転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
――カグラという少女が「ラリス」の街にやってきた時、多くのものはこう感じていた。
今日もまた、偉いはりきり剣士が街にやってきた、と。
「ラリス」の街に、シドウから指導を受けるためにやってくる者は多い。
というよりも、ほぼ全ての冒険者、剣士、魔術師がそうだ。
「ラリス」の街は巨大な迷宮と、シドウの存在によってなりたっている。
最強の剣士シドウに認められれば、その薫陶を得られるからこそ、多くの冒険者はラリスにやってくるのだ。
無論、その大半はシドウと言葉を交わすことすらできない。
それでも、シドウから影響を受けたものの影響を受けることはできるし、最初のうちは顔を合わせることすらできなかったのに、最終的に教えを受けたものもいる。
というよりも、多くの人間は最初のうちは顔さえ合わせられない。
成長し、自分の中に確固たる強さを見出していなければ、シドウは目もくれないのだ。
その点カグラは、強さに関しては申し分なかった。
幼く、初日からあちこちに首を突っ込んでは事件を起こし、その強さを見せつけたのだ。
しかしそれでも、シドウに出会うことはないだろうと多くのものは思っていた。
なにせカグラを連れてきたリンカですら、初日からシドウと顔を合わせることはできなかったのである。
多くの人間は、シドウはやってきた人間とすぐ顔を合わせることはないと知っていた。
ごく少数のシドウから直接薫陶を受けた人間は、彼女にシドウの薫陶は必要ないと気付いていた。
それぞれの理由で、シドウはカグラに会おうとしないだろう……と、そう考えたのだ。
ゆえにこそ、カグラが初日からシドウと顔を合わせたと知った時、多くのものが驚愕した。
それも、シドウの方から会ったのではない。
カグラがシドウを見つけ出したのだという。
とんでもない話だ、シドウが会おうとしなかったということは、シドウはカグラを遠ざけたのだ。
遠ざけてもなお、カグラはシドウに会おうとした。
ギルド中の冒険者に喧嘩を売ることで、喧嘩による妨害というシドウの常套手段を潰す方法で。
そしてその後、シドウの娘であるレイナと模擬戦を行い。
そこで彼女の二つ名が早々に決定することとなる。
変態修羅、と。
まさにカグラを一言で表した言葉だった。
流石に変態はどうなんだ、という声もあったが真面目な場では修羅とだけ呼べばいいだろ、ということになる。
多分、何れ事故るだろう。
ともあれ、そこからのカグラの大暴れはとんでもないものだった。
シドウが二人に増えた、とは一体誰の言葉だったか。
シドウは基本的に人前に姿を見せないが、姿を見せると何かしら問題を起こす。
コドクヘビの一件などは、まさにその典型だろう。
対するカグラは常にあちこちを歩き回っている。
そのうえで、何かしら問題を起こす。
剣の里の剣士を探して、周囲に喧嘩を売りまくったことが典型と言えた。
そんな二人だから何かと気が合うことも多く、シドウはカグラと行動しているところをよく目撃された。
それでいて、シドウ自身はカグラに何も教えていないのだという。
教える必要がないから、というのもあるがもっと大きな理由もあった。
だが何よりも、シドウがカグラに何かを教えなかったのは、もっと単純な理由である。
カグラがシドウに勝とうとしていたからだ。
おそらく、「ラリス」の街が始まって以来、シドウを倒すために街へやってきた人間はカグラだけである。
現在のシドウは文句なしの大陸最強で、とても強い。
とてもとてもとてもとてもとても強い。
なので”勝とう”と思ってシドウに挑む人間はいなかった。
だが、カグラは勝とうとしていたのだ。
本気で。
カグラの行動を見ていれば、その本気を疑う人間はいないだろう。
何より、カグラは「ラリス」の街で幾度も強さを見せた。
最初の喧嘩から始まって、カジノでの一件や、剣の里の剣士を呼び寄せるときの一件。
何よりダグスとの戦闘は多くの人間にカグラという存在を焼き付けるには十分なものだ。
そのうえで、「ラリス」にはシドウが負けることを良しとしない人間がいる。
これ自体は当然のことだろう。
世の中の人間は、自分の知る最強が最強であり続けてほしいのだ。
ただその上で、カグラは非常に鮮烈だった。
毎日毎日、あらゆるところで暴れまわり、多くの人の注目を集める。
その中で、カグラを支持するものも現れてきた。
あの変態っぷりでよくカグラを支持しようと思えたものだと、そう思うかもしれないが。
人間は、破天荒で顔がよくて胸のでかい女が大好きなのである。
そんなカグラとシドウの決戦が行われることとなった。
以前から、カグラが表で名前を出してはいけない”あいつ”の姿を模したレイナと鍛錬を積んでいたことを知っていたものは多い。
いよいよその時が来たか、と誰もが思った。
そう思ったとき、こういう疑問を抱くものが中にはいた。
「自分ははたして、シドウとカグラのどちらを本気で応援したいのだろう、と」
シドウは「ラリス」の象徴だ。
多くのものは、シドウに負けてほしくないと思っている。
だが同時に、カグラはそんなシドウに喰らいつくべく現れた挑戦者。
これまでのカグラの行動が、すべてシドウを倒すために行われてきたものだということを知っている。
最強には負けてほしくない。
さりとて、新進気鋭の破天荒が最強を打倒するところも見てみたい。
多くの人の関心を集める中、モニター越しに二人の決戦が始まろうとしていた。
最初のうち、多くの人間が感じたことは一つ。
「やはり、純粋な実力ではカグラが劣っている」
という事実だった。
そりゃそうだ、カグラはまだ四重強化を身に着けていない。
加えて技術も人読みの感覚すらもシドウの方が上を言っている。
果たしてこれで、どうやってシドウに勝つというのか。
そんな観客の考えがいらぬ心配だったことを、彼らは即座に理解することとなる。
幾つかの”策略”でもって、カグラはシドウになんとか肉薄。
さらには一太刀浴びせてしまったではないか。
観客の中に「行けるのでは?」という意識が芽生える。
しかし、その直後。
シドウはこれまでになかったほどの稲光をほとばしらせ、カグラを圧倒する。
これが最強、これこそがシドウという存在の真骨頂なのだ。
であれば、いくらカグラでもこれを突破することは不可能だろう、と。
だが、心の何処かでこうも思っていた。
「カグラなら、やってくれるのではないか」
最後の攻防、多くの人間がシドウとカグラ、どちらにも思っていた。
負けないでほしい、どうか勝ってほしい。
どちらか一人を応援する必要はないのだ。
どちらも等しく応援し、勝ってほしいと願う。
それくらい、カグラはこの短期間で「ラリス」に馴染み。
シドウに肉薄するくらい強くなった。
そうして最終的に、勝利したのはカグラだ。
最初のうちは、「ラリス」にやってきた一人の剣士でしかなかったカグラ。
しかし一瞬のうちにその存在を「ラリス」中に知らしめ。
更にはシドウからも認められ。
やがては誰もが知るほどの存在になった。
故にこそ、カグラが勝利したことで落胆するものはいない。
歓声を上げ、二人の戦いを祝福する。
それはカグラがこの「ラリス」の街で、もう一つの顔として十分なほどに周囲から受け入れられた証拠であり。
そして、シドウが望んだことでもあった。