転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
シドウ様を倒して帰還したら、なんだかよくわからないけど胴上げが始まった。
なんかシドウ様も胴上げされている。
どういう理由で胴上げされているかわからないけど、私は体のあちこちが炭になっているし、シドウ様はお腹あたりの骨が多分粉々になっているのでやめてほしい。
胴上げで死にかけたくないぞ。
まぁ、この場には優秀な魔術師であるレイナさんがいるので問題はない。
すぐに最低限の治癒を終わらせて、胴上げしても特に傷んだりしなくなった。
なのでめちゃくちゃ胴上げされた。
「ラリス」の人たちはお祭りが大好きなんだなぁ。
さて、戦闘が終わったらそのまま酒盛りである。
シドウ様がそれっぽいことをいって、私にも発言が求められた。
なので一言。
「とっっっっっっっっても楽しかったです!」
と伝えると、それはもう大歓声。
そのまま乾杯となり、多くの人がお酒を楽しんでいた。
私はと言えば、この場でリンカねえさまとシドウ様とレイナさんがお酒を飲むと、「ラリス」が狐火以外の理由で滅びかねないので、ストッパーとしてジュースである。
まだ十二歳だしね。
「よーう、カグラ」
で、適当にあちこちを回ってテーブルの上に置いてある料理を楽しんでいると、シドウ様に声をかけられる。
みたら、バッチリ酔っ払っていた。
大丈夫かなぁ。
「どうしましたか? シドウ様」
「いやぁ、お前さんが俺に勝ったんだ、一つ聞いとかなきゃいけねぇことがあるだろ」
聞いて置かなければいけないこと、とは。
一体なんだろう。
雰囲気的に、それなりに真面目な話だけど居住まいを正す必要はない、って感じだけど。
「――七刀になるつもりはあるか?」
あー。
納得の質問だった。
「お前さんはまだ七刀じゃねぇ、しかし俺に勝った以上は七刀になる資格はあるだろう。技術的な問題はともかく」
「そうですねぇ、シドウ様としてはやっぱり”自分に勝つこと”が七刀になることを認める条件なんですか?」
「そぉだな。ぶっちゃけ条件としては一番難しい条件だったはずなんだが、何故か達成されちまった」
まず、何度も言っているが私は七刀にはふさわしくない。
正直自分でも、そう思っている。
剣士としての技術を何一つとして磨いていないからだ。
だから、リンカねえさまも私を七刀と認めていないし、他の七刀も認めないだろう。
だが、シドウ様だけは別だ。
シドウ様は、自分に勝つことができれば七刀と認めると決めていた。
大陸最強のシドウ様に勝てる人間はおらず、結果としてあらゆる七刀の条件の中で最も難しい条件のはずだった……の、だが。
ここに私という例外が発生してしまった。
私はどういうわけか、あらゆる”七刀になるための条件”のなかで、シドウ様の条件が一番ハードルの低い謎の女になってしまったのだ。
「といっても、結局七刀になるかどうかはお前さん次第だ。お前さんがなるべきじゃねぇと思うなら、俺もそれを尊重するぜ」
「そうですねぇ」
少し考える。
七刀になりたいという気持ちが、ないわけではない。
せっかく父上から候補に推薦され旅立ったのだ。
その期待に答えたいという気持ちはある。
最強を目指すうえで、大陸に置けるもっともわかりやすい最強の称号である「七刀」は必要な称号だろうとも思う。
要するに、何れ七刀にはならなくてはいけないのだ。
しかし、それが今であるかと言えば、どうなのだろう。
「私は今回、いろいろな策を講じてシドウ様に勝ちました。でも、実力的には足りていない部分も多いです」
現状の私は、シドウ様と勝負して
しかし、絶対に勝てるわけではない。
十回やれば、五回……いや六回くらいは負けかねないのだ。
本気で人類最強を名乗るなら、今の状態は通過点。
ましてや、この世界には人類以外にも”宿痾の主”という別の最強も存在するのだから。
それに勝つためには、こんなところで足踏みはしてられない。
「とするとそーだなぁ。現状、七刀になるためには一人の七刀から許可を得れば問題ない制度になってんだがよ。昔は全部の七刀から許可をもらわなきゃ行けなかったんだ」
「手間がかかりそうですねぇ」
「だからってんで、随分昔に今の形に落ち着いたわけだが……昔のやり方に習って他の七刀から許可をもらってみるってなどうだ?」
ふむ、と考える。
それはいい考えかもしれない。
最強を名乗るために「七刀」の称号がほしいなら、他の七刀に認められてこそ「最強の七刀」と言えるのではないか。
「であれば、シドウ様は私を七刀と認めてくれますか? 一応、本来の条件はクリアしていますが」
「そうさなぁ。ああ、そうだ。俺がお前さんを認めるとしたらそれは――」
と、そこで。
「いやっふー! のんでるー!?」
酔っ払ったリンカねえさまが、中身入りの酒瓶でシドウ様の後頭部を叩いた。
パリーン、と音がして中身が飛び散り。
シドウ様がお酒まみれになる。
それを見て、リンカねえさまはケラケラ笑っていた。
「リンカねえさま!? 何をするんですか!」
「あらー、カグラもいるじゃない! うひひ、一杯飲む?」
「飲みませんよ! こっちは大事な話をしてたんですよ!?」
隣には、おろおろするレイナさんの姿があった。
姿を見かけないと思っていたら、酔っ払ったリンカねえさまの面倒を見ていたのか。
「それにしてもなぁに? 七刀全員からの承諾がほしいの?」
「え? ああ、一応そうなんですが……リンカねえさまはどうです?」
「んー、今はだめってことにしておくわぁ。そのうちなんかいい機会があるでしょー」
そう言って、笑いながらリンカねえさまは去っていった。
レイナさんが、シドウ様とリンカねえさまのどちらを追いかけるか迷っている。
ええと、私がリンカねえさまの方に行って、レイナさんがシドウ様のほうでいいのかな……
と、思っていると。
「お前ら、よくきけぇ!」
シドウ様が、砕けた酒瓶の注ぎ口をマイクみたいに持って叫び始めた。
周囲の視線が、一斉にシドウ様へ集まる。
「今日の戦いで、俺に並ぶ最強が誕生した! その名はカグラ! 剣の里の剣士だ!」
近くにいた私にも、視線が向けられる。
というかシドウ様がつかつかと歩いてきて――私の手を持ち上げた。
ウィナー!
「見ろ、この剣士の目を! この剣士の闘志を! これがお前たちの目指す最強の形だ!」
最強のデカパイ?
いかん、私は酔っ払ってないんだぞ。
でも多分、この場にいる半数以上がそう思いましたよシドウ様。
「お前たちは何のためにこのラリスにやってきた!? 最強になるためだろう! 俺という最強のもとで、自分もまた最強を目指すためにやってきたんだろ!」
その言葉に、何人かが視線を鋭くする。
リンカねえさま、ダグスさん、それから里の剣士と二つ名持ちの皆さん。
今でも最強を諦めていない戦士たちだ。
それ以外の一般冒険者も、思うところはあるのか少しだけ難しい顔をした。
「なら、その足を止めるんじゃねぇ! その歩みを止めるんじゃねぇ! 進み続けろ! 俺がここにいるかぎり! カグラのように最強を目指せ!」
そして、顔を上げた。
この場にいる全てのモノが、シドウ様に――最強の称号に視線を向けたのだ。
「手始めに、俺達はまず倒さなくちゃいけねぇ敵を倒す!」
むむ、なんとなく話の流れが読めてきたぞ?
多くの冒険者たちも、この後のシドウ様の言葉を察したようだ。
そして――
「――六大宿痾! 狐火をここで倒す! 俺達が、だ!」
歓声が上がった。
さぁ、いよいよ狐火との決戦だ。
……と、それはいいのだけど。
シドウ様って今、めちゃくちゃ酔っ払ってるんだよなぁ。
これ、このタイミングで言ってよかったのだろうか。
……ちょっと不安だ。
わーっしょい! わーっしょい!