転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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六 疾を討つ

 始まりの鐘の音は、黒鉄の音がした。

 火花が散って、剣と剣がぶつかり合う。

 私は、先手を取ろうとした。

 全く同じタイミングで鬼が動き、それは実質互いが先手と後手を同時に取ったような形。

 両者が同時に打ち鳴らした剣の音は、少しの激突の後私が刀で相手の剣を逸らす形で終わった。

 

「……重い!」

 

 流石に宿痾の主。

 純粋な膂力に差がありすぎる。

 身体強化を伴っても、出力は明らかに向こうが上だ。

 ――素晴らしい! それでこそだ!

 

 そこからは打ち合いだった。

 私が逸らす形で剣を受け、鬼が攻め込んでいく。

 一方的な足運び、だが余裕がないわけではなかった。

 向こうもまだ序の口といったところだが、受けられないわけではない。

 何より、ただこのままというのはあまりにもつまらない。

 故に一度、流れを崩すことにした。

 

「そこ……っ!」

 

 鬼の攻撃を逸らした瞬間、踏み込んで鬼の横を駆け抜ける。

 一歩で後ろにまわり、もう一歩で剣を構える。

 振り向きざまの回転剣戟、遠心力の乗ったそれを――鬼は機敏に回避した。

 

 攻守が入れ替わる。

 

 素早く動き回る私の攻撃を、鬼は受け止め回避する。

 膂力ではあちらに軍配が上がるものの、速度ではこちらに分があるようだ。

 加えて単純に小回りが利く。

 四方八方から攻め立ててやれば、鬼は自然と受け身に回らざるを得なかった。

 だからこそ、

 

「次は向こうが崩してくる……!」

 

 焦れた鬼の動きに変化があった。

 私の攻撃を受け止めた直後、思い切り足を振り上げる。

 対する私は、攻撃の勢いを殺さずそのまま距離を取り――

 

 鬼は、たった一回の踏み込みで戦場の足場全てを踏み潰した。

 

「あはっ……!」

 

 最高だ。

 重力に身体が引っ張られる。

 如何に超常的な力があろうとも、踏み込んでいる足場が消失すれば体勢が崩れる。

 そこへ鬼が全力で剣を叩きつけに来た。

 

 受ける。

 

 剣を間に差し込み、そのまま勢いよく吹き飛ばされた。

 とんでもない速度で景色が移り変わり、軽く数十メートルはふっとばされただろうか。

 だがそれは、私が受けるつもりで受けた剣。

 力は上手く空中に逃され、体勢を整えれば、負傷なく着地することができた。

 そこに――一秒と経たず鬼が踏み込んでくる。

 先程の、地面を陥没させる踏み込みで。

 

「足場が……っ!」

 

 地面をめちゃくちゃにしながら切り込んでくるのだ。

 こちらは足場がなくてまともに受けられない、回避だってままならない。

 それを何とか往なすが、長くは続かなかった。

 致命的なタイミング――剣で受けられない状況で、鬼の剣が見舞われる。

 

 まずい――そう思うと同時に。

 

 

 楽しい。

 

 

 そう、純粋に感じた。

 

 私の純粋な全力と、鬼の全力の力比べ。

 残念ながら、出力勝負で端から私は鬼に及んではいなかった。

 それでも、格上の相手にどこまで今の自分の平時の全力が通じるか、やってみたかったのだ。

 そうしなければ、この劣情は収まりそうになかったのだ。

 

 そして一瞬で、私は意識を切り替える。

 勝利のために、身体を動かす。

 

 ――少しだけ、昔のことが思い出された。

 魔力を身体に通したばかりの頃、私は岩を切ることができなかった。

 幼いゆえ致し方ないことではあるのだが、私のあこがれは岩を切った父上だ。

 なので、当然ながら最初の目標は岩を切ることになる。

 

 まず最初にやってみたのは、魔力を全て載せて岩を切ること。

 父上の魔力は当時の私よりもずっと多いが、岩を切るのに使った魔力は私の全魔力より圧倒的に少ない。

 結果は失敗、岩が罅まみれになったものの”切った”とはとても言えない状態だ。

 このことから、魔力とはただ載せて使うのではない。

 制御して使うのだということが解る。

 

 次にやったのは、最小限の魔力で岩に傷をつけ――最終的には”切る”こと。

 岩を切るために最低限必要な魔力の量を探り当てるのだ。

 これがなかなか難しく、しかし魔力の量を調節する修行は魔力の制御の修行に最適だった。

 

 

 やがて私は、岩を切ることに成功する。

 

 

 その時の感慨はひとしおで、子どもみたいに父上へ報告したものだ。

 精神的には大人なつもりなのだが、時折年齢相応の行動に出るのはやはり身体が若いからだろうか。

 何にせよ、最小限の魔力で岩”だけ”を切る経験によって、解ったことがある。

 

 魔力とは、基本的に使いすぎても意味はない。

 岩を切るために、周辺まで破壊していては魔力の無駄だ。

 魔力による強化は思った以上に万能で、融通がきく。

 何よりそれによって動く私の身体は、頭の中で描いた軌跡をそのまま辿ってくれるのだ。

 ならば、身体強化は本当に最低限でいいのではないか?

 

 相手を斬る時は、斬るために必要な部位だけを強化する。

 相手の攻撃を受ける時は、受けるために必要な部位だけを強化する。

 加えてこれらを、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようにする。

 魔力とは便利なもので、受ける箇所にだけ強く魔力を注ぎ込めば、それが層のようになって相手の攻撃を受け止めてくれる。

 受けた箇所以外に反動は行かないというわけだ。

 加えて私は、もし仮に反動が生まれたとしても、それを防げる()()()の量の身体強化を受ける寸前、即座に発動できるようにもするべきだと考えて練習した。

 

 私はそれを、ひたすら反復行動で体に染み込ませた。

 感覚で理解できるほど私は物わかりがいいわけではなく、理論で身につけられるほど頭の中は明晰ではない。

 なので、ただ覚えることだけを目的に、常に同じことをするのだ。

 そうすれば魔力の消費によって魔力総量も増えるし、魔力制御も上達する。

 一石二鳥というやつだった。

 

 そうして、魔力を扱う修行を続けるうちに――私はあることに気がついた。

 正確には、理論としては最初からあった仮説を証明した、というのが正しい。

 それは――

 

 ――意識が現実に戻る。

 眼の前に剣、今の身体能力では自分の刀を挟み込もうにも間に合わない。

 そんな状況で――

 

 

 私は、今までの倍以上の速度で刀を振るい、鬼の剣を()()()

 

 

 それまでの、逸らすだけの動きとは違う。

 明確に、横から剣を叩いて相手を弾いた。

 結果、体勢を崩した鬼はそのままごろごろと地面を転がっていく。

 追撃しようかと思ったが、向こうが態勢を立て直すのが早かった。

 

「不思議そうな顔をしていますね」

 

 私も着地し、刀を構え直す。

 森羅流の、基本に忠実な構えだ。

 

「これが私の、貴方を倒すための”業”ですよ」

 

 何をしたのか――単純だ。

 魔力は、制御を完全にすればするほど、込めるのに必要な時間と量は少なくなる。

 鍛錬に鍛錬を重ねた今の私が、自身と武器に必要な魔力を込める時間は瞬き程度のものだ。

 そんな状況で、強化した時点で、強化の影響がなくなるまで効果を発揮するということは、つまり。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 これの素晴らしいところは、魔力の消費量も少ないということ。

 一般の優秀な剣士――つまり父上が、岩を切るのに必要な魔力とほぼ同等。

 つまり先程までの私の魔力消費量とほとんど変わらないまま、圧倒的な身体強化が望めるのだ。

 唯一の欠点は、この強化に武器が保たないこと。

 何度も何度も重ねがけするものだから、武器が受け止めきれる強化の耐久力みたいなものを一瞬で超過してしまう。

 普通の剣なら、一振りすると同時に剣が崩れ落ちてしまうだろう。

 

 だが――

 

「やはり、疾討は素晴らしいですね。ほころび一つない」

 

 昨夜、父上の前で疾討を用いて試し切りをした時も感じたことだが。

 疾討は非常に頑丈だ。

 物理的にも、魔力的にも。

 素晴らしい――胸の高鳴りが抑えられない。

 この刀に、私は恋をしてしまったかのようだ。

 

「さて、剣を弾いたことではっきりしました。私の膂力は今、貴方の膂力を上回っています。当然、速度も」

 

 鬼は動かない。

 ただただ、()()()()()()()()()

 そんな鬼に、真っ向から宣告する。

 

「このままでは、貴方は勝てません。絶対に」

 

 勝利宣言だ。

 とはいえ、これが意味のある行為かはなんとも言えない。

 鬼に意志があるかすらわからないし、何よりこの後鬼が何をするか、私には読めているからだ。

 それは――

 

 ――鬼が、口を開き何かを吸い込み始めた。

 

 私は、それに合わせて斬りかかる。

 一応、これをさせずにここで斬り殺すことが私にとって一番の最善なので、試さない理由はない。

 正直やりたくはないのだが、守るものはあるので念の為。

 しかし――

 

「……やはり、瘴気が」

 

 私達の周囲に漂う瘴気が、一気に鬼の下へと集まり始めた。

 結果、まともにそれを浴びると命が危ういため、私は距離を取らざるを得ない。

 悔し紛れに崩壊した地面の石を拾って投げるものの、鬼はそれを剣で弾いた。

 剣の一部が欠けたが、戦闘に支障はないだろう。

 そしてそれをみた鬼は――

 

 嬉しそうに、笑みを深める。

 

「ふふ――さて」

 

 やがて、瘴気を取り込んだ鬼の身体は――漆黒に染まっていた。

 先程までも、黒い鋼のような身体をしていたが、今はそれ以上。

 影、といったほうが的確だろう。

 

「……ここからが、本番ですね」

 

 これが私の求めていたこと。

 以前、母上から聞いたことがある。

 宿痾の主は、自身が発生させた瘴気を取り込むことで強化される、と。

 父上から宿痾の主について聞かされてようやく思い出したことだ。

 それと同時に、母上は宿痾の主の次なる行動についても、私に教えてくれていた。

 おそらく、最初の百鬼夜行を退けた時点で、鬼は瘴気を取り込むつもりだったはずだ。

 私達を油断なく切るために。

 

 私ならば、対処はできる。

 しかし周りに里の人間がいた時、間違いなく余波で死者が出るのだ。

 くわえて私が今日ここで鬼を対処できなかった場合。

 鬼は瘴気を取り込んだ状態で、逃げる里の人間たちに襲いかかるだろう。

 父上からは、もし討伐できないようならすぐに撤退するよう言われている。

 だが、そうなった場合も結果は同じ。

 逃避行の最中に、この影鬼が襲いかかるのだ。

 

 故に、それだけは絶対に避けなければならない。

 何よりも私は――

 

「――故に、私はここで貴方を切る」

 

 

 この影鬼を斬りたくて、斬りたくて、斬りたくて――仕方がないから、ここにいるのだ。

 

 

 かつて、母上が宿痾の主に対してそうしたように。

 私もまた、眼の前の鬼を切る。

 そう、心に決めた。




燃費のいい界王拳みたいな……

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