転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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七十 いざじんじょーに! 勝負勝負! ③

 私の父上は、指導者の天才だ。

 なにせ、指導者の才能だけで七刀候補にまで上り詰めたのだから。

 機を見るに敏であり、革新的な手法で里を改革する。

 そんな父の才能を私は多少なりとも継いでいる……らしい。

 発想力という意味で、私のそれは父のそれに近しいものがあるようだ。

 ソアナさんに新商品のアイデアを出したりするようなアレは、父の考え方に近い。

 それ以外の経営に関する才能は受け継いでいないが、戦闘においてはこの発想力が私の意外性につながっているわけだな。

 

「あの男に戦いの才能があって、十全にそれを活かせばここまで面倒くせぇ異端児が生まれるわけだ」

「父上をそこまで褒められると、なんだか照れますね」

「はは、てめぇも褒めてんだよ」

 

 いいながら、シドウ様は――剣の持ち方を少しだけ変える。

 

「良く解ったぜ、今の俺じゃカグラ、お前さんに()()()()

「……!」

 

 それは、まさか降参?

 なんてことは、ありえないだろう。

 

「だが同時に、お前さんの強さも良く解った。これなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう」

「それは……今まで手を抜いていたということですか?」

「はっ、解ってて聞いてんじゃねぇよ。お前さんだって経験があるだろ、全力を出すと相手を殺しちまうから全力を出せねぇって経験が」

 

 ――やはり。

 シドウ様は、全力を出していない。

 否、シドウ様本人の全力は出しているのだ。

 しかし、それ以外はどうか。

 つまり――

 

「俺の全力は――()()()の力を借り受けることで完成する!」

 

 

 シドウ様の大剣から、黒い稲妻がほとばしった。

 

 

 やはり、あの大剣は魔道具だ。

 それもおそらく、シドウ様の奥様――大陸最高峰の魔術師――が作り上げた傑作。

 これまでシドウ様はあの大剣を剣としてしか使ってこなかったが、それだけではないのだろう。

 でなければ、どう考えてもシドウ様は一人で狐火を抑えられない。

 私がシドウ様に鍛錬風景を見せないことで色々と策を練っていたように。

 シドウ様もここまで、あえて私にこの全力を見せてきていなかった。

 

「――カグラ、俺はな……才能を愛している」

 

 ほとばしる電撃は部屋を覆う。

 しかしそれは、余波でしかない。

 本体は――黒い稲妻で覆われた刀身。

 そのサイズが――とんでもない大きさになっている。

 十メートル、二十メートルではたりないのではないかという巨大さ。

 それをシドウ様が――私に向けて振るってきた。

 

「それは、才能がその人間の土台だからだ。これから多くの経験を積み上げて、人生という名の芸術を完成させるための足場だからだ」

 

 まず、余波だけでも脅威だ。

 これを避けながら、更に巨大なシドウ様の剣を捌かなければならない。

 私は部屋中に魔力を充満させ、私自身が放つ魔力をその中に隠す。

 完全にシドウ様は私が見えていない、その中でなんとか私が駆け回る。

 

「中には、大層な土台を持っていながらその上に何も積み上げねぇバカが居る。俺ぁそれが我慢できねぇ」

「まぁ、そうでしょうね」

「だからこそ、俺は――この街を作った」

 

 無差別に振るわれる稲妻の剣。

 その一振りは強烈だ。

 ただの子どもの癇癪とは違う、的確に私がいそうな場所を狙ってくる。

 その度に、私はなんとかそれを回避しながら、稲光の中を駆け抜けていく。

 

「カグラ、お前さんから見てこの街はどうだ。多くの人間がダンジョンに挑戦し、強さを磨いているだろう。俺はそうして、強さを求める奴らが好きだ」

 

 この街は、とても賑やかだ。

 多くの人が積極的にダンジョンへ挑戦し、私が喧嘩を売っても皆が喜んでそれを受けてくれる。

 他の街では見られなかった光景だ。

 シドウ様が、多くの冒険者の才能を直接的、間接的問わず目覚めさせ。

 強くなることの楽しみを教えた街。

 それが「ラリス」だと、シドウ様は言う。

 

「人には必ず才能がある、多くの人間がそれに気づいていないだけだ。だったら、気づいている人間が目覚めさせればいい。そうすれば、そいつは才能を振るうことに”楽しさ”を覚えるだろう」

「確かに、自分の才能を思うがままに振るえる世界は楽しいでしょうね」

 

 ――確かに、全く持って。

 この街は楽しい街だと、私は思う。

 多くの人が毎日を”生きて”いて、それはきっと輝かしいことなのだ。

 だからこそ、

 

「ええ、私も――この街は素晴らしい街だと思いますよ」

 

 私も、それに同意する。

 

「なら、カグラ。お前さんもお前さんの才能を活かせ。お前さんはこれからもっともっと多くのことを経験していく。きっとそれは、更にお前さんを飛躍させるはずだ」

「つまり……どういうことですか?」

「言ったな。この負けが一つの経験になることもあるだろう、と」

 

 それは、つまり。

 シドウ様が――

 

 

「――見つけたぜ」

 

 

 私を、()()()来ているということだ。

 この問答も、私に自分の生き方と、その証を見せるため。

 シドウ様が魔力の中に隠れた私を正確に発見し、そこに一撃を振るう。

 

 ――避けられないだろう。

 剣の射程が広すぎる。

 しかも、余波の雷が非常に厄介だ。

 一瞬でも足を取られたら、剣に巻き込まれてしまう。

 

 故に、詰み。

 そう、シドウ様が告げている。

 

「――一つ、訂正しなくてはなりません」

 

 ああ、だからこそ。

 今だ、今しかない。

 私が築き上げてきた経験を、学習を、血肉に変えるのだ。

 

「私の強みは意外性である、と私自身思っています。シドウ様を倒すには、強みを押し付け続けるしかない、と」

 

 迫りくる稲妻の剣。

 それに対し、私は――

 

「ですが、それは私の強さの根源ではないのです。シドウ様の考えにとって、人が強くなる理由は才能とそれによる上達の快感なのでしょう」

「なら、お前さんは違うっていうのか?」

「ええ。私が強くなりたいと思うのは――」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「――ただ、鍛錬という行為が楽しいからです!」

「な――」

 

 シドウ様は見るだろう、目前に迫った私を。

 そしてその姿が、()()()()()()()()()()()()()()()()ことを。

 

「お前さん……四重強化の比重変化を!?」

「その様子だと、シドウ様はできないのですよね、比重変化!」

 

 咄嗟にシドウ様が稲妻を引っ込める。

 あの巨大な剣は近接戦には向かないからだ。

 しかし、ここで私が下がれば即座にまた稲妻の剣を展開するだろう。

 この自在さこそが最大の強みか。

 無論、稲妻の剣は引っ込めてもシドウ様の周囲に迸る黒い稲光は健在である。

 故に私は、シドウ様の剣の超絶技巧と自動で襲いかかる稲妻を同時に相手しなくてはならない。

 でも、問題ない。

 

「当たり前だ、あんな()()()()()()()()()()、俺の身体強化の魔力消費で使えるわけねぇだろ!」

「ですが私は――今この状態ですら、魔力がダダ余っているくらいに燃費がいいですよ」

「――!」

 

 疾討を振るう。

 稲妻が体を襲い、痛みが熱のように襲いかかる。

 それを無視して振るった一撃は――シドウ様の剣を一方的に弾き落とした。

 

「――これで!」

「まだだ!」

 

 シドウ様が()()で私に攻撃を仕掛けてくる。

 流石は大陸最強、この状況でも戦う手段があるのか……!

 それでも、膂力は圧倒的に私が上だ。

 故に、私はそのまま勢いよく――

 

 

「終わりです!」

 

 

 シドウ様のみぞおちを、力任せに蹴り抜いた。

 ――それが、決着だ。

 

 

 +

 

 

「私は別に、才能があったから強くなったわけではないのです」

「――――そうか」

「この世には、才能があっても努力ができない人間はいます。私はそれとは正反対に、才能がなくても努力だけで鍛錬を楽しんだ人間です」

 

 倒れたシドウ様に、私は疾討を杖にしながら見下ろす。

 

「私はシドウ様のように……才能ある人間を……強者を愛しています。ですが、弱者だって同じように愛しているのですよ」

「……」

「だって私は、少なくともシドウ様から見れば最初は弱者だったのですから」

 

 私が、才能を持たない人間だとは思わない。

 少なくとも、この努力の才能と発想力は人にないものだ。

 それでも本来なら、私はもっと魔術とか経営とか、そういう方向に進むべき才能の持ち主だった。

 シドウ様も、それを否定することはないだろう。

 そのうえで私は剣を選び、そして剣の最強を打倒した。

 

「……最後の四重強化の比重変化。どうして最初から使わなかった?」

「使えなかったからですよ。私は結局最後まで四重強化のコツを掴めませんでしたから」

 

 いいながら、私は再び四重強化を身体に施す。

 精密動作の方だ。

 先程までは一分しか持たなかったそれを――私は完全に安定させている。

 

 

「最後は、自分を追い込むことで、強引に身につけることにしました」

 

 

 それは、きっと。

 

「んだそりゃぁ。非効率的すぎんだろ」

「――それが、凡才のやり方なんですよ。宿題は最終日にやるものなんです」

「言ってることが解らねぇ」

 

 私が、私であるがゆえの、勝利だった。




というわけで決着です。色々ありました。
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