転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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六十六 ぬきあし、さしあし、宿痾あし

 シドウ様から許可をいただいた私はその夜、レイナさんを伴ってこっそり冒険者ギルドにやってきていた。

 転移陣の前で気配察知で周囲に人がいないことを確認して、一安心。

 ここまでくれば、誰かに見つかるということはないはずだ。

 

「と、いうわけで。早速向かいましょう、レイナさん」

「うう、本当にやるんですか……?」

「もっちろんです、シドウ様以外に私の四重強化を受け止められる相手は狐火しかいないのですから」

 

 声を潜めて、二人でひそひそと話し合う。

 ぶっちゃけ周囲に人はいないし、シドウ様と潜ったときも誰かと出くわさなかったのだが。

 こういうのは、やはり雰囲気が大事なのだ。

 

「そういえば、レイナさんは狐火の元までいったことはありますか?」

「……昔、パパに連れて行ってもらったことがあります。封印が解けるタイミングでは、なかったですけど」

 

 どうやら、なにかあったときのために転移のセーブくらいは取ってあるようだ。

 せっかくなので、活用させてもらおう。

 

「では、いっきましょーう」

「え、えうー」

 

 そうして私はレイナさんの手を引くと、転移陣に突入する。

 そこで行き先を狐火の部屋と念じることで、先日たどり着いた広い玉座の間までたどり着いた。

 

「……記憶以上に、広い」

「全力の狐火が思う存分暴れまわれるには、これくらいの空間が必要なのでしょう。レイナさん、あっちですよ」

 

 現在、私とシドウ様が狐火の再封印を施してから二日が経過している。

 そのため、狐火の封印はそのままだ。

 ゆっくりと歩いていくと、玉座に座って眠りについている狐火の姿があった。

 なんかこう、肘掛けに肘を置いて、偉そうな王様のポーズだ。

 偉そうな狐耳デカパイムチムチ筋肉マズルあり獣人。

 うーん、濃い。

 

「この人が……狐火」

「人、と言えるかどうかは怪しいですけどね。言葉は介しますし二足歩行ですが……根本的な考え方が人間のそれとは異なります」

 

 何よりこの威圧感。

 人のそれとは根本的に質がことなる。

 というか、人が発する威圧感は本人の雰囲気と魔力によるもので、宿痾の発する威圧感は雰囲気と瘴気に寄るものだから当然なのだけど。

 

「……ママの、仇」

「私達が何れ仇を討つ相手です。今は、存分にその力を利用させてもらいましょう」

 

 というわけで、まずは狐火を目覚めさせないと行けない。

 目覚めさせる方法は二つ。

 レイナさんに封印をゆるくして貰うか――

 

「狐火さーーん! あっそびましょーーーーーっ!」

 

 ――直接、狐火を攻撃するか、だ!

 

「ひああ!」

 

 私が四重強化で疾討を狐火に叩きつける。

 レイナさんから、このくらいで封印そのものが破壊されないことは確認済みだ。

 あくまで、ちょっといい感じに緩めるだけ。

 じゃあレイナさんにゆるくしてもらってもいいじゃん、と思うかもしれないが。

 そこは気分の問題である。

 気分は……とても大事だ。

 ともあれ――

 

『――妾の意識を揺り起こす不届き者が誰かと思えば、小娘であったか』

 

 刃を叩きつけられても、狐火は一切微動だにせず。

 ゆっくりと、そのまぶたを開いた。

 

「余裕たっぷりのお目覚めですね」

『眠りを妨げておきながら、その言い様か。まぁ、そうこなくては張り合いがないがな』

 

 そう言って、狐火は叩きつけられた私の疾討に触れる。

 四重強化で押し付けているにもかかわらず、いとも容易く刃は引き剥がされてしまった。

 

『それで? 定刻でないにもかかわらず妾の眼を覚まさせたわけは何だ? もうしてみよ』

「簡単ですよ。貴方を倒すために、まずシドウ様を私は越えなくてはなりません。故に――」

 

 そのまま、私は一歩後ろに飛んで距離を取る。

 レイナさんを守るようにしながら、刀を構えた。

 

「――狐火に、稽古をつけてもらおうかと」

 

 その言葉に狐火は、一瞬だけ沈黙してから――

 

『カカ――』

 

 笑みを、こぼす。

 

『カカカカカカ! カカカカカカカカカカカカカ! カカカカカカカカカカカカカカカカ!』

 

 その笑みに、レイナさんが身震いした。

 元々、レイナさんは狐火の威圧感に怯えている。

 無理をさせてしまっているが、もう少しだけレイナさんには頑張ってもらわないと行けない。

 

『そうか、そうかそうか! 我を稽古の藁にしようというのか! まさかそのような阿呆を考える馬鹿がいるとはな!』

「阿呆か馬鹿かどっちかにしてください」

『であれば――』

 

 直後。

 

『――巫山戯ているのか、小娘が!』

 

 狐火が私に接近してくる!

 

『妾があの小童の踏み台? 片腹痛いわ! そのような愚行、妾が許すはずがなかろう!』

「であれば――無理やり許可をもらいますよ! 私達は敵同士なのですから、遠慮もいりま……せん!」

 

 対して私は、即座に魔力を飛ばす。

 それは、魔力の刃ではない。

 バイバイラットのときのような、面の魔力だ。

 故に。

 

『むう!』

 

 狐火の足止めに成功する。

 

「いまです、レイナさん!」

「う、うん!」

 

 直後、レイナさんが封印術式を起動させる。

 

『厄介な魔力だな、封印されている状態では妾ですら近づけぬではないか……!』

「それを見込んでここまで来ているのですから、当然ですよ!」

 

 そのまま、私はひたすら魔力を放出し続ける。

 刀を振るって、狐火を近づけないようにしているのだ。

 

『ふん、だがこれほどの魔力の暴威、そう長く続けられるものか』

「おや、人読みはそれなりにできる方だと思っていたのですが、私がどれくらいこの状況を続けられるのか、読み取れないのですか?」

『ほう、では述べてみよ。貴様はこの状況をどれほど続けるつもりだ、小娘』

 

 私の魔力放出は、何度も言っているが多重強化の産物だ。

 つまり、燃費が非常に良い。

 具体的には――

 

「――()()()()

 

 私が肉体的に力尽きて、この状況を続けられなくなるまで、だ。

 すなわち、魔力は放った直後に回復する程度の消費でしかない。

 続けようと思えば、いくらでもこの状況を続けられる――!

 

『ふん、しかしそれでは本末転倒だな。そいつが妾をもう一度封印するまで魔力をぶつけるだけで、一体何の鍛錬になるのだ?』

「単純な話ですよ。私が鍛錬を行うのは()()()()()()()()()()()()のですから」

 

 ――この場にレイナさんを連れてきた目的は、再封印のためだけではない。

 レイナさんの才能は人読みと魔術。

 それを組み合わせた、変身魔術による模倣。

 そしてこの模倣の精度は、本人が”なりきりすぎない”ようにリミッターをかけているだけ。

 すなわち――

 

「レイナさんに、狐火の模倣をしてもらい、その狐火を鍛錬の相手とします。貴方は、必要ありません」

『貴様……気が狂っているのではないか?』

「あはは、我ながら冴えてると思うんですけどねぇ!」

 

 そのまま、私は狐火をその場に釘付けにし続ける。

 やがて、レイナさんの魔術が起動して狐火の封印が再び始まった。

 苦々しげに、狐火が叫ぶ。

 

『覚えておれよ小娘。その巫山戯た頭をかっぴらいて、脳をかき混ぜて真人間に戻してから殺してやろう!』

「期待していますよ。ああでも、次にあった時は私は貴方よりも強くなっているかもしれませんが――」

 

 かくして、狐火は再び封印され。

 私達は目的を達成するのだった。

 

 

 +

 

 

「……カグラてめぇ、まさかほんとに狐火のところまで行ってたのか」

「パパ!?」

 

 そして私達がギルドに戻ると、呆れ顔でシドウ様が待っていた。

 

「ふふふ、行ってきましたよ。無事に目的達成です」

「パ、パパがどうしてここにいるの!? カグラちゃん、今日のことは秘密じゃなかったの!?」

 

 そんな中、一人困惑するのがレイナさんだ。

 私が許可を取らずに、狐火のもとまで向かったと思っているらしい。

 

「許可は取りましたよ」

「まさか本気でやると思わなかったからだっつぅの。……まぁ、無事に戻ってきたなら構わねぇけどよ」

「カグラちゃん!? なんであんなややこしいことしたの、カグラちゃん!? カグラちゃーん!?」

 

 いやぁそれは、雰囲気を出したかったといいますか。

 まさかレイナさんが誤解しているとは思わなかったといいますか。

 ぬああああ、揺らさないでくださいいい!(ぼよんぼよん)

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