転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
戦闘における私の強みは意外性だ、と思っている。
人読みも私の武器だ。
でも、人読みの才能はない。
これは私の人読みが努力による反復とパターン化によって成り立っているからだ。
強さを手に入れるために、他者を観察してその強さを理解する必要があったから身につけた。
魔力操作にも、自信がある。
でも、今のところ魔力操作を対人戦で活かす手札がない。
魔術を覚えればまた違ってくるのだろうが、環境の問題で私は身体強化を武器に選んだ。
だから魔力操作は現状強みにならない。
ただ、これらは人にはない私の武器だ。
少なくとも魔力操作に関しては唯一無二だし、人読みだって他の人の人読みはもっと感覚的なものだ。
私の人読みは反射と経験則。
その二つは、結果は同じでも過程が全く違う。
そして何より、私の武器である多重強化。
少ない魔力で高い効果を引き出せる身体強化であり、私みたいな凡才でも最強に比肩しうる技術。
それを開発したことこそが、私の意外性と言えるだろう。
これらは私が、少ない手札の中から生み出した強み。
他の人間に話したら「なんだそれは」と驚かれるような手段。
これを意外性と呼ばず、なんと呼ぶ。
だから私がシドウ様に勝つ手段があるとすれば。
この意外性を、存分に発揮する他ないのだ。
「――終いだ!」
これは仕合だ。
相手を殺すための戦いではない。
故に、決着をつけるのであればもっとも簡単な方法は
自然と、シドウ様は私の疾討を弾こうとして――
「んにゃあ!」
私は疾討に引っ張られるように吹き飛ぶ。
まるで、
結果として、距離を取った私は四重強化をリキャスト、再び臨戦態勢に入る。
「どうなってやがる!」
「あはは、どうなってるんでしょう……ね!」
再び肉薄。
剛剣と細剣のぶつかりあい。
巨大すぎるシドウ様の剣を、私の刀が受け止める。
膂力に於いても、武器の威力においても圧倒的に大剣の方が上。
普通なら、私の疾討はそれに耐えられないだろう。
なのに、正面から受け止められる。
これは全て、疾討の”不壊”という特性あってのことだ。
「……なるほどてめぇ、
「さすがシドウ様、理解が速い」
私の技術は圧倒的にシドウ様に劣る。
普通ならばどこかでシドウ様の剣に追いつけなくなって、刀を弾かれるのだ。
しかし、そうはならない。
何故か。
答えは”不壊”と同じく疾討の特性によるもの。
疾討は手放しても私の手に返ってくるのだ。
すなわち、
「どんな態勢で俺の剣を受けても、てめぇの刀は手から離れねぇし壊れもしねぇってこった!」
刀が手から離れなければ、私はまだ負けていない。
刀が壊れなければ、私はまだ戦える。
故に私は、どんな形でもいい。
シドウ様の剣に私の刃を
「曲芸みたいな軌道しやがってよ。手はいたくねぇのか!」
「我慢します!」
再び、弾かれる刀の勢いにまかせて距離を取る。
シドウ様は当然追いかけてくるが、自分がふっ飛ばした勢いに自分から追いつくのは難しい。
後、刀に手を接着させるような戦い方、理外すぎて読めないだろう。
対してこっちは、どのタイミングでも吹っ飛ぶことができる。
故に、リキャストが間に合った。
「埒が明きませんね!」
「それはてめぇが妙な粘りかたするからだろうがよ!」
「とはいえ、私の剣がシドウ様に食らいつけることはわかりました。であれば――!」
さて、ここまでの動きはあくまで確認だ。
私がシドウ様と、最低限”戦闘を成立させられるか”という試金石。
これがどうにもならないことには、そもそも戦う意味がない。
四重強化の継続時間が一分あり、かつ疾討の特性を利用した戦い方が可能であること。
シドウ様を倒すための最低条件がこれだった。
故に、それを満たせた今動く。
「――はあ!」
私は体内の魔力を勢いよく”放出”する。
「魔力放出だぁ? それが一体……いや、こいつ!」
一瞬、訝しむようにするシドウ様だが、すぐに理解するだろう。
私が放った魔力の形は、
魔力の刃の応用だ。
刃のように魔力を飛ばせるなら、私と同じ形の魔力も飛ばせるのではないか。
そう考え実行し、この方法にたどり着いた。
基本的に、この世界の第六感とは魔力か瘴気を察知することだ。
だからこそ魔力が私の形をしていれば、相手はそれを私と誤解する。
魔力の察知能力が高ければ高いほど、誤認しやすくなるだろう。
無論、シドウ様はその分戦闘経験で私の正体を見破ってくるはず。
けど、問題ない。
「……なんつう数だよ!」
「私の強みは、魔力消費の少なさですので!」
数が多すぎるのだ。
今現在、このダンジョンの表最下層を私の魔力が覆っている。
これが可能なのも、私の多重強化の燃費の良さが故。
この中から、正確に”私”を認識することはできない。
――そこからは、私の一方的な攻撃だ。
四方八方を飛び回り、常にシドウ様の死角から攻撃する。
これのいいところは飛び回る戦い方なら四重強化を精密に操作する必要がないことだ。
直線的な、これまでの四重強化で問題ない。
シドウ様は、ほとんど私が見えていないにもかかわらず私の剣を受け止めて見せる。
なんという直感、戦闘技術、そして度胸。
一度でも失敗すれば、そのまま決着がついてしまう状況で。
シドウ様はなんとか私の攻撃を捌いていた。
「このまま、倒れていただければ話は速いのですが」
「そう簡単に負けてられる、かよ!」
幾度か打ち合って実感する。
この状態ですら、シドウ様を倒すには至らない。
戦闘はこちらに趨勢が傾いてはいるのだ。
それでも、決定的な部分で届かないのである。
純粋な技術の差、経験の差、そして何より実力差を覆すには奇策の一つや二つでは足りない。
どころか――
「――そこか!」
「……っ!」
シドウ様は、私の奇策に対応してくる。
こちらの攻撃パターンを学習し、それを元に先読みしてきたのだ。
「奇策ってのはなぁ、一発で決められなけりゃ意味がねぇんだよ!」
「それは……そう、です、……が!」
再び、打ち合いに持ち込まれる。
そうなってしまえば、こちらが一方的に不利だ。
魔力に寄る攪乱戦法は、ヒットアンドアウェイでこちらを捉えさせないことにも意味があったのだから。
やがて私は、再び四重強化の精密動作でシドウ様に食らいつき――距離を取る。
「その距離を取るやり方も、何れは対策しちまうぞ!」
「ご安心を!」
言いながら、私は再び魔力を展開してシドウ様を撹乱しながら飛びかかる。
しかし、この方法はもう一度攻略されているのだ。
普通なら、これでは私がシドウ様に再び捕まって終わり。
「何をするつもりだ!」
故に、シドウ様もここで私が何かを仕掛けるつもりだと理解しているだろう。
そのうえで、私が上を行く――!
「ケリをつけるんですよ!」
「――そこだぁ!」
シドウ様が、私の接近を察して刃を振るう。
しかしそこに、私はいない。
目を見開いたシドウ様が見える。
シドウ様には、私が消えたように感じられただろう。
であれば、今の私がどこにいるか。
「――――!」
シドウ様の
「ぬ、おおお!」
シドウ様が、それをギリギリで回避した。
腕を切り落とすつもりで放った一撃は、腕に傷を付ける程度に留まる。
「――シドウ様は、私が
――仕留めそこねた。
致命的だ、しかし構わない。
「だから私が自分の身体強化に使用する魔力を
多重強化の燃費は、他のあらゆる身体強化や魔術行使と比べて圧倒的にいい。
消費していると感じない程度に、圧縮することも可能。
”魔力の私”が襲いかかる中で、魔力を極限まで薄めた私が移動していたら。
そんなもの、人に探知することは不可能だ。
「――――ク、ハハ」
それを聞いたシドウ様は、
「ハハハハハハハハ! そうか、そうか! やっと理解したぜ――カグラ!」
私の名を呼んで、笑った。
「勘違いしてたぜ、お前さんは”あの女の娘”だと。しかし、そうじゃねぇ。そうじゃねぇな」
あの女――母上の才能を色濃く継いでいる、と。
シドウ様はそんなふうに思っていたのだろう。
だが、
「その”策でもって強者を打ち倒す”戦い方は、お前の父親の戦い方だ! そうだったな、忘れてたよ。お前さんはあの男の娘だ!!」
私の”意外性”が誰から受け継がれたものかと言えば、それは間違いなく――父上だろう。
シドウ様の言葉に頷きながら、私は疾討を構え直した。
男の娘!?(※違います)
皆様の評価、感想、お気に入りが励みになります。
高評価など入れていただくと大変うれしいです!
よろしくお願いします!