転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
あれから、シドウ様から叱責とも諭しとも違う、なんとも言えない感じのありがたいお言葉を頂戴した。
シドウ様に勝つ……というか、私が強くなるうえでレイナさんに狐火を模倣してもらうのは一番わかり易い方法だ。
加えて、本気にしていなかったとはいえ許可を出した以上、シドウ様も責任を感じているのだろう。
お互いに、今度からは綿密に話し合いをしようということでこの話題は切り上げることとなった。
いやまぁ私も、許可が降りたから大丈夫だろう、は流石に呑気すぎだったな。
ともあれ、レイナさんが狐火を”観察”したことで、ある程度の模倣ができるようになった。
模倣した強さは、ちょうど今のシドウ様と同じか少し低い程度とのことで。
この模倣狐火に勝てれば、シドウ様とも勝ち負けが発生するだろう。
なので、早速レイナさんと二人で、鍛錬をする必要があるわけだが。
半ば公然の秘密とはいえ、狐火の姿を表でさらすわけには行かない。
そもそも外で私と模倣狐火のレイナさんがバチボコしたら、街が壊れる。
じゃあどこで鍛錬すればいいのだ、と思うわけだが。
ちょうどいい場所があった。
「――表のダンジョンの最下層です」
「うぅ、ポン君ごめんね……」
「ラリス」のダンジョンにおいて、現在表向きは最下層ということになっているエリアだ。
ボスとして「ポン君」と呼ばれる狸型魔物が鎮座しているわけだが。
こいつの発生条件は、ポン君を倒したことのない人間がこの部屋に入った時だ。
私は無論倒したことがあるし、なんとレイナさんも討伐経験があるらしい。
まぁ、実力を考えれば当然だし、シドウ様と二人で討伐したという。
ちなみにレイナさんは、あのポン君のなんとも言えない愛嬌が好きだそうだ。
気持ちはわかるような、わからないような。
何にせよ、ここなら思う存分暴れまわることができる。
部屋の広さも、狐火のいるエリアほどではないけど広いからな。
「じゃあ、外とつなげますね……」
「お願いします!」
と、そこでレイナさんが何やら魔術を使用する。
幾つかの詠唱の後、何もない場所に”映像”が出現した。
そこには――
『お、つながったわね。ふたりとも、聞こえてる?』
「リンカねえさま! バッチリですよ!」
「大丈夫そう……ですね」
これは、通信魔術と呼ばれる魔術。
まぁ、名前の通り遠くにいる相手と通信するための魔術だ。
といっても、あまり遠い距離だと通信も繋がらないが。
ダンジョンの最下層とギルドくらいの距離はつなげることができる。
なんでこんなものを使うかというと、レイナさんが開発した通信魔術のテストと、最下層で私達が暴れてることをわかりやすく伝えるためだ。
現在、最下層には私達しかいないから「ポン君」は出現しないが、もしこの状態で外からポン君未討伐の冒険者が入ってくるとポン君がポップしてしまう。
加えて私達も戦闘中だろうから、入ってきた冒険者が危険だ。
そのため、冒険者が入ってこないように忠告としてこの通信映像をつなげているわけだが――
『よぉしおめぇら! 俺のかわいいかわいいレイナと、話題の修羅、カグラの一騎打ちだ!』
映像の向こうで、シドウ様がそんなことを煽っていた。
要するにこれ、見物されているのである。
狐火を表で見せてはいけないという話はどうした、と思うかもしれないが。
これは通信越しなので「表」ではない、とのこと。
詭弁がすぎる!
とはいえ、シドウ様は私のことを変態修羅と呼ばないので、ゆるそう。
『というわけで、こっちはいつでも大丈夫。始めてもらえる?』
「わっかりました! 行きましょう、レイナさん!」
「う、うんっ!」
かくして、私が刀を構え――
『――カカカカカ! 愉快、実に愉快よな! 小娘!』
レイナさんが、狐火に変身する。
私達の鍛錬が始まった。
なお、シドウ様がここにいたら鍛錬の意味がないので、リンカねえさまに引っ張られて泣く泣く映像の向こう側から退場していった。
+
『良いぞ! 実に良い! やはり戦いとはこうでなくてはなぁ!』
刃と拳がぶつかり合う。
筋肉ムキムキ長身デカパイマズルあり獣人と化したレイナさんは、楽しげに嗤う。
どうでもいいけど、変身すると声の感じも宿痾のそれに近くなるんだな。
まぁ、魔術で変身してるのだからそれが当たり前か。
ともあれ。
「やはり四重強化が安定しませんね!」
問題は四重強化の安定だ。
現在私は、直線的な動きで狐火レイナさんと渡り合っている。
実力的には、これでギリギリなんとか拮抗できるかできないかというところ。
出力はリンカねえさまより高いのだが、手数と戦闘スタイルの違いでリンカねえさまよりやりやすい。
どちらにせよ、対シドウ様を想定して四重強化習得の鍛錬に付き合ってもらう相手としては最適な強さだった。
「直線的な動きで誤魔化すより、精密動作の時間を少しでも長くするべきですね」
『いいだろう、やってみよ』
とりあえず何度か直線的に突っ込んでみたが、あまり成果は感じられない。
精密動作、つまり現在は十数秒しか維持できない完全な四重強化の維持を練習して伸ばすべきだ。
というか、直線的に突っ込む方の四重強化は完全に習得できていると言っていいだろう。
今なら合体宿痾はもう少し安定して倒せるな。
なので、少しでも精密な四重強化の継続時間を増やす。
「ところで、どうでもいいのですが狐火レイナさんが狐火らしくない行動を取ると、動きが鈍りますよね」
『妾の
凄まじい技術ではあるのだが、どうにも扱いが難しい代物である。
これ、レイナさんがシドウ様を模倣できないのは
あまりにも相手のことを知りすぎてしまうと、その人物をレイナさんが思う以上に模倣してしまう。
とはいえ、それは二人の家族としての関係がとても良好である証。
何も悪いということはない。
「では、参ります!」
気を取り直して、私は狐火レイナさんに肉薄。
十数秒の切り合いを演じる。
やはり精密に身体を動かせば、多少出力が劣っていても打ち合うことができるな。
私と狐火のスタイルはかなり似ている。
人読みと、身体能力によるゴリ押し。
人読みの精度でいうと、狐火は私のそれに劣るものの。
代わりに動物的な直感でそれを補っていた。
そうやって、少しの打ち合いが続き――
「……ぐう!」
私の動きが、
呼吸を止めて体を動かすことで、身体に力を込めることができるように。
今の私は意識的に力を”込める”ような感じで動いている。
それが限界を迎えると、止めていた呼吸を再開して酸素を求めるような感じになるのだ。
ようするに、気合で無視していた集中時の苦しい感覚が襲いかかる。
これのせいで、四重強化の精密動作が連続使用できないのは致命的。
『ふむ、この程度か』
私の目前で、狐火レイナさんの手が止まる。
こういうところで加減が働くのはやはり狐火という感じはしないが、だからこそ私はレイナさんに狐火を模倣してもらっているのだ。
違和感はすぐに拭って、呼吸を整えると私はもう一度疾討を構えた。
「もう一回、お願いします」
『カカ、いいだろう』
そうして、何度も何度も、精密動作を続けていく。
一度精密動作を終える度に、その継続時間がコンマ一秒でも伸びていく。
意識はどんどんクリアになっていき、集中故かただ眼の前の狐火レイナさんだけが映る。
何度も、何度も、何度も何度も何度も、段々狐火レイナさんがそろそろ辞めにしないかと言い出しても。
続けて、続けて、続けて――
気がついたら、私は自室のベッドで眠っていた。
心配そうにレイナさんが私の顔を覗き込んでいて。
これは、多分……酸素が足りなかったんですね。
発情しすぎて、興奮のあまり色々とプッツンしたのではないと思いたい。
合せ技? ハハハ。