転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
――楽しい。
最初に狐火の元へ案内されたときは、なんだかんだ警戒が勝った。
宿痾の最強と顔を合わせたときは、感慨が勝った。
しかし色々と戦闘の
気がつけば、私はいつものように刃を振るっていた。
相手が宿痾の最強であっても、やることは変わらない。
強くなり、勝利して、より強くなる。
狐火は言っていた、弱者との戦いなど何の価値もないだろう、と。
しかし私の考えは違った。
弱者だろうと、強者だろうと。
戦った時に得られる経験値は、そう変わらない。
必要にかられて、強者との戦いで新たな技術を習得することはあるが。
それもこれまでのあらゆる戦いと鍛錬で得てきたものの、積み重ねに過ぎないのだ。
故に今回も、私はこの戦いをこれまでと変わらず糧とする。
そして、最強へと上り詰めるのだ!
「いいですね昂りますね! 心躍りますね!」
「おいおい、ちったぁ俺に合わせてくれよ。正面から相手するのも辛いんだぜ!」
激しく飛び回りながら、狐火と打ち合う。
その間、正面戦闘はシドウ様に任せ、私はとにかくあちこちを飛び回っての撹乱だ。
とにかく狐火の意識を、少しでもシドウ様から逸らすのが目的である。
シドウ様は色々と文句を言っているが、ぶっちゃけ私達は今回が初の共闘なのだからこれが精一杯だ。
色々と考えて放置していたんだろうけど、連携がしたいならシドウ様から色々指示してもらわないと。
強いのはそっちの方なんだから、打ち合わせすらしていないのにこっちが合わせるなんて無茶である。
いや、これは多分――
『仲が悪いのう、同じ人間同士で争うなど不毛なことだな』
「おおそうだな。んじゃあ――」
どこか、嘲るように狐火が嗤う。
それは間違いなく、こちらに対する見下しであり。
侮りだ。
「行くぞ、おい!」
「解ってますよ、シドウ様!」
故に私達は、全く同時に斬りかかる。
それまでは全く連携なんてできていなかったのに。
『ふぅむ!』
同時の一撃を、狐火はそれぞれの手で受け止める。
少し意外そうにこっちを見ていた。
『連携など、できぬのではなかったか?』
「できねぇが……俺が合わせることはできる」
そう、連携ができていないように見えたのは、フェイク。
実際には私が合わせられなくても、シドウ様が合わせることができる。
それくらい、シドウ様は巧いのだ。
これまでのやり取りは、狐火に誤解させること。
まぁ、結果として受け止められてしまったが。
ここからまだできることがある。
「動きを止めましたね!」
いいながら、私は疾討を放棄して全力でケリを放つ。
本命は、狐火の腕を同時に抑えたうえでの私の四重強化によるケリだ。
しかし――
『それが、どうした?』
そのケリを、狐火もまた片足を上げて受け止める。
なんとぉ!
『この程度か? であれば――がっかりだな!』
そして、私とシドウ様を同時に吹き飛ばす。
私は疾討の転移で強引に吹き飛ばしへ刃を間に合わせ。
シドウ様は
互いに、結構な距離を吹き飛ばされてから着地する。
シドウ様は剣を受け止められた状況で吹き飛ばされても、剣はそのまま手に収まっていた。
単純に、狐火が剣を捕まえておくことができなかったんだろうな。
二人の膂力の差は、私と比べるとそこまでではない。
「きっっっっびしいですねぇ!」
逆に私は、二人と比べるとやはり純粋な膂力が足りていない。
四重強化でも、まだ若干シドウ様に劣るのだ。
加えて直線的な軌道や、瞬間的な発動なら四重強化を安定させられるようになってきたが。
戦闘で使いこなすには、まだまだ足りない。
加えて言えば、狐火の特性も厄介だ。
『カカカカカ! もっとかかってこい! 全て捌いてやろうではないか!』
狐火は攻めて来ない。
理由は二つ。
一つは必要がないからだ。
自分は強者であり、こちらの攻め手を全て捌き切る自信がある。
そしてもう一つは――手段がない。
狐火の特性は、端的に言おう。
あの見た目だから当然だが、あの口調からは想像もつかないほどに。
搦め手の類を一切使わない。
本当に単なる身体能力だけで戦っている。
ある意味ロマンの塊だ。
それで言えば、シドウ様も似たようなものだろう。
シドウ様の強さは純粋な身体強化と、技量、そして人読み。
どれも搦め手とは言えない、単純明快な能力である。
ただ、技量に関しては間違いなく私や狐火よりも上手だ。
とにかく攻撃の動きに無駄がない。
豪快に見えて、その実一切の隙を狐火に晒していないのだ。
対する私は――今回の戦闘でも明らかだが、それなりに搦め手を使う方だ。
具体的には疾討の挙動。
不壊であり、手放せば手元に戻って来る。
なかなか他の武器にはない特性だ。
というか、実際には呪いである。
それを私が便利に使っているだけ。
正確に言うと、やってもいいよ、と疾討が言っている。
私と疾討は世界一のマブダチなのだ。
気が合いまくっている愛しい相手なのだ。
多分、世界で私とこれほど気の合う相手はいないだろう、というくらい親しい友人なのだ。
なので好きにやっている。
ああ、疾討好き……。
話を戻そう。
ようするに、私の強みは搦め手なのだ。
シドウ様や狐火のような、単純な強者ではない。
強くあろうとして、強者をしていない。
強くなることが楽しいから、結果的に強者になったのが私なのだ。
強くなるために、なんだってするのが――私だ。
「で、あればぁ!」
そこで私は戦い方を変える。
直線的な接近をやめて。
遠くから、疾討を構えた。
『カカカ! 面白そうであるなぁ!』
狐火が笑みを浮かべる。
その笑みに私は――
「そおら!」
以前から使っている、対魔物用の攻撃手段。
当然ながら、六大宿痾にも有効だ。
そしてこれの良いところは――
「はっは! 考えたなぁ! これなら一方的に狐火を攻められるぜ!」
『ぬお!?』
シドウ様にあたっても、傷一つつかないところだ。
対する狐火は、傷こそ負っているように見えないが、明らかに衝撃を受けてのけぞっている。
そこを責めるシドウ様を、なんとかケリで遠ざけてこっちを見た。
『小娘……そうか魔力を飛ばしおったか! カカカカカ! 奇妙なことを考えるものだなぁ!』
「便利でしょう、これ。人を傷つけず、瘴気から生まれたもののみを傷つけます」
そうして、シドウ様がのけぞった狐火に攻撃を仕掛ける。
なんとか狐火は対応するが、先程より態勢は悪そうだ。
「なんなら、シドウ様と二人がかりでこれを飛ばしまくって、貴方を再封印するまで身動き取れないようにすることもできますよ!」
「……いや待て! 俺にこんな曲芸できねぇぞ!」
「えぇ!?」
シドウ様の爆弾発言にびっくりする。
いやいや、魔力を飛ばすだけの技術ですよこれは。
ああでもリンカねえさまもシドウ様も、魔力を飛ばしてるところ見たこと無い……
「お前さんの魔力操作は曲芸すぎんだよ! 誰も彼もが多重強化なんざできるか!」
『カカカカカ! 我ですら一瞬何をされたかわからんかったぞ。頭おかしいなぁ、小娘!』
「二人して、なんて言い草ですか! 私の頭はおかしくありません!」
『……』
「……」
黙らないでください!
ええい、もう間もなく狐火の再封印の時間です。
ここでこれを見せたのは、次の一手につなげるため。
私の強さは搦め手です。
であれば、搦め手で――
「オララララ!」
魔力の刃を飛ばしまくり、少しでもシドウ様を援護する。
まず、これが第一段階。
狐火は、流石に受け身のままでは対処しきれないと行動を変えるだろう。
その瞬間を狙い――
「らぁ!」
魔力の刃を飛ばした直後。
『小娘が消えた!?』
私は、姿を消す。
否、私は、狐火が気付かないよう移動し。
背後にて、疾討を振りかぶっている!
『魔力の刃に身を隠したか!』
理屈は単純。
狐火に限らず、この世界の生物は他者の探知を魔力や瘴気の探知に頼っている。
魔力や瘴気が行動を起こす時に、予兆としてあふれるのだ。
それを感じ取り、行動する。
故に、私は魔力の刃の中に身を隠し、突撃した。
先程から私は刃を連打しまくっているから、その中に私が紛れていても狐火は気づかない。
そして――
『だが! その程度では妾には届かぬ!』
狐火は、それすらも対応してくる。
反応が遅れても、私は直線的な攻撃しかできないから。
後から手を動かしても、間に合うのだ。
そう、直線的な攻撃なら。
「そこ――!」
私はそこで、狐火の伸ばした手をすり抜けて、狐火を切りつけた。
――浅い、一撃だった。
四重強化中の精密動作は十秒が限界で、完全ではない。
その中では、致命傷を与えるには至らず。
切り傷をつけるにとどまる。
そしてそこで、時間切れだ。
狐火の体が玉座へと転移する。
否、吸い寄せられた。
「……マジか、お前」
「どんな、もんですか」
集中力を極限まで使っていたから、流石に疲れた。
そんな私をシドウ様が驚いた様子で、見ている。
そして狐火は――
『カカカカカ! カカカカカカカカカカ!』
楽しげに、笑っていた。
『まさか、まさかよ! この戯れの中で、妾が傷を負う時が来るとはなぁ!』
それはすなわち、今回の戦闘で。
封印されて以後、初めて狐火はダメージを負ったということだ。
いやまぁ、シドウ様は狐火に若干実力で劣るから、これまで時間稼ぎしかできていないのは仕方のないことなのだろうけど。
『面白い、名を名乗れ、小娘!』
「……カグラ、ですけど」
『良い名、良い名だ! 覚えたぞ! しかし、今はまだ名は呼ばぬ。小娘!』
「聞いたのに呼ばないんですか!?」
結局。
『妾を”越えて”見せろ! さすれば、妾はその名を呼んでやろう! 勝利の褒美としてな――!』
そうして、狐火は再び封印され。
私と六大宿痾、初めての邂逅は終りを迎えた。
戦え、と疾討が言っている。