転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
狐火との最初の邂逅は終わった。
結果から言えば、まぁ本当に顔合わせという感じだな。
シドウ様は「勝つため」と言っていたけれど。
それは総合的に見て最終的に勝利する、という意味なので間違ってはいない。
いやまぁ、あの時のシドウ様は本気で勝つつもりだっただろうけど。
その上で失敗しても素知らぬ顔をする、悪い大人だ。
さて、その上で狐火だけれども――本当に強かった。
昨日私が戦った狐火は、封印によって全力を出せていない状態だった。
でなければ、シドウ様とその奥様を圧倒した狐火相手に、私とシドウ様の即席コンビで戦えるはずがない。
であれば封印したまま狐火を倒せばいいと思うかもしれないが、それは不可能だ。
狐火の封印は、狐火がある程度ダメージを受けると破壊される。
なので、倒すとなったら封印解除後の狐火との戦闘が必須だ。
そして、もし封印が破壊されると現状再封印は不可能と言って良い。
シドウ様の奥様は当時世界最高レベルの魔術師であり、それと同じレベルの魔術師は現状大陸に存在しない。
倒すとなったら一回勝負、負けたら「ラリス」の街もおしまいだ。
そして、シドウ様が私を狐火討伐に連れて行った辺り。
あの封印も、そろそろ限界が近付いているかもしれない。
なので、今私がやるべきことは四重強化の習得だ。
後一歩、もう少しのところまで来ているのだが。
なんというか、その一歩が進めない。
とはいえこれは、進もうとする行為自体が楽しいので問題ないのだけど。
一つ、困ったことがあった。
それは――
「――待ってたぜ、カグラ
私が修練場に向かうと、そこでは仁王立ちしたシドウ様が私のことを待っていた。
当然ながら、その周囲は開けていて人の姿がない。
なんだなんだと、遠巻きに冒険者が眺めるばかりだ。
で、シドウ様はなんか言っている。
師匠。
そう、師匠だ。
何故かシドウ様が私に弟子入していた、いつのまに?
私は何も聞いていない。
「あの、その師匠というのはやめていただきますか?」
「俺にとって、俺が身につけていない技術のある相手はすべて師匠だぜ。つっても、ここ数十年はそんな相手いなかったが」
「いやいやいや。学ぶなら私の方でしょう! 例の件もあって私は強くならなくちゃいけないんですよ!?」
原因は多分、例の魔力の刃のせいである。
アレはどうもシドウ様にも真似できない技術らしく、私に教えてくれとせがんできたのだ。
無論それは構わないのだが、だからといって師匠は困る。
むしろ私のほうが、教えてほしいことは多いというのに。
「つーわけで、頼むぜカグラ師匠」
「うー、周りの視線がなんかコワイです。私、シドウ様を洗脳したみたいに思われてませんか?」
「はははは! 師匠の変態営業もついに実を結んだってことだなぁ!」
「営業ではないです!」
ガチです、そこはガチです。
ああいえ、変態と呼ばれたいわけでは決してないのですが。
なんというかこう、ニュアンスとして。
私が本気で強さを愛していることは事実なのだ。
それはそれとして、ううむ。
まぁとりあえず、魔力の刃について教えるくらいならなんてことはない。
さくっと教えて、習得してもらおう。
「じゃあ、そうですね。魔力の刃の基本的な原理についてお話しましょうか」
「お、そうこなくっちゃな」
そう言って、私は疾討を抜き放つと構える。
魔力の刃、何気なくやっていることだが、シドウ様でも簡単には習得できない代物らしい。
まず、魔力を放出するという行為が、一般的ではない。
これはシドウ様にわざわざ説明する話ではないので、簡単に概要だけ話すけれど。
そもそも魔力とは、体内で生成されて体内を循環するものだ。
できることは、それを元に魔術を放つか身体強化をすることだけ。
魔力を外に向けて、魔術に加工せずぶっ放すということは普通しない。
なぜなら、普通は外に出してもそこまで勢いが出るわけではないからだ。
魔力を外に出して、現実に影響を与えようと思ったら。
一度、詠唱などで魔術に”変換”する必要がある。
「魔力の”放出”には基本的に魔術への変換が必須です。でないと、手を仰いで風を生む程度の魔力しか放出できません」
「まぁ、そうだな」
手を仰ぐと、少しだけ風が生まれる。
しかし、それは本当に大したことのない風で。
もしきちんと風を”受ける”のであれば多少なりとも平たく風を発生させられる構造の道具が必要だ。
これは魔術においても同じこと。
魔力は、魔術といううちわによって勢いを拡大しより大きな風を生むのである。
「なので私の魔力放出は、無数の魔力を重ねることで圧縮しています」
風船を魔力で膨らませて、それを破裂させるイメージだろうか。
破裂させた風は、ただうちわで扇ぐよりもずっと瞬発力がある。
なんてことを説明しつつ、何度か魔力の刃を生み出して放つ。
結構な冒険者が、私は何をやっているのだろうと不思議そうにしている。
魔力を探知できないと、ただの素振りにしか見えないだろうな。
で、シドウ様はといえば――
「…………」
「……あのシドウ様?」
「……驚いたな、カグラ師匠。お前さんそんな理知的に説明できたのか?」
「シドウ様は私を何だと思ってるのですか!」
もしかして、もっと擬音とか使った感覚的な説明が飛んでくると思ってました!?
私、そんな天才ではないですからね。
むしろ、努力を糧にするため言語化は大切にしてきたほうだ。
結構、教える能力は高いと思うぞ、私。
里でも結構な子どもから教えを請われていたし。
「しかし……ってことは、その技術を使うには多重強化が必須ってこったな?」
「まぁ、そうなりますね。
「無茶いうなよ、お前さんでもその域に至るまで四年はかけてるんだろ」
努力の才能によるものが大きいが、私の魔力操作の精密性は他の人よりも段違いだ。
最終的な出力としては、未だシドウ様には追いつかないものの。
それはあくまで膂力の話で、手先の器用さという意味では私は母上さえ越えているかもしれないという。
いや、母上はあんまりこういう手先の器用さを重視していなかっただけなので、やろうと思えばできたかもしれないそうだが。
”本物”の天才だからな、母上は。
ともあれ。
「それと、別に狐火の名前はぼかさなくていいぞ」
「いいんですか?」
「公然の秘密だが、だいたいここで冒険者してれば誰かしらから聞いてるしな。お前さんみたいに秘密だからって敢えて触れないようにしてないかぎり」
「むぅ」
それならまぁ、普通に狐火と呼ぶことにしよう。
ぼかすの面倒だし。
「私としては、シドウ様が魔力の刃を覚えることも大事だと思いますが、私自身が強くなることも大事だと思いますよ」
「まぁ、そうだな。で、あれば……だ。カグラ師匠」
「その師匠呼びまだ続くんですか……?」
「ノリだよ、ノリ」
魔力の刃を覚えられそうにないなら、私を師匠と呼ぶ必要はないと思うし、恥ずかしいのでやめてほしかったのだけど。
多分今後もノリで呼んだり呼ばれなかったりするぞ。
うう、恥ずかしい。
とにかく、シドウ様は少しだけ真面目な顔をして、言った。
「――俺に勝つのが、一番はえぇだろうな」
そう、何気なく言った。
「ですか」
「……全然気負わねぇのな」
「元から、それは目的の一つでしたから」
シドウ様に勝つ。
大陸最強の剣士に、勝利する。
あまりにデカイ目的だ。
四重強化をマスターして、まず最低限。
そのうえで、さらにもう一つ、何かが必要だろう。
とはいえ、さらなる最強――六大宿痾が目の前に現れた以上。
シドウ様で、足踏みをしている余裕は、ないのだ。
そう、覚悟を決めて――
「もしお前さんが俺に勝ったら。カグラ大師匠って呼ばせてもらうぜ」
「絶対やめてください」
シドウ様の冗談で、私はずっこけるのだった。
ズコーッ