転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
今更な話になるが、宿痾の主というのはこの世界に於ける人類の敵だ。
瘴気と呼ばれる魔物を生み出す力の根源。
ややこしい話になるが、まず”宿痾の主”という存在がいて、その宿痾の主が瘴気を生み出す。
そこから生み出されるのが魔物なのだ。
そんな宿痾の頂点に位置するのが、六大宿痾。
六体のめちゃくちゃ強い宿痾だ。
以前戦った、三体合体宿痾なんて目ではなく。
まさしく、最強オブ最強と言っても過言ではない。
ようするに、だ。
六大宿痾は私が倒さなくてはいけない壁である。
最強を名乗るなら、これを倒せなくては始まらない。
ただ、普通に考えたらそんなこと不可能だ。
なにせ相手は、人類とは一線を画す存在。
シドウ様と、そんなシドウ様がパートナーに選んだ奥様。
当時、人類最強クラスの冒険者二名が挑んでも、封印することしかできなかった相手だ。
それを倒そうなんて、どうかしている。
――ただ、何事にも例外というものは存在していて。
それが母上なのだ。
以前にも話したと思うが、母上は
だからこそ、私もシドウ様も母上を人類最強の剣士だと断じているわけで。
なお、これにより現在六大宿痾は六大とは言われているものの、数自体は五体である。
七刀が六人しかいないのと同じだな。
「――確かに、あの女は六大宿痾を単独で討伐した。しかしそれでも、完全な勝利を勝ち取ったわけじゃねぇ」
真夜中。
私は改めてシドウ様に呼び出されていた。
今回はダンジョンの中に潜ることはなく。
転移陣の前で話をしている。
人の気配はない、職員もすでにギルドにはいないようだ。
「母上は……六大宿痾討伐の後、死に際に六大宿痾の瘴気を直に浴びてしまったのでしたね」
「ああそうだ、六大宿痾は死ぬ時にとんでもねぇ量の瘴気を放つ」
それによって、母上は長く生きられない体になってしまった。
他にも、長く戦闘することもできなくなったようで、母上は六大宿痾との戦闘で――剣士として死んだのだ。
「ま、相打ちってところだな。結局、あの女ですら単独で宿痾に
「……それは」
「そもそも、人類は今まで何度か六大宿痾を討伐したことがある。だが、その多くが多大な犠牲の上に成り立ってんだ」
シドウ様の言う通り、六大宿痾自体は、過去にも討伐された事例はある。
国が軍隊を率いて討伐したり。
七刀が複数人で挑んで討伐したり。
ただ、六大宿痾は討伐しても、ある程度の時間が経つとまた湧いてしまうらしい。
六大宿痾を二体以上同時に討伐できていた時期はないそうな。
加えて――
「何より、倒した時の瘴気なんかも相まって、六大宿痾を倒した人間が
シドウ様の言う通り。
今まで、長く人類はこの大陸で繁栄してきたけれど。
その歴史は、人類と宿痾の”痛み分け”の歴史だ。
そんな中で、シドウ様は私に”最強”を問いかけてきた。
六大宿痾の元へ案内するといってきた。
その、意味は――
「シドウ様。シドウ様は――」
「……そろそろ時間だ、そら、行くぞ」
――私が口を開いた時。
それを遮るように、シドウ様は促した。
口で語るまでもないことなのか、語るのが憚られることなのか。
どちらにせよ、やるべきことはすでにはっきりしている。
私達は、六大宿痾の元へ向かうのだ。
転移陣に乗ると、見たことのないダンジョンにたどり着く。
否、基本的な装飾は通常ダンジョンの下層とそう変わらない。
豪奢な城内は、どこまでも遠くへ広がっており。
その中は、しんと静まり返っている。
「……魔物がいないのですか?」
「主が封印されてるからな。階層の数は表のダンジョンと同じだ。さっさと踏破すんぞ」
「ええ、でも出口の場所が……」
「
シドウ様は、迷うことなく行き先を決めた。
転移陣の場所を、シドウ様の方法で探知しているのだろう。
ダンジョンの探知は、私にもできる。
しかし、それは魔力と瘴気の反作用を利用してのもの。
魔物のいないダンジョンでは、それは通用しない。
やはり、シドウ様は私よりウワテなのだ。
「……本当にありましたね、転移陣」
「あるつってんだろ。そら、次だ」
そうして、私達は何も無いダンジョンを攻略していく。
宝箱の類もないようで、足を止める理由はなにもなかった。
やがて、最下層へ続く転移陣の前でシドウ様が足を止める。
「これで、次からは直で最下層に入れるな」
「むう、何度もここに私をこさせるつもりですか」
「必要なことだ。そら、行くぞ」
そうして、私達は最下層へと転移する。
そこは豪奢な城内の、玉座の間というべき場所だった。
ポン君がいる場所はただの部屋みたいな感じだったのだが。
ここはまさしく、王のいるべき場所である。
そんな最下層に、一つの気配があった。
『おや、もうきたのかえ』
それは、あまりにも濃密すぎる気配だった。
同時に女の声が響く。
どこか加工されたような、人ならざる声。
まさに、怪物と評するのがふさわしい声色だった。
「よぉ、一週間ぶりだな。元気にしてたか?」
『カカ。妾をこのような場所に押し込めた
「ならよかった。こうしてここに縛り付けたかいがあるってもんだ」
シドウ様は、その声に臆することなく返事を返す。
そうして、ゆっくりと声の方へ向かっていく。
私は一瞬だけ息を呑んでから、それに続いた。
『――それで、その小娘が貴様の言っていた
そこで、私に気配の意識が向けられる。
一瞬、足が止まった。
正直に言えば、別に恐怖を感じていたわけではない。
かといって、いつもみたいに興奮で自分を抑えられなくなるのを必死に抑えていたわけでもない。
いや、それは若干なくもないけど。
どちらかといえば、もっと単純に。
「そういう貴方が――六大宿痾ですか」
『……カカ』
納得していたのだ。
確かに、これほどの気配の持ち主ならば。
最強を名乗るのも頷ける。
母上に対して感じていた一種の畏怖を、この声の主にも感じたのだ。
最強とはなにか。
改めて、シドウ様の言葉が脳裏をよぎる。
『妾は――狐火』
狐火。
それがこの六大宿痾の名前のようだ。
声の雰囲気にも、よく似合っている。
優雅にして、尊大。
最強は己だという自負が、これでもかと言葉に乗せられていた。
『その男から聞かされているか? 妾の封印は不完全なものでな、七つの日を跨げば
「……やはりですか」
シドウ様から、直接そのことは聞かされていなかったが。
なんとなく、そんな気はしていた。
週に一度、どこかへ消えるシドウ様を思えば、ありえないことではない……と。
「シドウ様。つまりシドウ様が私をここにつれてきたのは――」
「ようやく、お前さんが俺の求める水準の強さを手に入れたからな」
六大宿痾”狐火”。
その封印を、シドウ様の奥様が命がけで施した。
しかしそれは不完全なものであり、一週間で解けかけてしまう。
それをシドウ様は、毎週命がけで封印し直していた。
一体、どれくらい?
十五年だ。
とんでもない、話である。
『よかったなぁ、小童。ようやくあの地獄のような日々が、少しは軽くなるかもしれないぞ?』
「はっ、それは違うな。狐火」
私が、気の遠くなるようなシドウ様の道程に想いをはせていると。
ポン、と私の頭にシドウ様の手が置かれた。
見上げればそこには、笑みを浮かべたシドウ様がいる。
強者の笑みだ。
そして――
「――俺達は、勝つためにここに来たんだよ」
力強く、宣言した。
『ク、カカ――――カカカカカカ! そうこなくてはな! そうこなくてはなぁ、小童!』
そして、いよいよ狐火の気配が勢いを増す。
封印が解けてきたのだろう。
同時、私は”それ”を眼にした。
『妾は、最強でなければならぬ。宿痾として、この世界の覇者として』
玉座に、”そいつ”がいる。
『故に、貴様のような小童も、小娘も、ねじ伏せなければ気がすまぬ!』
それは、一言で言えば――
『今宵こそは、長く続いた因縁に終止符を打つとしようか、人間!』
全長2メートル超えの、ムキムキデカパイ狐耳獣人だった。
しかもマズルあり。
……濃ッ!
濃ッ!!
といわけで話的にはがっつり次回に続きますが、三章は今回で終了となります。
次章は狐火との対決というわけで、そんなに長くはならないはずです。
よろしくお願いします。
また、突如現れた2メートル越えムキムキデカパイ狐耳獣人(マズルあり)が気になっていただけた方は是非ぜひ評価、感想、お気に入りよろしくお願いします。
特に高評価はさらにムキムキになれます。