転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
あれから、狐火レイナさんとひたすら修行修行そして修行の日々だった。
毎日毎日、限界を迎えるまで意識を研ぎ澄ませ、最後には意識を失って倒れる。
私としてはあまりにも幸せすぎる日々だったけれど、どう考えても健康に悪い。
幸いにもレイナさんが、治癒魔術にも長けているため身体の調子は崩れなかったけれど。
あまり何度もやる修行方法ではないな。
途中、本物の狐火の封印が解けるタイミングがやってきた。
そこでは私が魔力の刃を飛ばしまくって、再封印までの時間を稼ぐ。
だって、その方が楽だし。
シドウ様との連携を強化する必要があるけれど、それに関してはシドウ様との戦いが終わった後でいい。
やはり封印がそろそろ限界みたいだけれど、一日二日でその限界がやってくるわけではないみたいだからな。
なので今回は魔力の刃でスキップだ。
これを連打すれば、シドウ様が多重強化の糸口をつかめるかもしれないし。
狐火はめちゃくちゃキレてたけど、人類の敵なんだしこれくらい我慢してほしい。
というわけで、時間は慌ただしく過ぎていく。
四重強化の継続時間が伸びていって、これぞまさに鍛錬の成果。
私が最も好きな栄養素だ。
とはいえ、ある程度のところでそれも限界を迎える。
鍛錬とは日々の積み重ねと、それを爆発させることによる急成長が肝。
前にも言ったが、私は普段の鍛錬で経験値を溜めてそれを大きな戦いで形にすることが得意だ。
得意だし、好きだ。
故に、ここからやるべきことは決まっている。
「さぁさぁシドウ様! いざじんじょーに! 勝負勝負!」
私はその日、ギルドのホールでシドウ様に勝負を挑んだ。
いよいよこのときが来たのである。
シドウ様に”勝つ”ための準備は済ませて来た。
後はその成果を見せるだけ。
自信満々の私の笑みに、シドウ様は同じく笑みで答える。
「ほぉ、それはつまり、四重強化を完璧に習得してきた、っつぅことか?」
「いいえ、それはまだです」
「んだぁ? それで俺に勝つつもりなのかよ」
「勝つつもりですとも」
とはいえ、私が四重強化をマスターしていないことは、少し意外だったのだろう。
心配……という感じでもないが、本当に大丈夫なのかと私を見てくる。
無論、大丈夫……と私は胸を張るけれど、別にそこまで勝利にこだわっているわけでもない。
「それに、何も勝てなくたって死ぬわけじゃありません。次の戦いが絶対に負けられないことを思えば、ここで負けておくことも一つの経験になるのではないかと」
「そいつは流石に、消極的すぎると思うがな」
「無論、あくまで最悪の場合ですよ。多少気楽に挑んでもいいのではないか、と思っているだけです」
ゆえにこそ、私は宣言するのだ。
「それに――私はすでに自身の勝利を未来に描いています。シドウ様、貴方が勝利することは万に一つもありません」
「……言ってくれるじゃねぇか」
そうだ、私は負けない。
戦うからには勝ちたいと思う、だから勝つための準備は全てしてきた。
後顧の憂いはなく、後はただ勝利するのみ。
負けることで得られるものはきっとあるけれど、勝った方が得られるものが多いのは当然の摂理だ。
「カグラ、お前さんと会った時から、随分と調子に乗ってると思ってたんだ。どうやら、その鼻っ柱を折るべき時が来た見てぇだな」
「私は常に調子に乗りますよ。何故ならその方が楽しいから。楽しく、調子に乗って、強くなるのが私です!」
かくして、私がこの「ラリス」の街にやってきた目的。
七刀最強にして、大陸最強。
剣士、シドウ様を倒す時がやってきたのだ。
+
戦いの舞台は、やはり”表”のダンジョン最下層となった。
街の外の荒野で戦うことも考えたのだが、どれだけ街から距離をとっても余波で街に被害が出る可能性は拭えないのだ。
故に、全力をぶつけ合うならやはりここしかない。
私が疾討を、シドウ様が大剣を構え、宣言する。
「我が名はカグラ、流派は森羅!」
「森羅最強の名において、”覇乱王道”シドウ!」
最初の一歩を踏み出すために、足に力を込めて――
「推して参る!」
互いに同時、言葉を重ねて飛び出した。
最初の一手が、全力のぶつかりあいになることは読めている。
私もシドウ様も、ただ己が全力を刃に込めるのだ。
――一瞬、音が消えた。
私の疾討と、シドウ様の大剣が激突したことで、音が、空気が、余波によって消え去ったのだ。
直後、最下層全体で暴風が吹き荒れる。
しかしその最中に私達の姿はない。
視認できないほどの速度で、さらなる剣戟を繰り出すのである。
「俺の剣に追いついてきてるじゃねぇか。四重強化の精密動作、どの程度持続する?」
「聞くまでもなく、シドウ様なら解っているはずでしょう。――一分ですよ」
部屋中を駆け回り、壁や天井すらも足場として私達は打ち合う。
その速度は、一秒の世界を軽く越えている。
一分も時間があれば、決着まで持っていくことは容易だろう。
「そいつは結構なことだな。一分もありゃあ百回はお前さんを殺せそうだ」
「それを言うなら、私が百万回シドウ様を倒せますよ!」
「子どもかよ」
「子どもです!」
十二歳だよ!
ともあれ、一分もあれば本来なら決着をつけるには十分。
……なのだが、シドウ様がそれをさせないだろう。
そもそも一分で決着をつけるには、四重強化を使用した私がシドウ様より強くないと行けない。
しかし実際には私の出力はシドウ様に劣る。
加えて実力も、人読みの精度すらもシドウ様には及ばないのだ。
それでどうやって、一分で決着をつけるのか、という話。
無論、不可能なので――
「そぉら、そろそろ四十秒ってところ……か!」
「ならば――ちょうどいいですね!」
私は、四重強化を解除した。
途端に、まともに打ち合うだけのパワーを得られなくなった私は、シドウ様の剣を刀で受けて吹き飛ぶ。
それは
当然ながら、速度は私が移動するよりも速い。
これで、シドウ様から距離が取れる。
その間、ほんの数秒。
けれども、数秒あれば今回は十分だ。
さながらそれは息継ぎのように、四重強化によって消費した集中力を私は取り戻す。
「……ふぅ」
「見事に、次の”一分”をお前さんは稼いだわけだ」
「そういうことです」
これにより、私は再び集中して四重強化を行うことができる。
そう、私は未だ四重強化を永続して使うことはできない。
しかし一度集中力が途切れかけても、合間に休憩を入れれば再び集中することができるのだ。
「これで、最低限シドウ様と戦う舞台に上がる準備はできたということです」
「はは、本当に最低限って感じだがな」
私は再び、シドウ様に飛びかかる。
リキャストを終えるようなイメージで、再び使用された四重強化。
とはいえそれでも、シドウ様の言う通り私の強さはどこまでいっても最低限だ。
正面から斬りかかれば、シドウ様はゆうゆうとそれを受け止めてしまう。
連撃を加えても、シドウ様の動きは最小限、隙のすの字も見当たらない。
練度が高すぎるのだ。
その圧倒的なまでの技術力で、私の見え見えの一閃なんて歯牙にもかけないだろう。
「どうしたどうした!」
「ぐう!」
そして、あっという間に攻守が交代してしまう。
私が隙を晒した一瞬で、こちらの動きを阻害。
そのまま、悠々と私を圧倒してくる。
そうこうしているうちに、再び四重強化の限界が近付いてきた。
「なんとか離脱しなくてはいけませんが……!」
「させるわけねぇだろ!」
なんとかして、四重強化をリキャストしなければならない。
しかしそれをするためには、一度シドウ様から距離を取る必要がある。
さっきみたいに身体強化を解除する方法は、二度も使えないだろう。
人読みで相手の行動を先読みしようにも、シドウ様は更にその先を読んでくる。
――四重強化の限界は、あと五秒。
行動を起こさなければ、私が負けてしまう。
ゆえにこそ、ここからだ。
ここからが……正念場だ!
というわけでシドウ様戦です、この章も折り返しくらいだと思われます。