

 まぁその”七刀に会う”までに随分と苦労をしたそうで。

 それが試練としてちょうどよかった、みたいな理由もあるそうだけど。

 

「とにかく、てめぇも俺も、間違いなくつえぇ。特にてめぇは里の剣士としても異質。戦士としてもよくわかんねぇ素質を持っている」

「そうですか?」

「てめぇの素質は、もっと学者だとか魔術師に向いてるものだろうがよ。それがあの女と鬼によって歪められている」

 

 鬼。

 以前リンカねえさまが言っていた、剣鬼のことだろうか。

 正直私は全くそんな気はしないのだが、私が人殺しにハマるのではないかと随分警戒されていたようで。

 でも確かに、前世の記憶と母上との約束があるからこそ私は人殺しに忌避感があるけれど。

 もしそれがなかったら、私の生き方はもっと違っていたかもしれないな、とは思う。

 何にせよ。

 

「今、私はここにいます。それが全てですよ、それに関しては」

「まぁ、そうだな。ってか本題はそこじゃねぇ。要するに、俺にとってもお前さんにとっても、最強はあの女だ」

「……もういない人間、ってことですね」

 

 それは、まぁ。

 どうしようもないことなんだろう。

 母上は、私にとって間違いなく最強の剣士だ。

 もしかしたらそれは、永遠に変わらない事実なのかもしれない。

 なんとなく、シドウ様の言いたいことが理解できた。

 

「最強ってのは自分が最強だと思うもの、お前さんはそういったな」

「ですね。……そうなると、最強はすでに亡くなった母上になってしまうわけですが」

「むしろ、亡くなったからこそ鮮烈に焼き付いてるんだろう。人ってのは、過去に囚われるもんだ。お前さんにはまだわからないかもしれないが――」

 

 いや、それは。

 むしろとても、よくわかる。

 私には失われた過去がある。

 前世という過去が。

 その中で、私は多くの娯楽に囲まれていて。

 娯楽が失われたからこそ、今の私の渇望がある。

 

「わかりますよ、シドウ様。シドウ様が、母上の残影を拭えていないということも」

「……」

「私が母上の残影を拭えるか、シドウ様が心配していることも」

 

 結局のところ、シドウ様の話の行き着くところはそれだ。

 過去とは鮮烈に焼き付くもので。

 それは、シドウ様の奥様に対する思いからも伝わってくる。

 

「全く、末恐ろしくなるな。その年でそこまで聞き分けがいいってのも、考えもんだ」

「聞き分けの良さなら、リンカねえさまも似たようなものでは?」

「あいつは聞き分けがいいからダメなんだ。自分の才能にもう見切りをつけてやがる」

 

 そうだろうか、先日だって私に勝つために色々と手を用意して。

 実際に私を出力の上では上回っていた。

 手を用意する中に、鍛錬だって含まれていたのだ。

 まだ強くなりたいという意思は、あると思うのだけど。

 

「まぁいい。あいつの本質は今は関係ねぇ。お前さんがあいつと旅を続けるなら、いずれぶつかることだ」

「ですか」

「とにかく、俺がいいたいことはただ一つ――」

 

 そこで、シドウ様は少しだけ言葉を選ぶ。

 ここまでの話の中で、シドウ様という人間の奥にあるものを垣間見て。

 そのうえで、彼が私に伝えたいこと。

 わかりきっている、ことだ。

 

 

「死者に最強を求めるな。追いつけなくなるぞ」

 

 

 その言葉を、私は少しだけ考える。

 私にとっての最強は、母上だ。

 あの剣を見てしまったから。

 あの剣にあこがれてしまったから。

 でも、そう考えるとシドウ様の言う通り。

 追いつけるのか、と考えてしまうときもある。

 

 とはいえ、シドウ様はそこで突き放すつもりなんてないだろう。

 そもそも、シドウ様ははっきり示しているではないか、解決法を。

 ここに至るまで、シドウ様と「ラリス」の過去を話し。

 最強とは何かを確認し。

 お膳立てを整えた。

 すなわち、これは――

 

「……明日、もう一度話をするぞ。今度はダンジョンだ。ただし、話す場所は”あの”ダンジョンの中じゃねぇ」

「……それは」

()()()()()()()()だ。このラリスに最初に発生し、()()()が封印した――」

 

 そして、シドウ様の奥様が眠る場所である――

 

 

「六大宿痾が、封じられた場所に」

 

 

 ――シドウ様にとって、すべての因縁が収束する場所に。

 シドウ様は言った。

 死者に最強を求めるな。

 であれば、生きているものに最強を求めればいい。

 

 六大宿痾。

 人類の敵、宿痾の親玉。

 その一体がこの地に――封じられているという。




ああ!
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